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22話 これからも僕の隣にいてもらうんだ!
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裕介がひとりぼっちで自分の殻に閉じこもった時も、七海は側にいてくれた。
そして今も、裕介の居場所を取り戻そうと戦ってくれている。
それなのに自分は何をしているのか。敵わないからといっていじけているだけじゃないのか。
わかってはいるが、怖くて足がすくむ。大貴によって幼い頃にもたらされた、理不尽な恐怖が心の奥深くに根付いてしまっている。
「アニラの言っていることはわかる。恐らく正しいということも。だが……俺には決断できん。弱虫と笑いたければ笑うがいい」
デュラゾンと気持ちがリンクしているのか、裕介が思っているままの返答だった。
デュラゾンの胸倉を掴み、アニラが悔しそうに顔を歪める。相手の言い分もわかってはいるのだろう。どうしようもなさが苛立ちとなって場を支配する。そこへ偵察に出ていたレイマッドが戻ってきた。
「睨み合いが始まった。近いうちに正面衝突だ。場所はそれぞれの拠点となる大城と小砦を繋ぐ舗装された街道。戦力は城側が上。差は圧倒的だ」
レイマッドの報告が現実に基づいたものなら、昨日に引き続いて七海と真雪の同盟軍が大貴と戦おうとしているのだろう。あれだけやめろと言ったのに、彼女たちは聞き入れてくれなかったのだ。
練習したところで、あれだけの戦力差をたった一日でどうにかできるはずもない。実際に昨日も、裕介が夢で見た通りに惨敗している。
そうかとしか言わないデュラゾンに、アニラが怒りを再燃させる。両手に力を入れ、掴んでいた襟首ごと顔を引き寄せて頭突きをするような体勢になる。
「旦那は本当に見捨てるつもりなのか!」
「……ああ」
裕介が感じている苦しさが、デュラゾンにもあるのかもしれない。それでも動けないのだから、自分は本物のヘタレだと自嘲する。
「見捨てるってのも変だろ」
意外にもレイマッドがデュラゾンの援護に入った。きょとんとした様子のアニラが、反射的に掴んでいた襟首を離す。
「どういう意味だい、レイマッド」
「だってよ。戦いを挑んだのは同盟側だぜ。ま、そのせいで条件を出されたみたいだけどな」
「条件?」
尋ねたアニラに、レイマッドは「そうだ」と頷く。
「負けたら同盟軍の大将が、大城軍の大将の女になるんだと。何の目的で戦うのかわからないけど、戦力差があるってわかっていながらアホだよな」
裕介は愕然とした。これがただの夢ではなく、現実の出来事を伝えているのだとしたら大変だ。
同盟軍の大将は恐らく七海。そして大城軍の大将は大貴だ。つまり負けたら大貴の彼女になる条件で、七海は勝負をしているということになる。
何のために?
裕介の居場所を取り戻すためだ。
「どうして……そこまで僕のために頑張れるんだよ。僕はこんなにどうしようもない奴なのにさ」
いつだったか七海は言った。過去の裕介に救ってもらった恩だと。
彼女に気にしなくていいと言った裕介にも恩はある。七海がいてくれたおかげで、本当の孤独にならずに済んだのだ。恩人なのは向こうも同じ。それなのに裕介は世話を焼いてもらうばかり。
テレビゲームが規制されて呆然としていた時は勇気づけてもらい、英雄を手に入れたあとは慣れるまで一緒にコンビニへ通ってくれて、負けが込んでいると知れば自分もゲームに登録した。援軍として参加し、裕介を助けるために。
過去の恩があるからと言ってくれる七海に支えられて、ここまでやってきた。鈍感大王と呼んだりしても決して見放したりせず、常に隣を歩いてくれた。その彼女が、今度は大貴の隣を歩く。
想像しただけで、世界がおぞましさに包まれた。テレビゲームが規制された時の比ではない。絶対に失ってはいけない、手放したくないと本能的に強く思った。
「聞いたところによると、同盟軍の大将はデュラゾンさんに惚れているらしいぜ」
惚れている?
