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12女性が頑張る日?④~嫌ならやめよう~
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「お姉ちゃんも、そこは気になるんだね。私も気になったけど」
「麗華の言う通り、私たち女子部員にとっての朗報があったの!私からその話はさせて頂戴。ことの発端は……」
麗華の言葉に興奮したように口を開いたのはこなでだった。どうやら、麗華の所属する陸上部だけがなくなったわけではないらしい。女子部員と言い切ったということは、うちの学校は彼女たちの言う『悪しき風習』が絶たれたのだろう。どういった経緯でそうなったのか興味がわいた。
「楽しそうな会話をしているね。僕も混ぜてもらってもいいかな」
「悠乃さんだけずるい。私も私も!」
ここで、なぜか両親が会話に入ってきた。今までリビングに居なかったのに、ブラウニーのチョコの良い香りにつられたのだろうか。両親がリビングに入ってきて、私たちが座るソファの近くにやってきた。私たちがソファに座っていて定員オーバーなため、近くのテーブルに腰かけて居座る気満々だった。こうなった両親を引き離すことはできないだろう。陽咲の様子をうかがうと、顔を横に振って同意を示された。
両親も含めた私たちは、こなでの話に耳を傾けることにした。
「これは、年が明けて最初の部活の日だった……」
思い出すかのように、目を閉じて語りだしたこなでに、息をのんで私たちは話の続きを待つ。
「その日も寒かったんだけどね。いつも通りに練習を始める前の準備体操をしていた時のことで」
「ねえ、前ふりが長いんだけど、さっさと用件を話してくれない?誰も、こなでの部活での練習風景とか聞きたくないから」
さっそく、話を聞けない奴が現れた。まあ、このままの調子で話し続けたらいつまでたっても本題に入れないだろうとは思っていたが、まさか直球で突っ込むとは思わなかった。
「雰囲気作りも大切なんだからね。まあ、芳子の言うことも一理ある。みんなが聞きたいのは、私の部活の練習風景でないことは確かだもんね」
しかし、話をしているこなで本人は怒ることなく話を進める。
「ということで、準備体操が終わって、今日の練習メニューを部長からもらったんだけど、この時に突然、部長が言い始めたの」
『うちの学校では毎年、バレンタインデーの日に、男子部員にチョコを渡す風習があります。ですので、その日は手作りのチョコを各自準備するように』
その場にいた女子部員は特に驚くことはなかった。こなではテニス部に入っているが、テニス部は普段は男女別に部活をしているため、男子部員とはあまり交流がない。それなのになぜ、チョコを渡すのかとこなでは疑問に思ったが、その場で反論することはなかった。
「どこでもあるんだねえ。僕の学校でもあったよ」
「そうなんですね。『あった』ってことは……」
今度は父親がこなでの話に割り込んだ。同じ部活の女子部員から男子部員にチョコを渡すのは、何処でも一緒の風習らしい。こなでは父親の言葉に違和感を覚えたのか、可笑しな部分を反芻する。
私もこなでと同じことを考えた。父親は『あった』と過去形で話している。ということは、今はないということだ。いったい、どうやって今までの風習をやめることができたのだろうか。
「ああ、話の途中で話しかけてごめんね。僕の話は気にしないで。とはいえ、気になっているみたいだから、簡潔に説明すると……」
僕がやめさせたんだ。
にっこりと威圧感のある笑みを見せられて、その場にいる私たちは全員黙り込む。父親はいつも笑顔で微笑んでいるが、この時の笑顔はどこかどす黒いオーラが漂っていた。きっと、何らかの方法で『悪しき風習』とやらをやめさせたのだろう。なんとなく、その方法は聞かない方が良い気がした。
「へ、ヘエ、喜咲たちのお父さんの学校でも禁止になったんですね。奇遇ですけど、私たちの学校も今年からなくなりました」
「それは、生徒自ら言い出したことなのかな?」
緊張気味に続きを語りだすこなでに、父親が優しく話しかける。なぜかこなでは顔を赤くしていたが、父親の言葉に素直に答える。
「そ、そうです。副部長が今年は変化の年だと言い始めて。どうやら、部活のユニホームの件で、いろいろ顧問の先生といろいろあったみたいで」
男子部員のためにチョコを各自準備するようにと伝えた部長に対して、副部長が声を上げたそうだ。
『昨年は先輩たちの圧力に負けてしまいましたが、今年こそはやめましょう。ねえ、部長もそう思いませんか?』
そう言って、部長を説得しようとしたらしい。
「なるほど」
「あ、あの、その話ならり、陸上部でもありました」
今度は麗華が手を挙げて話に参加する。この状態ではもう、黙って聞くという選択肢はなくなったも同然だ。皆が思い思いに言いたいことを口にする。
「自分たちが疑問に思って、それを口にして、実際に行動する。素晴らしいわ!」
「チョコって、運動部あるあるだよね。うちらの部にはそんなことないみたいだけど。ねえ、お姉ちゃん?」
「う、うん。文化部にそんな風習はない、と思う」
母親はなぜか、手をたたいて喜び始めた。ただ、やりたくないことを辞めようと言い出しただけだ。それのどこに感動する要素があったのかわからない。とはいえ、元々母親を理解するのは無理だとあきらめているので、彼女は放置することにした。陽咲の問いかけにはとりあえず答えたが、そもそもの部活の頻度が少ないので、いまだに誰が部員なのかよく知らないのが現状だ。
「麗華の言う通り、私たち女子部員にとっての朗報があったの!私からその話はさせて頂戴。ことの発端は……」
麗華の言葉に興奮したように口を開いたのはこなでだった。どうやら、麗華の所属する陸上部だけがなくなったわけではないらしい。女子部員と言い切ったということは、うちの学校は彼女たちの言う『悪しき風習』が絶たれたのだろう。どういった経緯でそうなったのか興味がわいた。
「楽しそうな会話をしているね。僕も混ぜてもらってもいいかな」
「悠乃さんだけずるい。私も私も!」
ここで、なぜか両親が会話に入ってきた。今までリビングに居なかったのに、ブラウニーのチョコの良い香りにつられたのだろうか。両親がリビングに入ってきて、私たちが座るソファの近くにやってきた。私たちがソファに座っていて定員オーバーなため、近くのテーブルに腰かけて居座る気満々だった。こうなった両親を引き離すことはできないだろう。陽咲の様子をうかがうと、顔を横に振って同意を示された。
両親も含めた私たちは、こなでの話に耳を傾けることにした。
「これは、年が明けて最初の部活の日だった……」
思い出すかのように、目を閉じて語りだしたこなでに、息をのんで私たちは話の続きを待つ。
「その日も寒かったんだけどね。いつも通りに練習を始める前の準備体操をしていた時のことで」
「ねえ、前ふりが長いんだけど、さっさと用件を話してくれない?誰も、こなでの部活での練習風景とか聞きたくないから」
さっそく、話を聞けない奴が現れた。まあ、このままの調子で話し続けたらいつまでたっても本題に入れないだろうとは思っていたが、まさか直球で突っ込むとは思わなかった。
「雰囲気作りも大切なんだからね。まあ、芳子の言うことも一理ある。みんなが聞きたいのは、私の部活の練習風景でないことは確かだもんね」
しかし、話をしているこなで本人は怒ることなく話を進める。
「ということで、準備体操が終わって、今日の練習メニューを部長からもらったんだけど、この時に突然、部長が言い始めたの」
『うちの学校では毎年、バレンタインデーの日に、男子部員にチョコを渡す風習があります。ですので、その日は手作りのチョコを各自準備するように』
その場にいた女子部員は特に驚くことはなかった。こなではテニス部に入っているが、テニス部は普段は男女別に部活をしているため、男子部員とはあまり交流がない。それなのになぜ、チョコを渡すのかとこなでは疑問に思ったが、その場で反論することはなかった。
「どこでもあるんだねえ。僕の学校でもあったよ」
「そうなんですね。『あった』ってことは……」
今度は父親がこなでの話に割り込んだ。同じ部活の女子部員から男子部員にチョコを渡すのは、何処でも一緒の風習らしい。こなでは父親の言葉に違和感を覚えたのか、可笑しな部分を反芻する。
私もこなでと同じことを考えた。父親は『あった』と過去形で話している。ということは、今はないということだ。いったい、どうやって今までの風習をやめることができたのだろうか。
「ああ、話の途中で話しかけてごめんね。僕の話は気にしないで。とはいえ、気になっているみたいだから、簡潔に説明すると……」
僕がやめさせたんだ。
にっこりと威圧感のある笑みを見せられて、その場にいる私たちは全員黙り込む。父親はいつも笑顔で微笑んでいるが、この時の笑顔はどこかどす黒いオーラが漂っていた。きっと、何らかの方法で『悪しき風習』とやらをやめさせたのだろう。なんとなく、その方法は聞かない方が良い気がした。
「へ、ヘエ、喜咲たちのお父さんの学校でも禁止になったんですね。奇遇ですけど、私たちの学校も今年からなくなりました」
「それは、生徒自ら言い出したことなのかな?」
緊張気味に続きを語りだすこなでに、父親が優しく話しかける。なぜかこなでは顔を赤くしていたが、父親の言葉に素直に答える。
「そ、そうです。副部長が今年は変化の年だと言い始めて。どうやら、部活のユニホームの件で、いろいろ顧問の先生といろいろあったみたいで」
男子部員のためにチョコを各自準備するようにと伝えた部長に対して、副部長が声を上げたそうだ。
『昨年は先輩たちの圧力に負けてしまいましたが、今年こそはやめましょう。ねえ、部長もそう思いませんか?』
そう言って、部長を説得しようとしたらしい。
「なるほど」
「あ、あの、その話ならり、陸上部でもありました」
今度は麗華が手を挙げて話に参加する。この状態ではもう、黙って聞くという選択肢はなくなったも同然だ。皆が思い思いに言いたいことを口にする。
「自分たちが疑問に思って、それを口にして、実際に行動する。素晴らしいわ!」
「チョコって、運動部あるあるだよね。うちらの部にはそんなことないみたいだけど。ねえ、お姉ちゃん?」
「う、うん。文化部にそんな風習はない、と思う」
母親はなぜか、手をたたいて喜び始めた。ただ、やりたくないことを辞めようと言い出しただけだ。それのどこに感動する要素があったのかわからない。とはいえ、元々母親を理解するのは無理だとあきらめているので、彼女は放置することにした。陽咲の問いかけにはとりあえず答えたが、そもそもの部活の頻度が少ないので、いまだに誰が部員なのかよく知らないのが現状だ。
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