27 / 40
Ⅲ Archer
3-4 不備
しおりを挟む
鈍痛。そして、すぐその後に激痛。
「……えっ、何、痛っ、痛い! 痛い痛い痛いっ!」
痛い。右肩に激痛、左足首と背中に鈍痛。鈍痛の方は叫ぶほどではないが、とにかく右肩が痛くてたまらない。
「宗耶さん!? どうしたんですか!」
俺の絶叫は少なくとも家中に響いたようで、慌てた様子の椿が部屋に飛び込んでくる。
「ぁ、ちょっと、だけ、待って、て」
痛みに耐えつつ、どうにか机まで向かう。目当ての手鏡を見つけ、急いで眼前に翳す。
「……ふぅ、いや、正直ここまでいかれてるとは思わなかった」
自己催眠でどうにか痛みを忘れるも、肩の腫れとそこから来る違和感は消えない。
昨晩は催眠に掛かったまま寝てしまったから気付かなかったが、由実から受けた狙撃は俺に肩を腫れ上がらせるだけの打撃を与えていたようだ。骨折していなければいいが。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと昨日の傷が痛んだだけだから、心配しなくても大丈夫」
心配そうな椿に、右肩を回してアピールしようとするも上手くいかない。結構深刻な状態になっているのかもしれない。
「とは言え、放置しておくのもまずいから治療に行きたいんだけど……」
例え骨折していようとも、治癒能力を持つ白岡なら数分とかからず完治させる事ができる。問題は、日曜日である今日、はたして白岡と出会う事ができるのかどうかだ。
白岡が生徒会室にいる頻度はそれなりに高いが、休日ともなれば話は別。そして、白岡と特に親しいわけでもない俺は彼女の連絡先を知らなかった。同じ生徒会、その中でも白岡と仲の良い由実ならば多分知っているだろうとは思うが、昨日の今日で本人から受けた傷の治療の仲介を頼むわけにもいかない。
「一応聞くけど、椿は回復能力とかは持ってない?」
「……えっと、すみません。多分そういう事はできないと思います」
椿のジョブならば回復系もカバーしているかとも思ったが、返事は芳しいものでは無かった。ゲーム風に言って、まだレベルが足りないだけかもしれないが。
仕方ない。とりあえずは学校に向かうとしよう。白岡がいなくても、会長か藍沢辺りがいてくれればそこから連絡先を聞き出せるかもしれない。
ベッドを下り、そのまま部屋を出ようとするも、こちらを見上げる椿がやけに呆けて見えるのが気に掛かった。
「……ああ、悪い。椿はまだ眠いか」
そもそも、椿が起きたのは俺の絶叫のせいだ。ただでさえ慣れない生活で疲れが溜まっているはずの椿は、昨日の深夜も戦闘によって睡眠を中断されている。休日くらいはゆっくりと寝かせておくべきだろう。
「俺は出かけるから、まだ寝ててくれ。朝食とかも適当にあるもの食べていいから」
そうして外へ出ようとすれ違った瞬間、椿の肩が小さく跳ねた。
「あ……っと、いえ、もう眠くはありません」
頭をぶんぶんと振ると、椿は立ち上がり俺と視線を合わせる。
「ただ、その、やっぱり宗耶さんが呼び捨てにしてくれてるなぁ、って思って」
「……あ、そうだな」
椿の言葉で、彼女に対して意図的にしていた『さん』付けが外れていた事に気付く。口調もほとんど親しい者へのそれに近付いており、つまりは無意識の内に俺から椿への距離感が縮まっていたという事なのかもしれない。
「……本当は昨日みたいに名前で呼んでもらった方が嬉しいんだけど」
小声で呟いた椿の独り言は、はっきりと俺の耳にまで届いていた。
しかし、残念ながら、いくら距離感が縮まったところで俺が椿を名前で呼ぶ事になるはずも無い。そこを越えてしまえば、色々なモノが崩れ去ってしまう気がした。
「とりあえず、俺は白岡を探しに学校に行くけど、眠くないなら着いて来る?」
なので、椿の独り言は聞こえなかった事にする。
かくして、ここに難聴系遊び人が誕生するのであった。代わりに目がいいからプラマイゼロという事にしよう。
「そうですね、じゃあ私も着いて行きます」
頷いた椿の表情は、やはりどこか不満気であった。
