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八十一話〜公爵家か王家か〜
しおりを挟む診療所から戻ったエレノラは、自室に篭もり一人悩んでいた。
取り敢えず落ち着こうと椅子に座り机に突っ伏す。
冗談みたいな話だが、アンセイムは本気だった。あの後やはり詐欺か揶揄われているのではと思わず聞いてしまったが、彼は信じられないなら一筆書こうと言い出し本当にその場でエレノラを側妃に迎えると書いた。しかもご丁寧に拇印付きだ。
僕達が結ばれるのは運命なんだーー
「運命か……」
あんな風に言われたのは生まれて初めてだ。
これまで色恋には全く無縁だったが、これが所謂男女の甘いやり取りというものなのだろうか。
少し胸がドキドキしてしまった。今もまだ落ち着かない。
(私って、アンセイム様が好きなのかしら?)
初めて会った時は紳士的で好感が持て、同じ瞳の色という事もあり印象的だった。二回目に偶然会った時も三回目に診療所で遭遇した時も良い人だと思った。ただお茶会では意外な一面を知る事となり、幻滅し掛けたが素直に謝罪する姿に思い直した。その後も何度も彼と顔を合わせる機会があり、今ではエレノラの中ではいざという時頼れる知人くらいにはなっている。ただ好きかどうか分からない。
それなら彼はどうなんだろうか?
田舎貴族の芋娘を妃にしたところで何の得もない。やはりエレノラを妃にしたい理由は彼曰く運命だから……?
「アンセイム様は、私の事が好き……?」
口に出すと物凄く恥ずかしくなってきた。
エレノラは身体を勢いよく起こすと邪念を打ち消すように頭を横に振る。
(好きとかそんな事は関係ないわ! 少し冷静にならないと……)
初めての事に冷静さを失っていたが、大事な事はどちらが有益かという事だ。色恋なんて自分には、必要ない……。
公爵家か王家かーー
気持ちを切り替え、冷静になって考えてみる。
正直、現状に不満はない。
診療所での仕事も順調で、庭の薬草達もすくすく育ってくれている。薬屋を出せる日もそう遠くないかも知れない。またこのままいけば無事結婚式も挙げられそうだし、理由は分からないがユーリウスは更生しようとしている。
挙式後はお祝い金が貰えて、更にユーリウスがフェーベル家を再建してくれる(予定)。
問題は愛人達の今後だけだ。ただこれはアンセイムの協力が得られないとかなり厳しい。だが協力をして貰うにはエレノラがアンセイムの妃にならなくてはならない。
なんだか話しが紛らわしくなった気がする。
妙案だと思ったが、やはり人頼みにするのは良くないと思い知った。
ただそんな難しく考える必要はないとも思う。仮にエレノラがアンセイムの妃になれば、今考えた事柄は全て解決出来る。だが逆に断れば協力が得られず愛人達の今後に影響が出てしまうだろう。
それなら考えるまでもなくアンセイムからの提案を受けるべきだ。
「側妃ね……」
迷う必要などない筈なのに、何故かモヤモヤしている自分がいる。
もし離縁してアンセイムに嫁ぐと言ったらーー
(ユーリウス様はなんて言うかしら……)
話し合った時は離縁はしたくないと言っていたが、いまいち彼の考えが分からない。
(べ、別にユーリウス様がどう思おうと私には関係ない事だわ!)
勢いよく頭を振る。
体裁の為に息子に妻を買い与えた公爵は渋るだろうが、その息子は今正に更生しようとしており、愛人がいなくなれば再婚相手に良い家柄の令嬢を迎える事も出来る筈だ。そうなればどの道エレノラはお払い箱となるだろう。
懸念があるとすれば、自分みたいな芋娘に本当に側妃が務まるのかという事くらいだ。
でもきっとそれが”皆”が幸せになれる最善の選択な筈だ。
「……」
そう思うのに、胸が痛むのは何故だろう……。
「よし! そうと決まれば早速段取りをしないとね!」
これ以上余計な事は考えない内にエレノラは行動に移す事にした。
それから一週間後、準備を整えたエレノラはユーリウスに報告をした。
「は? 三者面談だと⁉︎」
「はい、私と愛人の方とユーリウス様で行います」
向かい側に座る彼は食事をする手を止め怪訝な顔をするが、構わず説明を続ける。
「愛人の方々には事前に手紙で説明をしてあり、希望者のみという形をとっています」
「一体何を話し合うつもりだ?」
「それは当日までの秘密です」
本当は今伝えても構わないが、ユーリウスの反応が面白かったので秘密にしておく事にした。
そうして更に一週間後、ユーリウスの愛人計二十九名の内二十四名が参加希望した三者面談が始まった。
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