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「じゃあ、お休み」

ヴィレームはそう言って、フィオナの部屋の扉を閉めた。扉が閉まる直前フリュイがフィオナに甘えているのが見えて、若干苛々する。

「ヴィレーム様、宜しいのですか」

自室に戻ったヴィレームは、フィオナ宛のヨハンからの手紙を手の中で魔法を使い燃やす。

「構わないよ。僕は罪悪感など感じる程、そんな善人ではないよ。クルトなら良く分かっているだろう?」

不敵に笑う。

「……それより、調べて貰いたい事があるんだ」


休み明け、ヴィレームが登院してクラスへと入ると一瞬にして女子生徒等に取り囲まれた。

「ヴィレーム様、ダンスパーティーのパートナーはお決まりなんですの?」

「もし、決まってないなら是非私と」

「ズルいわ!ヴィレーム様、私立候補します!」

「ちょっと!抜け駆けしないでよっ」

何か物凄く面倒臭いな……と内心ため息を吐く。これでは自国にいるのとまるで変わらない。
それに加えて、男子学生からは妬みの視線が痛い程向けられている。これまた面倒臭い。

少し顔が良いからって。

留学生の癖に生意気だ。

どんなにモテようが、所詮は伯爵令息に過ぎないだろう。

そんな下らない呟く声が聞こえてくる。これらはヴィレームが転入して来てから、飽きる事なく向けられて続けている。

人のを羨んだり見下したりと、本当暇な連中だ。疲れないのだろうか、時間の無駄以外のなにものでもない。
当事者であるのに、他人事の様にそんな風に思う。
それにしても、ダンスパーティーか……。

「皆の気持ちはとても嬉しいよ。でも、ごめんね。パートナーはもう決めてるんだ」

ヴィレームの返答に女子生徒等から悲鳴が上がる。全く煩くて仕方がない。

ダンスパーティー限定ではなく、人生のパートナーだけどね、などと言った日には一体どうなるのか笑える。ヴィレームは、未だ悲鳴をあげる彼女達に、申し訳なさそうに笑って見せた。


「ねぇ、フィオナ」

向かい側でフリュイと戯れているフィオナは、返事をしてヴィレームを見る。

「もう直ぐダンスパーティーなんでしょう?」

ピシリと音がしそうなくらい固まる。うん、可愛いし、面白い。

「そう、ですね……」

見るからに沈む彼女に、苦笑する。

「でも、私には関係のない事です……。ヴィレーム様は、是非愉しんで来て下さい」

「君は、出席しないの」

「出来ません」

しないではなくて、出来ないと答えるフィオナ。暫し静まり返る部屋に、キュゥ……とフリュイの心配そうな声だけが響く。

「……ヴィレーム様は、その」

「ん?僕が?」

彼女はモジモジとしながら、ヴィレームの様子を伺ってくる。何を気にしているのかは大方予想が付くが、敢えて知らないフリをした。

「パートナーは……その、決められたんですか……」

やはりね。

仮面を外している為、彼女の上目遣いが見える。無意識だろうが、可愛い……。

「あー、パートナーね。そうだね、もう決めてるよ」

ワザと愉しげに返答すると、彼女は目を大きく見開き、落胆した様に目を伏せた。思わずニヤけてしまう。

ヴィレームは徐に立ち上がると、フィオナの膝の上からフリュイを持ち上げ下ろした。フリュイはシャーシャー言っているが、無視だ。
ヴィレームはそのまま彼女の前に跪き、手を取る。フィオナは、弾かれた様に目を開けた。

「僕のパートナーは、君以外あり得ない」




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