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「……女にもだらし無い」

「……」

ロゼッタは、口をキツく結んだ。彼が他の女性達とまぐわう姿が頭に過り途端に気分が悪くなる。

「顔色が悪いな……大丈夫か?戻るか」

「いえ……平気です。ただ少し思い出してしまいまして……」

「すまない。余計な事を言ったな」

見るからに項垂れるイグナシオに、ロゼッタは思わず笑ってしまった。

「私は、大丈夫です。それにまだ帰る訳には行きません。彼が何を思いそう振る舞うのか……
知らなくては進む事は出来ない。彼とちゃんと話さないと、ダメなんです。逃げては、ダメなんです……」

ロゼッタは真っ直ぐイグナシオを見遣る。すると彼は笑ってくれた。

「あんなダメな奴でも、私の大切な友なんだ。擁護するつもりはないが、僅かながらいい所もある」

「……昔の彼は、優しくて面倒見もよく真っ直ぐな人でした。でも、変わってしまった。今はもう私にはあの人の事がよく分かりません」

ー ガシャッ‼︎ ー

ロゼッタが俯きそう述べた瞬間、カウンターに座っていたフェルナンドが椅子から転げ落ちた。その際に手にしていたグラスとテーブルにあった酒瓶が床に落ち、割れる。

「フェルナンド」

イグナシオは取り乱す事はせず静かに立ち上がると、彼の元まで行き慣れた様に身体を抱き起す。フェルナンドは顔を真っ赤にし、視点は彷徨っている様に見える。どうやら相当な酒を呑んだ様だ。

「すまない、騒がせたな」

イグナシオは懐から貨幣を取り出しテーブルに置く。支払いをすませるとフェルナンドを引きずる様にして店を出た。その際にロゼッタへ目配せをしてついてくる様に促した。












居た堪れない。馬車に乗り込んだのはいいが、兎に角気まずい。
ロゼッタの向かい側にはイグナシオと酩酊して意識がないフェルナンドが座っている。

「いつもの事だ。案ずる事はない」

彼はいつも酔った状態で女性を連れて帰って来ていた。確かに、珍しい事ではない。ただ彼があの様な場所で一人で呑んでいたのは意外だったが。

ロゼッタはフェルナンドを凝視する。眉根を寄せ、真っ赤な顔を歪ませ何かを呟いていた。だが何を言っているかは聞き取れない。

「話を、聞いてやって欲しい」

「……え」

不意にイグナシオから告げられた言葉にロゼッタは声を洩らした。

「情けないが、自分からは何も言えないのだと思う。……臆病な奴だからな」

そう話すイグナシオの顔は、呆れた様な困った様な微妙な表情だった。ただ、心配しているのだけは伝わって来た。






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