その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

文字の大きさ
445 / 495
さらに孫たちの学生時代編

思春期に色恋沙汰はつきものです!? それでも春也は一途でブレたりはしません

しおりを挟む
 小学校と比べて人数が増えたのを、最初は大勢いるな程度にしか思っていなかった。そんな春也が認識を変えたのは、夏休み明けの2学期になってからだった。

「また増えてねえか……」

 春也は心からげんなりしていた。数年前よりの恒例行事になりつつあったので慣れたと考えていたが、大きな間違いだった。

「あれだけ活躍したら仕方ないんじゃないかな。県予選の決勝は地元のテレビでも放映されたらしいし」

 一緒になって裏庭の校舎の陰に隠れているのは晋悟だ。1年ながらに中堅手のレギュラーとして全試合に出場したこの友人もまた、同じような立場にある。

「僕の場合はそれに加えて、春也君や智希君と仲良くしてるから紹介してほしいって話も多いんだよね」

「それで晋悟の取り巻きと揉めたんだっけか」

「取り巻きって……まあ、実際にはその通りなんだけどね」

 とても大きなため息だった。晋悟君に失礼な頼みごとをしないでと、追っかけの中心らしい女性が反発し、最終的に取っ組み合いにまで発展したらしい。春也は話に聞いただけだが、仲を取り持ったのは意外にも演劇部顧問の芽衣先生だった。

「知らない間に休戦協定が結ばれて、皆で遊びに行こうって話になってね。春也君と智希君もしっかり誘ったはずなんだけどね」

 晋悟が恨みがましい目つきになる。

「ちゃんと謝っただろ。大体、せっかく朝からまーねえちゃんに誘ってもらえたのに、どうして好きでもない女と出掛けなきゃいけないんだよ」

「そうだよね……春也君はきちんと陽向お姉さんが好きって言って、他の子に告白されても断ってるのにね」

「諦めるどころか、振り向かせてみせるって張り切りだしたからな。俺にはもはや理解不能の領域だ。いっそ智希みたいに突き抜ければいいんだろうか」

「それだけはやめてくれないかな!? ようやく春也君が成長して、智希君の暴走だけ監視してればよくなってきたんだから!」

「腰が低いようでいて、晋悟も大抵失礼だよな」

 もっとも時折辛口を混ぜるのは春也と智希に対してのみなのだが。

「それだけ心を許してる証拠っつーことで――」

「春也君、みーつけたー」

「うおお!?」

 いきなり背後から肩に手を置かれ、春也は脱兎のごとく駆け出した。すぐ後ろに晋悟も続く。部活動でだいぶ足も速くなったのだが、走力だけはいまだに勝てずにいた。

「朝から何のホラーだよ! いい加減にしてくれよ!」

   *

「……てな感じでな、酷い目にあったんだよ」

「くだらんな。そんな連中など無視すればいいだろうが」

「まったくだ。愚痴る相手を間違えた」

 なんとか教室に戻ると、授業が始まる前に後ろの席の智希に話しかけたのだが、返ってきた言葉は実に予想通りだった。

「にしてもお前の、のぞねーちゃんアルバムはどんどん増えてくな。また授業中も見て、没収されんじゃねえぞ」

「不要な忠告だな。最近はデータとして保存しておけるだけに、プリンターを使えば幾らでも増産可能だ」

「量産型のぞねーちゃんってか」

「貴様、親愛なる姉さんをよりによって量産型だと!?」

「怒るなよ! っていうかお前が増産だ何だと言い出した――」

「――素晴らしい!」

 ガシッと両手を掴まれた。スクスクと成長をし続ける希ほどではないにしろ、智希の体格も同年代の男子に比べると良い方だ。もっとも成長度でいえば春也が1番で晋悟が2番なのだが。

「いきなり何だよ」

 少し離れて春也と智希を観察していた女子が何やら瞳を輝かせ出しているが、そんな意味不明な現象を気にしている余裕はない。もっと目をキラキラさせている奴が目の前にいるからだ。

「たくさんの姉さんに囲まれての生活……まさにこの世の楽園ではないか。是非、お願いしたい! さあ、今すぐに増産してくれ!」

「できるか! 何で成績は良いのに、そんなこともわからねえんだよ!」

「それはつまり、俺が学問を究めてホムンクルスなりなんなりを作ればいいということだな」

「違うっつーの! おい、晋悟! なんとか――って、あっちはあっちで大変だな」

 春也や智希と違って人当たりの良い晋悟は、できるだけ周囲の人間を傷つけないように苦心しながら自分の周りに集まっている女子に対応していた。

「あいつ、そのうちストレスでハゲそうだな」

「問題なかろう。口ではなんやかんやと言っているが、あれで苦労を背負い込むのを楽しんでる節がある」

「とんだド変態だな」

「そこ! 聞こえてるからね! 勝手に人を変態扱いしないでもらえるかな!?


