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12女性が頑張る日?②~それぞれの認識~
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「ねえ、今年のバレンタインはどうするの?」
夕食の時間、突然、母親が私たちに問いかける。昼間にしていた話題がまた家でも持ち上がることに嫌気がさしたが、答えないわけにもいかない。
「どうって、今まで通りだよ。とりあえず、何か簡単なお菓子でも」
「今年は、麗華たちと一緒に家で作ることにしたから!友達とチョコづくりなんて、青春って感じでしょう?だから、その週の日曜日は、彼女たちを家に連れてきてもいい?」
私の言葉を途中で遮ったのは、もちろん、妹の陽咲だ。昼休みにそんな話は一言も出てこなかった。私が知らない間に話がまとまったのだろうか。いや、まとまったとしても、私と陽咲は姉妹で一緒に家に住んでいるわけだから、私の許可も必要なはずだ。
「そうなの!それはいいわね。友達とお菓子作りとかいいわねえ。私も学生時代にやりたかったわあ」
「でも、雲英羽さんは確か、お菓子作りとか苦手だったよね。僕とのお見合いでそんなこと言っていなかった?」
母親は陽咲の言葉に嬉しそうにしていたが、そこで余計な一言を言ったせいで、今度は父親が会話に参戦してくる。ちなみに今日の夕食はシチューで、もし、口論が激しくなっても、白いしぶきが飛ぶだけだ。特に問題はない。
「そ、それは、まあ……。別にお菓子作りが苦手とかではなくて、ええと、その……。なんていうか……」
40歳を越えた女性があたふたと戸惑う姿を見ても、何とも思わない。なぜ、そこまでうろたえているのか、理解できずについ口をはさんでしまう。
「うすうす感じていたけど、もしかして、お母さんって、友達もいなければ、好きな人とかもいなか」
『ストーップ!』
またしても私の言葉は途中で遮られる。陽咲と父親である。二人の息の合ったハモりに呆れてしまう。最近、最後まで話させてもらえないことが多い気がする。親しい仲にも礼儀あり。人の話は最後まで聞くべきだと思うが、私の周りの人間は常識をどこかに置いてきてしまったらしい。
「そこまでにしないと、お母さんが泣き出しちゃうから。そんなこと、私たち家族は知っているでしょう。暗黙の了解ってやつで、口にしちゃだめだって。全く、お姉ちゃんはこれだから天然だって言われるんだよ。空気を読みなよ」
「今回ばかりは陽咲ちゃんの言う通りだね。人間、わかっていても口にして良いことと、悪いことがあるんだよ。今回は後者ってことだね」
「うううう。喜咲ちゃんの言葉が逆に軽く感じるくらいに、悠乃さんと陽咲ちゃんの言葉が開いた傷口に染みる……。ま、まあ、そう言うことだから、お母さんは、陽咲ちゃんの友達を家に呼んで、一緒にバレンタインのお菓子作りをすることに賛成よ」
いまだにウソ泣きをやめない母親の言葉にため息が出る。とはいえ、自分が先ほど発した言葉は、母親の古傷をえぐるものだったかもしれない。今でこそ、こうして家族4人でワイワイと楽しい毎日を過ごしているが、子供時代の彼女のことなど知る由もない。もしかしたら、辛い人生だったかもしれないのだ。そこは反省して、謝罪の言葉を口にする。
「お母さん、さっきはごめん。お父さんたちの言う通り、言いすぎたかも、人それぞれ、事情があるのも気付かずに」
「気にしないで!別にそんなこと、今更だしね。そもそも、私、『リア充は敵』という精神が昔はすごかったから、実はそんなに気にしてないから!」
「え、演技だったと」
「まあ、喜咲がかわいかったからつい、ね?」
やはり、くそな母親である。まったく、毎回こんな感じにからかわれてはたまったものではない。どっと疲れが出てきて、食事中だというのに、つい、机に突っ伏してしまう。
「お母さん、たくましいね。私、お母さんのバレンタインの話し、もっと聞きたいかも」
