冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 リリアナは父に許可を得て、再びグレイヴ男爵邸を訪れることを決める。オズワルドから「彼に会うなら手紙を送ればいい。自分が段取りをつけよう」と提案されたのだ。勇気を出して思いを綴った手紙を送り、数日後に返事が届く。

「会う必要があるならば、午後に来るといい」

 そっけない文面だが、断られなかったことを思えば十分だ。胸を高鳴らせながら、リリアナは男爵邸の門をくぐる。庭園の草木は丹念に手入れされており、整然とした美しさに目を見張った。

「無慈悲なんて呼ばれてるけど、こういう細やかな部分は行き届いてるのね」

 執事のセバスチャンが出迎えてくれる。年配だがキビキビした動きで、優しげな雰囲気を持つ男性だ。

「お嬢様、ようこそいらっしゃいました。グレイヴ様は応接間におります」

「ありがとうございます。あの、グレイヴ様は普段からあのように家事をなさるのですか?」

 リリアナが思い切って聞いてみると、セバスチャンは微笑を浮かべる。

「ええ、料理も掃除も裁縫すらも…あらゆる家事を自分でこなされます。もちろん、私たちに任せる部分もありますが、ご自分でやったほうが早いときは、いつの間にか終わっていますよ」

「そうなんですね…」

 ますます興味が膨らむ。邸内に通されると、クラシカルで落ち着いた応接間が目に入る。暖炉のそばにはグレイヴが背を向ける形で立っていた。

「お招きいただき、ありがとうございます」

 リリアナが声をかけると、グレイヴは軽くうなずく。相変わらず仏頂面だが、今日は少しだけ違う雰囲気を感じる。セバスチャンが紅茶の用意をしようとしたところ、グレイヴが制した。

「俺が淹れる」

 そう言うや否や、彼は応接間の隣にある小さなキッチンに向かう。リリアナはそれを目で追いながら、居ても立ってもいられず声をかける。

「私もお手伝い、いいでしょうか?」

「必要ない」

 即座に返ってくる拒否。けれどリリアナは諦めずにキッチンに足を踏み入れ、その腕さばきを見学する。湯を沸かし、茶葉の量を量り、ポットを温める動作まで一つひとつが的確だ。

「すごいですね。こんなに慣れた手つきなんて…」

「……お前、ここに来た目的は何だ?」

 やや不機嫌そうな声。でも、リリアナは引かずに真っ直ぐ見つめ返す。

「男爵様のことを、もっと知りたいんです」

「知って、どうする」

「あなたが本当に“無慈悲”なのか、確かめたい。それだけじゃなくて…」

 言いかけて、喉が詰まる。彼に惹かれている――そんな本音を今ここで言うべきかどうか迷った。

「……余計な期待はするな」

 グレイヴは視線を茶器に戻し、そっけなく呟く。リリアナは胸の奥がちくりと痛むのを感じるが、俯かない。

「あなたがどう思っていても、私自身が見て、感じたいんです」

 するとグレイヴは小さく息を吐き、「お前の自由だ」とだけ言い放つ。そんな彼の横顔を見て、リリアナは悟る。彼は拒絶しているようでいて、完全にはシャットアウトしていないのだ。

「紅茶が入ったぞ。こぼすなよ」

 無愛想なまま、ティーカップを差し出される。リリアナは丁寧に受け取り、口をつけた。

「……すごくいい香り」

「当たり前だ。適切な温度で淹れたからな」

 彼の素っ気ない言葉の裏には、自信と優しさが混じっているように感じられる。リリアナは改めて強く思った――こんな人、他にはいない、と。 
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