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1巻
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しおりを挟むプロローグ
『お姉さんなんだから』
今まで生きてきて、幾度言われたかわからない。
お気に入りの人形も、ドレスも、髪飾りも、妹のシルヴィアは兎に角なんでも、姉のアルレットのものを欲しがった。
そのたびに父や母からは『お姉さんなんだから我慢なさい』と言われた。
アルレットは姉だから仕方がないと思い、妹に譲っていたが、妹の我儘はどんどんエスカレートしていく。
あれは、アルレットがまだ八歳の時だった。
身につけていたお気に入りの髪飾りを、シルヴィアに取られた。
それは、アルレットの誕生日に父から贈られた髪飾りだった。
流石に頭にきたアルレットは、シルヴィアを怒った。しかし、母と父はアルレットに言った。
『お姉さんなんだから我慢なさい。お姉さんなのに妹を怒るなんて、あり得ません』
『アルレット、お前はもっと思い遣りを持ちなさい』
アルレットが『でも、これは……』と言いよどむと、母は呆れたように口を開いた。
『お姉さんなんだから、言い訳は許しませんよ』
その時、アルレットは全てを諦めた。
姉のものは全て妹のもの。妹のものも妹のもの。
とても不公平だが、これが現実だ。
それからアルレットは、シルヴィアに要求されるがまま従った。
反抗するだけ無駄だ。アルレットが両親に、非難されるだけだから。
シルヴィアには父と母という鉄壁の盾がある。敵うはずはなかった。
そんな日々の中、アルレットは十六歳になり、親の決めた男性と婚約をした。
婚約者の名はボドワン。アルレットの生家クライン家と同じ、公爵家の令息だ。
中肉中背の整った顔立ちで、女性に人気があるらしい。
アルレットはボドワンとは顔見知りではあったが、話したことはほとんどなく、彼のことを詳しくは知らなかった。
だが、アルレットは彼と婚約したものの、ボドワンに全く興味を持てなかった。
どうせ家同士の契約だ。なんの感情もない。
アルレットが婚約をしてひと月も経たずに、今度はシルヴィアに婚約話が持ち上がった。
『聞いて、お姉様! 私も婚約するのよ。お相手がどなたか聞きたいでしょう? なんと! 第二王子のルイス殿下よ!』
アルレットが特に返事をしなくても、シルヴィアは勝手にペラペラと話し続けた。
『すごいでしょう~? 羨ましいでしょう~? やっぱり私って、お姉様と違って可愛いし特別だから、こうなるんじゃないかってずっと思っていたのよ!』
シルヴィアは得意げに嫌味を言いながら、一人舞い上がっていた。
その様子を見ていたアルレットは、静かにため息をつくことしかできなかった。
それから半年後。
シルヴィアは、驚くべきことを言った。
『お姉様の婚約者、ちょうだい』
アルレットは、シルヴィアが最初、何を言っているのか理解できなかった。
『それは、私の婚約者のボドワン様のこと?』
『それ以外に誰がいるのよ?』
呆気に取られて何も言えないアルレットを気に留めることもなく、シルヴィアは話を進めていく。
『ボドワンもお姉様じゃなくて、私のほうがいいって言ってるの。私のほうが可愛いし身体つきも魅力的だし、性格もいいって! だから、しょうがないわよね~? 実は、身体の相性もぴったりなのよ』
(昔から自由奔放ではあったけれど、ここまで酷いなんて。いつの間にボドワン様と、そんな関係に……それに、身体の相性って……婚前にそれは、ちょっとまずいと思うのだけれど)
アルレットは思わずため息をつきながら、シルヴィアに問う。
『それって、浮気したってこと?』
『浮気じゃないわ、本気よ! これは運命なの! 二人は出会うべくして出会ったの。でも運命の悪戯で、私とお姉様の婚約者が逆になってしまっただけ。だ・か・ら、ボドワンのことは諦めてね!』
堂々と浮気宣言をし、何故か勝ち誇った顔で笑っているシルヴィアを見て、アルレットは頭が痛くなった。
『でも、シルヴィア。ルイス殿下はどうしたの?』