「私の話を聞いても、面白くないわよ。どうせなら、悠乃さんの話を聞いたら?ほら、お父さんって、今でも女生徒から人気絶大でしょう?今でさえ、モテモテなら、昔はさぞ、チョコもたくさんもらったということも……。ゆうの、さん?」
何やら、母親の様子がおかしい。言葉の最後が尻すぼみに小さくなっている。顔を上げると、顔が青白く変色して、なんだか震えている。いったい、何事だろうと思っていると、すぐに原因が判明する。一人だけ、どす黒いオーラを出した人間がいた。
「雲英羽さん、雲英羽さんはエムなのかな?僕に怒られたいから、そんな発言するの?」
「いやいや、そんなことは……」
『ご、ごめんなさい!』
なぜか、母親だけでなく、私たち女性陣三人は、汐留悠乃に土下座して謝っていた。父親にとって、バレンタインとはよくない思い出の塊のようだ。
「まるで二次元の男のようだ」
「お姉ちゃん、こんな非常事態でも、脳みそ正常運転だね。私も同意だけど」
「それでこそ、私たちの娘。事実、悠乃さんは二次元から出てきたような王子様だから」
『それは微妙』
床に頭をこすり合わせながらも、こそこそと私たち女性陣三人は会話をしていた。そもそも、父親が本気で怒ったところは見たことはない。父親に手を挙げられた記憶もないので、今のどす黒いオーラも怒ってはいるが、特に問題はないと私たちは思っていた。
「まったく、雲英羽さんの性格に似て、僕の娘二人もしたたかな性格をしているね。これじゃあ、怒っている僕が損している気分だ。顔を上げて。もう、怒っていないから」
『ハイ』
恐る恐る私たちが顔を上げると、すでにいつも通りの笑顔の父親の姿があった。母親に手を貸し起き上がらせる。私たちも席に戻る。
「うふふふふ」
なんだか楽しい気分になってきた。私が微笑むと、他の家族も互いに目配せして同じように微笑む。
「バレンタイン、楽しみだね。まあ、私たちに彼氏はまだいないけど」
「そうだね」
陽咲の言葉に大いに頷く。私たち娘の言葉に両親も同意のようだ。高校生になって彼氏はどうとか、無粋な質問をするような両親ではなかった。そのまま和やかな雰囲気で夕食の時間は過ぎていった。
夕食の時間、突然、母親が私たちに問いかける。昼間にしていた話題がまた家でも持ち上がることに嫌気がさしたが、答えないわけにもいかない。
「どうって、今まで通りだよ。とりあえず、何か簡単なお菓子でも」
「今年は、麗華たちと一緒に家で作ることにしたから!友達とチョコづくりなんて、青春って感じでしょう?だから、その週の日曜日は、彼女たちを家に連れてきてもいい?」
私の言葉を途中で遮ったのは、もちろん、妹の陽咲だ。昼休みにそんな話は一言も出てこなかった。私が知らない間に話がまとまったのだろうか。いや、まとまったとしても、私と陽咲は姉妹で一緒に家に住んでいるわけだから、私の許可も必要なはずだ。
「そうなの!それはいいわね。友達とお菓子作りとかいいわねえ。私も学生時代にやりたかったわあ」
「でも、雲英羽さんは確か、お菓子作りとか苦手だったよね。僕とのお見合いでそんなこと言っていなかった?」
母親は陽咲の言葉に嬉しそうにしていたが、そこで余計な一言を言ったせいで、今度は父親が会話に参戦してくる。ちなみに今日の夕食はシチューで、もし、口論が激しくなっても、白いしぶきが飛ぶだけだ。特に問題はない。
「そ、それは、まあ……。別にお菓子作りが苦手とかではなくて、ええと、その……。なんていうか……」
40歳を越えた女性があたふたと戸惑う姿を見ても、何とも思わない。なぜ、そこまでうろたえているのか、理解できずについ口をはさんでしまう。
「うすうす感じていたけど、もしかして、お母さんって、友達もいなければ、好きな人とかもいなか」
『ストーップ!』
またしても私の言葉は途中で遮られる。陽咲と父親である。二人の息の合ったハモりに呆れてしまう。最近、最後まで話させてもらえないことが多い気がする。親しい仲にも礼儀あり。人の話は最後まで聞くべきだと思うが、私の周りの人間は常識をどこかに置いてきてしまったらしい。
