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case2.泉の場合
08.泉、満足する◼︎
しおりを挟むまたしても、イッてしまった。
身体がぐたりと萎れ、奈緒を下敷きにしてズルズルと倒れ込む。マシュマロのような両腕が泉の身体を包んでも、もう指一本すら動かせない。なのに、ナカに打たれた杭はまだ力を持って固くそこにあった。
「は……もう、無理……」
「おい、まだだぞ。へばんな」
「ほんと……むり……なお、こーたい……」
「よしよし。泉は可愛いなぁ。ん」
「んん……っふ」
先程まで翻弄できたはずの奈緒は、まるで子供をあやすかのように泉の頭をヨシヨシと撫でた。そして子供では出来ないくちづけを少しして、泉の隣に寝転んだ。
「んあっ……」
泉の中に入っていたものがズル、と音を立てて抜け、余韻に身体が痺れる。ユリはそのまま何も言わずに奈緒の中へ挿れなおした。そう言えば、他人のセックスを見るのは初めてだと思い出して心臓が淡くときめいている。
「んぁ、ユリっ……あっん! あ、ああ!」
奈緒がユリを受け入れると、彼は遠慮なく先程と変わらない乱暴な抽出を開始した。最初からそのペースでは、痛むんじゃないだろうか。しかし泉の心配をよそに、奈緒は甘く顔を歪めている。
「やだ、ユリ、きょ、はげし……ッ!」
「お前がけしかけたんだろうが……!」
泣き出しそうな、辛そうな。それでいてとても感じ入っている奈緒の表情を見ると、泉の欲望がまたむずむずと顔を出す。
かわいい、かわいい、かわいい。
撫でたい、舐めたい、吸い付きたい。
「ああんっ、いずみ……!」
余韻も少しおさまって、泉はゆるく手を伸ばした。それだけでも届く距離に、律動で揺れるたわわなおっぱいがある。指先で乳首をくに、と弄ると、奈緒がまた大きく喘いだ。
「いずみ、そんな……ああ……っ!」
「初めて見たときから思ってたんだけど、奈緒のおっぱいっておっきいよね……」
「いま、それ、関係あんの……ッ? ふぁん!」
今度は身体を起こしてその先端に吸いついた。舌先でつついて、軽く食んで、舌体を押しつけ。どの刺激がいいのかを探る。でも結局我慢できなくて、ちゅくちゅくと吸ってしまう。味なんてしないのに、とても美味しく感じる。
「やん、あ、ダメいずみ……っ!」
「お前らほんと何なの……」
あきれた声に我に帰る。
そうだった。こっちが旦那様だった。でもいいか。この人はずっと私のことを放ってたんだし。奈緒の方が可愛いし。
泉は夫を一瞥し、ふにゃりと笑って奈緒の胸から離れた。おや、とユリが目を細めたのを確認して、泉は奈緒にくちづける。
出来るだけいやらしく、ユリが見ていて悔しくなるよう、舌をからめ、唾液をこぼす。
「ん、ふあ、いずみぃ……っ」
「……っざけんな泉、こっち来い」
「やだよ、ユリは腰でも振っとけば?」
「てめぇっ……!」
「あっ、もうユリっ……んん……」
思惑は成功だった。
ユリは劣情にまみれた目で泉を睨みつけると、泉の手首を乱暴に掴んで奈緒から引き剥がした。そのまま片手で後頭部をまるごと掴まれ、貪り尽くすキスをされる。舌ごと唾液が吸い取られ、それでいて奈緒への律動も止まらない。案外器用なことをする。
「ん、ふあ……、この、らんぼうもの……」
「は、うっざ……奈緒ばっか相手にしてんじゃねーよ……俺の女のくせに」
「うるさいマッドクターのくせに」
「ね、いずみ、ユリ……もうどっちでもいいから、わたしにも……ッ」
奈緒の言葉を聞くと、ユリが即座に襲いかかって奈緒に食らいついた。その姿はまるで獲物を取られまいとする獣のようだ。抽出はさらに激しさを増してゆく。
泉は二人の様子を見て、どちらに向けていいのか分からない感情を抱いていた。
……その獲物は、私のものなのに。
「あ、あ、ユリっ、きちゃう、もうきちゃうう!」
「さっさとイけ……!」
「ひぁ、やだ……あ、ああー……っ!」
奈緒がユリの身体の中でピクピクと肢体をふるわせる。背中がしなって、大きな乳房が余計強調されていた。……ああ、もう一回くらい舐めてもいいかな。唾液がまた口に滴る。
「おい、泉」
「え、ちょっと何、きゃあ!」
「……いずみ、こーたい」
奈緒の笑いを含んだ声に驚いていると、まだ濡れていた泉の中に、全然力を失っていない肉茎が挿入された。無情な質量に息を呑む。
「っや、だ……っ、もう、いつイくのよ!」
「知るか、さんざ煽りやがって……もう一回イカせてやる……ッ」
「がんばれーいずみー、わたしはもうむりー」
……やっぱり、こんな男ごめんだ!
ぶっきらぼうで乱暴だし、甘い言葉のひとつも吐けない。前戯も雑で、荒っぽい。おまけに勃つまで時間がかかって、そのくせ遅漏だなんて!
