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23話 不利なのはわかってたじゃん!
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真雪は愕然としていたが、すぐに気を取り直そうと小さな顔を左右に振る。
「不利なのはわかってたじゃん! でも大丈夫だし! だって裕兄ちゃんの隣は、もうひとつあるし!」
裕介にはない前向きさぶりに、このような状況なのになんだかおかしくなってくる。良くも悪くも自分に素直で活動的だからこそ、想いが強すぎると誰かに意地悪をするという形で表現してしまうのだろう。
いわゆるツンデレかもしれないが、いつまでもそれではマズい。機会があったら、その点は直すように優しく注意しよう。
そう決めて、裕介は真雪の言葉に頷いた。
「そうだね。でも、あまり七海と喧嘩しないでよ」
「ちょっと裕介!?」
ガッツポーズをする真雪の隣で、七海が声を荒げた。裕介を見る目がなんだかとっても怖い。会話を続けていると、とんでもない事態に発展しそうなので本題に戻る。
「僕が援軍に入るよ。すぐにカードを買い直すから待ってて」
そう言った裕介に、七海がその必要はないわよと微笑みかける。彼女が懐から取り出したのは、裕介が捨てたはずの英雄だった。
「おばさまから預かってたの。誰だって変に思うでしょう。あれだけ好きだったゲームがゴミ箱に捨てられてればね。はい、返すわよ」
受け取った英雄はトランプみたいな大きさと重さしかないのに、何故かずっしりとした重量感があった。
これは、命の重さなのかもしれない。人に話したら笑われるだろうが、英雄で設定したキャラが夢の中で動く姿を、何度も見ている裕介にはそう思えた。
改めて援軍に入ろうとしたが、その前に審判の梨田さんに現ポイントを確認する。
大貴に負ける前には他のプレイヤー相手に勝ったりもしていたので、合計で百九十ポイントがあった。レベル二には届かないので、すぐに裕介は女戦士アニラのレベルアップを申請する。
圧倒的強者の余裕なのか、大貴は裕介の準備が終わるのを黙って待っている。
「意外といいところがあるじゃない」七海は言った。
「そんなわけあるか。裕介も一緒に潰せば、七海も諦めるだろうが」
「そう上手くいくかしら。裕介を甘く見ないことね」
「フン。すぐに思い知らせてやるよ」
七海と大貴の会話が一段落すると、裕介の指定したレベルアップも終わっていた。
本当ならアニラをレベル十にしたかったが、それではデュラゾンを使えない。援軍として、裕介が戦闘ステージの街道へ配置したのは、レベル九の女戦士アニラとレベル十の村人デュラゾンだった。
デュラゾンのカードを見た大貴が、露骨に不機嫌になる。
「裕介……テメエ! この状況になっても俺を舐めてやがんのか!」
怒りで台を叩くのはなんとか堪えたみたいだが、大貴の目の中では憎悪の炎が燃え上がっている。
「舐めたりなんてしてないよ。この村人のデュラゾンこそが僕なんだ。だから僕は彼を使う。誰に何を言われてもね」
「……面白え! だったらまずそいつからぶっ殺してやる! 惨敗して、七海を俺に取られてからせいぜい後悔しな!」
裕介が加わり、こちら側の勢力は戦士レベル九と村人レベル十、あとは聖騎士のレベル十と神官戦士のレベル十が二枚となった。
三人合わせても七百ポイント分の戦力。不利なのは大きく変わっていない。
それでも裕介が来たからか、最初に戦っていた二人――とりわけ七海の表情は明るかった。
「あはは。もうやらないなんて言って、ゴミ箱へ捨てたのに……なんだか、みっともないね」
照れ臭くなって笑う裕介に、七海が軽く首を傾けて目を細める。怒ったり呆れたりしていないのは、慈愛に満ちた瞳を見ればわかる。
そうした仕草も絵になり、周囲に花でも咲いたみたいに場が明るさを増し、一時的にであっても劣勢なのを忘れさせてくれる。
真雪が裕介の左隣を強引に確保したため、必然的に中央へ位置する、両手に花状態になった。
大貴が面白くなさそうに鼻を鳴らし、手を動かす。どうやら彼の番で戦闘が止まっていたようだった。
夢でも見た通り、戦場は大きな城と小さな砦を繋ぐ街道だ。こちらの大将は七海になる。彼女の拠点を守らなければならない。
とはいえ完全な勝利を目指している大貴は拠点制圧ではなく、裕介たちを全滅させようとしているみたいだった。
「今回はこっそり拠点を制圧なんて真似はしねえよな。男らしく堂々とこいよ」
「悪いけど、遠慮させてもらうよ。玉砕は何も得られない。勝てるなら、喜んで男らしくない真似もするよ」
無意味に突っ込んで敗北すれば七海を奪われ、夢でデュラゾンたちの死ぬ光景を見せられる。そんなのはごめんだった。
「言うじゃねえか。さっくり潰して、またすぐにいじけ虫へ戻してやるぜ!」
大貴の布陣はシンボルリーダーの魔騎士。他には魔戦士が一枚と戦士が三枚。弓兵が二枚となっている。
手に持った戦士のカードを移動力分だけ、七海の聖騎士へ近づけようとする。だがその直前で、梨田さんが待ったをかけた。
「何だよ。審判様も裕介の味方をするのか?」
「私は審判としての仕事をするだけです。ですから、この場で宣言します。隠しルールの発動により、レベル十の村人デュラゾンがクラスチェンジとなります」
「はあ!?」
驚きの声を上げたのは大貴だ。素早く首を動かして裕介を見てくるが、何が起こっているのかわからないのは同じだった。
裕介が間抜けに口を開けて梨田さんを見ていると、彼女は微笑んで、英雄と書かれた一枚のカードを見せた。
梨田さんの手で、デュラゾンのカードがただの村人から英雄へと交換される。
「な、何がどうなってるの?」
聞いてきた七海に「さあ」と首を振って、裕介は自分のカードとなった英雄のデュラゾンを確認する。
レベル十の村人だった男の能力が、信じられないほど上昇していた。七海の聖騎士を上回り、しかも裏面には特殊効果まで書かれていた。
思わず裕介は凄いと漏らしそうになった。どうして隠しルールの発動となったのかは不明だが、ゲームタイトルにもなった名称に相応しい強さだった。
「英雄だと……? チッ! 一枚変わったくらいで、この戦力差をどうにかできると思うなよ!」
裕介が到着する前からゲームを開始していただけあって、大貴の軍と七海、真雪の連合軍はすぐにでも戦闘ができそうな距離で向かいあっていた。
七海によると、聖騎士はレベル一のガードを三人に使用済みで、神官戦士は二人ともヒールを装備しているが、ひとりは三回使えるレベル一を。もうひとりは使用可能な最大レベル三を装備しているみたいだった。
前回敗戦時の反省を踏まえ、回復手段を用意すると同時に、迂闊に突っ込まないようにして、いよいよ本格的な戦闘に突入するといったところで、裕介が来たらしい。
大貴は先ほど動かそうとしていた戦士ではなく、魔戦士を手に取った。
「隠しルールに存在する職種だろうと、魔法防御が存在しないこのゲームでは攻撃魔法が効果的だ。集中的に食らわせてやる!」
魔戦士が使ったのはレベル三のフレア。七海の聖騎士の近くに配置された、英雄のデュラゾンが少なくないダメージを食らう。
心配そうにこちらを見る七海を勇気づけるように、裕介は告げる。
「大丈夫だよ。僕のデュラゾンは負けない」
※
――不意に。
周囲の光景が変わった。コンビニの駐車場ではなく、舗装された街道だ。近くからは七海や真雪の声が聞こえる。だけど姿は見えない。
どういうからくりかは知らないが、白昼夢みたいなものなのだろう。裕介のすぐ前では、デュラゾンが全身を覆い尽くす炎の魔法に耐えていた。
「旦那、その姿は!?」
デュラゾンの隣にいるアニラが驚きの声を上げる。
「さてな。諦めない心が起こしてくれた奇跡だろう。引退した魔騎士だった頃より、強い力がこみ上げてくる!」
村人の服装だったデュラゾンは、一瞬にして美しい青色の全身鎧を身に纏っていた。ガントレットもグリーブもセットどころか、鞘から抜いたロングソードの剣身すら青かった。
気合とともにデュラゾンはロングソードを真横に一閃する。それだけで魔法の炎は真っ二つに割れ、先ほどまでの猛々しさが嘘のように掻き消えた。
「あれは……蒼き星の力をその身に宿すという伝説の英雄? まさか実在していたとは……」
レベッカの呟きを聞いた魔騎士は、面白いと兜の中で口を動かした。漆黒の剣を片手に持ち、馬上で青の英雄となったデュラゾンへもう片方の手を伸ばす。
「お前が英雄だというのなら、その力を見せてみよ!」
放たれたのは、魔戦士が使用したのと同じ火炎魔法だった。魔力で作られた業火が螺旋を描きデュラゾンへと迫る。
「旦那!」
「離れていろ、アニラ! 俺なら問題ない!」
今度は縦に剣を振るうも、炎の勢いを完全に消すのは不可能だった。
生身の人間であれば、一瞬にして肌を焼き尽くされる豪炎。ただの村人に防げる代物ではなかった。けれど今のデュラゾンは英雄。纏ったサファイヤブルーのフルプレートアーマーが身を守ってくれる。
「フレアの二連撃でも倒れないとは、なかなかやるな。もはやただの村人とは違うというわけか。だが、さすがの英雄様も無傷とはいかなかったみたいだな。一気に決着をつけさせてもらうぞ!」
魔騎士の号令で、弓兵が離れた距離からデュラゾンを狙う。頭部をガードした腕に、魔法で強化された敵の矢が突き刺さる。フレアで受けたのと合わせて、かなりのダメージが蓄積されていく。
「旦那! ちょっと待っててくれ。すぐにアタシが助けに行く!」
「多少は腕に覚えがあるみてえだが、俺達と互角に戦えると思ったら大間違いだぜ! ククク、すぐに地面でおねんねさせてやる。それとも俺の隣がいいか?」
敵戦士の持つバスタードソードを、アニラは両手で持っていた巨大斧で受け止める。
「悪いけど、アンタみたいなハゲデブはお断りだよ!」
「そう言うなって。こう見えて俺は……? お、おい。な、何だ、この力は!」
男戦士の顔が驚愕に染まる。腕力で勝っているはずのアニラを押し込めないどころか、逆に自分が押されているせいだ。
「不思議だね、なんだか力が溢れてくるようだよ。これならいける!」
「ま、待て! うああ!」
敵がアニラによって後方へ吹き飛ばされる。その様子を見ていた他の戦士二人が足を止めた。
「何をしている! 狙うのは女ではない! 青い鎧の男だ。とにかく奴を攻撃しろ!」
「ヘ、ヘイっ!」
魔騎士の指示に従い、戦士たちが続々とデュラゾンを襲う。
「くっ……さすがに厳しいか……! だが甘えてもいられん!」
右手の剣と左手の盾で、デュラゾンは敵戦士の攻撃を受け止める。ダメージを負っても、致命傷さえ防げばいいと考えた。
「不利なのはわかってたじゃん! でも大丈夫だし! だって裕兄ちゃんの隣は、もうひとつあるし!」
裕介にはない前向きさぶりに、このような状況なのになんだかおかしくなってくる。良くも悪くも自分に素直で活動的だからこそ、想いが強すぎると誰かに意地悪をするという形で表現してしまうのだろう。
いわゆるツンデレかもしれないが、いつまでもそれではマズい。機会があったら、その点は直すように優しく注意しよう。
そう決めて、裕介は真雪の言葉に頷いた。
「そうだね。でも、あまり七海と喧嘩しないでよ」
「ちょっと裕介!?」
ガッツポーズをする真雪の隣で、七海が声を荒げた。裕介を見る目がなんだかとっても怖い。会話を続けていると、とんでもない事態に発展しそうなので本題に戻る。
「僕が援軍に入るよ。すぐにカードを買い直すから待ってて」
そう言った裕介に、七海がその必要はないわよと微笑みかける。彼女が懐から取り出したのは、裕介が捨てたはずの英雄だった。
「おばさまから預かってたの。誰だって変に思うでしょう。あれだけ好きだったゲームがゴミ箱に捨てられてればね。はい、返すわよ」
受け取った英雄はトランプみたいな大きさと重さしかないのに、何故かずっしりとした重量感があった。
これは、命の重さなのかもしれない。人に話したら笑われるだろうが、英雄で設定したキャラが夢の中で動く姿を、何度も見ている裕介にはそう思えた。
改めて援軍に入ろうとしたが、その前に審判の梨田さんに現ポイントを確認する。
大貴に負ける前には他のプレイヤー相手に勝ったりもしていたので、合計で百九十ポイントがあった。レベル二には届かないので、すぐに裕介は女戦士アニラのレベルアップを申請する。
圧倒的強者の余裕なのか、大貴は裕介の準備が終わるのを黙って待っている。
「意外といいところがあるじゃない」七海は言った。
「そんなわけあるか。裕介も一緒に潰せば、七海も諦めるだろうが」
「そう上手くいくかしら。裕介を甘く見ないことね」
「フン。すぐに思い知らせてやるよ」
七海と大貴の会話が一段落すると、裕介の指定したレベルアップも終わっていた。
本当ならアニラをレベル十にしたかったが、それではデュラゾンを使えない。援軍として、裕介が戦闘ステージの街道へ配置したのは、レベル九の女戦士アニラとレベル十の村人デュラゾンだった。
デュラゾンのカードを見た大貴が、露骨に不機嫌になる。
「裕介……テメエ! この状況になっても俺を舐めてやがんのか!」
怒りで台を叩くのはなんとか堪えたみたいだが、大貴の目の中では憎悪の炎が燃え上がっている。
「舐めたりなんてしてないよ。この村人のデュラゾンこそが僕なんだ。だから僕は彼を使う。誰に何を言われてもね」
「……面白え! だったらまずそいつからぶっ殺してやる! 惨敗して、七海を俺に取られてからせいぜい後悔しな!」
裕介が加わり、こちら側の勢力は戦士レベル九と村人レベル十、あとは聖騎士のレベル十と神官戦士のレベル十が二枚となった。
三人合わせても七百ポイント分の戦力。不利なのは大きく変わっていない。
それでも裕介が来たからか、最初に戦っていた二人――とりわけ七海の表情は明るかった。
「あはは。もうやらないなんて言って、ゴミ箱へ捨てたのに……なんだか、みっともないね」
照れ臭くなって笑う裕介に、七海が軽く首を傾けて目を細める。怒ったり呆れたりしていないのは、慈愛に満ちた瞳を見ればわかる。
そうした仕草も絵になり、周囲に花でも咲いたみたいに場が明るさを増し、一時的にであっても劣勢なのを忘れさせてくれる。
真雪が裕介の左隣を強引に確保したため、必然的に中央へ位置する、両手に花状態になった。
大貴が面白くなさそうに鼻を鳴らし、手を動かす。どうやら彼の番で戦闘が止まっていたようだった。
夢でも見た通り、戦場は大きな城と小さな砦を繋ぐ街道だ。こちらの大将は七海になる。彼女の拠点を守らなければならない。
とはいえ完全な勝利を目指している大貴は拠点制圧ではなく、裕介たちを全滅させようとしているみたいだった。
「今回はこっそり拠点を制圧なんて真似はしねえよな。男らしく堂々とこいよ」
「悪いけど、遠慮させてもらうよ。玉砕は何も得られない。勝てるなら、喜んで男らしくない真似もするよ」
無意味に突っ込んで敗北すれば七海を奪われ、夢でデュラゾンたちの死ぬ光景を見せられる。そんなのはごめんだった。
「言うじゃねえか。さっくり潰して、またすぐにいじけ虫へ戻してやるぜ!」
大貴の布陣はシンボルリーダーの魔騎士。他には魔戦士が一枚と戦士が三枚。弓兵が二枚となっている。
手に持った戦士のカードを移動力分だけ、七海の聖騎士へ近づけようとする。だがその直前で、梨田さんが待ったをかけた。
「何だよ。審判様も裕介の味方をするのか?」
「私は審判としての仕事をするだけです。ですから、この場で宣言します。隠しルールの発動により、レベル十の村人デュラゾンがクラスチェンジとなります」
「はあ!?」
驚きの声を上げたのは大貴だ。素早く首を動かして裕介を見てくるが、何が起こっているのかわからないのは同じだった。
裕介が間抜けに口を開けて梨田さんを見ていると、彼女は微笑んで、英雄と書かれた一枚のカードを見せた。
梨田さんの手で、デュラゾンのカードがただの村人から英雄へと交換される。
「な、何がどうなってるの?」
聞いてきた七海に「さあ」と首を振って、裕介は自分のカードとなった英雄のデュラゾンを確認する。
レベル十の村人だった男の能力が、信じられないほど上昇していた。七海の聖騎士を上回り、しかも裏面には特殊効果まで書かれていた。
思わず裕介は凄いと漏らしそうになった。どうして隠しルールの発動となったのかは不明だが、ゲームタイトルにもなった名称に相応しい強さだった。
「英雄だと……? チッ! 一枚変わったくらいで、この戦力差をどうにかできると思うなよ!」
裕介が到着する前からゲームを開始していただけあって、大貴の軍と七海、真雪の連合軍はすぐにでも戦闘ができそうな距離で向かいあっていた。
