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五十九話
しおりを挟む来月は遂にルーフィナの誕生日だ。
可愛い物好きの彼女の為に、今貴族令嬢の間で流行っている宝石店に行き、彼女に指輪などのアクセサリーを購入するのはどうだろうか。
ルーフィナは絵が上手い故、芸術に興味がありそうだ。美術館なども良いかも知れない。その後は貴族専門のカフェに行き、甘い物が好きな彼女とケーキでも食べながら優雅にお茶でもしようかとも考えた。
また彼女が花を好き事は知っている。動物好きの彼女を馬に乗せ遠乗りでもして野原へと行き、野花が咲き乱れる中で追いかけっこしたりお弁当を食べるもいい。なんなら食べさせ合いっこするのも悪くない。いや寧ろしたい。
エリアスからの微妙なアドバイスを踏まえた上で誕生日当日の計画を練り練った。正直余り参考にはならず騙された気分になったが、浅はかだった自分が悪い。ただ王太子である彼に恩を売る事になり、大きな副産物を得た。今後彼がどうなるかは分からないが損はない筈だ。特にルーフィナ関連で期待している。
そんなこんなで彼女に喜んで貰いたい一心で寝る間も惜しんで考えた。これまでの償いというには余りにも些末な事だが、それでもこれからは毎年彼女の誕生日を祝いたいと思っている。
更に欲を言えば、ゆくゆくは一緒に住みたい。いや、今すぐにでも一緒に住みたい気持ちはある。そうすれば忙しくても毎日顔を見る事が出来るし、これ以上変な男が寄ってくる事もなくなる筈だ。ただ急に一緒に住もうと提案すればきっとルーフィナは戸惑うだろう。もしかしたら拒絶される可能性も無きにしもあらずだ。もしそんな事になれば暫く再起不能となりそうだ……。想像しただけで気が滅入る。
そんな事を延々と考えている内に馬車は屋敷へと到着をした。
「その、非常に申し上げ難いのですが……ルーフィナ様は既に別の方とお約束なさったと仰っていらっしゃるらしく……」
帰宅して直ぐにジョスから報告を受けたクラウスは外套を脱ぎながら固まった。
実は多忙なクラウスの代わりにジョスにルーフィナとの誕生日の約束を取り付ける為に別邸に行かせたのだが……。
「……」
「ク、クラウス様?」
言葉が出ない。目眩すらしてくる。
既視感……いやこれは身に覚えがある。
一年程前の舞踏会を思い出した。
だがあの時とは状況や関係性はまるで違う。故にまさか断られるとはつゆも思わずクラウスは放心状態になってしまう。
(やはり、まだ怒っているのか……)
確かに最近仕事が多忙を極め、気掛かりではあったが結局あの夜以降ルーフィナに会いに行けていない。多少の隙間時間はあったが、時間に追われている中で下手な言動をして彼女に幻滅されたくないと弱腰になっていたのも否めない。
それならば満を持して誕生日に挑み、関係の修復に努める方が絶対に良いに決まっている。そう判断したが……誤ったかも知れない……。
(先約とは、まさか……)
頭の中にルーフィナの友人二人が過ぎる。ただそれは構わない。問題は彼等ではない。もう一人の方だ。
ローラント・ペルグランーーあの日、教会でルーフィナと異様に距離が近かった(物理的に)彼だ。
未だにルーフィナがローラントの腕に触れたのを思い出すだけで無性に腹が立ってくる。
「……」
「あの、クラウス様?」
「そう、分かった……それなら、仕方がないね」
力なく笑いクラウスは外套をジョスに手渡すと山積みになっていた書類の前に座った。
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