紡いだ言葉に色は無い

はんぺん

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故に彼女は同棲を求める

宍戸なつき

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「違わねえって。するかしないかだけの問題だろ」
「その問題が何よりデカいんだよ」

 何でも肯定できて前向きになれる斗真と、俺は違う。踏み出せるか踏み出せないか、いくら完璧な計画を立てようとそこだけで1か0かは決まってしまう。
 これまでずっと繰り返して来たこの水掛け論はきっと永遠に終わらないだろう。斗真が友達だと俺を認識している限り。

眉をしかめて斗真は辺りを見回す。

「……とりあえずそれとなくでいいからどこかの話に混ざってこいよ。オタク連中なら話が合えば悪い顔しない奴も多いから」
「アニメもゲームもしないって」

 例え合ったとして合わせたくない。相手が誰であったとして。あと俺はオタクじゃない。別に嫌いな訳じゃなく、知ったか出来る程の知識も持ち合わせてない。

「じゃあ……同じ部活の奴いねーの? 生物部だっけ?」
「三年三名、二年十名、内幽霊部員十名。いたとして知らないよ」

 うちの高校は部活強制だし、文化部は戸籍だけ置く事が簡単ゆえそうなるのは必然だろう。
 斗真は机から飛び退き俺を見下ろした。飛び退いた反動でぐちゃぐちゃになったタッパーの中を見下ろす。しかし何故か怒られたのは俺で、デコピンされたあげくまたため息をつかれた。斗真はポリポリとうなじを掻いて伸びをする。

「俺はもう行くわ、はると約束してるし。
 諦めんじゃなくてとりあえずやってみろって。それじゃな」

 捨て台詞を残して斗真は背中ごしに手を振りながら教室から去っていった。その目立つ仕草に近くのグループはまず斗真に注目して、「なんだ斗真か」と言わんばかりの表情をし次は俺を見る。
 その視線が俺を捉えるより早く、蓋を閉めたタッパーを匿うようにして机を顔に伏せる。どうせ俺にも「なんだアイツか」という顔を見せるだけだろう。
 宍戸ではなく「アイツ」として、「なんだ」には嘲りを込めて。  


 窓の隙間からまだ冷たい春の風が流れ込む。カーテンがそよぎ、物静かなあの子の頬を撫で、俺の無意味な感傷を掻き立てる。
 何かしら反応をする周りと違い、その風は何ら俺に影響を与えることはない。例え俺が肩を震わせたとして、誰も見てないならそんなの無かったのと変わらない。

 俺だけ残して進んでいく。俺だけ止まったまま、皆は仲良く風と一緒に流れていく。そこに混じりたいとか、掬い上げて欲しいとか、そういうんじゃない。ホントにただの感傷で、一瞬だけ考えてしまうだけ、このままでいいのかと。

「……死んで終わりなら意味なんてないのに」

 俺の生き方や周りの生き方に対する批判をしてるわけじゃない。それで悩むことこそ無意味なんだ。
 答えが欲しい。俺の固着した思考も思想も人格も、ぐちゃぐちゃに壊してしまうほど完全無欠の答えが知りたい。
 誰にも聞こえないからこそ出来る呟きは勿論誰にも届くことなく風に消え、きっと俺の感傷もいつも通り消え失せる。まったくいつもと変わらない。やはり俺は進まない。

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