僕と英雄

桐条京介

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24話 ……今さら驚くことかな

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「英雄殿、大丈夫ですか!」

 地面に片膝をついたデュラゾンへ、敵戦士がとどめを刺そうとする前に、味方の神官戦士が駆け寄った。

 レベル三とレベル一の癒しを受け、デュラゾンの傷が治っていく。

「よし、これでまた戦える!」

 デュラゾンの背後にいるのはか弱い神官ではなく、女性ではあっても戦士の経験を積んでいる者たち。守ってやろうとするのは、逆に侮辱となる。

 お礼を言って、デュラゾンは真っ直ぐに駆ける。狙いは遠距離からちまちまと狙う弓使いだ。

「まずは邪魔な弓を潰させてもらうぞ!」

 力任せに振り下ろした剣が、弓使いを鎧ごと斬り裂く。悲鳴を上げて後退りする敵に、聖騎士のレベッカが馬上から剣による突きを放つ。

 喉を貫かれた弓兵は、最後の言葉を発することもできずに力尽きた。残ったもうひとりの弓兵は後退しながら弓を絞る。

 飛んできた矢を、レベッカがデュラゾンに代わって防いだ。

「俺ならまだ大丈夫だ」

「わかっています。ですが英雄となった貴方は我が軍の総大将も同じ。戦力に劣る我らは、貴方を中心に動かねば勝てません」

 道理だなと納得したデュラゾンは、素直にレベッカへ頭を下げた。

「あー! 何やってんだ。旦那はアタシんだからな! 惚れてるからって、いいとこ見せようとすんな!」

「……戦闘中だというのに、アニラは一体何を言ってるんだ」

「フフ。不謹慎かもしれませんが、なんだか楽しいです。戦闘を開始した時点では悲壮感すらあったのですが、不思議ですね。貴方が援軍で来てくださってから、ガラリと空気が変わりました」

