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落ち着いた午後の男爵邸。リリアナは今日も訪問を許され、グレイヴとともにティータイムを過ごしていた。先日作った茶菓子を改良しようと、二人はささやかな会話を交わす。
「この前の生地、もう少し砂糖を減らしてみたらどうなるでしょう」
「甘みが足りなくなれば味気なくなる。だが、その分バターを増やせばコクは出るかもしれない」
「なるほど。じゃあ思い切って試してみたいです」
リリアナの提案に、グレイヴは少しだけ首を傾げる。
「味が整うとは限らない。……まあ、やりたければやってみろ」
「ありがとうございます」
張り切って生地を混ぜ合わせるリリアナの姿を、グレイヴは横目で見つめる。彼にしては珍しく、言葉少なながらも手伝うそぶりを見せるのが微笑ましい。
生地を寝かせている間、リリアナはグレイヴの持っている小さなレシピブックを見つけた。色あせた紙に整然と書き込まれた文字は、どうやらグレイヴ自身の筆跡らしい。
「男爵様、このレシピは?」
「昔からの覚書だ。領地を安定させるために余計な外注を減らす必要があった。その過程で家事も料理も、実益として学んだだけだ」
平然と語るグレイヴに、リリアナは素直に感嘆する。
「それにしてもすごいですね。ここまで綿密な記録を取られているなんて」
「……計画的に作らないと、無駄が生じる。俺は無駄を嫌う」
「でも、こうしてコツコツ何かを作り上げるのって素敵だと思いますよ」
リリアナが褒めると、グレイヴは不意に視線を伏せる。まるで照れているようにも見えるが、やはりいつもの無表情に戻ってしまう。
「お前、甘いものが好きなのか」
「ええ、元々そこまで得意ではなかったんですけど…最近は作るのも食べるのも楽しくなってきました」
「そうか」
短い返事ながら、どこかグレイヴの声に温かみが宿る。リリアナはキッチンへ戻り、寝かせ終えた生地をもう一度こね始めた。
「そういえば男爵様は、普段はあまり甘いものを召し上がらないのですか」
「食べないわけではない。だが、作るほうが慣れているというだけだ」
「慣れているのに、自分ではあまり食べないなんて不思議ですね」
「……必要があれば味見はする。甘さは度を越すと好きではない」
その言葉に、リリアナは軽い笑みを浮かべて菓子の形を整える。彼の好みに合わせて少し甘さ控えめに仕上げたいと思う気持ちが湧き上がる。
やがてオーブンに入れて待つあいだ、二人は流れる時間を持て余すように無言で立ち尽くす。リリアナは意を決して声を出した。
「男爵様、よろしければ少しだけ領地のお話を聞かせてもらえませんか。整備をされているって聞きましたけど」
「……俺の領地か。大したものではない。だが、昔よりは道も広く、安全になったはずだ」
「やっぱりすごい。私も一度訪ねてみたいです」
「……勝手に来てもいいが、何もない」
そう言いながら、グレイヴの声がわずかに柔らかくなっている気がする。リリアナは彼が自分の領地を大切に思っていることを、これまでの会話からも感じ取っていた。
そんなささやかな対話を交わすうち、オーブンのタイマーが鳴る。リリアナは「あ」と声を上げて急いで取り出し、ふわりと広がった甘い香りに心が弾む。
「男爵様、ぜひ味見してみてください」
「……仕方ない」
差し出した焼き菓子を口に含んだグレイヴは、僅かに眉を緩める。
「悪くない。むしろこっちのほうが好みだ」
「よかった。私もちょうどいい甘さだと思います」
そう言って微笑み合う二人の間には、確かに以前よりも穏やかな空気が流れていた。お気に入りのレシピを共有するたびに、距離も少しずつ近づいている――リリアナはそう感じずにはいられない。
「この前の生地、もう少し砂糖を減らしてみたらどうなるでしょう」
「甘みが足りなくなれば味気なくなる。だが、その分バターを増やせばコクは出るかもしれない」
「なるほど。じゃあ思い切って試してみたいです」
リリアナの提案に、グレイヴは少しだけ首を傾げる。
「味が整うとは限らない。……まあ、やりたければやってみろ」
「ありがとうございます」
張り切って生地を混ぜ合わせるリリアナの姿を、グレイヴは横目で見つめる。彼にしては珍しく、言葉少なながらも手伝うそぶりを見せるのが微笑ましい。
生地を寝かせている間、リリアナはグレイヴの持っている小さなレシピブックを見つけた。色あせた紙に整然と書き込まれた文字は、どうやらグレイヴ自身の筆跡らしい。
「男爵様、このレシピは?」
「昔からの覚書だ。領地を安定させるために余計な外注を減らす必要があった。その過程で家事も料理も、実益として学んだだけだ」
平然と語るグレイヴに、リリアナは素直に感嘆する。
「それにしてもすごいですね。ここまで綿密な記録を取られているなんて」
「……計画的に作らないと、無駄が生じる。俺は無駄を嫌う」
「でも、こうしてコツコツ何かを作り上げるのって素敵だと思いますよ」
リリアナが褒めると、グレイヴは不意に視線を伏せる。まるで照れているようにも見えるが、やはりいつもの無表情に戻ってしまう。
「お前、甘いものが好きなのか」
「ええ、元々そこまで得意ではなかったんですけど…最近は作るのも食べるのも楽しくなってきました」
「そうか」
短い返事ながら、どこかグレイヴの声に温かみが宿る。リリアナはキッチンへ戻り、寝かせ終えた生地をもう一度こね始めた。
「そういえば男爵様は、普段はあまり甘いものを召し上がらないのですか」
「食べないわけではない。だが、作るほうが慣れているというだけだ」
「慣れているのに、自分ではあまり食べないなんて不思議ですね」
「……必要があれば味見はする。甘さは度を越すと好きではない」
その言葉に、リリアナは軽い笑みを浮かべて菓子の形を整える。彼の好みに合わせて少し甘さ控えめに仕上げたいと思う気持ちが湧き上がる。
やがてオーブンに入れて待つあいだ、二人は流れる時間を持て余すように無言で立ち尽くす。リリアナは意を決して声を出した。
「男爵様、よろしければ少しだけ領地のお話を聞かせてもらえませんか。整備をされているって聞きましたけど」
「……俺の領地か。大したものではない。だが、昔よりは道も広く、安全になったはずだ」
「やっぱりすごい。私も一度訪ねてみたいです」
「……勝手に来てもいいが、何もない」
そう言いながら、グレイヴの声がわずかに柔らかくなっている気がする。リリアナは彼が自分の領地を大切に思っていることを、これまでの会話からも感じ取っていた。
そんなささやかな対話を交わすうち、オーブンのタイマーが鳴る。リリアナは「あ」と声を上げて急いで取り出し、ふわりと広がった甘い香りに心が弾む。
「男爵様、ぜひ味見してみてください」
「……仕方ない」
差し出した焼き菓子を口に含んだグレイヴは、僅かに眉を緩める。
「悪くない。むしろこっちのほうが好みだ」
「よかった。私もちょうどいい甘さだと思います」
そう言って微笑み合う二人の間には、確かに以前よりも穏やかな空気が流れていた。お気に入りのレシピを共有するたびに、距離も少しずつ近づいている――リリアナはそう感じずにはいられない。
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