愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)

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「リゼット、遅いな」

応接間には、クロヴィス、アルフォンス、国王のコンラートが顔を揃えている。だがリゼットの姿はなかった。

「失礼致します。リゼット様の気分が優れないそうで、もう少しお出でになるのに時間を要するとの事です」

「それって、後どれくらいなの?」

「いえ、それは正確には……」

「はぁ?分からないの?使えないな」

侍従が入って来てそう告げると、アルフォンスは苛々していたのか、侍従に当たる。

「彼に言っても分かる訳ないよ。君は下がっていいよ」

「何時になるか分からないなら、もう始めましょうよ」

アルフォンスは控えていた侍従に書類を出させ、それをテーブルに置いた。

「此処に離縁と婚姻の紙があります。婚姻紙には僕はもう署名してますから、後は父上が署名して下されば終わりです。なので叔父上もさっさと離縁紙に署名して下さいよ」

「まだリゼットは来ていないだろう?彼女の署名はどうするの?」


クロヴィスの前に離縁紙を乱雑に置く彼に、呆れながらも受け取った。

「別に必要ないでしょう」

「それは……どう言う意味?」

「そもそもリゼットはなんですよ。法的な扱いでは彼女はに該当します。故に本来ならば署名どころか、彼女の同意すら必要ない」

怒りで、頭が真っ白になった。一瞬何を言われたのか分からなかったが、気が付けばアルフォンスの胸ぐら掴んでいた。

「何するんですか⁉︎」

「ふざけた事を吐かすな!リゼットは物なんかじゃない‼︎」

「叔父上こそ、何を言ってるんですか?所有物だと思っているからこそ、貴方は彼女の同意なく離縁して他所に嫁がせようとしたんでしょう?」

「違うっ、僕は彼女の幸せを思って」

「違いませんよ、僕と同類の癖に。自分だけ良い人振るなんて卑怯だ。やっぱり偽善者ですね」


バンッ‼︎ー。

クロヴィスとアルフォンスが言い争っていると、コンラートがテーブルを叩いた。瞬間部屋は静まり返る。

「二人共、見苦しい。席に着きなさい」

クロヴィスはアルフォンスを睨み付け中々手を離さなかったが、グッと堪えて突き放した。彼は何回かワザとらしく咳をすると椅子に座った。クロヴィスも自分の席に戻る。

「アルフォンスの言っている事も、強ち間違いではない」

「陛下⁉︎」

コンラートの意外な言葉にクロヴィスは声を荒げ、アルフォンスは鼻を鳴らした。

「私もそんな暇ではない。これ以上は彼女を待つ事は出来ん」

コンラートは立ち上がり、離縁と婚姻の二枚の紙を手にするとサラサラと署名を済ませてしまった。そして離縁紙をクロヴィスへ渡す。

「クロヴィス、後はお前だけだ。お前が署名した瞬間から、この婚姻紙は有効になる」

クロヴィスはペンを手にした。ペン先を紙につける、だがそれ以上動かせず止まってしまった。

「早くして下さいよ、叔父上」

アルフォンスの面倒そうな声とコンラートからの威圧的な視線を感じる。嫌な汗が全身を伝うのが分かった。手元が僅かに震える。

これを書いたから本当にリゼットは……ー。

『クロヴィス様』

瞬間彼女の自分を呼ぶ声と笑顔が脳裏に浮かぶ。だが笑顔の彼女は涙を流していた。
クロヴィスは瞳を伏せる、そして。



ビリ……ー。

気が付けば離縁紙を破っていた。呆気に取られるアルフォンスを凝視しながら残り全てを破り捨てた。

「な、何してるんですか⁉︎貴方は‼︎どう言うつもりですか⁉︎」

アルフォンスはテーブルを勢いよく叩き、怒声を上げる。だが、クロヴィスは意に返すことなく立ち上がり、コンラートへと向き直った。

「陛下、申し訳ありません。この話は白紙に戻させて下さい……やっぱり、リゼットを手離すなんて、僕には出来ない」

コンラートは何も言わず、ただクロヴィスを凝視する。まるでクロヴィスの真意を測っている様に感じた。


「あり得ない!何を今更!此処に来てやっぱりリゼットを返せって事ですか⁉︎そんな事認められる訳がない!」

興奮したアルフォンスは怒り狂うが、そんな彼を尻目に次の瞬間、コンラートが婚姻紙をビリビリと破り捨てた。

「父上⁉︎」

「陛下……兄上……ありがとうございます」

クロヴィスは深々と頭を下げて、足早に部屋から出て行く。

「諦めろ、アルフォンス」

「嫌です‼︎リゼットはもう僕のだ‼︎こんなのおかしい‼︎」

背中越しに二人のそんなやり取りが聞こえて来たが、クロヴィスは振り返る事なく扉を閉めた。




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