直接的な発言に首を傾げた裕介が、色々と思い当たる事実に気づいて顔面を真っ赤にする。ようやく両親にまで、鈍感と言われていた理由が判明した。
「ハハ……僕は本当に駄目な男だね。隣にいてくれた女の子の想いにすら気づけないんだからさ」
裕介が自らを貶める呟きを漏らした側で、デュラゾンは衝撃的な事実を聞いたはずなのに微塵も動じていなかった。
「色々と思い当たる節はあるが、だからといって危険に飛び込むつもりはない。彼女も自分を優先していればそんな条件を飲む必要もなかった」
「ふざけんな!」
胸板をおもいきり叩き、アニラがデュラゾンをつき飛ばした。
「旦那だって本当はわかってんだろ! 今回だって、旦那のために戦いを選んだんだ! それなのに……アンタはここで何してる!」
旦那ではなく、アニラは初めてデュラゾンをアンタと呼んだ。目に涙を溜め、倒れているデュラゾンへ馬乗りになって何度も頭を揺さぶる。
「楽しいかよ! 現実を悟った気になって、誰かのために頑張る奴を見下すのは! 確かに命は助かるかもしれないけど、そんなのはクソッタレだ!」
「だが戦わなければ犠牲は増えない。勝てない戦いに挑むのは愚か者のすることだ」
あくまでも戦いを――立ち向かうのを拒絶するデュラゾン。それは昨夜から今朝にかけての裕介そのものだった。
皆の目には、きっとあんな風に情けなく映っていたのだろう。七海だって本当はアニラみたいに怒りをぶつけたかったはずだ。なのに彼女は最後まで気遣ってくれた。
そして裕介は、ようやく自分の気持ちに気づく。
「過去のトラウマをえぐられても構わない。僕の隣に七海がいてくれるなら!」
裕介が決断すると、不意に地面で仰向けになっているデュラゾンと目が合った。
「そうだ。それでいいんだ」
※
ガタンと音が鳴る。授業中の教室で裕介は勢いよく椅子から立ち上がっていた。
「何だ、裕介。授業中に居眠りしてたかと思ったら、いきなり立ち上がって。寝ぼけてるのか」
ハゲかけた五十代後半の男性教師が、かけている丸眼鏡を光らせる。
現代国語の授業に集中していたクラスメートは、一斉に裕介を注目してクスクス笑い出す。
いつもならか細い声で「すみません」と謝罪し、顔面を真っ赤にして座っていただろう。そのあとで同じクラスの七海に、呆れられながらも仕方ないわねといった微笑みを向けられる。
だが現在の教室内に、その七海はいない。裕介に再び大好きなゲームをさせるため、恐らくはいつものコンビニの駐車場で大貴と対戦しているはずだ。
負ければ七海が大貴の彼女になる。夢での情報なので確実性はない。そんな約束をしていない可能性もある。しかし、じっとしてはいられなかった。
「すみません。体調が悪いので、保健室へ行ってきます」
教師の承諾は関係なかった。得る前に動き出した裕介はクラスメートが唖然とする中、教室を出る。
授業中でシンとしている廊下を走り、コンビニを目指す。
頬に当たる春風が急げと催促しているみたいだった。息が切れても足を止めず、裕介はひたすら走った。
コンビニが見えてくる。平日の午前中だけに、駐車場のゲーム場所を利用している人はあまりいない。
それでも七海と真雪がプレイしているのは見えた。その正面にいるのは、やはり大貴だった。
荒い呼吸を繰り返し、膝に両手をつく裕介に、七海が真っ先に気づいた。
「裕介。来てくれたのね」
嬉しそうにしたのは一瞬だけで、すぐに真剣な表情に戻る。視線の落ちる台上では、今もゲーム中だった。
配置させているカードは昨日と変わらない。レベル差が離れていたので、敗北しても大量のポイントを失わずに済んだのだろう。
得られるポイントは多く、失われる分は少ない。そうでもしておかないと強敵に挑むプレイヤーが出てこない。そう考えている運営の決めたルールに助けられた。
だからといって勝つ確率が増えたりもしない。七海のレベル十の聖騎士が一枚、真雪の神官戦士が二枚。夢でも見た通り、明らかに戦力不足だった。
「何しに来た裕介。レベル一のお前が、まさか援軍でも出すつもりか。足手まといなだけだろ。引きこもるのが好きな弱虫は、黙って家で泣いてろや」
遠慮のない罵倒が連続で繰り出される。今まではすべて事実だからと聞き分けのいいふりをして、ひたすらいじけていた。
だが、今回はそうできない事情がある。まず夢での話が事実かを確かめなければならなかった。
「この前も大勝したらしいのに、よくまた勝負を受けたね。大貴には得なんてないんじゃないの?」