『あー……ルイス殿下ね。第二王子だし、最初は「私もついに王族の仲間入り!?」なんて喜んだけど。ルイス殿下って見た目はいいけど、中身がだめ。全然優しくないし怖いし厳しいし。正直私、無理無理~。全然気も合わないし。しかもよく考えたら、第二王子だから王位を継承できる可能性も低いじゃない? ということは、私が王妃になれるわけでもないでしょう。これって、なんの利点もないわよね? だから、もういらない~』
シルヴィアはサラリと恐ろしいことを言ってのけた。
(この子は、家を破滅させるつもりなのかしら……もし不義をはたらいたことが知られて、王族に婚約破棄などされれば……間違いなくクライン家は終わりね……)
なんとかシルヴィアを宥めようと、アルレットは必死に口を開いた。
『でも、性格が合わないだけで無理って……政略結婚なのに……』
『合わないだけ!? あのね、ルイス殿下ははっきり言って、普通じゃないから! 私が、どれだけ嫌な思いをしたか……』
(あなたも十分、普通ではないと思いますけど……)
アルレットはそう言いたかったが、口を閉じた。
何か言うとまた何倍にもなって返ってくるのは、明らかだ。
シルヴィアは、聞いてもいないのにルイスとのことを話し出した。
彼女は初めてルイスと会う日、目一杯お洒落をして、屋敷を訪ねたのだという。
そして執事に案内され客間に通されると、ほどなくしてルイスが姿を現した。
シルヴィアは気合いを入れて挨拶したにもかかわらず、当の本人は無反応。
その上、彼はシルヴィアから一番遠い場所に腰を下ろし、執事の淹れたお茶を啜りながら、本を読み始めてしまった。
シルヴィアは完全に自分を無視しているルイスに、怒りに震えた。
だが、彼女はここで怒るわけにはいかないと我慢し、その日は結局一言も話すことなく終わったそうだ。
別の日、シルヴィアは再びルイスの屋敷を訪れた。
彼女はルイスの視界に入るように正面に腰を下ろしたが、彼は全く彼女を見ようとしない。
あまりの対応に見かねた執事が、ルイスに何か話すように進言すると、彼は大きなため息のあと、こう言ったのだという。
『招待などした覚えはない』
何を言われたのかわからず放心状態のシルヴィアと、頭を抱えた執事を残し、ルイスは部屋を出たまま戻らなかった。
その後もシルヴィアは何度も屋敷を訪問したが、無視をされるか、冷たい言葉を浴びせられるだけだった。
やがて、シルヴィアは、ルイスの屋敷に行くのをやめたらしい。
『わかった!?』
ものすごい勢いの早口でまくし立て、シルヴィアはそう締めくくった。
相当怒っているのは理解できたが、だからといって人の婚約者と浮気していいわけがない。
アルレットが途方に暮れていると、両親が帰ってきた。
アルレットは彼らに事の経緯を説明した。
流石の両親もこれには驚き戸惑い、かなり焦っていた。
……だが、そんな両親をよそに、シルヴィアはさらに驚きの発言をした。
『いいこと思いついた! 交換すればいいのよ。お姉様の婚約者と私の婚約者を交換すれば、一件落着よ! ね、いい考えでしょう?』
シルヴィアの言葉に、アルレットは呆気に取られた。
しかし、両親はなんとその言葉に賛同したのである。
『こうなれば仕方がない。アルレット、そうしなさい』
そう言った父に、母も頷いた。
『お姉さんなんだから、交換してあげなさい』
(婚約者を交換って……無理がありすぎると思うのだけれど。しかも仕方がないって……)
アルレットは、唖然とすることしかできなかった。
この娘にしてこの親ありとは、まさにこのことだ。
どうしてこうも揃いに揃って、考えなしなのか。
クライン公爵家を破滅させるかもしれないのに、この期に及んで娘の我儘を優先させるなんて、流石にアルレットも思ってもみなかった。
驚きを通り越して、悲しくなった。
『……わかりました』
もうどうでもいい。アルレットは考えることを放棄した。
どうせ自分の言い分が通ることはないのだから。
そして、シルヴィアに婚約者を交換するように言われてから、ひと月が経った。
それから三日後には、ボドワンとの婚約を破棄し、ルイスと婚約をすっ飛ばして結婚した。
(あり得ない……)
両家への説明は両親が行ったようだ。
一体どのように説明をしたのかは知らないが、取りあえずクライン公爵家は無事だった。
(昔からお父様もお母様も、誤魔化すのは上手だから……)
アルレットは呆れながら苦笑いを浮かべる。
それにしても、シルヴィアが言うことが本当なら、これから夫婦として暮らす人は、冷たい人間なのだろう。
きっと我儘な妹の代わりとして、愛されることもなく、一生を終えるに違いない。
(……まあ、仕方がないわ)
アルレットは諦め、侍女一人付けられずにクライン公爵邸をあとにした。
――だがこの時、彼女はまだ知らなかった。
運命の歯車が大きく……動き出したということを。
第一章
アルレットは馬車を降りると、屋敷の前で立ち尽くしていた。
ここは、第二王子ルイスの屋敷の前。
ルイスは変わり者らしく、自ら城を出て、進んでこの屋敷に移り住んだそうだ。
ルイスには、あまりよい噂がない。
なんと、シルヴィアとの婚約の以前にも、何度か他の令嬢との婚約話が上がっていたらしいが、全て破談になったというのだ。
令嬢たちは、次々に急に不治の病になったり、消息不明になったりしたらしいが、多分婚約破棄するための嘘だろう。
シルヴィアと同じような目に遭わされたのかもしれない。
(嘘も方便とは言うけれど、そんなに嫌だったのかしら……それにしても相手は王子だというのに、女性側からの婚約破棄なんて許されるのね。もしかしたら、何か他にも理由があるのかも……)
なんだかアルレットは、急に不安になってきた。
アルレットは今日からルイスの妻になるが、まだルイスと面識がない。
一刻も早くボドワンと婚姻したいというシルヴィアの我儘のせいで日程が前倒しになり、多忙なルイスとの都合を合わせることができないまま、今日を迎えてしまった。
ルイスの父である国王マクシムには一度一人で挨拶に行ったが、ルイスの為人はわからないままだ。
ちなみに、シルヴィアは既に結婚し、ボドワンと暮らしている。
その上、どうやらお腹に子供がいるらしい。
シルヴィアがあの時、無理やり婚約者の交換を押し切った理由は、そこにあったのかもしれないと、アルレットは納得した。
(それにしても、婚前の貴族の娘が姉の婚約者と身体の関係を持ち、子をもうけるなんて前代未聞だわ。もはや感心してしまうわね……)
そう考えていると、突然男性の声がした。
「……アルレット・クライン様でございますか」
名前を呼ばれアルレットは我に返る。結構長い時間立ち尽くしていたようだ。
声の主を見ると、執事服を着た男だった。
アルレットは背筋を伸ばし、深呼吸をする。
「はい、アルレット・クラインです。本日よりルイス様の妻として、こちらにまかりこしました。よろしくお願いいたします」
「私はこちらで執事を務めております、ミランでございます。よろしくお願いいたします、アルレット様」
執事服の男性は、ミランというらしい。
彼は穏やかに微笑むと、アルレットを案内してくれる。
屋敷の中は、閑散としていた。淋しいと、アルレットは感じた。
(屋敷を見れば、ある程度は主人の性質が見えるというけれど……淋しい人なのかしら)
アルレットは辺りを見回しながら、ミランに問う。
「あの……屋敷に人がいないようですが……」
すると、ミランは苦笑いした。
「ええ、はい……うちの主人は人がたくさんいる環境を好まないので、城からついてきた者を皆解雇してしまいまして……今うちには私と、料理人しか使用人はおりません。アルレット様のお世話は、通いの侍女を雇いましたので、ご安心ください」
(やはり、気難しい方なのね……)
ほどなくして、ある部屋の前でミランは止まった。
彼が扉を叩くと「入れ」という低い声が聞こえる。
ミランはそれを聞いて、静かに扉を開けた。
「ルイス様、アルレット・クライン様をお連れいたしました」
「……今は忙しい。適当に屋敷を案内しておけ」
ルイスと思しき男性は、部屋の中で書類が山積みにされた机に向かっており、忙しそうだ。顔すら上げない。
表情は見えないが、兎に角威圧感がある。アルレットは息を呑んだ。
