12 / 32
第12話 どらごんの皮を剥ぐつもりなのです?
しおりを挟む
「そんなに暑いなら脱げばいいだろ。蒸れて汗まみれになったら大変だぞ」
親切心で言ったつもりだったが、忠告したカイルにナナは真っ赤な顔を向けた。
「どらごんの皮を剥ぐつもりなのです? 人でなしなのです。鬼なのです。酷いのです」
「いや、皮じゃなくて、着ぐるみだろ。どう見ても」
むんずと背中の部分辺りを掴んでみると、くすぐったそうにナナが「んひゃあ」と声を上げた。
通常ではあまり出さない種類の声だったので、町の出入口付近で警戒中の衛兵たちもこちらを見る。すぐに親子がじゃれあってるだけと判断し、視線を逸らしたが。
「えっちなのです。痴漢なのです。襲われるのです」
「カイル、貴方……!」
「ちょ、ちょっと待てって。どうしてそうなるんだよ」
サレッタにも睨まれ、慌ててカイルはナナの皮というか着ぐるみから手を離す。
「どうして火を吐けるのかは不思議だが、これは誰が見たって着ぐるみだろ!?」
「着ぐるみとは何なのです? ナナは知らないのです」
嘘か本当か、ナナが目をパチクリさせる。
本人の前で何度か着ぐるみという単語を口にした感じもするが、今、初めて聞きましたというような反応だった。
「いいじゃない。ナナちゃんはナナちゃんで」
「そう言われるとそうなんだが……風呂とかどうするんだ?」
着ぐるみを脱がないのか脱げないのかは不明だが、シャワーを浴びる際にそのままなのは少々マズいのではないか。
だがカイルの疑問にも、ナナは不安げな表情ひとつ見せずに大丈夫なのですと胸を張った。
「じーじから聞いて、人間の習慣は理解しているのです。完璧なのです。お風呂とは水浴びのことなのです。それなら心配無用です。ナナはひとりで、できるのです」
「わあ、凄い。ナナちゃん、偉いね」
「えへへ。褒められたのですー」
嬉しそうに、サレッタの胸に顔を埋めてごろごろするナナ。そういう問題じゃないだろと思っているのは、どうやらカイルだけみたいだった。
あまり風呂やシャワーがどうしたと言って、覗きたいのとか一緒に入りたいのとかいう展開になったらマズい。カイルも年頃の男なので異性への興味はあるが、さすがにナナは守備範囲外だ。
「わかったよ。で、ナナは本当にドラゴンなんだな」
「またドラゴンと言ったのです。どらごんなのです。いい加減に理解してほしいのです」
「……すまん。何度も言うが、俺には違いが理解できない」
軽くだが、素直にカイルは頭を下げる。どうしてサレッタが簡単に違いを理解できるのか、不思議で仕方がない。精神年齢が近いからなのだろうか。
そんなことを思っていると、不愉快ですとでも言いたげに、むーっとナナが頬を膨らませた。
「これだから、がさつな男は駄目なのです。繊細さがなければ、女性にはモテないのです」
「……ドラゴンなら男と女じゃなくて、牡と牝じゃないのか?」
「そうなのです。でも、じーじに男と女と言えって言われたのです。将来、役に立つらしいのです」
ナナの話を聞く限りでは、ますたーと呼ばれるドラゴンのじーじは、将来的にナナを人間世界で暮らさせようと考えていたみたいだった。だからこそ人間世界の知識を与え、口にする単語の選択についても指示を出していたのだろう。違和感なく、溶け込んでいけるように。
そう考えると、着ぐるみは苦肉の策だったように思える。実在するかどうかはともかく、ドラゴンの里で人間の少女が疎外感を覚えずに暮らしていける可能性は低い。
里のドラゴンに少しでも受け入れてもらえるよう、外見を似せるために着ぐるみを与えたのではないか。すべてはカイルの予測にしかすぎないが、結構いいところをついている気がする。
「そっか。じゃあ、じーじに感謝しないとね。今は人間の世界にいるんだし」
サレッタが言うと、ナナは少しだけ微妙そうな笑顔を見せた。
「でも、本当は里がよかったのです。ナナは人間じゃなくて、ドラゴンになりたかったのです」