「……えっ、何、痛っ、痛い! 痛い痛い痛いっ!」
痛い。右肩に激痛、左足首と背中に鈍痛。鈍痛の方は叫ぶほどではないが、とにかく右肩が痛くてたまらない。
「宗耶さん!? どうしたんですか!」
俺の絶叫は少なくとも家中に響いたようで、慌てた様子の椿が部屋に飛び込んでくる。
「ぁ、ちょっと、だけ、待って、て」
痛みに耐えつつ、どうにか机まで向かう。目当ての手鏡を見つけ、急いで眼前に翳す。
「……ふぅ、いや、正直ここまでいかれてるとは思わなかった」
自己催眠でどうにか痛みを忘れるも、肩の腫れとそこから来る違和感は消えない。
昨晩は催眠に掛かったまま寝てしまったから気付かなかったが、由実から受けた狙撃は俺に肩を腫れ上がらせるだけの打撃を与えていたようだ。骨折していなければいいが。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと昨日の傷が痛んだだけだから、心配しなくても大丈夫」
心配そうな椿に、右肩を回してアピールしようとするも上手くいかない。結構深刻な状態になっているのかもしれない。
「とは言え、放置しておくのもまずいから治療に行きたいんだけど……」
例え骨折していようとも、治癒能力を持つ白岡なら数分とかからず完治させる事ができる。問題は、日曜日である今日、はたして白岡と出会う事ができるのかどうかだ。
白岡が生徒会室にいる頻度はそれなりに高いが、休日ともなれば話は別。そして、白岡と特に親しいわけでもない俺は彼女の連絡先を知らなかった。同じ生徒会、その中でも白岡と仲の良い由実ならば多分知っているだろうとは思うが、昨日の今日で本人から受けた傷の治療の仲介を頼むわけにもいかない。
「一応聞くけど、椿は回復能力とかは持ってない?」
「……えっと、すみません。多分そういう事はできないと思います」
椿のジョブならば回復系もカバーしているかとも思ったが、返事は芳しいものでは無かった。ゲーム風に言って、まだレベルが足りないだけかもしれないが。
仕方ない。とりあえずは学校に向かうとしよう。白岡がいなくても、会長か藍沢辺りがいてくれればそこから連絡先を聞き出せるかもしれない。
ベッドを下り、そのまま部屋を出ようとするも、こちらを見上げる椿がやけに呆けて見えるのが気に掛かった。
「……ああ、悪い。椿はまだ眠いか」
そもそも、椿が起きたのは俺の絶叫のせいだ。ただでさえ慣れない生活で疲れが溜まっているはずの椿は、昨日の深夜も戦闘によって睡眠を中断されている。休日くらいはゆっくりと寝かせておくべきだろう。
「俺は出かけるから、まだ寝ててくれ。朝食とかも適当にあるもの食べていいから」
そうして外へ出ようとすれ違った瞬間、椿の肩が小さく跳ねた。
「あ……っと、いえ、もう眠くはありません」
頭をぶんぶんと振ると、椿は立ち上がり俺と視線を合わせる。
「ただ、その、やっぱり宗耶さんが呼び捨てにしてくれてるなぁ、って思って」
「……あ、そうだな」
椿の言葉で、彼女に対して意図的にしていた『さん』付けが外れていた事に気付く。口調もほとんど親しい者へのそれに近付いており、つまりは無意識の内に俺から椿への距離感が縮まっていたという事なのかもしれない。
「……本当は昨日みたいに名前で呼んでもらった方が嬉しいんだけど」
小声で呟いた椿の独り言は、はっきりと俺の耳にまで届いていた。
しかし、残念ながら、いくら距離感が縮まったところで俺が椿を名前で呼ぶ事になるはずも無い。そこを越えてしまえば、色々なモノが崩れ去ってしまう気がした。
「とりあえず、俺は白岡を探しに学校に行くけど、眠くないなら着いて来る?」
なので、椿の独り言は聞こえなかった事にする。
かくして、ここに難聴系遊び人が誕生するのであった。代わりに目がいいからプラマイゼロという事にしよう。
「そうですね、じゃあ私も着いて行きます」
頷いた椿の表情は、やはりどこか不満気であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる