悪役ヒロイン、隣国の皇弟殿下にスカウトされる

砂原雑音

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真実の愛、その末路

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 舌戦は貴族令嬢の嗜みだ。会話にいかにして棘を潜ませるか……それを相手に気付かせるかどうかを制御するのも手腕の内。殿下に寄り添いながら優越感を滲ませた微笑みを向けてきていたことを思い出せば、いくらでも言葉は出てくる。

 殿下に告げ口されるのも後のことを考えれば面倒だけれど、今は早くこの場から追い出して自分はテラスに降りて探したい人がいる。ダリアの前で暗いテラスに降りればそれこそはしたないとあちこちに吹聴されるだろう。
 だからさっさと殿下の元に逃げればいい。しかしアンジェの祈り虚しく、一番聞きたくない声がホールの方から聞こえてきた。


「ダリア? どこにいる?」


 王太子カーライルの声だった。それを聞いた途端、にいぃっとダリアの口角がつり上がった。
 二対一、しかも応援が王太子殿下なのは明らかに分が悪い。


「失礼しますわ」


 さっとダリアの横を通り抜け、ホールに戻ろうとした。すれ違うことになるが、テラスで居合わせて場を離れるきっかけを失うよりはずっとマシだ。
 だが、先手を打たれた。ダリアが急に、悲鳴を上げたのだ。


「きゃああっ!」


 そしてその場に、ドレスが皺になるのもお構いなしに蹲る。そこへ、カーライルがテラスへと入って来てしまった。


「ううっ……」


 ダリアが俯かせていた顔を上げれば、打ちひしがれた表情で瞳が潤み、瞬きをした拍子にほろりと涙が頬を伝う。しくしくと泣き始めるダリアを見て、呆然とした。


「ダリア、何があった……アンジェ?」
「カーライル様ぁ……っ」


 彼女は今にも消え入りそうな声で王太子殿下の名を呼び、たったそれだけでこの状況の立ち位置が決まってしまった。嫉妬に狂った女と虐げられた可哀想な被害者の令嬢。もちろんアンジェが加害者側だ。

 カーライルはすぐさまダリアに近づき、助け起こす。それから厳しい目をアンジェへと向けた。


「アンジェ。これは、どういうことかな。どうしてダリアが泣いている?」
「恐れながら殿下。わたくしにはわかりかねますわ。急に彼女が悲鳴を上げて、座り込んでしまわれて」


 眉尻を下げ、困ったように首を傾げる。
 実際アンジェは何もしてない。少々煽ったところはあるが、あんなもの挨拶程度のことだ。だがきっと、ダリアがひとことアンジェに押されただの転ばされただの言えば、それが真実だと判断される。
 もう、何を言っても無駄だろう。なら取り繕うのも馬鹿らしい。


「虫でもいたのかしら」


 肩を竦めてそういうと、ダリアが更に泣き声を大きくした。


「ひどいわ、アンジェリカ様……っいくらわたくしが憎いからって、突き飛ばすなんて」
「アンジェ、それは本当か?」


 予想通り、最悪の展開だ。カーライルの後ろには、護衛の近衛騎士もふたりいる。観客はそれだけだが、ダリアとカーライルの都合の良いようにそのうち噂が流れるだろう。
 


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