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二十九話〜お土産〜
しおりを挟む屋敷に無事帰還出来たと、自室に入ったエレノラは安堵のため息を吐いた。
今日は散々な一日だった。
狼と遭遇しただけでも驚きなのに、まさかユーリウスに遭遇するとは思わなかった。
ただ彼がいなければ今頃噛み殺された挙句、狼に美味しく食べられていたかも知れない……。今更ながらに怖過ぎる。
ただ助けて貰った事には素直に感謝しているが、ユーリウスの意図が分からないと困惑するばかりだ。
人の事を言えた義理ではないが、何故あんな山の中にいたのかを聞きそびれてしまった。
その為本気で始末されると思ったり、娼館に身売りされると危機感を覚えた。だが最終的に彼がエレノラを連れて行った先は超高級料理店で、更にはまさかまさかのご馳走をしてくれたのだ。
絶対裏があるに違いないと未だに思っているが、帰りの馬車で後から請求はしないとの言質をとったので取り敢えずは大丈夫だろう。
ただ悔しいのが、残してしまった料理を持ち帰る事が出来なかった事だ。
「あんなに怒らなくてもいいのにね?」
シュウ?
ずっと気持ち良さそうにポケットの中で眠っていたミルを外に出すと、クッションの上に置く。すると大きな欠伸をして目を覚ました。
持ち帰る事は許さないと、目尻を吊り上げ説教をされた。更には公爵家に嫁いだ自覚はあるのかから始まり、食べ過ぎてお腹を壊したら~などなど色々と言われた。
普段は一人分くらいしか食べないが、あの店の料理は格別だったので、空腹も手伝い気付けば三人分程食べていた。
それにテーブルの上には五人分程の料理が並べられていたので、残すのは忍びない思いもある。
だがユーリウスが食べたのは一人分だったので、当然料理は残ってしまった。
「明日の朝食に丁度良かったのに……」
今更考えても仕方がないと分かっているがもったいないなと思いつつ、手にしていた布包みをテーブルの上に置いた。
シュウ?
「ふふ、気になる?」
残り物の持ち帰りは阻止されてしまったが、実は店員の計らいでお土産を包んでくれたのだ。と言っても、支払いはユーリウスなのだが……。
「なんと、お土産なの! ちゃんと、ミルの分もあるのよ」
シュウ!
ミルのは超高級フルーツだ。
そしてーー
「宜しいのですか?」
ボニー達使用人の分も包んで貰った。
お土産は料理ではないが、デザートに出されていた焼き菓子だ。これもほっぺが落ちそうなくらいに美味しかった。
「ええ、良かったら皆で食べて」
「若奥様、ありがとうございます! 皆、喜びます!」
歓喜するボニーにエレノラも嬉しくなるが、重大な事実を告げなくてはならない。
「でも実は……そのお土産はユーリウス様が買って下さったの」
「え、若旦那様が、ですか?」
案の定、目を見開き呆気にとられた。
あのクズ男からお土産なんて、信じられないのはよく分かる。エレノラだって未だに信じられない。
「だから、後でお礼を言っておいて」
「分かりました、皆にも伝えておきます」
お土産を渡した瞬間歓喜していたのが嘘のように、ボニーの笑顔は引き攣っていた。
シュウ~
そんな時、ミルがお土産の包の上に飛び乗った。
「ダメよ、ミル。そっちはボニー達の分なんだから」
シュウ……
注意をすると、落ち込んだ様子で包の上から降りる。
すると慰めようとしてくれたのか、ボニーはミルの頭を撫でた。
「あら、ミル様。本日は随分とお洒落なさっているんですね。とってもお似合いです」
シュウ!
ミルのチョーネクタイに気付いたボニーは、褒めてくれた。
エレノラが事の経緯を簡単に説明すると、少し切なそうに笑った。
「とても素敵な方々ですね」
「ええ、しかも物凄い美女なの! 世の男性達が夢中になるのも頷けるわ。もし私が男性だったならイチコロよ」
今思い出しても胸が高るようだ。
「エレノラ様もとてもお綺麗です」
「ああこれは、彼女達が頑張ってくれたら」
「勿論、今のように着飾った姿もお綺麗ですが、エレノラ様はいつも素敵に輝いています」
「ふふ、ありがとう、ボニー。でも気を使わなくても大丈夫よ? 鏡は毎日見ているから身の程は知っているもの。私は彼女達と比べれば正に芋! その辺の畑に転がっている芋に過ぎないわ」
「若奥様、芋とは……」
「別にやっかみとかじゃないの、本心だから安心して」
ニッコリ笑ってそう言うと、彼女は戸惑ったように笑った。
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