裕介の質問に大貴はニヤリと、七海は表情を曇らせて俯いた。二人の反応を見れば、七海にとって好ましくない約束をしたのは明らかだ。
「特別に教えてやるぜ」
七海のやめてという制止を無視して、大貴は裕介に勝敗が決した際の約束を 告げる。内容は夢でレイマッドがデュラゾンに報告していたのとまったく同じだった。
新しく知ったのは七海が勝利すれば、裕介にこのコンビニで自由に英雄をプレイさせるというものだった。
「相変わらず女ったらしだよな。自分の代わりに女に戦わせやがってよ。だが、それもあと三十分もすれば終わる。七海は俺の女になる。そうだ、真雪にも俺に逆らった罰を受けてもらわねえとな。真雪、お前の学校で一番の不細工に告白して付き合えや。応援してやるぜ」
愉快そうに笑うのは大貴ひとり。真雪は口を開け、泣き出しそうなくらい絶望している。
「真雪ちゃん、しっかりして。私たちが勝てばいいだけなんだから。大貴に――お兄ちゃんにお灸をすえて、皆と仲良くしてもらうようにするんでしょ!」
「そ、そうだけど……でも、お兄ちゃん、怖いし。あ、謝れば許してもらえるかもしれないじゃん」
「そうね。それもいいと思うわよ。でも、私だけは裕介を絶対に見捨てない!」
「み、真雪だってそうだし! お、お兄ちゃんには負けないんだから!」
真雪に指差された大貴は、残虐そうに二人を見下ろしながら軽く肩をすくめる。
「すっかり悪者になっちまったな。昔からだけどよ。何をするにしても俺は悪者。裕介は正義の味方だ。力もねえくせにな!」
激昂して吼える大貴の視線を正面から受け止める。恐怖で足は震えているが、逃げたいとは思わなかった。
「大貴の言う通りだよ。僕には力なんてないし、弱い。でも、このまま見ているわけにはいかない。七海には、これからも僕の隣にいてもらうんだ!」
「――っ! う、うんっ!」
満開の桜も霞んで見えるほどの笑みが、七海の顔で咲き誇った。
そして今も、裕介の居場所を取り戻そうと戦ってくれている。
それなのに自分は何をしているのか。敵わないからといっていじけているだけじゃないのか。
わかってはいるが、怖くて足がすくむ。大貴によって幼い頃にもたらされた、理不尽な恐怖が心の奥深くに根付いてしまっている。
「アニラの言っていることはわかる。恐らく正しいということも。だが……俺には決断できん。弱虫と笑いたければ笑うがいい」
デュラゾンと気持ちがリンクしているのか、裕介が思っているままの返答だった。
デュラゾンの胸倉を掴み、アニラが悔しそうに顔を歪める。相手の言い分もわかってはいるのだろう。どうしようもなさが苛立ちとなって場を支配する。そこへ偵察に出ていたレイマッドが戻ってきた。
「睨み合いが始まった。近いうちに正面衝突だ。場所はそれぞれの拠点となる大城と小砦を繋ぐ舗装された街道。戦力は城側が上。差は圧倒的だ」
レイマッドの報告が現実に基づいたものなら、昨日に引き続いて七海と真雪の同盟軍が大貴と戦おうとしているのだろう。あれだけやめろと言ったのに、彼女たちは聞き入れてくれなかったのだ。
練習したところで、あれだけの戦力差をたった一日でどうにかできるはずもない。実際に昨日も、裕介が夢で見た通りに惨敗している。
そうかとしか言わないデュラゾンに、アニラが怒りを再燃させる。両手に力を入れ、掴んでいた襟首ごと顔を引き寄せて頭突きをするような体勢になる。
「旦那は本当に見捨てるつもりなのか!」
「……ああ」
裕介が感じている苦しさが、デュラゾンにもあるのかもしれない。それでも動けないのだから、自分は本物のヘタレだと自嘲する。
「見捨てるってのも変だろ」
意外にもレイマッドがデュラゾンの援護に入った。きょとんとした様子のアニラが、反射的に掴んでいた襟首を離す。
「どういう意味だい、レイマッド」
「だってよ。戦いを挑んだのは同盟側だぜ。ま、そのせいで条件を出されたみたいだけどな」
「条件?」
尋ねたアニラに、レイマッドは「そうだ」と頷く。
「負けたら同盟軍の大将が、大城軍の大将の女になるんだと。何の目的で戦うのかわからないけど、戦力差があるってわかっていながらアホだよな」
裕介は愕然とした。これがただの夢ではなく、現実の出来事を伝えているのだとしたら大変だ。
同盟軍の大将は恐らく七海。そして大城軍の大将は大貴だ。つまり負けたら大貴の彼女になる条件で、七海は勝負をしているということになる。
何のために?
