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しおりを挟む「体調が優れないとの事でしたので、一旦客室へとお通ししたのですが、侍従が水を取りに行っている間にいなくなってしまいまして……申し訳ございません‼︎」
部屋を出たクロヴィスは、侍従と出会した。彼は相当焦った様子でそう告げると、深々と頭を下げた。
「今手の空いている者達を全て使い、探しております」
リゼットがいなくなった。
◆◆◆
城に到着したリゼットは、侍従に連れられ廊下を歩いていた。すると、暫くすると中庭が視界に入る。
「……」
思わず足を止めた。あの時と変わらない白いベンチと美しく咲き誇る薔薇の花から目が離せない。唇をキツく結び、両手を握り締めた。
「リゼット様、如何なさいましたか?」
嘘を吐いてしまった。リゼットは侍従に、咄嗟に立ち眩みがして動けないと告げた。すると彼は空き部屋を直ぐに用意してくれ、休む様に言ってくれた。二人いた侍従の一人はクロヴィス達の待つ応接間に向かい、もう一人は水を取りに部屋を出て行く。
リゼットは足音が聞こえなくなるのを確認してから、内側から鍵を掛けた。窓を開けて勢いをつけて窓枠によじ登る。長いドレスの裾が邪魔で上手く登れないが、何とか登りきりそのまま外へ出た。
「一階で良かった……」
だが安堵している場合ではない。その内侍従が戻って来て、リゼットがいなくなった事がバレてしまう。ドレスの裾を持ち上げ、駆け出す。
私は帰る。だって、あそこが帰る場所だと私に言ったのはクロヴィス様、貴方ですー。
リゼットは急いで柱の陰に、身を隠す。バタバタと走り回る侍従等がリゼットの名を呼びながら通り過ぎた。
「どうしよう……これじゃあ外に出れない……⁉︎」
身動きが取れずに困り果てていると、先程通り過ぎた筈の侍従が戻って来た。慌てて逃げようと踵を返すが、今駆け出したらどの道バレてしまう。どうする事も出来ずに身を固くして目を閉じた。
「リゼット様?」
「‼︎」
「……やはり、いらっしゃらないか」
侍従は一人言を言いながら、また元来た廊下を歩いて行った。
「……どうして」
「今は逃げるのが先だろう。行くぞ」
見つかると思った瞬間、腕を後ろに引かれた。そしてそのまま近くの部屋に連れ込まれ驚き過ぎて声も出なかった。だが腕を引いた人物の顔を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
「あの、レンブラント様……」
「何だ」
「いえ……」
彼に腕を引かれついて行ったのは良いが、何故か中庭の木々の間に二人でしゃがみ込み隠れている。確かに見つかり難いが、これでは益々城から出れない。
「心配しなくていい、昔から隠れん坊は得意なんだ」
「隠れん坊……」
珍しく子供染みた事を言う彼を、目を丸くして見遣る。彼の事は昔から知っているが、一緒に隠れん坊をした記憶はない……とどうでもいい事を考えた。
「身体はもう平気なのか?」
「はい……」
「そうか……まあ、無理はするな。今日、手続きなんだろう?」
どうやら事情を説明するまでもなく、色々と筒抜けの様だ。リゼットが頷くと、頭を撫でられた。彼とは同い年なのに、複雑だ。
「リゼットは叔父上と離縁したくないのか?」
「はい……」
「ならその事はちゃんと叔父上には伝えたのか?」
「いえ」
盛大なため息を吐かれ、リゼットは萎縮する。また何時もみたいに説教をされるかも知れない。
「叔父上も大概だが、君も悪い」
レンブラントの言葉に苦笑した。
「リゼット、君と叔父上は夫婦なんだ。離縁したくないなら、こうなる前に、ハッキリとそれを言うべきだった」
「はい……」
彼の言う通りだと思う。リゼットは自分の意見を言う事なくクロヴィスから言われた通りに従った。それが彼の為であり、正しいのだと思ったからだ。それに負い目もある。彼は十年前国王からの命令で、献上品であった自分と結婚をしてくれた……。
「リゼット、夫婦は対等なんだ。王族や貴族社会においてそれは理想に過ぎないかも知れない。だがそうあるべきだと俺は思っている。君が本当にクロヴィス・ルヴィエ公爵の妻だと胸を張って生きてきたならば、君が叔父上に遠慮する必要などない。君は彼の所有物じゃないんだ」
「レンブラント様……」
「だがまあ、こうして脱走している所を見ると、もう大丈夫なんだろう?」
真っ直ぐに見つめる彼にリゼットは笑って返した。
「丁度だな」
「?」
レンブラントが顔を上げる。彼の視線の先を追うとそこには……。
「クロヴィス、様」
息を切らしたクロヴィスが立っていた。何かを探す様に必死に周囲を見渡している。
「リゼット、君の王子様が迎えに来た」
レンブラントは立ち上がりリゼットへと手を差し出す。そして、軽く背中を押された。
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