   *

 日々、鬱陶しくなりつつある校舎での生活を終えると、待ちに待った部活の時間がやってくる。しかし今日に限ってはいつもと事情が違っていた。

「今日から野球部のマネージャーをすることになりました。よろしくお願いします」

 前々から希望者が殺到していたというマネージャーを、とうとう監督が承諾したらしかった。やることは練習の手伝いなど雑用が多いのだが、いてくれれば練習以外に気を向ける必要が減り、かなり助かるのは確かだ。

 問題はその1年の女子が、小学生の頃からやたらと春也の世話を焼こうとする人物だったことである。確か修学旅行の時も気がつけば近くにいたなと思い出し、乾いた笑いが出そうになる。

「監督が認めたなら仕方ねえけど、問題事にだけはならねえでほしいよな」

「他の部員の目もあるから、さすがに……と言いたいところだけど、どうなるかはわからないね。僕としては助かるからって、マネージャーの人数を増やされる方が怖いけど」

「先輩方は喜んでるみたいだけど、マネージャーは別に女子でなくてもいいのにな」

 マネージャーの紹介を終えた監督が練習再開を告げると、春也は智希と連れ立ってブルペンに向かう。3年生が引退してチームの主体は2年生になったが、春也はすでにエースとして内外から認められていた。

「よっし! 今日も絶好調だぜ」

 機嫌よく智希のミットを響かせ終えると、いつの間にいたのか、マネージャーになったばかりの女子がタオルを持ってきた。

「これで汗を拭いて」

「いや、悪いけど、俺だけ特別扱いしないでくれ。お前はチームのマネージャーだろ?」

「エースが体調を崩したら大変だから、気を遣うのは当然よ。監督にも許可を貰ってあるわ」

「……しっかりしてるっつーか、なんつーか」

 その後の続く言葉を見つけられず、仕方なしに春也はタオルを受け取った。良い匂いがして、とてもフカフカだった。

   *

 静かな授業中の反動か、休み時間の教室はとても騒がしい。わりと時間のある昼休みであれば、運動しに行ったりなどの生徒もいて閑散とすることもあるのだが、それ以外は10分しかないのでクラスメートと雑談することが多い。

 そこに加えて話すのが思春期の男子となれば、話題は決まって異性関連ばかりになる。

「俺、B組の奴と付き合うことになったんだ」

「マジかよ。あれ、でもお前の好きな女ってC組だったよな」

 陸上部期待のホープだと自称する男の報告に、春也と同じ野球部員が身を乗り出したあとで眉間に皺を作った。

「そうなんだけどさ、熱意に負けたっていうか……高木だったら俺の気持ちがわかるんじゃないか?」

「何で俺に振るんだよ」

「高木だけじゃなくて小山田――は特殊だからおいといて、柳井なんかも凄えモテてるじゃん。あれだけ好き好き言ってもらえたら、気持ちも揺らぐだろ」

「そんなことはねえな。前にも言ったけど、俺はまーねえちゃんって姉ちゃんの友達に一途だからな」

 どうして誰とも付き合わないのかしつこく聞かれた際、言い訳するのも面倒臭かったので正直に片思い中だと教えた。それから目の敵にしてばかりだった他の男子が、やたらとフレンドリーになったのは謎だが。

「俺だってそうだったよ。でもさ、振り向いてもらえそうもない相手を追いかけ続けるより、想ってくれてる子と付き合った方が幸せなんじゃないかって思ったんだよ」

「そうか……としか言えないな」

「ハハッ、まあ高木もよく考えてみろよ。押し付けるわけじゃないけど、その気になればすぐ恋人を作れるありがたい立場にいるんだからな」

   *

 懸念していたマネージャーの存在だが、春也の世話を中心に焼こうとする一方で、きちんと部全体も見渡して気を遣っているので他の部員の受けは良かった。早速告白して振られた部員もいるらしい。

 その際の断り文句は「春也君が好きだから」というもので、今度は部員からヘイトを集めるかと思ったが、むしろマネージャーを応援するような立ち位置へ変化したそうだ。これも春也には理解不能な現象だった。

「どいつもこいつも彼女だ何だって騒がしすぎだろ」

 ランニングの途中で隣にいた智希に愚痴ると、見慣れた苦笑いが返ってきた。

「確かにそう思う時も多いけど、中学生ってことを考えれば普通じゃないかな。興味自体なら僕にもあるし」

「そうなのか?」

「春也君に智希君と一緒にいるおかげで退屈しないから、まだ特定の誰かと親密になりたいとは思ってないんだけどな」

「なるほどな。智希は――聞くまでもないな。……いや、そうとも言えないか。のぞねーちゃんのためになるんであれば、平気で好きでもない女と付き合いそうだしな」

「貴様は俺を何だと思っているのだ」

 どうやら話を聞いていたらしく、すぐ後ろを走っていた智希が距離を詰めて会話に加わった。

「姉さんのためになるからといって……ふむ、一考の価値はあるかもしれんな」

「やっぱり俺が正しかったんじゃねえか」

「フン、そんなことより貴様はどうなのだ。あのヤンキーもどきとはあまり会えてないのだろう?」

「良く知ってんなってか、俺が愚痴ったせいか。まあ、そうなんだけど、だからって好きでいてくれる他の女と付き合うって考えはないな。俺が好きなのはまーねえちゃんだし」

「フッ、愚問だったな。そういうところは嫌いじゃないぞ。困ったことがあれば俺に言え。晋悟の名前を語って物理的に排除してやろう」

「そういうところだからね!? 僕が困ってるのは! 冗談でも言っていいことと――冗談だよね?」

「さあな」

「智希君!? ああもう希お姉さんでも他の女の人でもいいから、彼を制御してくれないかな!?」

 頭を抱えそうな友人に、春也は微笑んで告げる。

「無理だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...