ん? とカイルは思った。ナナの発したドラゴンという名称だ。これまでと若干、雰囲気が違う。もしかして、これがドラゴンとどらごんの差なのか。かすかには理解できたが、はっきりと区別できるほどではない。どうやら自分は違いのわからない男のようだと、カイルは内心で苦笑する。
「そうすれば、じーじともいられたのです。皆と仲良くもなれたのです。ドラゴンと名乗っても、怒られたりしなかったのです……」
ここでようやく理解する。ナナがどらごんと自らを呼称するようになったのは、他とはっきり区別をつけるためなのだと。
しかし、とカイルは心の中で顔をしかめる。人間としか思えないナナが、本当にドラゴンの里で暮らしていたのなら仕方ないかもしれないが、もはや差別と言っていいくらいだ。
傷ついたナナは、自らの誇りと尊厳を守るために「どらごん」と名乗るようになった。虐められないようにしつつも、自分はドラゴンだと言いたいがゆえに。
「悲しかったね。私も村を出る時は悲しかった。でも、おかげでナナちゃんと会えたから、今では感謝してるかな」
にっこり笑うサレッタを見て、不思議そうに目を丸くするナナ。数度瞬きをしたあとで、かすかな微笑みとともに嬉しそうに頷いた。
「ナナちゃんさえよければ、これからもおねーさんじゃなくて、おかーさんと呼んでもいいんだよ」
「おかーさん」
「そう。私は村に帰れない。ナナちゃんも里に戻れないのなら、家族になろう。私がおかーさんで、ナナちゃんは娘。ね?」
勝手に決めるなとカイルが言う前に、女性陣は話をまとめてしまった。
とはいえ、ナナ自身に行くあてがなかったのは明確になった。周辺の地理も知らなさそうなのに、ひとりで放り出すのはサレッタが納得しないだろう。
何の因果か、故郷に戻れない者同士が出会ったのだ。身を寄せ合って生きていくのも悪くはない。強者から見たら軟弱だと笑われるだろうが、カイルは自分自身の弱さを理解しているので何の問題もなかった。
「えへへ。おかーさん。ナナ、娘なのです。で、こっちは下僕なのです」
「ちょっと待て」
台詞の途中で、急に真顔になったお子様ドラゴンの頭にチョップを見舞う。もちろん手加減はしてある。
「あうう。下僕の分際で、創造主たるどらごんに手を上げるとは愚かなのです。消し炭にしてやるのです」
「いつから俺がお前の下僕になったんだよ。確かに命は助けられたがな。別におとーさんと呼ばなくてもいいが、下僕は駄目だ」
おとーさんと呼ばなくていいと言ったことに、何故かサレッタが露骨にがっかりする。そんなに家族の絆みたいなのに憧れていたのかと不思議に思うも、とりあえずカイルはナナの説得を続ける。
「むー。じゃあ、カイルと呼ぶのです」
「それでいいぜ。俺もナナって呼んでるんだしな」
「違うのです。ナナではなくて、創造主たるどらごん様と――ちょっぷは痛いのです」
なんだかお約束みたいになりつつあるが、とりあえずナナはサレッタをおかーさん、カイルを名前で呼ぶことに決めたみたいだった。
焚き火の前でおとなしく座り直し、三人で温まる。着ぐるみ姿のナナには必要なさそうな気もするが、おかーさんと慕いだしたサレッタの真似をして、火に向かって楽しそうに軽く両手を伸ばす。
きゃっきゃっとはしゃぐ姿は、年頃の女の子そのままだ。元気な様子は、昔のサレッタにも似ている。実家から辛く当たられ、こき使われようとも、カイルの前では決して笑顔を絶やさなかったサレッタに。
「まあ、冒険者として活動を続けるなら、そのうちメンバーを増やしたいとは思ってたからな。丁度よかったか」
本当は魔法使いや僧侶などの魔法を使える人間がよかったが、贅沢は言えない。そもそもレベルの低いカイルやサレッタと、一緒にチームを組んでくれる冒険者はほとんどいなかった。
村を出て一年と少し、リスクを承知しながら、二人で活動してきた理由もそこにある。妥協してカイルたちよりさらに低レベルな新人を入れたりすれば、足手まといどころか、依頼失敗はおろか全滅のきっかけにもなりかねない。
