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2.経理部、田中A子
その7、田中A子は馬耳東風①
しおりを挟むよかった、タワマンじゃない。
自分には関係ないことなのに、なぜだかとてもほっとした。10階建てのちょっときれいなオートロックマンションならまだ許容範囲。耐えられる。
「どした?」
「え」
「なんか気のゆるんだ顔してる」
「いや……」
「もっと豪華なところ想像してた? タワマンとか」
「ゔっ」
「当たりか」
なんで分かるんだろう。イケメンにはテレパシーまでついているというのか、そんなの不公平だ。
視線は前を向いたまま、彼はフンと鼻で笑った。今気づいたけれど、視線が合わないとどんな表情をしているのか見えない。背が高いから。……知らなかった。
「みんな好きだよね。でもあんま良いもんじゃねえよ。地震怖いし、窓開けらんないし」
「住んだことあるんですか?」
「高校のときに半年だけ。合わなくて、すぐ引っ越した」
「ボンボン……」
あ、つい。
まぁいいや、これで嫌われるならそれでも。再会してからずっと、住む世界の違いを目の当たりにして、私は無性にイライラしていた。圧倒的敗者が生まれながらの勝者に引け目を感じているだけ。悪いけど私は卑屈なモブなんです。
「なんか聞いた?」
「親御さんがナンタラ省の人で、コネだって」
「ふぅん、もう広まってるんだ。ってかエンボちゃんもそういう噂、するんだね」
「否定しないんですか」
「事実もあるから」
「いいですねえー、生まれながらにお金持ちで権力もあって。人生最高じゃないですか」
「でもないよ。俺、隠し子だし」
「はえー、……」
ん?
なに? なんて言ったこの人。
「ちなみに母はお妾さん。高校で別の男と蒸発して、それで父親に引き取られたけど、面倒になってすぐアパートで一人暮らし。だから半年」
「……」
「自分じゃコネって自覚してないけど、上層部の人間は面接時点で知ってたみたい。だから、もしかしたら融通してもらってたのかも。ただ社会人になってからは一切没交渉だし、財産分与も断ってんだけどね」
「どう? これも喋りたかったら言っていいよ」
……いやいや、言えるか、そんなこと。
ちょっとまって情報量が多すぎて混乱する。なんでこんな話になったの。さっきまでまあまあ、そこそこいい雰囲気だったのに。ってかそれセフレにする話? 明らかに重量オーバーしてない? うわ、いやだ、静寂が怖い。どんな表情でいるのか分からない。何か言わなきゃ、なにか、
「ファ」
「ふぁ?」
「ファミリー・ヒストリー……」
彼がぴたりと止まる。目が合う。
「人に歴史あり……」
えっと……私はこの後に及んでなにを言ってるんでしょうか……?
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