七海によると、聖騎士はレベル一のガードを三人に使用済みで、神官戦士は二人ともヒールを装備しているが、ひとりは三回使えるレベル一を。もうひとりは使用可能な最大レベル三を装備しているみたいだった。
前回敗戦時の反省を踏まえ、回復手段を用意すると同時に、迂闊に突っ込まないようにして、いよいよ本格的な戦闘に突入するといったところで、裕介が来たらしい。
大貴は先ほど動かそうとしていた戦士ではなく、魔戦士を手に取った。
「隠しルールに存在する職種だろうと、魔法防御が存在しないこのゲームでは攻撃魔法が効果的だ。集中的に食らわせてやる!」
魔戦士が使ったのはレベル三のフレア。七海の聖騎士の近くに配置された、英雄のデュラゾンが少なくないダメージを食らう。
心配そうにこちらを見る七海を勇気づけるように、裕介は告げる。
「大丈夫だよ。僕のデュラゾンは負けない」
※
――不意に。
周囲の光景が変わった。コンビニの駐車場ではなく、舗装された街道だ。近くからは七海や真雪の声が聞こえる。だけど姿は見えない。
どういうからくりかは知らないが、白昼夢みたいなものなのだろう。裕介のすぐ前では、デュラゾンが全身を覆い尽くす炎の魔法に耐えていた。
「旦那、その姿は!?」
デュラゾンの隣にいるアニラが驚きの声を上げる。
「さてな。諦めない心が起こしてくれた奇跡だろう。引退した魔騎士だった頃より、強い力がこみ上げてくる!」
村人の服装だったデュラゾンは、一瞬にして美しい青色の全身鎧を身に纏っていた。ガントレットもグリーブもセットどころか、鞘から抜いたロングソードの剣身すら青かった。
気合とともにデュラゾンはロングソードを真横に一閃する。それだけで魔法の炎は真っ二つに割れ、先ほどまでの猛々しさが嘘のように掻き消えた。
「あれは……蒼き星の力をその身に宿すという伝説の英雄? まさか実在していたとは……」
レベッカの呟きを聞いた魔騎士は、面白いと兜の中で口を動かした。漆黒の剣を片手に持ち、馬上で青の英雄となったデュラゾンへもう片方の手を伸ばす。
「お前が英雄だというのなら、その力を見せてみよ!」
放たれたのは、魔戦士が使用したのと同じ火炎魔法だった。魔力で作られた業火が螺旋を描きデュラゾンへと迫る。
「旦那!」
「離れていろ、アニラ! 俺なら問題ない!」
今度は縦に剣を振るうも、炎の勢いを完全に消すのは不可能だった。
生身の人間であれば、一瞬にして肌を焼き尽くされる豪炎。ただの村人に防げる代物ではなかった。けれど今のデュラゾンは英雄。纏ったサファイヤブルーのフルプレートアーマーが身を守ってくれる。
「フレアの二連撃でも倒れないとは、なかなかやるな。もはやただの村人とは違うというわけか。だが、さすがの英雄様も無傷とはいかなかったみたいだな。一気に決着をつけさせてもらうぞ!」
魔騎士の号令で、弓兵が離れた距離からデュラゾンを狙う。頭部をガードした腕に、魔法で強化された敵の矢が突き刺さる。フレアで受けたのと合わせて、かなりのダメージが蓄積されていく。
「旦那! ちょっと待っててくれ。すぐにアタシが助けに行く!」
「多少は腕に覚えがあるみてえだが、俺達と互角に戦えると思ったら大間違いだぜ! ククク、すぐに地面でおねんねさせてやる。それとも俺の隣がいいか?」
敵戦士の持つバスタードソードを、アニラは両手で持っていた巨大斧で受け止める。
「悪いけど、アンタみたいなハゲデブはお断りだよ!」
「そう言うなって。こう見えて俺は……? お、おい。な、何だ、この力は!」
男戦士の顔が驚愕に染まる。腕力で勝っているはずのアニラを押し込めないどころか、逆に自分が押されているせいだ。
「不思議だね、なんだか力が溢れてくるようだよ。これならいける!」
「ま、待て! うああ!」
敵がアニラによって後方へ吹き飛ばされる。その様子を見ていた他の戦士二人が足を止めた。
「何をしている! 狙うのは女ではない! 青い鎧の男だ。とにかく奴を攻撃しろ!」
「ヘ、ヘイっ!」
魔騎士の指示に従い、戦士たちが続々とデュラゾンを襲う。
「くっ……さすがに厳しいか……! だが甘えてもいられん!」
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