可能な限り二人でやっていこうと話してはいたが、大掛かりな依頼には人手が必要になる。その点を考えると、ナナの加入は正直ありがたかった。魔法こそ使えないものの、どらごんだと自称するナナは火が吐ける。
カイルとサレッタだけでは手も足も出なかった盗賊連中相手にも、ほぼひとりで勝利を収めた。本物のドラゴンの里からやってきたのかどうかはともかく、戦力的にはかなりの上積みができた。
「自己紹介はもう済ませたな。あとは寝る前に、少し話をしておくか。ナナは里以外のことは知らないのか?」
カイルが尋ねる。曖昧に頷いたナナはどう答えるか少し悩んだあと、ゆっくり口を開いた。
「えーと、じーじが教えてくれたことなら知ってるのです。ただ、ここがどこかも含めて、細かいことは知らないのです」
「なるほど。じゃあお勉強が必要だな」
お勉強というカイルの言葉に、ナナが露骨に嫌そうな顔をする。
「お勉強は嫌いなのです。じーじにもさせられたのです。ナナはどらごんなのに、人間の字の読み書きなどです」
話を聞いて、カイルはナナが元人間である確率が高まったと判断する。
じーじがナナに人間世界についての勉強をさせていたのは、いずれ里を出して人の世で生活させるためだ。だからこそ、他の仲間に追い出されそうになった時も、心を鬼にして止めなかった。別れの時が来ただけだと。間違っていれば恥ずかしいが、十中八九はカイルの想像どおりなはずだ。
「じゃあ勉強という堅苦しい言い方はやめるか。人間世界についてのおしゃべりだ。サレッタ――おかーさんの暮らす町のこととかを、ナナも知りたいだろ」
「むー、うまく乗せられてるような気がするのです。でも、聞いてみたいのです」
ナナちゃん、可愛い。サレッタが瞳を輝かせて、小動物を愛でるように隣のナナへちょっかいを出すかと思いきや、何故か焚き火の前で頬を両手で挟むように押さえながら、上半身をくねくねさせている。カイルには意味不明だったが、もしかしたらその仕草もナナの可愛らしさに悶えてるせいなのかもしれない。
親切心で言ったつもりだったが、忠告したカイルにナナは真っ赤な顔を向けた。
「どらごんの皮を剥ぐつもりなのです? 人でなしなのです。鬼なのです。酷いのです」
「いや、皮じゃなくて、着ぐるみだろ。どう見ても」
むんずと背中の部分辺りを掴んでみると、くすぐったそうにナナが「んひゃあ」と声を上げた。
通常ではあまり出さない種類の声だったので、町の出入口付近で警戒中の衛兵たちもこちらを見る。すぐに親子がじゃれあってるだけと判断し、視線を逸らしたが。
「えっちなのです。痴漢なのです。襲われるのです」
「カイル、貴方……!」
「ちょ、ちょっと待てって。どうしてそうなるんだよ」
サレッタにも睨まれ、慌ててカイルはナナの皮というか着ぐるみから手を離す。
「どうして火を吐けるのかは不思議だが、これは誰が見たって着ぐるみだろ!?」
「着ぐるみとは何なのです? ナナは知らないのです」
嘘か本当か、ナナが目をパチクリさせる。
本人の前で何度か着ぐるみという単語を口にした感じもするが、今、初めて聞きましたというような反応だった。
「いいじゃない。ナナちゃんはナナちゃんで」
「そう言われるとそうなんだが……風呂とかどうするんだ?」
着ぐるみを脱がないのか脱げないのかは不明だが、シャワーを浴びる際にそのままなのは少々マズいのではないか。
だがカイルの疑問にも、ナナは不安げな表情ひとつ見せずに大丈夫なのですと胸を張った。
「じーじから聞いて、人間の習慣は理解しているのです。完璧なのです。お風呂とは水浴びのことなのです。それなら心配無用です。ナナはひとりで、できるのです」
「わあ、凄い。ナナちゃん、偉いね」
「えへへ。褒められたのですー」
嬉しそうに、サレッタの胸に顔を埋めてごろごろするナナ。そういう問題じゃないだろと思っているのは、どうやらカイルだけみたいだった。