裕介の居場所を取り戻すためだ。
「どうして……そこまで僕のために頑張れるんだよ。僕はこんなにどうしようもない奴なのにさ」
いつだったか七海は言った。過去の裕介に救ってもらった恩だと。
彼女に気にしなくていいと言った裕介にも恩はある。七海がいてくれたおかげで、本当の孤独にならずに済んだのだ。恩人なのは向こうも同じ。それなのに裕介は世話を焼いてもらうばかり。
テレビゲームが規制されて呆然としていた時は勇気づけてもらい、英雄を手に入れたあとは慣れるまで一緒にコンビニへ通ってくれて、負けが込んでいると知れば自分もゲームに登録した。援軍として参加し、裕介を助けるために。
過去の恩があるからと言ってくれる七海に支えられて、ここまでやってきた。鈍感大王と呼んだりしても決して見放したりせず、常に隣を歩いてくれた。その彼女が、今度は大貴の隣を歩く。
想像しただけで、世界がおぞましさに包まれた。テレビゲームが規制された時の比ではない。絶対に失ってはいけない、手放したくないと本能的に強く思った。
「聞いたところによると、同盟軍の大将はデュラゾンさんに惚れているらしいぜ」
惚れている?
直接的な発言に首を傾げた裕介が、色々と思い当たる事実に気づいて顔面を真っ赤にする。ようやく両親にまで、鈍感と言われていた理由が判明した。
「ハハ……僕は本当に駄目な男だね。隣にいてくれた女の子の想いにすら気づけないんだからさ」
裕介が自らを貶める呟きを漏らした側で、デュラゾンは衝撃的な事実を聞いたはずなのに微塵も動じていなかった。
「色々と思い当たる節はあるが、だからといって危険に飛び込むつもりはない。彼女も自分を優先していればそんな条件を飲む必要もなかった」
「ふざけんな!」
胸板をおもいきり叩き、アニラがデュラゾンをつき飛ばした。
「旦那だって本当はわかってんだろ! 今回だって、旦那のために戦いを選んだんだ! それなのに……アンタはここで何してる!」
旦那ではなく、アニラは初めてデュラゾンをアンタと呼んだ。目に涙を溜め、倒れているデュラゾンへ馬乗りになって何度も頭を揺さぶる。
「楽しいかよ! 現実を悟った気になって、誰かのために頑張る奴を見下すのは! 確かに命は助かるかもしれないけど、そんなのはクソッタレだ!」
「だが戦わなければ犠牲は増えない。勝てない戦いに挑むのは愚か者のすることだ」
あくまでも戦いを――立ち向かうのを拒絶するデュラゾン。それは昨夜から今朝にかけての裕介そのものだった。
皆の目には、きっとあんな風に情けなく映っていたのだろう。七海だって本当はアニラみたいに怒りをぶつけたかったはずだ。なのに彼女は最後まで気遣ってくれた。
そして裕介は、ようやく自分の気持ちに気づく。
「過去のトラウマをえぐられても構わない。僕の隣に七海がいてくれるなら!」
裕介が決断すると、不意に地面で仰向けになっているデュラゾンと目が合った。
「そうだ。それでいいんだ」
※
ガタンと音が鳴る。授業中の教室で裕介は勢いよく椅子から立ち上がっていた。
「何だ、裕介。授業中に居眠りしてたかと思ったら、いきなり立ち上がって。寝ぼけてるのか」
ハゲかけた五十代後半の男性教師が、かけている丸眼鏡を光らせる。
現代国語の授業に集中していたクラスメートは、一斉に裕介を注目してクスクス笑い出す。
いつもならか細い声で「すみません」と謝罪し、顔面を真っ赤にして座っていただろう。そのあとで同じクラスの七海に、呆れられながらも仕方ないわねといった微笑みを向けられる。
だが現在の教室内に、その七海はいない。裕介に再び大好きなゲームをさせるため、恐らくはいつものコンビニの駐車場で大貴と対戦しているはずだ。
