汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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14新学期~バイトの理想と現実~①

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「私たちも二年生だねえ」

「クラス、同じにならないのは仕方ないよね」

「はあ、陽咲さんと別のクラス……」

「文系、理系がある時点でお察しだけどね」

「進学校だからあきらめなよ」

 高校一年生はあっという間に終わってしまった。今日は高校二年生の始業式だ。クラス分けが発表され、各教室の廊下の壁には生徒の名簿がずらりと並んでいる。そこから新たなクラスを探していくわけだが、見事に私たちのクラスは違っていた。

 私、汐留喜咲(しおどめきさき)が通う高校は進学校と呼ばれる学校で、いわゆる大学進学率にかなり力を入れている学校だ。そのため、二年生になると、文系と理系にクラスが別れる。

 私と双子の妹の陽咲(ひさき)、陽咲と同じクラスだった鈴木麗華(すずきれいか)は文系を選択した。私と同じクラスだった藤芳子(ふじよしこ)と山都小撫(やまとこなで)は理系を選択した。その結果。

「私と麗華が同じクラスで、他は別々になったね」

 私と麗華のみが同じクラスで、その他は皆、ばらばらのクラスになってしまった。

「あの、喜咲さん、一年間、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」

 麗華は陽咲と同じクラスではないことに嘆いていたが、私と同じクラスだとわかると、少しだけ気分が上がったようだ。教室に入る前に妹の陽咲に恨みがましい視線を向けられたが、どうすることも出来ない。

 こうして、私たち五人の高校二年生の生活が幕を開けた。


「喜咲さん、麗華さん、いいですか?クラスが別々になったからと言って、私たちの友情が途切れたわけではありません。さらに言うと、毎週恒例の会議は出来る限り、続けたいと思っています」

 始業式が終わり、各クラスでの帰りのHRも終えると、大多数の生徒は部活へと向かう。私は部活がないが、麗華はあるのだろう。私に申し訳なさそうな顔をして教室から出ようと席を立つ。

 そこに現れたのが、別のクラスになった芳子だ。いきなり教室に入ってくると、私と麗華に話し掛けてきた。クラスメイトたちは、突然の別のクラスメイトの乱入に大して興味を示さない。そもそも、友達と一緒に部活に向かう生徒も多いため、別のクラスからやってくる生徒もいる。いちいち気にすることでもないということか。

「ヤッホー。来ちゃった!」
「こんなに面白い友人はなかなかいないからね」

 そして、芳子の次にやってきたのは、こなでと陽咲だ。結局、一年生の頃と同じように私たちは楽しく過ごすことになりそうだ。

 しかし、クラスが違うと不便なことも多い。休み時間に一緒に話す機会がなく、昼休みか放課後に限られてしまう。また、担任によって帰りのHRの時間がまちまちなので、放課後に話す時間も減ってしまう。

 それでも、芳子が言った通り、私たちは二年生になっても、昼休みはなるべく一緒にお弁当を食べようということになった。どこに集まるかということになったが、私と麗華が唯一、この五人の中で同じクラスになったため、自然と私のクラスに集まるようになった。



「それで私、この前、コンビニで中学の同級生と会ったんだけど、なんと」

 彼女、そのコンビニでバイトしていました!

 二年生になって一週間ほど過ぎたある日の昼休み、いつものように五人で集まってお弁当を食べていたら、こなでが突然、同級生と会ったことを話しだす。

「バイトかあ。私たちには縁のないことだよねえ」

「うちの学校、バイト禁止だからね」

 バイト、という言葉に食いついたのは芳子と陽咲だ。私の通っている高校は、いわゆる進学校と呼ばれる高校のため、学生の本分は学業だということで、バイトが禁止されている。

「バイトをしている高校生が羨ましいです」

「どうして?麗華って、別にお金に困っているわけではないよね?」

 麗華の羨ましい発言に陽咲が首をかしげて質問する。私も気になって急いで食べていた卵焼きを飲み込み、視線で答えを促す。

「陽咲さんたちと出会って、アニメとかいろいろ見始めて、高校生のバイトから始まる物語が結構あることを知りました。実際にバイトしたら面白いのかな、と思いまして」

「素晴らしい!」

 恥ずかしそうに回答する麗華だが、確かにそう言われると、バイトがしてみたくなる。なるほどと頷いていると、芳子がいきなり麗華を褒め称え始めた。

「麗華、この一年でなんていう成長を遂げたの!お母さんはとてもうれしいわ。決めた!今週の議題はこれにしましょう」

 バイトの理想と現実。

「何でも議題にするのはどうかと思うけど、私は賛成!バイトって、もはやお金を稼ぐ手段以外に、二次元では高校生の青春の一部みたいなものだよね」

「何のバイトをするかにもよるけど、コンビニ、カフェ、レストラン、どこを取っても出会いの宝庫!」

 まったく、学年がひとつ上がったというのに、話題が一年前からまったく進歩していない。それでも、バイトひとつでこれだけ盛り上がれるのは彼女達だけで、とても良い友人だ。

「仕方ない。私も付き合ってあげ」

「出たよ。私はいかにも常識人って顔で、実は一番二次元に溺れている人」

「この人は、いつまでたっても成長しませんね。奥さん」

「そうなのよ、わが姉ながら、どうしたらいいのかしら?」

 前言撤回、良い友人ではないかもしれない。どうして麗華は褒められているのに、私はけなされているのか。

「とりあえず、二年生第一回の記念すべき会議はどこでする?」

「わ、私が言い出したことですし、私の家、でもいいですよ」

『マジで』

 私たち四人の声が見事なハモリを見せた。今まで私の家か、芳子の家ばかりだった。こなでの家はマンションで広くないので拒否されていた。麗華については特に何も言われていない。

「いつも陽咲さんの家ばかりでは申し訳ないです。たまには私の家でやりませんか?」

 別に麗華が申し訳なく思う必要はない。それでも、自ら友達を家に呼ぼうと思ったのは成長かもしれない。

「麗華、成長したんだねえ」

 先ほどの芳子たちのようについ、親目線の言葉を発してしまう。すると、芳子の時はノリノリだった妹が急に冷めた視線を向けてくる。

「お姉ちゃんが言うと、なんか違う」

「なんで!」

 麗華のご厚意に甘えて、今週は麗華の家で恒例の会議を行うことになった。
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