あまり風呂やシャワーがどうしたと言って、覗きたいのとか一緒に入りたいのとかいう展開になったらマズい。カイルも年頃の男なので異性への興味はあるが、さすがにナナは守備範囲外だ。
「わかったよ。で、ナナは本当にドラゴンなんだな」
「またドラゴンと言ったのです。どらごんなのです。いい加減に理解してほしいのです」
「……すまん。何度も言うが、俺には違いが理解できない」
軽くだが、素直にカイルは頭を下げる。どうしてサレッタが簡単に違いを理解できるのか、不思議で仕方がない。精神年齢が近いからなのだろうか。
そんなことを思っていると、不愉快ですとでも言いたげに、むーっとナナが頬を膨らませた。
「これだから、がさつな男は駄目なのです。繊細さがなければ、女性にはモテないのです」
「……ドラゴンなら男と女じゃなくて、牡と牝じゃないのか?」
「そうなのです。でも、じーじに男と女と言えって言われたのです。将来、役に立つらしいのです」
ナナの話を聞く限りでは、ますたーと呼ばれるドラゴンのじーじは、将来的にナナを人間世界で暮らさせようと考えていたみたいだった。だからこそ人間世界の知識を与え、口にする単語の選択についても指示を出していたのだろう。違和感なく、溶け込んでいけるように。
そう考えると、着ぐるみは苦肉の策だったように思える。実在するかどうかはともかく、ドラゴンの里で人間の少女が疎外感を覚えずに暮らしていける可能性は低い。
里のドラゴンに少しでも受け入れてもらえるよう、外見を似せるために着ぐるみを与えたのではないか。すべてはカイルの予測にしかすぎないが、結構いいところをついている気がする。
「そっか。じゃあ、じーじに感謝しないとね。今は人間の世界にいるんだし」
サレッタが言うと、ナナは少しだけ微妙そうな笑顔を見せた。
「でも、本当は里がよかったのです。ナナは人間じゃなくて、ドラゴンになりたかったのです」
ん? とカイルは思った。ナナの発したドラゴンという名称だ。これまでと若干、雰囲気が違う。もしかして、これがドラゴンとどらごんの差なのか。かすかには理解できたが、はっきりと区別できるほどではない。どうやら自分は違いのわからない男のようだと、カイルは内心で苦笑する。
「そうすれば、じーじともいられたのです。皆と仲良くもなれたのです。ドラゴンと名乗っても、怒られたりしなかったのです……」
ここでようやく理解する。ナナがどらごんと自らを呼称するようになったのは、他とはっきり区別をつけるためなのだと。
しかし、とカイルは心の中で顔をしかめる。人間としか思えないナナが、本当にドラゴンの里で暮らしていたのなら仕方ないかもしれないが、もはや差別と言っていいくらいだ。
傷ついたナナは、自らの誇りと尊厳を守るために「どらごん」と名乗るようになった。虐められないようにしつつも、自分はドラゴンだと言いたいがゆえに。
「悲しかったね。私も村を出る時は悲しかった。でも、おかげでナナちゃんと会えたから、今では感謝してるかな」
にっこり笑うサレッタを見て、不思議そうに目を丸くするナナ。数度瞬きをしたあとで、かすかな微笑みとともに嬉しそうに頷いた。
「ナナちゃんさえよければ、これからもおねーさんじゃなくて、おかーさんと呼んでもいいんだよ」
「おかーさん」
「そう。私は村に帰れない。ナナちゃんも里に戻れないのなら、家族になろう。私がおかーさんで、ナナちゃんは娘。ね?」
勝手に決めるなとカイルが言う前に、女性陣は話をまとめてしまった。
とはいえ、ナナ自身に行くあてがなかったのは明確になった。周辺の地理も知らなさそうなのに、ひとりで放り出すのはサレッタが納得しないだろう。
何の因果か、故郷に戻れない者同士が出会ったのだ。身を寄せ合って生きていくのも悪くはない。強者から見たら軟弱だと笑われるだろうが、カイルは自分自身の弱さを理解しているので何の問題もなかった。
「えへへ。おかーさん。ナナ、娘なのです。で、こっちは下僕なのです」
「ちょっと待て」
台詞の途中で、急に真顔になったお子様ドラゴンの頭にチョップを見舞う。もちろん手加減はしてある。