負ければ七海が大貴の彼女になる。夢での情報なので確実性はない。そんな約束をしていない可能性もある。しかし、じっとしてはいられなかった。
「すみません。体調が悪いので、保健室へ行ってきます」
教師の承諾は関係なかった。得る前に動き出した裕介はクラスメートが唖然とする中、教室を出る。
授業中でシンとしている廊下を走り、コンビニを目指す。
頬に当たる春風が急げと催促しているみたいだった。息が切れても足を止めず、裕介はひたすら走った。
コンビニが見えてくる。平日の午前中だけに、駐車場のゲーム場所を利用している人はあまりいない。
それでも七海と真雪がプレイしているのは見えた。その正面にいるのは、やはり大貴だった。
荒い呼吸を繰り返し、膝に両手をつく裕介に、七海が真っ先に気づいた。
「裕介。来てくれたのね」
嬉しそうにしたのは一瞬だけで、すぐに真剣な表情に戻る。視線の落ちる台上では、今もゲーム中だった。
配置させているカードは昨日と変わらない。レベル差が離れていたので、敗北しても大量のポイントを失わずに済んだのだろう。
得られるポイントは多く、失われる分は少ない。そうでもしておかないと強敵に挑むプレイヤーが出てこない。そう考えている運営の決めたルールに助けられた。
だからといって勝つ確率が増えたりもしない。七海のレベル十の聖騎士が一枚、真雪の神官戦士が二枚。夢でも見た通り、明らかに戦力不足だった。
「何しに来た裕介。レベル一のお前が、まさか援軍でも出すつもりか。足手まといなだけだろ。引きこもるのが好きな弱虫は、黙って家で泣いてろや」
遠慮のない罵倒が連続で繰り出される。今まではすべて事実だからと聞き分けのいいふりをして、ひたすらいじけていた。
だが、今回はそうできない事情がある。まず夢での話が事実かを確かめなければならなかった。
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裕介の質問に大貴はニヤリと、七海は表情を曇らせて俯いた。二人の反応を見れば、七海にとって好ましくない約束をしたのは明らかだ。
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新しく知ったのは七海が勝利すれば、裕介にこのコンビニで自由に英雄をプレイさせるというものだった。
「相変わらず女ったらしだよな。自分の代わりに女に戦わせやがってよ。だが、それもあと三十分もすれば終わる。七海は俺の女になる。そうだ、真雪にも俺に逆らった罰を受けてもらわねえとな。真雪、お前の学校で一番の不細工に告白して付き合えや。応援してやるぜ」
愉快そうに笑うのは大貴ひとり。真雪は口を開け、泣き出しそうなくらい絶望している。
「真雪ちゃん、しっかりして。私たちが勝てばいいだけなんだから。大貴に――お兄ちゃんにお灸をすえて、皆と仲良くしてもらうようにするんでしょ!」
「そ、そうだけど……でも、お兄ちゃん、怖いし。あ、謝れば許してもらえるかもしれないじゃん」
「そうね。それもいいと思うわよ。でも、私だけは裕介を絶対に見捨てない!」
「み、真雪だってそうだし! お、お兄ちゃんには負けないんだから!」
真雪に指差された大貴は、残虐そうに二人を見下ろしながら軽く肩をすくめる。
「すっかり悪者になっちまったな。昔からだけどよ。何をするにしても俺は悪者。裕介は正義の味方だ。力もねえくせにな!」
激昂して吼える大貴の視線を正面から受け止める。恐怖で足は震えているが、逃げたいとは思わなかった。
「大貴の言う通りだよ。僕には力なんてないし、弱い。でも、このまま見ているわけにはいかない。七海には、これからも僕の隣にいてもらうんだ!」
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