その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

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さらに孫たちの学生時代編

新年になったので昨年を振り返りましょう、もっとも話題になったのは個性的な智希です

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 朝に野球の練習をするため、春也の起床は早い。それでもパン屋を営んでいる両親よりは遅いのだが。

 しかし今日に限っては目覚まし時計もセットしてないのに、普段よりも早く起きた。理由は悩むまでもなく、ウキウキした気分のせいだ。

「あけましておめでとうございます!」

 洗顔などを終えると、春也は元気一杯にリビングへ飛び込んだ。

 真っ先に出迎えてくれたのは、祖母と一緒にキッチンに立っていた母だった。

「おめでとう、フフ、今年もよろしくお願いします」

 40も半ばを過ぎた母は最近皺が増えたと嘆いていたが、柔らかな微笑みは実年齢よりもずっと若く見える。そのことを踏まえて、春也が祖母と同じだと言ったら、母娘だからと予想以上に喜んだのが記憶に新しい。

「あれ、姉ちゃんはまだなのか?」

 祖父母や父にも新年の挨拶を終えると、1人足りないことに気が付いた。

「皆と新年を迎えるんだって、昨夜は遅くまで起きてたみたいだから、まだ寝てるんじゃないかな」

 母親の説明に、春也は「そうか」と納得する。新年は主に各自の家で迎えて、日が昇ったら高木家に集合していたが、今年は事情が違ったのを思い出した。

「智希が騒いでなかったから、のぞねーちゃんとかが泊ってたのも忘れてたわ」

「アハハ、実希子ちゃんが脱走しようとする智希君を何度か拘束したらしいね。一緒の布団で寝させるぞって言ったら、急に素直に諦めたって微妙に悲しさ溢れるLINEが今朝届いてたから」

「あそこの家は毎日が正月みたいな大騒ぎをしてるな」

「元気なのはいいことだよ。春也も見習って――とは言わないけど、体調管理には気をつけてね」

「わかってるって、それより、ほら、あけましておめでとうございます」

 改めてお年玉の催促をすると、母は胸当てエプロンを翻して楽しそうに笑った。

   *

 春也が朝食をとっていたら、今年も午前中から母の友人が来訪した。挨拶のために右手を上げるなり、確保されていた智希がダッシュで家に飛び込んだ。

「貴様、姉さんをどこに隠した」

「うちのねえちゃんと一緒に、あそこで朝飯食ってるだろ。
 ……っていうか、お前は相変わらずだな」

「新年だからといって、普段と違う行動を取る者が愚かなだけだ」

 マフラーもそのままに断言した智希に、玄関で出迎えた母親が「耳が痛いね」と苦笑した。

 生意気な小僧なら「フン」と鼻でも鳴らしそうだが、姉が絡まなければ意外とまともだったりするのが智希だ。すぐにそういう意図はないと丁寧に弁解した。

 リビングに入るなり、智希は実姉の希にどうして新年を一緒に迎えてくれなかったのかと、フラれる寸前の彼氏みたいな顔で詰め寄っていた。

 希が適当に受け流している――というより無視しているのを横目で眺めつつ、お雑煮を完食する。

 椅子にもたれながら膨らんだお腹を摩っていると、今度は晋悟一家がやってきた。出迎えた祖母に連れられてくると、室内で繰り広げられている光景を目撃して顔に苦笑いを張り付けた。

「智希君は今年も絶好調みたいだね」

「お目付け役が遅刻したから大暴れ中だ」

「それって僕のことなのかな!? 変な役職を勝手に与えないで欲しいんだけど!?」

 抗議する友人を置き去りに、春也は来訪した大人たちに新年の挨拶をしていく。迂闊な対応をしようものなら、怒ると鬼より怖い祖母が強権を発動してお年玉を没収しててしまう。年に一度の稼ぎ時に、それだけは避けたかった。