「……かしこまりました。アルレット様、こちらに……」
ミランはアルレットに、退室を促す。
しかし、アルレットはミランの横を擦り抜け、ルイスの前に立った。
これから夫婦としてやっていかなければならないのだ。夫を恐れている場合ではない。
「ルイス殿下、アルレットでございます。未熟者ゆえ何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、ご容赦くださいますようお願い申し上げます」
「……私は忙しいと言ったはずだが、聞こえていないのか」
ルイスは苛立ったように声を低くしたが、顔は上げない。
ルイスは第二王子とはいえ、アルレットだって高位貴族である公爵家の娘だ。
この対応は、あまりに無礼ではないか。
アルレットは眉をひそめると、語気を強めた。
「ルイス殿下も、聞こえていらっしゃらないのですか? 私はルイス殿下にご挨拶申し上げました。それを無視なさるのが、王族の嗜みなのでしょうか」
そこで初めてルイスは顔を上げ、アルレットを見た。
ルイスの鋭い視線にアルレットは怯むが、耐える。アルレットはルイスを真っ直ぐ見つめ返した。
しばらく、沈黙が流れる。
そんな中、先に口を開いたのは、意外にもルイスのほうだった。
「……ルイスだ。わからないことは、全てそこにいるミランに聞いてくれればいい。……それと、すまなかった。悪気はない。少し切羽詰まっていてな。終わったら、その、一緒に食事にしよう」
アルレットは呆気に取られた。
(怒られるのを覚悟で、嫌味を言ったつもりだったけれど、まさか謝られるとは思っていなかったわ……)
無意識に力んでいたらしい。気が抜けたアルレットは、その場にへなへなと崩れ落ちた。
「アルレット様!? いかがなさいましたか!?」
ミランが驚きの声を上げながら、アルレットを抱き留めようとした。
だが、それよりも早く、ガタンッという椅子を蹴倒す音とともにルイスが立ち上がり、アルレットに素早く駆け寄ると抱き留めた。
「あ……申し訳ありません。気が緩んだら身体の力が抜けてしまったようで……ルイス殿下?」
アルレットは、目を見開いた。
ルイスが、その瞳に心配の色を滲ませていたからだ。
「怪我はないか?」
「はい、ありがとうございます」
アルレットが答えると、ルイスは安堵したように息を吐いた。
「そうか……ないならいい」
ルイスが支えてくれるが、アルレットは身体に力が入らず、うまく立ち上がれない。
彼は暫し考える素振りを見せると、アルレットをひょいと横抱きにした。
「きゃっ……ルイス殿下!?」
「静かにしていろ。部屋まで運ぶ」
ルイスの手を煩わせたことと、抱きかかえられていることへの恥じらいによって、顔が熱くなる。それを隠すように、アルレットは顔を伏せた。
アルレットの心臓の音は自分でも驚くほど速く、大きく響いている。
緊張の中、そっとルイスを覗き見る。
(もしかしてこの方は、酷いだけの方ではないのかしら……)
アルレットには、そう思えた。
その後、アルレットはルイスに抱き上げられたまま、自分にあてがわれた部屋に移動し、休ませてもらうことになった。
ルイスは残りの仕事をこなすべく戻っていったため、アルレットはしばらくぼんやりと、新しい部屋で過ごした。
そして、すっかり気持ちが落ち着き、することもなくうとうとし始めた時、コンコンと扉が叩かれる。
慌てて返事をすると「アルレット様、夕食の準備が整いました」というミランの声が扉越しに聞こえた。
気付けば、もう夕刻になっていたらしい。
アルレットは部屋を出ると、ミランに食堂へと案内してもらう。
そして、食堂の大きなテーブルに並べられている料理を見て、驚愕した。
「どうかしたのか。遠慮はいらない。好きなだけ食べるといい」
そう言ったのは、先に席についていたルイスだ。
向かい側に腰を下ろし固まっているアルレットを、ルイスはじっと見つめる。
「は、はい。いただきます……」
ルイスの気迫に押され、アルレットは急いで前菜に手をつけた。
(美味しい……)
料理を口に入れた瞬間、そう感じた。
だが、ルイスが気になってしまい、あまり味わうことができない。