「そうか。なら来たかいがあるというものだ。さて、のんびり話をしてる場合ではないな。まだ勝敗は決してない、油断は大敵だ」

 デュラゾンの言葉にレベッカが「はい!」と返事をする。戦闘の緊張感に包まれながらも、確かな高揚感を得ている。そんな感じの声だった。

 ただの村人で、誰からも侮られてきた。そんなデュラゾンが英雄となって、強大な敵と戦う味方の先頭に立っている。自尊心ゆえの行動ではなく、頼りにされてだ。

 周囲に何を言われても使い続けてきた裕介は、その事実が何より嬉しかった。本当は単なるカードのはずなのに、良かったなと涙ぐむほどだった。

「……介。……裕介!」

「えっ!? あっ! ご、ごめん。寝てた!? って、あれ?」

 七海の声が耳元でしたので現実に引き戻されたのかと思いきや、裕介がいるのは今もカードが人物となって戦っている夢の世界のままだ。

 ではどうして七海の声が聞こえたのか。不思議に思ってきょろきょろすると、いつの間にやら裕介の隣に、半透明な姿で立っていた。

「何、ここ……どうして皆、戦ってるの? これは夢?」

 矢継ぎ早に質問される。当然だろう。この状況下で、平然としていられる方がどうかしている。

「七海はあの聖騎士に見覚えがない? レベッカという名前らしいんだけどね」

「レベッカ? あっ! 私が想像していた彼女にそっくり……」

 周囲の光景に混乱するばかりで、まだ戦いを繰り広げるひとりひとりをきちんと見ていなかったのだろう。レベッカの顔を確認した七海が、改めて驚きを露わにした。

「ここは多分、夢の世界だよ。見終わればいつも、現実で目が覚めているからね」

「そうなんだ」

「……ずいぶんと簡単に納得したね?」

「裕介の言葉だもの」

 裕介と七海が会話する先で、それぞれが必死に戦っている。

「奴らの突撃を止めろ! 戦士が盾となって弓兵を守れ」

 魔騎士の指示を、配下の兵士たちが忠実に実行する。

 だが、戦士たちの作る壁を、馬に乗るレベッカが横から抜ける。狙うのはやはり間接攻撃が可能な弓兵だ。

 戦士たちには、デュラゾンの左右に神官戦士が並ぶ陣形で対応する。正面からぶつかりあいながら、ひとりの神官戦士は使用回数の残っているヒールをデュラゾンに使う。

 英雄であるデュラゾンならば、最後に魔騎士と一騎討ちになったとしても勝てると信じて。

「いかに神官戦士といえども、純粋な戦士である俺たちに攻撃力で敵うものか!」

 戦士たちが振り下ろすそれぞれの得物を防ぎながら、神官戦士が応戦する。裕介が以前に見た夢の時よりも、ずっと力強く果敢に。

 神官戦士は防御力が高くなった代わりに、従来の戦士よりも僅かながら攻撃力が減少している。神聖魔法を使える利点はあれど、まともに戦えばほぼ互角なはずだった。

 けれど真雪の軍である神官戦士たちは、当たり前のように戦士を圧倒し、手にしたメイスで敵へ着実にダメージを与え、やがて地面にひれ伏させる。

「バカな! どうして神官戦士にあれほどの力がある! 信じられん」

 魔騎士の言葉に、神官戦士のひとりが反応する。

「理由は不明だけど、普段よりもずっと強くなっているのがわかります。貴方たちを全滅させるのは無理でも、これなら露払い程度は可能です」

「その通りだ。道を開けてもらうぞ。雑魚は雑魚らしく仲良くしようではないか。大将戦の邪魔をするな!」

 弓兵を切り捨てたレベッカが馬を降り、次なる標的を魔戦士に定める。残りの戦士たちは、神官戦士が引き受ける。

 デュラゾンの前には光り輝くような一本の道筋。その先には敵の指揮官である魔騎士が立っている。

「いいだろう。この私自らが貴様らの希望の象徴を打ち砕き、絶望を与えてくれる」

 馬を走らせる魔騎士が一気に距離を詰め、迫ったデュラゾンに右手で持つ槍を放つ。

 魔法を使い終えたからといって、弱くなるわけではない。最高レベルに到達している魔騎士の実力は、まさに大将と呼ばれるに相応しかった。

「ぐおおっ!」

 しかしデュラゾンも、もはや村人ではなく英雄だ。渾身の一撃を、吹き飛ばされながらも盾で防ぐ。

 ダメージを負ったからといって、痛いとは言っていられない。仲間たちが必死になって、デュラゾンに魔騎士と一対一で戦う機会をくれたのだ。

 優勢になりつつあるが、デュラゾンが敗北すれば戦況を覆されるかもしれない。

「俺は負けるわけにはいかない。決めたのだ。弱気な心を捨て、決してもう逃げないと!」

「その意気だよ、旦那! こっちは片づいたぜ!」

 レベルで劣りながらも、女戦士のアニラは一対一で敵戦士を撃破していた。かなりのダメージは負っているみたいだが、彼女の一撃があれば神官戦士たちも楽になり、魔戦士を押さえている聖騎士を援護できるようになる。

 デュラゾンたちの勝利が見えてきたところで、黙って戦闘風景を見つめていた裕介は静かに口を開いた。

「数日前から、僕は英雄のカードたちがこうして戦う夢を見てたんだ。考えなしに誰かを犠牲にして勝とうとする戦略の果てに、全滅する彼らの姿を見ながらどうしてだろうとずっと考えてたよ」

 七海は何も言わない。顔だけをこちらに向けて、裕介の言葉を聞いてくれている。

「悪夢としか言えない時もあった。何故か七海と真雪ちゃんが、大貴と戦った光景も夢で見たりした。本当に不思議だよ。今もって原因はわからないしね。でも、たったひとつだけわかったこともあるんだ」

「何がわかったの?」

「デュラゾンは僕自身だということさ。聞き分けのいいふりをしながら、現実を納得できていなかった僕の弱い心が、なんとか状況を打破したくて夢という形にして作り出したのかもしれないね」

 笑うでもなく、七海は頷いてくれる。

「デュラゾンが裕介だとしたら、レベッカは私になるのかしらね」

 戦うレベッカの背中を見つめる七海の隣で、裕介はとある情報を思い出す。軽く含み笑いをしていると、気になったらしい七海が顔を再びこちらへ向けた。

「聞いた話なんだけどね、レベッカはデュラゾンに惚れてるらしいんだよ。デュラゾンが僕で、レベッカが七海だとしたら……」

「――っ! い、いきなり何を言ってるのよ!」

「あはは。そうだよね。現実では僕が七海を好きなのにね」

「え? えええっ!?」

「……今さら驚くことかな」

「驚くわよ! 鈍感大王のくせに、いきなり告白なんてしないでよ!」

「迷惑だった?」

 問いかけた裕介の手に、心地良い温もりが触れる。

「ううん。凄く嬉しいわ」

     ※

 互いに握り合った手の感触が導くように、気がつけば裕介と七海は現実に戻っていた。

 風景はいつものコンビニの駐車場だが、周囲に漂っている緊迫した空気は夢で見た戦場にも劣らない。

 その中で二人の手は離されていなかった。それぞれに握っていない方の手で、先ほどまで見ていたデュラゾンたちの姿を重ねながらカードを動かしていく。

「どうしてレベル九の戦士が、レベル十の戦士を上回る! それに神官戦士や聖騎士だってこの前よりも明らかに強く――そうか! その英雄の力か!」

 ほとんどバレてしまったので、裕介はここで種明かしをする。

「そうだよ。英雄はその場にいるだけで、味方の士気を向上させて能力を高めるんだ。魔法に対する防御も含めてね」

 大貴は使える攻撃魔法をすべてデュラゾンへぶつけたが、仮に聖騎士を狙っていたら、想定の効果が出ない事実にもっと驚いていたはずだ。

「さすがは隠しルールってことか! だがよ! 俺は負けねえ! 裕介なんぞより、俺の方がずっと強いって証明するんだ!」

 鬼気迫る表情こそしているが、大貴は追い詰められていつもの余裕を失っていた。

 頼みの魔騎士で、正面に居座るデュラゾンへ執拗に攻撃を仕掛ける。確かに魔騎士は強力だが、隠しクラスとなる英雄はそれ以上だった。

 加えて神官戦士のひとりが、レベル一とはいえヒールを一回分残していたのもあり、必殺の一撃等が存在しないこのゲームでは、デュラゾンが圧倒的に有利だった。

 何度目かの斬り合いの末、とうとう大貴の魔騎士が力尽きる。英雄の特殊能力による支援を受けたアニラやレベッカ、真雪の神官戦士たちも奮闘して、すぐに大貴のカードは一掃された。

 プレイヤーとして最高レベルに位置する大貴が、三人がかりとはいえ合計でもレベル十に満たない裕介たちに敗北したのである。

 探す楽しみを見つけてほしいという制作者の意図のもと、用意されていた隠しルールが裕介に味方してくれたおかげだった。
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