「春也もおめでとさん、今年も無事に元旦を迎えられて良かったな」

 春也はニヤリとする実希子からポチ袋を両手で受け取りつつ、まったくだと首を大きく縦に動かした。

「どこぞの息子が色々とやらかしてたからな」

「ハッハッハ、あのお騒がせ両親の息子だからな、晋悟は」

「さらりと責任転嫁してないで現実を見るべきだと思うぞ」

「春也も言うようになったじゃないか、で、ウチの息子が何をしでかしたんだ?」

 隣に腰を下ろした春也は、お年玉を大切にジーンズのポケットへしまいつつ、特徴的な出来事を羅列していく。

「中間テストで一位を取って、中身をよく知らない女子から理知的だとか言われてたな」

「辛辣な部分は置いといて、それはいいことだろう」

「学校ではファンクラブもできたみたいだけど、一切浮かれたりしないから冷静で素敵だとかいう狂った称賛もあったな」

「今のうちだけだから、少しは夢を見させておいてくれ」

「それがもうだいぶ覚めてるぞ。地震があった時、のぞねーちゃんのところに行くって派手に取り乱してたからな」

「動機はともかく、家族の安否を心配するのは当然じゃないのか?」

「震度1だぞ、誰も揺れに気付かなかったのに、いきなり立ち上がったと思ったら大声で騒ぎだしたからな。あれで真っ当な女子は奴の危険性に気が付いた」

「人の息子を猛獣扱いしないでくれ」

「そうだな、どっちかっていうと珍獣だしな」

 後ろから実希子ちゃんと一緒ね、なんて声が飛んできた。揶揄された張本人は声の主が晋悟の母親だとわかるなり、楽しそうにじゃれ合いに行った。

   *

 初詣は皆でというのが、ここしばらくの高木家の恒例行事でもあったので、姉たちも神社で新年を迎えるのは控えたらしい。

 母の時は違ったみたいで、姉の気遣いに喜びながらも、どこか申し訳なさそうに祖父母と話していたのが印象的だった。

 お賽銭を投げ入れ、両手を合わせてひたすら願う。

「ずいぶんと熱心だったじゃねえか、何を願ったんだよ」

 初詣前に高木家に来ていた陽向が、からかうように肘で脇腹を突いてくる。

「俺が神頼みするものなんて一つしかないだろ」

「野球が上手くなるようにってか」

 その通りだったので、春也は無言で笑みを返そうとして、途中で止めた。

「いや、前言撤回だ。もう一つお願いしてたわ」

「野球以外にか? 想像つかねえな」

「答えは目の前にあるだろ。まーねえちゃんが振り向いてくれるように、ともお願いしたんだよ」

「ぶっ……おま……皆がいるところで何を……」

 盛大に取り乱す陽向の周りでは、姉の穂月たちがニヤニヤしまくっている。隠し事がさほど得意でない想い人の態度から、近いうちにバレるのは明らかだったので、告白後に少ししてから家族には教えたのである。

 春也は口止めしなかったので当然他の知人も事情を知ることになり、いつの間にか応援される立場になっていた。

 姉の友人の悠里は「本丸を攻撃しておいてから、外堀を埋めにかかるなんてとんでもない策士なの」と意味不明な感心をしていたが。

「春也は運動神経が抜群なのよね、私にもそれだけの身体能力があればとたまに羨ましくなるわ」

 ため息をついたのは、1人で歩けるようになった我が子を気遣いながら初詣に参加中の叔母だった。

「普通にしてるだけでも、体育祭とかではヒーローになったりするのではないの?」

「確かにキャーキャー言われたけど、途中で智希に話題を掻っ攫われたからな」

「ここでもウチの息子が登場するのか……」

 ややげんなりとする実希子を後目に、他の保護者は話を聞きたがる。春也はそれならと続きを口にする。

「智希も活躍して文武両道だって人気が復活しかけたところに、念願叶ってのぞねーちゃんがうちの姉ちゃんたちと一緒に応援に来たんだよ」

 話を聞いていた姉が、当時を思い出したように手を打った。

「のぞちゃんが疲れたって言ったら、椅子を探してくれたんだけど、見つからなくて自分が代わりになろうとしたんだよね」

「いきなり四つん這いになったから驚いたの。ドン引きしたの」

「……隣で自分もほっちゃんさんの椅子になろうか悩んでいた人の意見とは思えませんわね」

「りんりんはあとで500時間説教なの」

「ごひゃ……!?」

   *

 初詣も無事に終わり、夜の宴会に突入していると、大好きなお酒を呑んでいた実希子がさほど酔ってもいないのに愚痴りだした。

「春也から話を聞けば聞くほど、担任が家庭の様子を知りたがって電話をしてくるのがわかったような気がする」

「アハハ、芽衣先生は柚ちゃんにも色々と相談してるみたいだね」

 その柚は夫や子供と一緒に、午後から高木家に来訪中だ。午前中はようやく孫ができたといまだに感動中の家族と過ごしていたらしい。

「穂月ちゃんたちの方が個性派揃いだったけど、春也君たちの場合は智希君だけが突き抜けすぎてると、今の実希子ちゃんみたいに頭を抱えていたわね」

「高校ではきっと美由紀先輩の手を煩わせるんだろうな。
 ……まあ、理解ある教師に担任してもらえて幸いだと考えるべきか」

 姉たちがトランプ遊びを始めた隙に、希の隣に陣取った智希を不安と愛情を湛えた瞳で実希子が見つめた。

「けど、智希にだっていいところはあるぞ」

 積極的にフォローしようと思ったわけではなく、気がつけばそう口にしていた。春也の想定と違ったのは、実希子の食いつきぶりである。

「詳しく! もっと詳しく! 早く! さあ早く!」

 ガクガクと肩を揺さぶる手を押さえつけ、逆恨み先輩との件を教える。

「のぞねーちゃんとかから聞いて、もう知ってたかもしれないけどな」

「ハッハッハ、甘く見るなよ。ウチの娘が学校のことをあれこれとアタシに話すものか!」

「いや、自慢にはならねえだろ」

「その通りだ! だからもっと希にアタシと会話しろって春也も言ってやってくれよおおお!」

「うわっ、抱き着くなって。
 ぐおお、凄え力だ! 本当に女かよ!」

 後ろから女というより牝だけれど、なんて声が飛んできた。揶揄された張本人は声の主が菜月だとわかるなり、楽しそうにじゃれ合いに行った。

「午前中と変わらないな」

「それを幸せって言うのだよ」

 何故か得意げな母に頭を撫でられ、鬱陶しく思いながらも少しだけ嬉しくなってしまう。

「さっきの話に戻るけど、春也のために誰より怒ってくれるなんて、智希君は意外と友達想いだよね」

「なっ……!
 違います。あれは……見捨てると姉さんの評価が下がると思ったからです。そう! それだけです!」

「おいおい、言い訳を始めたぞ。こんな一面もあったんだな。やっぱり友達ってのはいいもんだ。春也、これからもウチの息子を頼むぞ」

「俺より晋悟に言ってくれ。アイツ、こっちのフォローばっかで大変だろうし」

 話題に上った晋悟は実希子からのお礼を素直に受け取ったが、いつになく顔を赤くした智希は最後まで言い訳じみたことを並べては、周りから生暖かい視線を向けられていた。
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