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さらに孫たちの学生時代編
ついに来ました凛の見せ場!? 球技大会も全力とてへぺろで頑張ります
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東北の夏は関東に比べて短いといっても、夏休みも短い分だけ2学期が始まる頃にはまだ暑さがかなり残っている。
温暖化が叫ばれて久しい昨今、穂月はそろそろ地元の学校も夏休みを延長すべきではないかと思ってみたりする。もちろん冬休みをその分、減らしたりする暴挙なしでだ。
以前に担任に言ってみたところ、長期休みは教師にとってあまり関係ないのでどうでもいいと返ってきた。なんとも世知辛い。
「穂月ちゃん、次はどうすればいいの?」
小学校の時に同じクラスだったちーちゃんが、グラウンドの真ん中で叫んだ。他の皆同様にジャージ姿で、今はもうすぐ行われる球技大会に向けての練習中だった。
やるからには勝つがモットーの担任が、自分の授業時間を潰してまでクラスの練習時間を作ったのである。
「次はフライを取る練習かな。のぞちゃんー」
「希ちゃんならそこの日陰にいるよ」
「おー……猛暑でも関係なくぐっすりだよ……」
「恐るべき特技ですわね」
すぐ近くから声がしたのに、穂月は軽く驚く。ソフトボール部員は、そろって同球技に参加するクラスメートの指導に当たっていたからだ。特にその役割を強く担っているのは沙耶である。
「りんりん、どうしたのー?」
「……わたくしの守備が華麗過ぎて、真似をすると基本が崩れるということでしたので、のぞちゃんさんの様子見がてら指導役から監督役に変わったのですわ」
「要するにまたトンネルやお手玉をしまくって、ゆーちゃんから戦力外通告をされたんだね」
「傷つくので、はっきりおっしゃらないでくださいませ」
大会中に行われる球技はバスケットボール、バレーボール、それに男子は野球で女子がソフトボールだった。どれかには必ず参加しなければならず、該当球技の部員は参加してはいけないという縛りもない。
なので当然、穂月たちは揃ってソフトボールに決めていた。というより顧問でもある担任に半ば無理やり決められた。
「ウチのクラスにはインターハイを制覇した主力が揃ってるのよ。狙うは優勝! あの男に目にもの見せてやるわ!」
「これ、あれですわね」
「うん。好意を持ってくれてる先生のアプローチを勘違いして、仕返しに燃えてるパターンだよ。最近の季節と同じで、先生の春もとっても短かったよ」
「そもそも春の訪れがあったかどうかも不明ですわね」
*
穂月の母親も叔母も南高校出身なので、球技大会を熟知していた。そのため、当日になる前から、あれこれとアドバイスは受けていたのだが……。
「大変だよ。難しいポジションはソフトボール部員でって菜月ちゃんが言ってたから、りんりんにショートを任せてみたら大惨事になったよ」
同じ1年生との初戦、しかも相手にソフトボール部員は少ないという恵まれた組み合わせになったにも関わらず、いきなり劣勢に立たされていた。
変則的な3回ルールで、決勝が5回までになる。だというのに1回表の時点ですでに3失点である。
「インターハイでも初回からここまで打ち込まれた経験がないよ!」
「……打ち込まれたというより、りんりんがやらかしまくっただけ」
「返す言葉がありませんわ……」
試合前はついに自分の時代が来たと、公式戦ではないながらも守備を任されて大張り切りだったが、最初の打者の打球を誤って蹴り飛ばして3塁打にした瞬間から顔色が変わり出していた。
「それにしても、ショートばかりに飛びすぎです。私はてっきり狙って打たせていたとばかり……」
「穂月はのぞちゃんのリード通りに投げただけだよ」
沙耶の指摘を受けるなり、穂月はぐりんと首を動かす。釣られるように内野に集まっていたクラスメートの視線が希に集中した。
「……てへぺろ」
「何ですの、その反応は! まさか本当にわたくしを狙わせたんですの!?」
「……日頃からやればできるって言ってたから、試してみた。あと、皆の緊張を解すため」
「おー、確かに部員でもエラーするんだと思えば、皆も肩の力が抜けるねー」
なるほどと穂月は納得したが、標的にされた形の凛は違った。
「お待ちくださいませ。わたくしも頷きかけましたけれど、そのように考えていたということは、試す前に結果が予想できていたということではありませんか! つまりは確信犯ですわ!」
「……てへぺろ」
「半目でやられても、ちっとも可愛くありませんわあああ」
絶叫してからしゃがみ込んで、マウンドにのの字を書き始める凛。クラスメートが必死で慰めるのを横目に、部員たちは今後を話し合う。
「こうなったらりんりんにはライトに回ってもらった方がいいです。私がセンターに入って出来る限りフォローすればいけるはずです」
「じゃあ、穂月はショートに入るね。セカンドも欲しいところだけど、キャッチャーののぞちゃんとセンターのさっちゃんと一緒にセンターラインを固められるし。ピッチャーはゆーちゃんに任せよう」
「……それが最善。でもりんりんにも守らせてあげたかった」
希が最後にそう言ったところで、感動したように凛が立ち上がった。もともと完全に拗ねていたわけではなく、単に構って欲しがっていただけなのは仲間であれば明らかだったので心配はしていなかったが。
「わたくしのためだったのですね……それをつまらない誤解をしてしまって申し訳ございませんでしたわ!」
「……気にしないでいい、誰しも間違いは――」
「――おい、のぞちゃん! もうりんりんの珍プレーが終わりなら、そろそろ録画を止めていいか!?」
グラウンドに響いた大きな声。それは希のスマホを預けられていた陽向だった。
「……のぞちゃんさん?」
「……てへぺろ」
「だから可愛くありませんわあああ」
*
多少のお笑い要素が混ざったところで穂月たちのクラスは強かった。担任も言っていた通り、インターハイで活躍した1年の主力が揃っているのだから当然だった。
1回戦も難なく逆転勝ちを収め、準決勝まで駒を進めると、朱華が所属するクラスと対戦することになった。元主将だけあってチームメイトを乗せるのが上手く、あまり経験のない生徒にもしっかり活躍の場を作っている。その中でもっとも活躍しているのが、中学校時代に朱華と一悶着あった女性だというから驚きだ。
「普通の人には穂月が投げると大人げないらしいけど、あーちゃんには全力でって美由紀先生に言われたよ」
「相変わらず容赦ないわね……でも楽しみにしてたから歓迎かな」
「いざ尋常に勝負、だよ!」
本職の希が捕手をしてくれているので、手加減の必要はない。穂月は自身の成長を見せるためにも、今ある力を振り絞る。
「うわっ……本気で対戦すると、こんな速いんだ……」
「……ほっちゃんは変化球もエグイ。今から県大学関係者がツバつけとこうと頻繁に練習を見に来てる」
「私もなんとか推薦取れそうだけど……格が違うわね。ふふ、ほっちゃんやのぞちゃんと同い年だったら、もっと楽しめたのにね」
「……それだと引っ張る人がいないから、多分ほっちゃんもアタシもソフトボール部に入ってない」
「それもそっか。過去が変わったところで今より楽しくなるかはわかんないし、目の前の出来事を堪能すべきねっ!」
希と会話しながらのスイングだったが、穂月のボールを捉えるには至らず、朱華の結果は三振となった。
「参ったわ。でも私の球だって捨てたものじゃないわよ!」
*
強敵だった朱華率いるクラスを下すと、決勝には個人技でチームをここまで引っ張り上げた陽向が立ちはだかった。
「あーちゃんの仇を俺が取って――」
「――ほっちゃん、頑張って!」
「そこは俺を応援するところじゃねえのかよ!?」
投手としてはノーコンの陽向は、球技大会であってもマウンドでは役に立たない。中学時代に少し経験のある生徒が投手をしているが、それ以外はとりあえずバッティングが上手かった面子を並べたらしかった。
「昔から攻撃は最大の防御って言うしな! そもそも多少、守備を頑張ったところでほっちゃんたちを抑えられるわけがねえんだ。あーちゃんには理解できなかったみたいだがな」
ドヤ顔をしたタイミングで、その朱華から怒りの声が飛ぶ。
「そこのヤンキーもどき! 生意気言ってるとシメるわよ!」
「誰がヤンキーもどきだ! そもそも不良なんざやったこともねえんだよ!」
陽向が叫んだ瞬間、決勝を見に来ていた生徒たちが一斉にザワついた。
「はわわ、地毛だと言い張って茶髪もパーマも直さず、制服も好き勝手に着崩している腐れ問題児が戯言を言ってるの。りんりんの似非お嬢様ぶりと揃ってろくでもないの!」
「勝手に人を巻き込ないで頂けます!?」
「聞こえてるぞ、コラァ! 絶対にゆーちゃんから打ってやるからな!」
バットを肩に乗せて叫ぶ姿に、穂月は思いのままを告げる。
「今のまーたん、どこからどう見てもヤンキーだよ」
*
打ち気にはやればはやるほど、捉えられないのが悠里の遅球である。陽向もそれをわかっていたはずなのに、あっさりと術中にハマった挙句、投手力の劣るチームではどうにもならずに大差で勝敗が決した。
意気揚々と放課後にムーンリーフで祝勝会といきたがったが、鬼顧問の方針で球技大会後も普段通りに部活があった。
「俺としたことが、見え見えの挑発に乗っちまったぜ」
「失礼なことを言わないで欲しいの。ゆーちゃんは事実を教えてあげただけなの」
「そうかよ、ありがとよ!」
「ふぐぐ、いらいの、いらいの」
伸ばされたほっぺを撫でつつ、悠里が唇を尖らせる。
「どうして誰も彼もゆーちゃんのほっぺを狙うのか理解不能なの」
「ぷにぷにで柔らかいからだよ。穂月も大好きなんだ」
「そんな……それが本当なら、もうほっちゃんのお嫁さんになるしかないの」
「おー?」
そそそっと隣に寄ってきたので反射的に頭を撫でると、悠里が子犬みたいに可愛らしく鼻を鳴らした。
「……今の世の中、恋愛は自由。でもほっちゃんの背中は守り通す所存」
「うっ……なんかとんでもない小姑みたいになりそうな気配なの」
奇妙な火花を散らす希と悠里に、穂月は状況をいまいち理解できないまま、もう1度「おー」と首を斜めに傾けた。
温暖化が叫ばれて久しい昨今、穂月はそろそろ地元の学校も夏休みを延長すべきではないかと思ってみたりする。もちろん冬休みをその分、減らしたりする暴挙なしでだ。
以前に担任に言ってみたところ、長期休みは教師にとってあまり関係ないのでどうでもいいと返ってきた。なんとも世知辛い。
「穂月ちゃん、次はどうすればいいの?」
小学校の時に同じクラスだったちーちゃんが、グラウンドの真ん中で叫んだ。他の皆同様にジャージ姿で、今はもうすぐ行われる球技大会に向けての練習中だった。
やるからには勝つがモットーの担任が、自分の授業時間を潰してまでクラスの練習時間を作ったのである。
「次はフライを取る練習かな。のぞちゃんー」
「希ちゃんならそこの日陰にいるよ」
「おー……猛暑でも関係なくぐっすりだよ……」
「恐るべき特技ですわね」
すぐ近くから声がしたのに、穂月は軽く驚く。ソフトボール部員は、そろって同球技に参加するクラスメートの指導に当たっていたからだ。特にその役割を強く担っているのは沙耶である。
「りんりん、どうしたのー?」
「……わたくしの守備が華麗過ぎて、真似をすると基本が崩れるということでしたので、のぞちゃんさんの様子見がてら指導役から監督役に変わったのですわ」
「要するにまたトンネルやお手玉をしまくって、ゆーちゃんから戦力外通告をされたんだね」
「傷つくので、はっきりおっしゃらないでくださいませ」
大会中に行われる球技はバスケットボール、バレーボール、それに男子は野球で女子がソフトボールだった。どれかには必ず参加しなければならず、該当球技の部員は参加してはいけないという縛りもない。
なので当然、穂月たちは揃ってソフトボールに決めていた。というより顧問でもある担任に半ば無理やり決められた。
「ウチのクラスにはインターハイを制覇した主力が揃ってるのよ。狙うは優勝! あの男に目にもの見せてやるわ!」
「これ、あれですわね」
「うん。好意を持ってくれてる先生のアプローチを勘違いして、仕返しに燃えてるパターンだよ。最近の季節と同じで、先生の春もとっても短かったよ」
「そもそも春の訪れがあったかどうかも不明ですわね」
*
穂月の母親も叔母も南高校出身なので、球技大会を熟知していた。そのため、当日になる前から、あれこれとアドバイスは受けていたのだが……。
「大変だよ。難しいポジションはソフトボール部員でって菜月ちゃんが言ってたから、りんりんにショートを任せてみたら大惨事になったよ」
同じ1年生との初戦、しかも相手にソフトボール部員は少ないという恵まれた組み合わせになったにも関わらず、いきなり劣勢に立たされていた。
変則的な3回ルールで、決勝が5回までになる。だというのに1回表の時点ですでに3失点である。
「インターハイでも初回からここまで打ち込まれた経験がないよ!」
「……打ち込まれたというより、りんりんがやらかしまくっただけ」
「返す言葉がありませんわ……」
試合前はついに自分の時代が来たと、公式戦ではないながらも守備を任されて大張り切りだったが、最初の打者の打球を誤って蹴り飛ばして3塁打にした瞬間から顔色が変わり出していた。
「それにしても、ショートばかりに飛びすぎです。私はてっきり狙って打たせていたとばかり……」
「穂月はのぞちゃんのリード通りに投げただけだよ」
沙耶の指摘を受けるなり、穂月はぐりんと首を動かす。釣られるように内野に集まっていたクラスメートの視線が希に集中した。
「……てへぺろ」
「何ですの、その反応は! まさか本当にわたくしを狙わせたんですの!?」
「……日頃からやればできるって言ってたから、試してみた。あと、皆の緊張を解すため」
「おー、確かに部員でもエラーするんだと思えば、皆も肩の力が抜けるねー」
なるほどと穂月は納得したが、標的にされた形の凛は違った。
「お待ちくださいませ。わたくしも頷きかけましたけれど、そのように考えていたということは、試す前に結果が予想できていたということではありませんか! つまりは確信犯ですわ!」
「……てへぺろ」
「半目でやられても、ちっとも可愛くありませんわあああ」
絶叫してからしゃがみ込んで、マウンドにのの字を書き始める凛。クラスメートが必死で慰めるのを横目に、部員たちは今後を話し合う。
「こうなったらりんりんにはライトに回ってもらった方がいいです。私がセンターに入って出来る限りフォローすればいけるはずです」
「じゃあ、穂月はショートに入るね。セカンドも欲しいところだけど、キャッチャーののぞちゃんとセンターのさっちゃんと一緒にセンターラインを固められるし。ピッチャーはゆーちゃんに任せよう」
「……それが最善。でもりんりんにも守らせてあげたかった」
希が最後にそう言ったところで、感動したように凛が立ち上がった。もともと完全に拗ねていたわけではなく、単に構って欲しがっていただけなのは仲間であれば明らかだったので心配はしていなかったが。
「わたくしのためだったのですね……それをつまらない誤解をしてしまって申し訳ございませんでしたわ!」
「……気にしないでいい、誰しも間違いは――」
「――おい、のぞちゃん! もうりんりんの珍プレーが終わりなら、そろそろ録画を止めていいか!?」
グラウンドに響いた大きな声。それは希のスマホを預けられていた陽向だった。
「……のぞちゃんさん?」
「……てへぺろ」
「だから可愛くありませんわあああ」
*
多少のお笑い要素が混ざったところで穂月たちのクラスは強かった。担任も言っていた通り、インターハイで活躍した1年の主力が揃っているのだから当然だった。
1回戦も難なく逆転勝ちを収め、準決勝まで駒を進めると、朱華が所属するクラスと対戦することになった。元主将だけあってチームメイトを乗せるのが上手く、あまり経験のない生徒にもしっかり活躍の場を作っている。その中でもっとも活躍しているのが、中学校時代に朱華と一悶着あった女性だというから驚きだ。
「普通の人には穂月が投げると大人げないらしいけど、あーちゃんには全力でって美由紀先生に言われたよ」
「相変わらず容赦ないわね……でも楽しみにしてたから歓迎かな」
「いざ尋常に勝負、だよ!」
本職の希が捕手をしてくれているので、手加減の必要はない。穂月は自身の成長を見せるためにも、今ある力を振り絞る。
「うわっ……本気で対戦すると、こんな速いんだ……」
「……ほっちゃんは変化球もエグイ。今から県大学関係者がツバつけとこうと頻繁に練習を見に来てる」
「私もなんとか推薦取れそうだけど……格が違うわね。ふふ、ほっちゃんやのぞちゃんと同い年だったら、もっと楽しめたのにね」
「……それだと引っ張る人がいないから、多分ほっちゃんもアタシもソフトボール部に入ってない」
「それもそっか。過去が変わったところで今より楽しくなるかはわかんないし、目の前の出来事を堪能すべきねっ!」
希と会話しながらのスイングだったが、穂月のボールを捉えるには至らず、朱華の結果は三振となった。
「参ったわ。でも私の球だって捨てたものじゃないわよ!」
*
強敵だった朱華率いるクラスを下すと、決勝には個人技でチームをここまで引っ張り上げた陽向が立ちはだかった。
「あーちゃんの仇を俺が取って――」
「――ほっちゃん、頑張って!」
「そこは俺を応援するところじゃねえのかよ!?」
投手としてはノーコンの陽向は、球技大会であってもマウンドでは役に立たない。中学時代に少し経験のある生徒が投手をしているが、それ以外はとりあえずバッティングが上手かった面子を並べたらしかった。
「昔から攻撃は最大の防御って言うしな! そもそも多少、守備を頑張ったところでほっちゃんたちを抑えられるわけがねえんだ。あーちゃんには理解できなかったみたいだがな」
ドヤ顔をしたタイミングで、その朱華から怒りの声が飛ぶ。
「そこのヤンキーもどき! 生意気言ってるとシメるわよ!」
「誰がヤンキーもどきだ! そもそも不良なんざやったこともねえんだよ!」
陽向が叫んだ瞬間、決勝を見に来ていた生徒たちが一斉にザワついた。
「はわわ、地毛だと言い張って茶髪もパーマも直さず、制服も好き勝手に着崩している腐れ問題児が戯言を言ってるの。りんりんの似非お嬢様ぶりと揃ってろくでもないの!」
「勝手に人を巻き込ないで頂けます!?」
「聞こえてるぞ、コラァ! 絶対にゆーちゃんから打ってやるからな!」
バットを肩に乗せて叫ぶ姿に、穂月は思いのままを告げる。
「今のまーたん、どこからどう見てもヤンキーだよ」
*
打ち気にはやればはやるほど、捉えられないのが悠里の遅球である。陽向もそれをわかっていたはずなのに、あっさりと術中にハマった挙句、投手力の劣るチームではどうにもならずに大差で勝敗が決した。
意気揚々と放課後にムーンリーフで祝勝会といきたがったが、鬼顧問の方針で球技大会後も普段通りに部活があった。
「俺としたことが、見え見えの挑発に乗っちまったぜ」
「失礼なことを言わないで欲しいの。ゆーちゃんは事実を教えてあげただけなの」
「そうかよ、ありがとよ!」
「ふぐぐ、いらいの、いらいの」
伸ばされたほっぺを撫でつつ、悠里が唇を尖らせる。
「どうして誰も彼もゆーちゃんのほっぺを狙うのか理解不能なの」
「ぷにぷにで柔らかいからだよ。穂月も大好きなんだ」
「そんな……それが本当なら、もうほっちゃんのお嫁さんになるしかないの」
「おー?」
そそそっと隣に寄ってきたので反射的に頭を撫でると、悠里が子犬みたいに可愛らしく鼻を鳴らした。
「……今の世の中、恋愛は自由。でもほっちゃんの背中は守り通す所存」
「うっ……なんかとんでもない小姑みたいになりそうな気配なの」
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