汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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12女性が頑張る日?③~悪しき風習~

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 あっという間に、バレンタインを週明けに控えた日曜日となった。私と陽咲、芳子にこなで、麗華のいつものメンバーはお菓子の材料を買いに、ショッピングモールを訪れていた。

「それにしても、喜咲たちの親って優しいわよね。私たちの買い物につき合って車を出してくれるなんて。普通、勝手にしなさいとか言って、付き合わないでしょ。私たち、もう高校生だよ」

「私もびっくりした。でも、仲がいいのは言いことじゃない?」

「羨ましい限りです」

『そう?』

 バレンタインのお菓子を彼女たちと作るという話は、陽咲に問い詰めたら、勝手に自分で決めたということだった。次の日、彼女たちに事後報告をしていたので、わが妹ながら自分勝手な奴である。しかし、特に彼女たちに異論はなかったので、今こうして一緒に買い物をしているわけだ。

 それにしても、毎回のように私たちの両親を褒められるが、私と陽咲は特になんとも思わない。彼らの普段の言動がいまいちなので、それと子供思いの行動が相殺されてしまい、私たちの中で、プラスマイナスゼロとなっているのかもしれない。

「今日は、確かチョコブラウニーを作る予定だよね」

 いつまでも立ち止まって話しているわけにはいかない。私たちは製菓コーナーに向かい、さっそく材料をかごに入れていく。作るお菓子は陽咲が勝手に決めていたが、私は別にこれと言って作りたいものはなかったので反対はしなかった。驚いたことに、芳子たちも陽咲の言葉に文句ひとつ言わなかった。

「私、実は本格的なお菓子を家で作ったことがないから、今日は本当に楽しみにしていたんだ。私って不器用だから、いつもの年は、ホットケーキミックスでカップケーキを作るのが精いっぱいで」

 恥ずかしそうに自分の不器用さを伝えるこなで。

「私はそもそも、お菓子作りって性格じゃなくて、いつもの年は売っているチョコを買って食べていました」

 お菓子は作らないという麗華。

「意外な事実だね。私も面倒くさいから、麗華と同じかな。ああでも、部活の男子にあげるとかいう悪習に逆らえずに、中学の頃は、そこだけは手作りしたかな」

 さらりと悪習と言い放つ芳子。

「なるほど。私たちの場合は、私がおかし作りたい人だから、お姉ちゃんと一緒に毎年作っているよ」

 会話をしながらも、陽咲の手は製菓用のチョコレートや砂糖などを次々にかごに入れていく。スマホを片手に会話にも参加して、器用なものだ。

 そのまま無事に会計を済ませ、お昼もショッピングモールで済ませることにした。スマホで両親からのメッセージを確認すると、両親も別の場所でお昼を取ることにしたようだ。

「親も昼はこの辺で取るから、食べ終わったら駐車場に集合だって」

『了解』

 お菓子を作るため、昼食は和食ということになった。高校生が払える金額なんてたかが知れている。回転ずしの店に入って、好きなものを取っていく。昼頃ということで、店内は込み合っていたが、ちょうど入れ違いに会計をしていた客がいたため、すんなりと店内に入ることができた。

「ああ、やっと座れた」
「久しぶりにヒールがある靴はいてきたから、足が疲れた」
「たまにはおしゃれしなきゃと思ったけど、やっぱり無理だわ」
「買い物って、意外に疲れますよね」

 席に着くと、陽咲を筆頭にぐったりと足を延ばしていた。よく見ると、彼女たちの服装には気合が入っているように見えた。こなでは言葉通りにヒールが5cmほどのショートブーツを履いているし、芳子もファーが付いたもこもこのパーカーに灰色のロングスカートに膝丈までのロングブーツを履いている。麗華も珍しくスカートを履いていた。

 かくいう私たちは、いつも通りの私服だった。おそろいコーデは顕在で、ベージュのパーカーに紺色のガウチョパンツを合わせ、下はスニーカーである。

「とはいえ、ぐでぐでしている暇はないから、さっさと腹ごしらえをしましょう!」

 芳子の言葉に賛成だ。私たちは各自、それぞれに気に入ったネタをどんどん頼み、腹に入れていくのだった。芳子はマグロ、こなではサーモン、麗華はえび、私と陽咲はぶりという、好みが結構違っていた。

「結局、今日は何を作るつもりなの?」

 昼食を終え、駐車場に向かうと、すでに両親は車の中で待っていた。車には大きな紙袋が置かれていたが、両親も買い物をしたのだろう。何を買ったのか少し気になったが、母親の質問に先に答えることにした。

「チョコブラウニーだけど」

「ふうん」

 聞いたくせに、あまり興味がなさそうな返事をした母親は、父親に車を発進させるよう伝える。私の家には車が2台あり、母親と父親がそれぞれ通勤用に使っている。今日は大人数ということで、ワンボックスのファミリーカーで移動している。私たちは家に帰ることにした。



 お菓子作りは滞りなく進んだ。不器用だと事前に報告していたこなでは、私たちの邪魔にならないように気を遣っていたし、麗華も芳子もお菓子作りはしないと言っていた割に、陽咲の指示にてきぱきと従っていた。

 ブラウニーをオーブンに入れて焼いている間は特にやることがないので、少し休憩をはさむことにした。私たちはリビングのソファに移動した。

「そういえば、芳子が言っていたけど、バレンタインにある『悪しき風習』って、本当に謎だよねえ」

 何か話題をと考えていると、こなでがショッピングモールでの芳子の言葉を持ち出した。気になってはいたが、そんな悪いものだという認識はなかった。面倒ではあるがバレンタインというイベントだから仕方ない、くらいにしか考えていなかった。

 そもそも、バレンタインというものが、日本では『女→男』へチョコ(贈り物)をするということが一般的だ。それが義理チョコに発展して、部活での『悪しき風習』と言われるまで根付いてしまったのだろう。

「うわ、ここに何も思わず、時代の流れに身を任せている人がいるんですけど」

「ないわあ」

「お姉ちゃんだから仕方ないけどね」

「私も疑問に思っていましたが、今年はそこから解放されたので、なんだかすがすがしい気持ちです」

 まったく、こいつらは、私のことを何だと思っているのか。時代に身を任せて生きていくことのどこが悪いのだろうか。それで特に問題がなければ別にいいと思うのだが、彼女たちにとっては、そうではないらしい。

「ねえ、麗華。今年から解放されたってどういうこと?」

 ここで、麗華の言葉に疑問を覚えた。今年は解放されたと言っているが、どういうことだろうか。いや、ここまでの話の流れから、女子部員が男子部員にチョコを渡すということがバレンタインの『悪しき風習』ということはわかっている。そして、そこから解放ということは、今年からそれがなくなったということだ。

 なくなることは構わないが、今まで続いていた風習をそう簡単に変えられるものだろうか。

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