「あうう。下僕の分際で、創造主たるどらごんに手を上げるとは愚かなのです。消し炭にしてやるのです」
「いつから俺がお前の下僕になったんだよ。確かに命は助けられたがな。別におとーさんと呼ばなくてもいいが、下僕は駄目だ」
おとーさんと呼ばなくていいと言ったことに、何故かサレッタが露骨にがっかりする。そんなに家族の絆みたいなのに憧れていたのかと不思議に思うも、とりあえずカイルはナナの説得を続ける。
「むー。じゃあ、カイルと呼ぶのです」
「それでいいぜ。俺もナナって呼んでるんだしな」
「違うのです。ナナではなくて、創造主たるどらごん様と――ちょっぷは痛いのです」
なんだかお約束みたいになりつつあるが、とりあえずナナはサレッタをおかーさん、カイルを名前で呼ぶことに決めたみたいだった。
焚き火の前でおとなしく座り直し、三人で温まる。着ぐるみ姿のナナには必要なさそうな気もするが、おかーさんと慕いだしたサレッタの真似をして、火に向かって楽しそうに軽く両手を伸ばす。
きゃっきゃっとはしゃぐ姿は、年頃の女の子そのままだ。元気な様子は、昔のサレッタにも似ている。実家から辛く当たられ、こき使われようとも、カイルの前では決して笑顔を絶やさなかったサレッタに。
「まあ、冒険者として活動を続けるなら、そのうちメンバーを増やしたいとは思ってたからな。丁度よかったか」
本当は魔法使いや僧侶などの魔法を使える人間がよかったが、贅沢は言えない。そもそもレベルの低いカイルやサレッタと、一緒にチームを組んでくれる冒険者はほとんどいなかった。
村を出て一年と少し、リスクを承知しながら、二人で活動してきた理由もそこにある。妥協してカイルたちよりさらに低レベルな新人を入れたりすれば、足手まといどころか、依頼失敗はおろか全滅のきっかけにもなりかねない。
可能な限り二人でやっていこうと話してはいたが、大掛かりな依頼には人手が必要になる。その点を考えると、ナナの加入は正直ありがたかった。魔法こそ使えないものの、どらごんだと自称するナナは火が吐ける。
カイルとサレッタだけでは手も足も出なかった盗賊連中相手にも、ほぼひとりで勝利を収めた。本物のドラゴンの里からやってきたのかどうかはともかく、戦力的にはかなりの上積みができた。
「自己紹介はもう済ませたな。あとは寝る前に、少し話をしておくか。ナナは里以外のことは知らないのか?」
カイルが尋ねる。曖昧に頷いたナナはどう答えるか少し悩んだあと、ゆっくり口を開いた。
「えーと、じーじが教えてくれたことなら知ってるのです。ただ、ここがどこかも含めて、細かいことは知らないのです」
「なるほど。じゃあお勉強が必要だな」
お勉強というカイルの言葉に、ナナが露骨に嫌そうな顔をする。
「お勉強は嫌いなのです。じーじにもさせられたのです。ナナはどらごんなのに、人間の字の読み書きなどです」
話を聞いて、カイルはナナが元人間である確率が高まったと判断する。
じーじがナナに人間世界についての勉強をさせていたのは、いずれ里を出して人の世で生活させるためだ。だからこそ、他の仲間に追い出されそうになった時も、心を鬼にして止めなかった。別れの時が来ただけだと。間違っていれば恥ずかしいが、十中八九はカイルの想像どおりなはずだ。
「じゃあ勉強という堅苦しい言い方はやめるか。人間世界についてのおしゃべりだ。サレッタ――おかーさんの暮らす町のこととかを、ナナも知りたいだろ」
「むー、うまく乗せられてるような気がするのです。でも、聞いてみたいのです」
ナナちゃん、可愛い。サレッタが瞳を輝かせて、小動物を愛でるように隣のナナへちょっかいを出すかと思いきや、何故か焚き火の前で頬を両手で挟むように押さえながら、上半身をくねくねさせている。カイルには意味不明だったが、もしかしたらその仕草もナナの可愛らしさに悶えてるせいなのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる