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case1.亜子の場合
05. 亜子、翻弄される◼️
しおりを挟むレストランでの会話が嘘のように、車の中で二人は一切話さなかった。
ただ手に手を重ね、絡んだ指が時折どちらからともなく悪戯に動いて相手の手をゆっくりとなぞった。それだけでも、家に帰って次に行うことの想像がついてしまう。
そのまま握った手を引かれて亜子の家に戻り、旦那様が鍵を開けて中に入った。
自動で玄関の電気がついてしまい、とたんに恥ずかしくなって顔を伏せる。きっと今の自分の顔は、ひどくだらしないに違いない。
「亜子……こっちを向いて」
イヤイヤと首を振ると、じりじりと壁際に追い詰められてゆく。とうとう背中と壁がくっついて、彼の両手が亜子の身体の両側を塞ぐと、もう一度彼は同じことを言った。
「亜子、こっちを向いて」
「でも……っ」
「いいから。今すぐ亜子とキスがしたい。僕を見て」
直接的な言葉に腰の奥で何かが響いた。
やはり彼は権力者だ。有無を言わせない言葉遣いは、亜子から自由を奪ってゆく。熱に浮かされた身体は旦那様の思いのままで、亜子は目に涙を溜めながら顔を上げた。
「いい子だね、亜子。亜子もキスがしたい?」
「え、あ……」
「したいなら、亜子はもうどうすればいいのか知ってるよね。……教えた通りに、してごらん」
顔を上げればキスされると思っていたのに、男は甘い口調で、教師のように教えを説いた。その目はやはり優しいが、頬は少し赤らんで、唇は美味しそうに濡れている。
どちらのものか分からないシャンパンの匂いで、二人は淫らに酩酊していた。
亜子はもうたまらなかった。
夕方、彼に教えられた通り舌を出した。そうすればキスがもらえると、亜子は分かっている。
期待と緊張に震える舌を見て、ふ、と旦那様が吐息でいやらしく笑った。
「よくできました」
「あ、んっう、うん……!」
舌に噛み付くような乱暴なキスに、じゅるじゅると唾液が溜まって飲み込む。頭と腰をしっかり抱えられているから、亜子は旦那様に身を任せてただ唇を貪った。
つま先が言いようのない痺れを催し、慣れないヒールに足ががたつく。膝が折れてずるずると壁に崩れ落ち、ショールが脱げても彼はキスをやめなかった。
しまいには二人で真新しい玄関に座り込み、彼の指がドレス越しに亜子の乳首をこすった。こんなところで、いったい彼は何をしているのだろう。
「あっ……!」
「ああ……寝室に行こう。亜子」
その提案は遅すぎた。
亜子はもう腰が砕け、立てないでいるのに。もう少し早く言ってもらえれば動くこともできたのに。
様々な思いを言葉にできず、ただ唇を尖らせ、眉をひそめて男を見た。酒のせいか顔を赤らめてはいるが、まだまだ余裕のある顔が腹立たしい。いっそ殴ってやりたいほどなのに、身体の力が抜けきって腕ひとつ動かすことすら煩わしかった。
「わ、うそ」
「暴れないで、僕の首に手を回して」
状況を察したのか、旦那様は亜子の身体を持ち上げ、軽々とお姫様抱っこをした。
この身長になってからはもちろんはじめての経験で、亜子はまた、自分が宝物になったような甘い錯覚をおぼえる。亜子の身体は細いが長くて不安定だろうに、彼の腕は強くてびくともしない。
そのとき、身体にかろうじて引っかかっていたショールが音を立てて落ち、肩があらわになっていることに気づいた。みっともない日焼けに、魔法が少し解けてしまいそうな気がして亜子は手を伸ばす。
「あ……」
「ほっときなさい」
「でも、日焼けが」
「気にしなくていい。それに薄い日焼けを気にするより、胸元が見えていた方が綺麗だ」
胸もないのに?
旦那様はそんなことを言って、亜子がまだ見てもいない寝室へと侵入した。間接照明だけを付けられ見渡すと、白く真新しい大きなベッドがひとつ。誰も踏み入れたことのない場所は神聖にも見えて、亜子の身体がうやうやしくそこへと降ろされた。
旦那様も覆い被さり、また口づけを繰り返す。今度は唇だけでない。彼の舌が耳を、喉を、鎖骨を舐めてゆくのを、亜子はぼんやりと見ていた。
その間にもドレスの肩紐が降ろされ、彼の手が背中に潜り込むので隙間を空けてやる。するとジッパーが開けられる音が、妙に大きく耳に届いた。
「やっ……」
男に一度も晒したことのない胸があらわになり、手で隠そうとするのに彼の顔はすでに亜子の胸の間にあった。
なだらかな谷間を舌で辿り、腰までドレスを引き下げた手がささやかな胸を揉む。痛みはない。だが心臓が破裂しそうなほど音を立てている。薄い胸だから、旦那様はきっと、それに気づいている。よくわからない言い訳を、亜子は独り言のように呟いた。
「小さいから……」
「そうだね。でも、大きければいいってものでもない。それに、亜子の乳首はすごくいいよ」
「そう、ですか……? 私はあんまり、好きじゃないんです。試合で、気になっちゃうから……」
乳首。それは小さな胸とともに、コンプレックスの一つだった。
人よりも先端が大きく丸く、ブラジャーを着けていても浮き立って目立ってしまう。陸上競技の最中は特にそうで、亜子は大きなバンドエイドを貼ってからブラを着けなくては、気になって試合に集中できなかった。
でも、なんでこんな事を旦那様に話してるのだろう。やっぱり酔っている。
「ああ、目立つだろうね」
「そうなんです。いろいろ、隠してたけど……、ん……」
旦那様の指一本が、乳首の周りを撫でる。
一切力を入れず、触れるか触れないかの手つきで触れられ、先端がさらに凝り固まってゆく。
「君の乳首が浮くのを見て、どれだけの男が意識しただろうね。ここを触って舐めて吸いつきたくて、いろんな奴がたまらなかったんじゃないかな」
「っそんなの……誰も見ませんよ」
「亜子は男を分かってないし、無防備すぎる。特に君と同じ年頃の男なんて、乳首の影がみえるだけで勃起する奴らばっかりだよ」
やわやわと乳輪をいじりながら、旦那様は卑猥な言葉を次々囁く。彼の言葉で亜子は考えた。
走っている時、バンドエイドが汗で落ちて、2枚の布越しに乳首が立っていたことが数回あった。部活は男女混合だったが、自分に欲情した男子も少なからずいたのだろうか。あの運動場の中で、王子と呼ばれていたその裏で、よからぬ視線を向けていた人がいたかもしれない。
考えただけで、亜子の背中がぞくぞくと震えた。
「んっ……」
「想像した? いやらしいね、亜子」
「そんな……ああっ……!」
ちゅく、と音を立てて旦那様の舌が先端に触れた。
周りばかりを弄られて今まで全く触れられなかった分、その刺激は電流のような強さで亜子の身体を襲った。彼が言っていたように両方の乳首を触って、舐めて、吸われる。
先ほどの卑猥な妄想が彼の舌と指によって現実のものとなり、亜子の身体は彼の手の中で転がされた。
「感度もすごいね。恋人に触らせてた?」
「そんなっ、あ、いません、そんなの……」
「本当に? 亜子は綺麗だから、信用ならないなあ」
「きれ、じゃ、ない……!」
「綺麗だよ、亜子。それに素直で可愛い」
美しい妻を二人も抱え込んでいるくせに。嫌味にしか聞こえない。
そりゃあ、ブサイクとまではいかない。でも亜子は本当に普通で、どちらかと言えば冴えない方だ。同じグループの友人たちは告白されたの彼氏ができたの話が尽きなかったが、亜子には一切浮ついた話がなかったのがいい証拠だろう。
その代わり、後輩の女の子たちには冗談かどうかも分からない告白をされたりした。自分にそっちの気はないが、無下に扱う事も出来ず、バレンタインデーではやたらめったにチョコを貰うこともあった。
後輩の女の子たちの、体のいい王子様。
そんな立ち位置だった自分が、今は男に薄い胸を晒し、両方の乳首を弄られている。しかも相手は、つい先ほどまで高校生だった自分には想像もつかない程の圧倒的な王様だ。
こんなの、どうしたって敵わない。
「や……ああ、ん……」
「ねえ、亜子はどっちが好き? 舐められるのか、摘まれるのか」
「やっ、そんなの……、あ……」
「僕に教えて」
ほらまた。
優しく甘い声で、王様は亜子に命令を下す。
刺激が弱まり、また先端には触ってくれなくなった。ふう、と吐息が当たるだけでも感じる乳首は、先程までの快楽を求めてしまっている。
自分はどうしてしまったのだろう。王様の命令に、まっすぐ向けられる目に背けない。
「な、なめる、ほう……」
「ふうん、そう。亜子は舐められるのが好きなんだね」
「えっ、や、なんで、なんで?!」
言いながら、旦那様は亜子のパンティをずるりと抜き取り、ついでにドレスも剥いで膝を強引に割った。あられもない格好で、誰にも見せたことの無い部位が晒されている。
こんな事なら、電気を消してほしい。
そう思うのに、間接照明のついたまま、旦那様は亜子のそこに手を伸ばした。大きな手のひら全体をグリグリと押し当てられる。
「ひっ、あっ」
「本当に、恋人はいなかったの? ここで誰かと遊んだことも? 怒らないから、言ってみて」
「やっ、ない、いないッ、本当にいないってば!」
旦那様の声は先程までと違い、やや硬くて怒っているように聞こえる。押し付けられる手は止まらず、尻の割れ目に、とろりと自分の蜜が落ちてきたのを感じた。生理の血が漏れてしまった時のような気持ち悪さだ。
亜子は思わず言葉遣いも忘れて叫んだが、王様の追求は止まらず、声はまだ硬いままだった。
「はじめてで、こんなに濡らしてるの?」
「やっ、やめ、あっ、しらないっ!」
「知らないって……じゃあ、自分で触った事は? 好きな人を思い浮かべて、ここをこんなにさせてたの?」
それは。
亜子は言葉に詰まった。それは、ないわけではない。
亜子だって年頃の女だし、ちょっといやらしい恋愛漫画や深夜ドラマを見たりしたとき、どうしても切なくなることがあった。そういう時、彼女はベッドに頭まで潜って身体を丸め、自分の中で一番敏感なその場所をこすって慰めた。
身体が高まってゆくとき、自分の指を使いながら思い出していたのは電車の彼の、本を持つしなやかな細い手だった。
「あるんだ。亜子はほんと、やらしくて可愛い」
「あっ、ひぁ、やだっ」
「ああ、クリトリスも普通より少し大きいね。乳首と同じぐらいだけど、もう赤くなってる」
「しらない、しらないぃ……っ!」
「君に恋人がいて、セックスしてたとしても構わないと思ってたけど、そうでもないな。君の初めてになれて光栄だよ」
まだまだ余裕のあるその男は、亜子の秘密を暴くと嬉しそうな声音に変わって囁いた。そして彼女の一番敏感な場所をまるで昔から知っていたかのように上手く撫でる。何度も撫でられ、鋭い刺激にその都度身体がバカみたいに跳ね上がってしまう。そしてゆっくりと、彼の指が亜子の体内へ挿入された。
「やだ、あ、やだぁ……っ」
「ああ、ほんとに狭い。ねえ亜子、痛くない?」
もう何も言えず、亜子はただ首をぶんぶんと振った。
男はそう、とだけ答えて、探るようにナカの指を動かす。
さっきまでの快感は無く、その場所で何かが動いているなと分かる程度である。何度か抜き差しされ、それでも快感からはほど遠く、頭が冷めていく。
なおも指を動かしながら、男はゆっくりとその身をかがめた。そして、亜子の秘部にその顔が近づいてゆく。
「やっ、やだ!」
「亜子は舐められるのが好きでしょ? ココも、いっぱい舐めてあげる」
「やだやだやだ、汚いっ、からあっ……!」
ナカに指を入れられたまま、亜子のクリトリスに舌が這わされる。指とは明らかに違う柔らかさで舐められ、吸われ、ついでに指まで動いている。頭では汚いと引いているのに、亜子の身体は男の与える刺激に従順な反応を見せた。
「あっあっ、イヤ、あああっ!」
男はもう亜子の言葉を聞いていない。指と舌の動く速度を上げ、彼女を追い詰めていく。亜子の股の間から、ぐちゅぐちゅと信じられないほど淫猥な音がしていた。
「あああ……っ!」
自分でするよりも早く、そしてずっと強烈な絶頂に導かれ、亜子は叫んでいた。
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