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真実の愛、その末路
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しおりを挟む「君がそんな人だとは思わなかった」
誤解です、と一か月前のアンジェなら瞳を滲ませていた。たとえ誰が自分を貶めようとしたとしても、それでよかった。
それはその時の立ち位置が、今のダリア……王太子殿下の隣を許された立場だったからだ。
かつて。
社交界の貴族令嬢を魅了した恋物語があった。
王太子殿下の婚約者で、誰よりも美しく聡明な公爵令嬢。だけど彼女は誰に対しても冷たくて、王太子殿下が惹かれたのはその義妹で誰よりも愛らしい令嬢だった。お茶会をしても小言と嫌味ばかりの婚約者に疲れた王太子を優しい言葉で励ました義妹に、次第に愛は移っていく。
真実の愛を貫こうとした王太子殿下の恋物語に、社交界は一時異様なほどに熱狂した。
婚約者の義妹アンジェは、その恋物語のヒロインだった。だけど今は、呆気なくその立場を追われている。カーライルに肩を抱かれたダリアが新たな恋の主人公だ。
今のアンジェは、ダリアを虐め彼らの愛を深める悪役でしかない。
「殿下……」
わざとではなく、思いもよらず頼りない声になった。本当に愛されているなどと思ったことはないけれど、それでも優しい目が疎ましいものに変わった現実を突きつけられるのは心が痛かった。
開いたままだったテラスの入り口に、ホールから何事かと人々が顔を覗かせる。これでもう、社交界に居場所はない。養父は公爵家に都合の良い相手との縁談がまとまるまでアンジェを邸に閉じ込めるだろう。
アンジェを一番高く売りつけられる相手が決まるまで。
なによりまず、今夜のことはすぐ養父の耳に入るはずだ。お目付け役として一緒に来ていた義兄が会場のどこかにいるのだから、知られないはずはないのだ。今夜戻れば、厳しく叱責されるだろう。
唇を噛んで俯いた、その時だった。
「すまないな。彼女は私との約束に遅れそうで、急いでいたんだろう」
身体にずんと響いてくるような重く低い声が、背後、つまり庭園から聞こえぱっとそちらを振り向いた。
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