汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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12女性が頑張る日?①~2月某日~

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「ねえ、もうすぐあの日が来るけど、なんか準備する?」

 年が明けた1月の終わり、突如こなでが発した言葉により、私たちのグループに緊張した空気が流れた。昼休みということもあり、私と芳子、こなで、隣のクラスの陽咲と麗華で昼食を取っていた時のことだった。

「あの日って?」

 純粋にこなでの言葉の意味がわからないのか、麗華が首をかしげていた。しかし、それ以外のメンバーは、彼女のさす『あの日』のことがいつのことなのか、すぐに理解した。しかし、私たちには関係のない日だと思っていた。

「麗華って、本当に天然だよねえ。まあ、そんなところも素敵なところだけど」

「そうそう。喜咲と一緒で、このままその天然さは維持してね」

「そういう喜咲さんはどうやら、何の日か気付いているようですが」

 私たちに生暖かい視線を向けられた麗華は、自分だけが知らないことに気付くと、顔を真っ赤にしてしまった。見た目は男装の麗人に見える彼女の姿からのギャップにきゅんとしてしまう。おそらく、私以外も同じことを思っているはずだ。ちらりと周りの様子をうかがうと、予想通り、顔が緩んでいた。

 それにしても、麗華と私を一緒にしないでほしい。麗華は純粋な天然で可愛らしいところもあるが、私は天然ではないし、可愛いと言われる要素はない。訂正しようとゴホンと咳ばらいをして、ついでに麗華に答え合わせをしようと口を開く。

「当たり前でしょう?こなでが言いたいのは、『バレンタイン』。2月14日のことだよね。麗華、気付かなくても別にいいんだよ。だって、バレンタインなんて、知らなくても別にどうってことないから。麗華のそういうところが陽咲たちに褒められているんだからね。ちなみに、私は麗華みたいに可愛くないから、そこは間違わないで」

 一気に言いたいことを口にした私は、そこで一息つく。周りからの反応はどうかと視線を挙げると、先ほどまでより、さらに生ぬるくなった温度の視線が待ち受けていた。しかも、麗華に向けられることはなく、私一人に視線は集中していた。

「ねえ、陽咲さん。今の喜咲さんの発言、どう思います?何気に麗華をディスっていますよね。それに、私の間違いではないのなら、2月某日を楽しみにしている人もディスっていますよね。もしかして、バレンタインという神聖な日に、誰か親しい人を失くされたんでしょうか」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。芳子さん。彼女はただ、自分が可愛いと言われることに慣れていないんで、つい憎まれ口をたたいているだけです。某バレンタインデーについては、そうですね。親しい人を失くされたというのは、あながち間違いではないのかもしれません。ただ、この件については、本人もかなりのトラウマとなってしまっているので、こんな大勢の場で話すのははばかられます」

「そうなんですね。では、私が皆を盛り上げようと取り上げた話題が間違っていたということですね。これは失礼しました」

「そんな悲しい事情があったなんて知りませんでした」

 なんだか、失礼な会話が繰り広げられている。別に私はバレンタインに親しい友を失くした覚えはない。そもそも、可愛いという言葉に慣れているのは、芸能人か何かだろう。それ以外で慣れているとしたら、異性にモテモテの女性に違いない。


「陽咲、いい加減にしなさいよ。これ以上、変なこと言ったら」

『言ったら?』

 陽咲に説教するつもりで声をかけたのに、なぜかその場にいる全員に期待を込めた瞳で見つめられてしまう。いったい、私の言葉に何を期待するというのだろうか。面白い言葉を言えるほど、語彙力が高いわけでもない。

「もういい。陽咲、さっさと教室に戻れ。もう、昼休みが終わるから」

 とはいえ、ここで何を言っても、彼女たちには面白いネタとして脳内で処理してしまうだろうことは簡単に予想できた。そんなことになってしまえば、彼女たちの思うつぼだ。教室の壁にかけられた時計を確認すると、もうすぐ昼休みが終わるという時刻だった。

「ええええ!お姉ちゃん、そこはツンデレ対応してよ。『そ、そんなことないんだからね。べ、別にバレンタインの日に、親友が私の好きな人に告白して、付き合うことになったとか、ないんだからね。勘違いしないで!』とか言ってよ」

「なっ!」

「ひさきっち、お姉ちゃんをからかうのはそれぐらいにしたら?さすがにそんな二次元みたなことがないことくらい、私たちだってわかるから」

「そうそう。そんな面白案件が見たいなら、そこの帰国子女を見ればいいよ」

「さすがに、その展開はテンプレ過ぎな気がします」

 私に視線が集中していたのが、陽咲の発言によって、彼女に移動した。まさか、姉が標的になっていたのに、次は自分に回ってくるとは思わなかったのか、珍しく、妹はあたふたと慌て戸惑いだした。

「い、いやいや、何もそこまで言わなくても、ここは王道なツンデレ一択でしょ。ま、まあ、多少話は盛ったところがあるけど、じ、事実だし。ね、ねえお姉ちゃん」

「さあ、どうだろうねえ」

「ひどいいいい」


 ここで、昼休み終わりのチャイムが教室に鳴り響く。そのため、陽咲のウソ泣きはチャイムに紛れてしまった。麗華が仕方なさそうにため息を吐き、机に突っ伏す陽咲を無理やり立たせる。

「お騒がせしました。教室に戻ります」

「最近、麗華の態度が冷たい」

「好きな人だからと言って、甘やかすのはやめました」

 いつの間にか、たくましい女性へと成長していた麗華である。そんな彼女に妹の陽咲を任せておけば安心だ。私たちは手を振るだけに留め、麗華と、いやいや引きずられていく陽咲を見送るのだった。
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