30歳処女、不老不死になりました

折原さゆみ

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58思わぬ出来事

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 実乃梨たちが関与した事件以降、不老不死の女性が殺害されることはなかった。不老不死の女性の最後の犠牲者は、皮肉にも永徳の婚約者となった。とはいえ、永徳の婚約者は永徳と同級生であり、年は今年で三十歳。見た目と年齢が変わらないため、犯人が標的を間違えたのだと指摘された。


 和音がいなくなり、不老不死の女性が殺害されなくなって二カ月が経過した。永徳の護衛は未だに続いていた。相沢も相変わらず、実乃梨の会社で働いていた。実乃梨は二人の罰をいまだに実行できずにいた。

「うう、気持ちが悪いです」

 仕事をしていると、相沢が突然、口元を押さえ始めた。顔色が真っ青で体調が悪いことが伺える。

「すいません。相沢さんの体調が悪いようなのでお手洗いに付き添ってきます」

 ここで戻されてはかなわない。とりあえず、相沢をこの場から引き離すために手を貸すと、おとなしく実乃梨の手を借りて相沢が席を立つ。

「ううううう」

 お手洗いにたどりつくと、相沢は急ぎ足で個室に駆け込んだ。その後に相沢のうめき声と戻す音が聞こえてくる。そのまま一人、お手洗いに残しておくわけにもいかず、しばらく実乃梨はその場で相沢が落ち着くのを待つことにした。


「お見苦しいところをお見せしてすいません。戻したら、だいぶ良くなりました」

 しばらくすると、相沢が個室から出てきた。顔色はいまだに悪く、このまま仕事を続けられる状態ではない。

「顔色が真っ青ですよ。今日はもう、早退した方がいいです。たまっている仕事はないですよね。今日は家に帰って休んだ方が」

「い、いえ大丈夫です。最近、ずっとこんな調子ですから。どうにも食欲がなくて、ダルイ感じが続いていて。それから、吐き気もたまに……」

 相沢が話す内容に違和感を覚える。今まで彼女がそこまで体調が悪かったことはない。持病があるわけでもないのに、体調を崩しているのはなぜか。



「そういえば、生理が来ていないかもしれません。あれ、これってもしかして」

 急に思い出したかのようにつぶやく相沢だが、自分の発言で体調が悪い理由を思いついたようだ。実乃梨も彼女の言葉でなんとなくだが、理解した。

「そういえば、相沢さんは、あの男と……」

「いやいや、そんなことあるはずが。いや、でもあの時は」

 頭を抱えてうずくまる相沢だが、その顔には焦りの色が見えていた。顔色が更に悪くなり、青白くなっていた。とにかく、今日は相沢を早退させた方がいい。

「まずは、家に帰って休みなさい。身体に気を付けた方がいいでしょう?最近の身体の不調の理由に心当たりがあるみたいだから。よかったわね。不老不死から解放されたと思ったら」

 おめでたなんて。

 最後の言葉はさすがに不謹慎だと口に出すことはなかった。きっと、相沢は不老不死から解放されたいとは思っていても、それ以上のことは望んではいなかったのだろう。だとしたら、これは最悪の事態となってしまったともいえる。

 その後、二人で事務所に戻ったが、相沢のあまりの顔色の悪さに、彼女はすぐに早退することになった。



「先輩も私の不調の原因に気付いてしまったと思いますが、私、本当に」

『妊娠していました』

 定時になり、仕事を終えて会社を出て駐車場に向かいながら、スマホのチェックをしていると、相沢から一件のメッセージを受信していた。

「おめでとう」

 これが相沢にとっておめでたいことなのか、新たな地獄の始まりなのかはわからない。しかし、新しい命が相沢の身体に宿ったのだ。とりあえず、実乃梨はお祝いの言葉とともに、ケーキのスタンプをつけて返信する。

「ありがとうございます。まだ、慎吾さんには伝えていないので、先輩の口から私の妊娠を伝えないでもらえますか?」

 すぐに既読マークがついて返信がくる。永徳は仕事中で、伝えていないのだろうと軽い気持ちで考え、実乃梨は「わかりました」とメッセージを送った。

 空をふと見上げると、春に近づいているのか、定時に会社を出たにも関わらず、夕焼けがきれいに見えていた。身体に当たる風も冬の頃のような冷たい風ではなく、少し暖かみのある風が吹いていた。

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