汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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10ユニホーム問題①

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「ねえ、お姉ちゃん。このスポーツ選手のユニホームどう思う?もはや、下手な異世界の破廉恥衣装となんら変わらないよね?むしろ、現実世界と二次元がごっちゃになっているよね?」

「何を言っているのか意味不明……。いや、そうとも言えないの、か?」

 妹の陽咲のよくわからない発言があったのは、10月の半ばのことだった。週明けに定期試験を控えた週末、自分の部屋で試験勉強をしていたところに、突然、妹がやってきた。ノックもなしに突然、人の部屋に入ってくるのはよくあることなので、今更気にしても仕方ない。ただ、よくわからない発言を無視するわけにはいかなかった。

 妹は私に自分のスマホを突きつけてきた。スマホの画面に映っていたのは、女子の陸上選手の写真だった。それだけ見れば、妹がこの選手のファンで、何かの大会で良い成績を残したから、姉にもその喜びを共有したいから見せてきたともいえる。しかし、妹は確か、スポーツに興味はなく、わざわざスポーツ選手の写真を見せにくる理由がわからない。

「さすがお姉ちゃん。この写真の違和感に気付くなんて、なかなかのものですな。そう、この写真にはおかしな点があるのです!」

 私がこぼした言葉に妹は嬉しそうに微笑んだ。改めて、スマホに映し出されている写真を眺めてみる。陸上選手で、ユニホーム姿の女性が試合後のインタビューを受けている様子を映したものだった。

「この写真単体だとわかりにくいかもしれないので、もう一枚写真を準備しました!」

「なんか、その話し方、イラつくんだけど、普通に話してくれない?」

 いったい、私に何を期待しているのかわからないが、陽咲はスマホをいじり、違う写真を画面に表示させる。

「じゃあ、今映っている写真と、さっきの写真を比較して気付いたことはない?なんでもいいよ」


 話し方は普通に戻したが、どうしても私に写真を比較してもらいたいらしい。そもそも、今は試験期間中で、本来ならこんなくだらないことにつき合っている暇はない。陽咲だって勉強しなくてはいけないはずだ。まあ、ちょうど勉強に行き詰っていたから、休憩くらいにはなるだろう。


「ええと、そうだなあ。根本的なところから言うと、写真に写っている人間の性別が違う」

 まずは無難に違いを述べていくことにした。最初に見せてもらったのは女性の陸上選手だった。スポーツブラをしているだけのような布切れに、ホットパンツをはいているかのように短い丈の布切れをまとった、はたから見たら破廉恥極まりないユニホームを身に着けた女性が、画面の中でにっこりとほほ笑んでいた。

 もう一枚の写真は男性の陸上選手だった。私も中学生時代に来たことのある、タンクトップにホットパンツの短い丈の布切れ、しかしその下には膝丈ほどの黒いスパッツを履いていた。こちらは昔から変わらない陸上選手のユニホーム姿だった。私としては、こちらの方がなじみのあるユニホームである。

「あとは、ユニホームが男女で違うところ?」

「完璧な答えをありがとうございます!さすがお姉さま。良いところに気付きました」

 私の答えは妹の期待に沿えるものだったらしい。大げさなくらいに褒めてくれたが、ちっともうれしくはない。そんな簡単な違い、誰でも気付くと思う。

「それで、それが何だっていうの?ていうか、部屋に入って最初に話していたことに関係があるってことだよね?」

 部屋に入っていた時にこぼしていた言葉を思い出す。確か、現実世界と二次元がごっちゃになっているとかなんとか言っていた気がする。それと何か関係があるということだろう。

「お姉ちゃんはちなみに、どっちのユニホームで走りたい?」

「どっちもいや」

「私も嫌だよ。だとしても、どっちかって言われたら?」

 妹の唐突な質問に、私はすぐに否定の言葉が口から出てしまった。中学生時代には部活でお世話になったユニホームだが、今の私には不要なものであり、着ることなど一生ないだろう代物だ。

「まあ、私ももう、こんなユニホームを着て走りたくはないけどね。でもさあ、この2枚の写真を見て思わない?どうして、女性の方のユニホームの布切れがこんなに少なくなっているのか」



「トントン」

 このタイミングで私の部屋がノックされた。ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、母親だった。手にはお盆があり、飲み物を持ってきてくれたことがわかる。しかし、陽咲がこの部屋にいる時を見計らったかのように持ってくるのはやめてほしい。この後の彼女たちの行動が読めてしまい、げんなりとした気分になってしまう。

「気分転換にお茶でも飲んだらいいかなと思って持ってきたんだけど、お邪魔だったかな?」

「別に『私の話を聞いて!ちょうどいい機会だから、お母さんにも意見を聞きたい』」

 私の言葉は妹に遮られる。陽咲が母親に意見を求めるのは、大抵、くだらないことが多い。今回の件も私にとってはくだらない部類に入るので、陽咲の暴走を止めようかと思ったが。

「いや、別に止める必要もないか。むしろ、母親に聞いてその後に父親に聞くのもアリかもしれない」

「お姉ちゃんも私の考えを理解してくれたと思っていいのかな?」

「まあ、今回に限っては」

「何々。二人で何を話していたの?」

 私たちの会話を聞いていた母親が会話に割り込んでくる。止める理由がなくなったので、視線で妹に今の話題を話せばいいとアイコンタクトを送る。妹は頷いて母親に話題を提供する。

「この2枚の写真を見て、お母さんはどう思う?」

 先ほど私が見た2枚の写真を母親に見せる陽咲。そういえば、どうして唐突にこんな写真を私に見せつけてきたのだろうか。

「ところで、どうしてそんな写真を私に見せつけてきたの?陽咲は部活反対派だったよね。陸上部でもないし、陸上競技に興味があるわけではないでしょう?」


「陽咲もこの写真に違和感を持っていたのね。これは私も気になっていたの。ゆうの君も気になっていたみたいよ」

 私の言葉はスルーされてしまった。そして、まさかの母親の気になっていた発言。さらには父親も同じ思いをしていたとのこと。これは、私だけ仲間外れのパターンだろうか。いや、別にそれは構わないのだが、この写真の何が気になるのか。

「へえ、お母さんとお父さんもかあ。じゃあ、今日はこの話で盛り上がれそうだね」

 にっこりとほほ笑んでいたが、陽咲の瞳の奥はまったく笑っていなかった。自分で着るわけではないのに、どうしたことか。

 今日の夕食での家族の会話が目に浮かぶ。ものすごいヒートアップして大変なことになりそうだ。しかし、それを楽しみにしている私がいるのに気付き、心の中で苦笑した。

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