(それにしても、量がとても多いのね……)
この大きなテーブルいっぱいに並べられた食事は、アルレットとルイスのためだけに用意されたものだが、とても二人で食べきれる量ではない。
アルレットだって公爵家出身だ。実家で用意される食事の量も、確かに余るほどではあったが……流石にこれは、多すぎる。
(王族にとっては、これが普通なのかしら……)
アルレットは目を丸くすることしかできない。
「アルレット様、お口に合いますでしょうか」
アルレットが戸惑いながらも、食事を続けていると、ミランに声をかけられた。
アルレットは急いで笑顔を作ると、頷いた。
「は、はい。とても、美味しくいただいております」
「恐縮でございます。ルイス様、よかったですね」
何故かミランは、そう言ってルイスを見遣る。
「……」
だが、ルイスはミランには何も答えず、無言で食事を続けていた。
その光景のわけがわからず、アルレットが戸惑っていると、ミランが優しく微笑んだ。
「普段の品数は、この半分ほどなのです」
「え……」
意外な言葉に、アルレットは間抜けな声を漏らしてしまう。はしたないと、急いで手で口を覆った。
それを見たミランは、さらに笑みを深めると話を続ける。
「ルイス様が、アルレット様に嫌いな食べ物があるといけないので、できるだけたくさんの料理を用意するようにとおっしゃいましたので。これだけの数になってしまいました」
「ミランっ、余計なことは言うなと言ったはずだ」
先ほどまで我関せずという態度だったルイスが、焦って声を上げた。
主人の反論など気にしていない風情で、ミランはアルレットに礼をする。
「ルイス様は、寡黙ですし強面なので、一見するとぶっきら棒な人に見えますが、本当は優しい方なんですよ。ですから、アルレット様、ルイス様をどうかよろしくお願いいたします」
「ミラン……」
ルイスは、ニコニコと笑みを浮かべているミランを、すごい顔で睨んでいる。
(優しい……?)
アルレットは、目を逸らした。
ルイスには威圧感がある。別にアルレットが睨まれているわけではないのに、こっちまで怖くなるのだ。
(本当に、優しいのかしら……。確かに先ほど腰が抜けてしまった時は、抱きかかえて運んでくれたけれど……)
アルレットは、俯き気味にルイスを盗み見る。すると、頬が微かに赤くなっているように見えた。
(まさか……照れている、とか?)
ルイスは落ち着かない様子で、何度か咳払いをしている。
その様子を見て自分の予想は正しいと確信し、思わず笑いそうになってしまう。
「ルイス殿下」
「……な、なんだ」
アルレットが声をかけると、ルイスはしどろもどろに返事をした。
アルレットは、笑みを浮かべて彼を見つめる。
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「……じょ、女性に気を遣わせるなど、紳士の振る舞いではないからな。当然のことだ」
ルイスは吐き捨てるようにそう言うと、肉を口に放り込む。そして、ゴホゴホと咽せた。
ミランが慌ててルイスに水を差し出す。
「くすっ」
アルレットは、我慢しきれずに声を漏らしてしまった。ルイスの優しさが嬉しかったから。
ルイスは、もしもアルレットに好き嫌いがあった場合、無理をして食べる必要がないようにと、二人では到底食べきれないであろう品数を用意させたのだ。
あらかじめ好き嫌いを聞いても、遠慮して言えないだろうと思ったのだろう。
これだけの品数があれば、手を付けない品があっても不自然ではない。
ルイスの不器用な優しさを感じ、頬が緩むアルレットだったが、しばらくしてそれが失態であることに気付いた。
「も、申し訳ございませんっ。私ったらつい……」
「構わない、気にしていない。それと、今日からこの屋敷は君の家でもあるゆえ、そんなに気を張る必要はない」
ルイスの言葉に、アルレットは目を丸くする。
(思ったより普通の反応……怒られるかと思っていたのに)
アルレットは、おそるおそる口を開いた。
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