「やぁ、だっ、もう、もういい! ああんッ」
「うるせぇって、黙ってろよ!」
「やだ、この、ぜつりん、不感症っ、マッドク……んん、んーッ!!」
頭でも口でも散々毒づき、それでも身体はこの乱暴さに慣れきっていた。でもきっと、それは今だけだ。次また2人でこんなことをすれば、その時は痛いに決まってる。そんなのやってられない。ふたりだけなんて、絶対イヤ。
でも、3人なら。
「ユリ、なお、だめっ……またいっちゃう……ッ!」
「っだから、イけって……!」
「だめ、だめだめ、もうだめ、……あっ、いやぁああー……ッ!」
「……ッ、は、まじ、もう無理……」
ユリからぎゅうぎゅうに抱きしめられ、ちらりと隣を見れば奈緒と目が合った。いたずらっぽく眉をあげて笑う奈緒に、微笑みかえすとキスをされた。
どっちの獲物も、手に入った。
泉は満ち足りてキスを受け入れた。
***
「ねえ、マッドクターって、何?」
「え、奈緒知らない?」
「知らない知らない」
「ちょっと待ってね……えー、あ、これだ」
携帯で検索して画像を出し、奈緒に見せるとゲラゲラ笑い出した。その声量にやや怯む。当のマッドクターは奈緒の声も気にせずぐっすり眠っている。ワカメの前髪から、彫刻風美青年の寝顔が覗いていた。
「なにこれ、ユリじゃん!」
「ねえ奈緒。ユリってなんで顔隠してるの? もったいないのに」
「あー……これね、昔っからの癖というか」
真ん中にいる奈緒がユリの前髪をくしゃくしゃ撫でると、彼は鬱陶しそうに眉をひそめ、その手を払いのけた。全く眠っていても横柄な男だ。
三人で川の字になって床につき、女二人でのんびり雑談。裸でなければ情事の後と分からないほど、その雰囲気はあっさりしている。
「癖?」
「うん。ほら、ユリって見るからに混血顔じゃない? 昔っから、いじめられたりも多くてさ。で、隠しちゃったの」
「でも、外ではちゃんとしてたよ?」
「今はそうだね。医者ってどうしても客商売だし、それに気づいてからは外では諦めてるみたい。で、その分ウチの中じゃ傍若無人なの。ただの内弁慶よ」
「ふうん。てか、なんでユリの昔のことまで知ってんの?」
「腐れ縁だから。私たち」
幼馴染なのよ、と言われて納得した。時折見せる奈緒の母親感は、一朝一夕で仕上がるものではない。
奈緒とユリは生まれる前から母親同士の仲が良く、小さな頃から一緒に遊んでいたらしい。処女も童貞もお互いに捧げ、そのまま今に至るのだそうだ。奈緒がユリの身体を熟知しているのは、長年付き添った経験によるものなのだろう。
「この馬鹿の思考回路なら大体分かるよ。泉を選んだ時もだろうなって感じだったし」
「え、なんで?」
「泉、ユリのタイプだもん。キツネ顔で綺麗系。他の3人もそうでしょ? 丸っこいのなんて私だけ」
言われてみれば、確かにそうだ。
奈緒のタヌキ顔は泉にすればとても可愛いものだが、人の好みはそれぞれらしい。
「今まで泉をほったらかしてたのも、大方最初にフェラ見られて気まずかったーとか、泉が可愛くて手が出せなかったーとか、まぁそんなとこよ」
「うそだー」
そんな、好きな子を無視しちゃうアホな中学生みたいな事だったなんて。今までの悩みはなんだったのかと馬鹿らしく思えてしまう。
でも案外、そういうものなのかも知れない。夫の外面と内面は面白いくらいに食い違っている。生きづらさを抱える彼の、不器用な心の防衛手段を今の泉は寛容に受け入れることができた。とはいえ、2ヶ月も宣伝係をさせられたことはいまだに許せていないが。
「ほんとほんと。そんなもんだから、この馬鹿は。今日でやっとハードル越えて、次から当分泉しか呼ばなくなるよ」
「ええーっ、やだよそんなの、一人だなんて」
そんなの、困る。
泉は奈緒に近寄って、横に流れるおっぱいをつかんで遊んだ。やっぱり、この手に馴染む感じはたまらない。
「もう。泉はおっぱいが好きなんだから」
「ねえ奈緒ぉ、また一緒にしようよ?」
「あはは、いいよ。いつでも呼んで。今度は4人とか、いっそのこと、みんなでしちゃうか」
奈緒の提案に、泉の喉がゴクリと鳴る。
いい思いつきだ。それならこんなに疲れないし、みんなの情事が観察できる。
「たのしそう」
「わーいやらしい。ってか、いつまで揉んでんのよ」
「もーちょっと、もーちょっとだけ……」
きっとまた、泉は夫に呼ばれるのだろう。そしてその時は、奈緒を絶対連れて行く。奈緒が忙しい時は、他の妻でも構わない。そうしてみんなで乱れてしまえば、今日のような快楽がまた掴める。それは泉にとって、とても甘美な大発見だった。
夫を勃たせる術も覚えた。まだ口でイかせることは難しいが、それもそのうち覚えるだろう。そうなれば1人でも構わないが、やっぱり女は2人以上いた方がいい。
ふたつの獲物は、もう私のもの。
泉は奈緒の胸を揉みながら結論を出し、誰にもばれないよう小さく微笑んだ。
case2.泉の場合 了
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