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3.彼らの関係
その26、恋人とは???②
しおりを挟むそんなこんなで過ごした二泊三日はあっという間で、月曜朝に映子ちゃんは昔の話をしてくれた。多分、映子ちゃんが映子ちゃんたる根幹の話。努めて明るく話そうとする映子ちゃんが切なくて、たまらなくて、抱きしめながらキスをした。お互い好きだと言い合うのって、こんなにも心地いいものなんだと知った。
今は違う種類の『すき』も、こうしてお互い言い合えば、擦り合わさっていずれは同じものになるだろう。依然として楽天的に考えながら、朝食を食べ、ついに帰る時間になった。玄関先まで見送ってくれる映子ちゃんが、なんだか奥さんみたいに思える。浮かれてる。
「じゃ、エンボちゃん。また土日に。何かあったらいつでも連絡して?」
「なにか?」
「……体調とか、もろもろ」
デキてたら。
アヤしかったら、いつでも。
一週間で何が分かるわけでも無いのに、気づくとそう言っていた。映子ちゃんはありがとうございます、と頷いて、玄関先でいってらっしゃいのキスをした。これが毎日であればいいのに。
イラスト:遙くるみ様(@8ru9ru3)
家へ戻り、着替えて出勤すると堂本常務に呼びつけられた。彼の話ということは、秘書の件だろう。
日本に戻って早三ヶ月。
担当秘書は二度入れ替わり、いずれも俺とは合わなかった。合う合わない、と言うより、不必要なモーションをかけてきたのが最大の原因か。人事を担当した堂本常務も困り果てている。俺だって本当なら一人でやりたいところだけど、そうもいかないほど、仕事は着実に増えていた。このままではいずれ、映子ちゃんとの時間も取れなくなる。
「すみませんね久遠専務。例の、秘書の件なのですが」
あたり。
「秘書課ではないんですが、経理部に一人、適任かと思える人がいましてね。もともと秘書課希望だったらしくて、細かい数字作業は苦手なんですが、人当たりは良いし、人脈づくりはお手のもので、タイムスケジュールの管理はきっちりしてる」
「はい」
「それになにより、結婚間近だという話で。結婚しても仕事は続けると周囲に明言してるようですし、どうでしょうかね? 育てるまで多少の時間はかかるかも知れませんが、安全かとは思います」
経理部。映子ちゃんのいる場所だ。
だったら彼女からも話が聞けるだろう。それこそ、今度の土日あたりにでも。
「わかりました。構いませんよ」
「ありがとうございます。すみませんね、何度も変更ばかりで……秘書課連中も、なに考えてんだか」
「はは。まあ、なんとも」
「でも久遠専務……プライベートなことを聞きますが、その、誰か特定の方がいらっしゃるのであれば、それとなく周囲に伝えておいた方が、何かと気楽かもしれませんよ」
「それとなく?」
「こんな風に」
堂本常務があげた左手に光る、銀色。
「なるほど」
「まぁ、気の強い秘書課連中はそれでもコナかけてくるかも知れませんがね」
「いえ、ありがとうございます。検討してみますよ」
「はは、是非ぜひ。それじゃあ私は経理部に話をつけてきます。今週中に一度、顔合わせ出来るよう手筈を整えておきますから」
「お願いします」
それから三日空けて、経理部の大塚早織が俺のもとへ寄越された。確かに華のある、周囲の目を惹くような女性だ。経理部といえは映子ちゃんのイメージが強いけど、彼女は真逆。それに聞いていた通り、俺にまったく興味を示さない、プライベートと仕事を区別できているところが好ましかった。
「じゃあ、来月からお願いします」
「こちらこそ、不慣れでご迷惑をおかけしますが」
「そこは気にしないでください。無理を通したのはこちらの方ですし」
「あの、久遠専務。出来れば来月と、今までのスケジュールも教えていただけませんか?」
「来月だけでなく、今までのも?」
「何があったか把握しておく方が動きやすいかと思いまして」
なるほど、優秀。
「わかりました。ついでにスケジューリングソフトの説明も軽くしときましょうか」
「はい、お願いします」
ソフトの説明をいくらかする。今どきの子らしく、大事なことは携帯のメモアプリに即時入力していた。軽く説明が終わったところで、最後に彼女自身の操作で来月のスケジュールを出力してもらう。一歩下がって見守っていた。
大塚早織……早織ちゃん?
映子ちゃんが酔った時に言っていた、あの『早織ちゃん』だろうか。だとしたらきっと仲がいい。急な人事に怒ってないといいけど……まぁ、怒っていたら誠心誠意、謝るだけだ。
ふと、彼女の携帯が小さなバイブ音を立てた。
光る画面。表示される通知。
『映子先輩:仕事中ですよ(笑)』
『映子先輩:でもありがとう。紹介してくれて』
『映子先輩:先方がいいなら会ってみようかな』
『映子先輩:早く彼氏ほしいしね(汗)』
…………。
「久遠専務、これでいいんでしょうか?」
「ああ、うん……大丈夫」
「ありがとうございます」
「携帯、鳴ってたよ」
「あ、すみませんうるさくして」
「いや……ごめん、ちょっと見えた。映子先輩って、経理部の田中さん?」
「え、すごい。下の名前まで把握していらっしゃるんですか?」
そのあと、大塚早織となにを話したのか、覚えていない。気づけば専務室でひとりだった。
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