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しおりを挟むヴォルフラムはレナードの問いには答えず、先程までユスティーナが座っていたレナードの横に腰掛けた。
「彼女、かなり困惑して引いていましたよ」
弟は昔から単純で莫迦ではあったが、意地の悪さなどはなかった。だが今のレナードは見るからに底意地の悪い笑みを浮かべている。たった数ヶ月で人が変わった様に思えた。
「本性を知っても、彼女なら自分を受け入れてくれるなどと過信でもしていたんですか?」
「別にそんな事は、思っていないよ」
「嘘だ」
穏やかな話し方から一変して口調が強くなり、空気が張り詰めるのを感じた。
「貴方は過剰な程己に自信を持っている。私とは違って、昔から勉学も剣術にも秀でていて何だって出来た……私が望んでいたものを貴方は何だって持っていた。本当なら私がジュディットを娶りたかったのに、王太子だからという理由だけで貴方は彼女を手に入れた。しかも政略的なものだったにも関わらず、彼女は貴方を愛していた……。それなのに貴方は何時も何時も彼女を冷たく遇らっていましたよね。だから私は悲しむ彼女を放っておけなくて兄上の代わりに私が彼女に寄り添い続けた。それなのに貴方は……最後にはそんな彼女をワザと見殺しにしたんだ!しかも今度はジュディットのみならず、ユスティーナまでもを私から奪った!本当に酷い人だ、酷過ぎるっ、まるで悪魔の様だ!……だが、ようやく報いを受ける時がきたんです」
「報い?」
「あの日、私は気付いたんです。貴方がオリヴィエ家ではなくユスティーナと言う一人の人間に執着しているのだと。そうでなければ自分本位な兄上が命を掛けてまで彼女を助けに行ったりはしない。だからこそ貴方から彼女を奪う事は何よりも報復になる。今頃彼女は貴方の本性を知り幻滅している筈だ。次ユスティーナと会った時、きっと彼女からは軽蔑の眼差しを向けられるでしょうね、実に愉しみだ!……ははっ嫌われてしまいましたね、兄上」
途中から興奮しきった様子のレナードは立ち上がりヴォルフラムの前へ立つと、高笑いをしながら見下ろしてきた。そして自分の言いたい事を言い終えたレナードは、ヴォルフラムの言葉も待たずにさっさと踵を返す。
「兄上に騙されて可哀想なユスティーナ……私が彼女を慰めてあげなくては……心身共に傷付いた彼女にはもう私しかいない……ユスティーナは私が幸せにする、私だけがユスティーナを……」
独り言の様にブツブツと呟きなからレナードは去って行った。一人になった裏庭でヴォルフラムは暫く座ったまま呆然としていた。
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