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初夜
しおりを挟む『イイだろう?』『すごいだろう?』
神殿の男たちに何度も聞かれた。時にはそう言えと強要された。サラディーヤはさっぱり意味がわからなかったが、言えば早く済むから言っていた……それだけだった。
「ぅン……すごい……ウバド、っいい……」
「サラディーヤ……?! う、ぐっ」
しかし今。
サラディーヤはようやく、彼らの言葉の意味を知った。ウバドに触れられ、舐められることは、イイ。すごい。
そしてウバドと繋がることは……すごくイイ。
「ウバド、ウバドぉ……っ!」
「あっ、こら、やめ……グォお……っ!」
『動け』『腰を振れ』
強制されずとも本能で動けた。雄のように。
いつもの引きつれるような痛みは微塵も感じない。大きな圧迫は充足感へと変わる。
ウバドにさんざん甘やかされたせいだ。指で執拗にかき回され、舌でふやけるほどに舐め回されて、まぐわう場所はもうずっとうずうずしていた。
ウバドはやさしい。
ウバドはきもちいい。
だからウバドに、貫いてほしくて。
「あ、んっ……!」
「ッグぅううッ!!」
「くはぅッ……」
サラディーヤは背をのけぞらせた。身体の中に熱い飛沫がほとばしる。これで二度目。身体がふわふわと浮き、奥が満たされた充足感に涙が出る。
なんて素敵なんだろう。
まぐわいとは、営みとは……こんなに素晴らしいものだったなんて。
知らなかった。身体の内側から熱くなり、男という巨木にいつまでも寄りかかっていたくなるような……これに比べれば、今までのものは単なる暴力でしかなかったのだと知る。これこそが男女の営みなのだと知る。
サラディーヤははじめての感覚に深く陶酔し、ゆっくりと、ウバドを見下ろした。
「さ、サラディーヤ……」
彼は美しい胸板を忙しく上下させてサラディーヤを見ていた。三白眼のふちが赤く染まって、眉が八の字に下がっている。泣き出しそうなその表情とは裏腹に、幹はいまだ逞しく、まるで栓をするかのようにサラディーヤを埋め尽くしていた。
あたり一面に甘い匂いが漂っていて……
「あぁ、サラディーヤ……」
切なげに名を呼ばれ、サラディーヤは昨夜のようにウバドの胸へ身を預けた。心音と湿った肌が、不思議と心地良い。
つ、と視線を上げる。
太陽に照らされたウバドの、苦しげな表情がゾクリとするほど美しくて、サラディーヤは自分から鼻をすり寄せ、くちづけていた。
「ふぅ、ん……っ」
ウバドの指が耳のふちに触れてくすぐったい。
指はやがて手のひらになり、サラディーヤの髪をすくった。蜜色の髪が褐色の肌へこぼれてゆく。サラディーヤも真似をして、彼の短髪へ指を潜らせる。
「ンッ……」
「はぁ……ッ」
くちづけが止まない。
サラディーヤは自分勝手に腰を動かした。ぴちゃぴちゃと、ふたつの水音だけが響く。ウバドは動かなかった。動けなかった、というのが正解かもしれない。
頭を抱える手に時々力が入りかけて、止まるのだ。痛みがないよう加減してくれている。その姿はさながら、甘露を必死に求めるあわれな獣だ。
食べられたい。
このやさしい獣の、妻でありたい。
「うぐっ……」
「あぁ……」
これで三度目。
入りきらなかった子種がこぽり、とあふれる。他の男では気持ち悪さしか感じなかったのに、それがウバドのものだと思えば、身体の中心があたたまるのを感じた。
「ウバド」
「……ん?」
「わたしを妻に……あなたの妻に、してくれる?」
ウバドが苦笑する。
視線は逸らされた。
「もうなってる……でも、そんな風に言ってくれる女は今までひとりもいなかった」
ウバドがそっと身体を起こす。
座って向かい合わせになる。
抱きついた。
抱きしめられた。
きゅん、とサラディーヤの最奥が悦んでいた。
「ッ……」
「ねぇ、ウバド」
「あぁ……どうした」
広い胸に埋めた顔をあげると、真っ赤な鬼……ではないウバドがいた。大きくて、勇ましくて、地割れしそうな低い声なのに、サラディーヤはもうちっとも怖くない。ウバドの胸の中はこんなにも心地いい。
だから、聞いてみたくなった。
「『うみ』ってなぁに?」
黒曜石の瞳がまるく見開く。
「知らないのか」
「うん」
「……間抜けだな、俺は」
ウバドの手が頬に触れ、まぶたへ静かに触れた。
サラディーヤは期待していた。
ウバドの言葉は、他の男たちとは違う。
「お前の目のように美しいものだ」
ほら。
「……綺麗なもの?」
「そうだ。それに広大であり慈悲深い。恵みを与えてくれる。サラディーヤ、お前のように……お前こそ、俺でいいのか。こんな、俺で……」
サラディーヤは嬉しかった。
褒められたことが嬉しかった。
幸せで、満ち足りた気分になった。こんなことは今までなかった。心も身体も、すべてがウバドを欲していた。だから。
「ウバドがいい。わたし、ウバドの奥様になりたいの」
「……」
「だから……ウバドの思う通りに、して……」
獣の咆哮が響いた。
サラディーヤは瞬く間に組み敷かれ、その痩身はウバドの太い腕に包まれた。そして身体の奥まで埋め尽くしていた幹がぬるぬると引き抜かれ……打ちつけられる。
それは言葉にならないほどの、衝撃だった。
「ーーっぁああ!」
「サラディーヤ、サラディーヤ……!」
強く穿たれ、サラディーヤは鳴いた。
痛みはない。恐ろしくもない。
ウバドに求められるたび、サラディーヤの身体から蜜が溢れて止まらない。淫靡な音と、さえずるような甘い声が、ウバドの低い呻きとまざっていた。
目の前が滲んでゆく。
滲んだ先で、ウバドは切なげに瞳を細める。
「サラディーヤ……辛くは……?」
「ああ、ウバド……っ、すごいの、すごく、いい……っ!」
「ッくそ、すまない……きっと薬のせいだ……っぐ、いかん、悦すぎる……っ」
「きて、ウバド、だきしめて……!」
サラディーヤは求めるように唇を開く。
ぬるりと柔らかな舌が這う。
「俺の、女神……!」
それからはもう、喋らせてはもらえなかった。月の神レトが目覚めるまで、ふたりは何度も何度も交わり続け、互いに果て続けた。
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