「そこまでにしないと、お母さんが泣き出しちゃうから。そんなこと、私たち家族は知っているでしょう。暗黙の了解ってやつで、口にしちゃだめだって。全く、お姉ちゃんはこれだから天然だって言われるんだよ。空気を読みなよ」
「今回ばかりは陽咲ちゃんの言う通りだね。人間、わかっていても口にして良いことと、悪いことがあるんだよ。今回は後者ってことだね」
「うううう。喜咲ちゃんの言葉が逆に軽く感じるくらいに、悠乃さんと陽咲ちゃんの言葉が開いた傷口に染みる……。ま、まあ、そう言うことだから、お母さんは、陽咲ちゃんの友達を家に呼んで、一緒にバレンタインのお菓子作りをすることに賛成よ」
いまだにウソ泣きをやめない母親の言葉にため息が出る。とはいえ、自分が先ほど発した言葉は、母親の古傷をえぐるものだったかもしれない。今でこそ、こうして家族4人でワイワイと楽しい毎日を過ごしているが、子供時代の彼女のことなど知る由もない。もしかしたら、辛い人生だったかもしれないのだ。そこは反省して、謝罪の言葉を口にする。
「お母さん、さっきはごめん。お父さんたちの言う通り、言いすぎたかも、人それぞれ、事情があるのも気付かずに」
「気にしないで!別にそんなこと、今更だしね。そもそも、私、『リア充は敵』という精神が昔はすごかったから、実はそんなに気にしてないから!」
「え、演技だったと」
「まあ、喜咲がかわいかったからつい、ね?」
やはり、くそな母親である。まったく、毎回こんな感じにからかわれてはたまったものではない。どっと疲れが出てきて、食事中だというのに、つい、机に突っ伏してしまう。
「お母さん、たくましいね。私、お母さんのバレンタインの話し、もっと聞きたいかも」
「私の話を聞いても、面白くないわよ。どうせなら、悠乃さんの話を聞いたら?ほら、お父さんって、今でも女生徒から人気絶大でしょう?今でさえ、モテモテなら、昔はさぞ、チョコもたくさんもらったということも……。ゆうの、さん?」
何やら、母親の様子がおかしい。言葉の最後が尻すぼみに小さくなっている。顔を上げると、顔が青白く変色して、なんだか震えている。いったい、何事だろうと思っていると、すぐに原因が判明する。一人だけ、どす黒いオーラを出した人間がいた。
「雲英羽さん、雲英羽さんはエムなのかな?僕に怒られたいから、そんな発言するの?」
「いやいや、そんなことは……」
『ご、ごめんなさい!』
なぜか、母親だけでなく、私たち女性陣三人は、汐留悠乃に土下座して謝っていた。父親にとって、バレンタインとはよくない思い出の塊のようだ。
「まるで二次元の男のようだ」
「お姉ちゃん、こんな非常事態でも、脳みそ正常運転だね。私も同意だけど」
「それでこそ、私たちの娘。事実、悠乃さんは二次元から出てきたような王子様だから」
『それは微妙』
床に頭をこすり合わせながらも、こそこそと私たち女性陣三人は会話をしていた。そもそも、父親が本気で怒ったところは見たことはない。父親に手を挙げられた記憶もないので、今のどす黒いオーラも怒ってはいるが、特に問題はないと私たちは思っていた。
「まったく、雲英羽さんの性格に似て、僕の娘二人もしたたかな性格をしているね。これじゃあ、怒っている僕が損している気分だ。顔を上げて。もう、怒っていないから」
『ハイ』
恐る恐る私たちが顔を上げると、すでにいつも通りの笑顔の父親の姿があった。母親に手を貸し起き上がらせる。私たちも席に戻る。
「うふふふふ」
なんだか楽しい気分になってきた。私が微笑むと、他の家族も互いに目配せして同じように微笑む。
「バレンタイン、楽しみだね。まあ、私たちに彼氏はまだいないけど」
「そうだね」
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