噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
14 / 81

13

食事を始めた直後、食べ方が綺麗だと思った。無論侯爵令嬢な訳で、作法が完璧であるのは一般的には当たり前な事ではあるが、彼女からは品のある美しさを感じた。きっとこれも欲目と言うやつかも知れない。

「ねぇ、フィオナ」

「……?」

「君に提案があるんだ」

そこで彼女は食事する手を止めナイフとフォークを置いた。俯き加減でヴィレームを伺う様に見遣る。

「暫くこの屋敷で暮らさないかい?実は既に君のご両親には許可は頂いているんだ」

「え……」

瞠目する。当たり前だ。昨日の今日でこんな話をされれば誰でも同じ反応をするだろう。

「勿論、君が嫌なら断ってくれても構わない。ただ一つ言っておくね。僕は無責任にこんな話をしている訳じゃない。責任は確り取る」





◆◆◆


責任を取ると言われ、フィオナの思考は一瞬停止した。困惑しながらヴィレームを見ていると、真っ直ぐな彼の瞳と視線が重なる。

「誤解をさせて、繊細な君を傷付けたくないから……この際だ、ハッキリ言うね。僕と結婚して欲しい。君が好きなんだ」

きっと以前のフィオナなら喜んだ筈だ。彼は申し分ない程素敵な人だ。容姿端麗で性格も優しく、頭も良い。出身地である国はいまいちよく分からないが、伯爵令息だと聞いた。家柄も申し分ない。侯爵家の次女の嫁ぎ先としては然程悪くない話であると言える。
ただそれはハンスと出会う前の話だ。彼に裏切られてからあの様な酷い目に遭い、数え切れない男性達から嘲笑われた。
ヴィレームがハンスやあの男達と同類かと聞かれたら、違うと即答出来る自信はある。ただやはり、怖い……。

フィオナは改めてヴィレームを見る。彼からは悪意も嘘を吐いている様には見えないが……。そもそも自分との結婚が、彼にとってメリットがあると到底思えない。ヴィレームは優しい人故、可哀想な境遇のフィオナに同情でもしているのだろうか……。

「私には勿体ない事です。ヴィレーム様の様な素敵なお方なら私などではなく、もっと素敵な女性が見つかります」

それにもし彼の言っている事が本心だとして、自分の様な醜女を妻にすれば彼は不幸になってしまう。何れヴィレームは留学を終えれば国へ帰る。フィオナを伴い一緒に帰れば、彼の両親や親類、友人知人……周囲の人々から彼がどんな目で見られるか……。自分だけならいい。でもヴィレームまでこの呪われた人生に巻き込みたくない。

そこまで考えて、ある事に気が付いた。ハンスの時にはこんな想いにはならなかった。あの時は自分の幸せだけを考えていた……。だが今は違う。彼に不幸になって欲しくない。彼に幸せに生きて欲しい……そう願わずにはいられない。不思議だ。

「ヴィレーム様のそのお気持ちだけで、私は十分です」

胸がいっぱいになる。フィオナはせめての想いでこの醜い顔で、精一杯笑って見せた。だが向かい側にいた筈の彼の姿がない。

「⁉︎」

「フィオナ」

昨日と同じ、風を感じたと思ったらヴィレームはいつの間にかフィオナの背後に立っていた。そして背中から抱き締められる。

「嘘じゃない。僕は本当に君が好きなんだ。君が欲しい。フィオナ……僕は君じゃないとダメなんだ」

彼の必死な想いがひしひしと伝わってきて、心臓が煩いくらいに脈打つのを感じた。それと同じに苦しい程に締め付けられる。

「だから、そんな事言わないで。少し僕に時間をくれないかな。それに僕なら、君の呪いを解く方法を探す力になれるよ……。君にとって悪い話ではないと思わないかい?」

耳元で囁く彼の声は甘く痺れる……まるで毒牙の様に感じた。

「時が来た時に、また返事を聞かせて」

彼の為にも断らなければならない。そう分かっているのに、フィオナはどうしても首を横に振る事が出来なかった。



感想 34

あなたにおすすめの小説

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。