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15新たな刺客
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私と目黒君の二人きりの至高の時間を邪魔してきたのは、私の学校の高校教師で荒井芙美香(あらいふみか)先生。私たち一年生の国語を教えてくれている。私の好きな先生の一人だ。三十歳くらいの女性でメガネをかけている点が好きだ。
女性に関しては、見た目が悪くなるという理由で、メガネをかけたがらない人が多いらしい。噂によると、就活時にはメガネをかけている人はコンタクトにしろと言われるようだ。私としては、メガネをかけることで、その人の魅力がアップすると思うのだが、世間はどうやら違うらしい。
荒井先生は、吊り上がり気味の瞳に似合う、丸みを帯びた薄ピンク色のフレームのオシャレなメガネをかけていた。吊り上がり気味の瞳は、きつい印象を与えがちだが、丸いフレームのおかげで緩和されている。色も銀や暗めの色ではないため、温かな印象を受ける。
「僕はたまたま早く起きることができたので、早い電車に乗れただけです」
先生の事を考えていたら、先に目黒君が口を開く。
「私も、たまたま、ですよ!」
慌てて私も目黒君の言葉に同意する。
クールビューティーという言葉が似合う年上のメガネ女性を前に、目黒君は冷静でいられるだろうか。クラスの男子の中にはひそかに荒井先生に好意を抱いている人もいるらしい。大人の魅力というやつだろう。ちらりと目黒君の様子をうかがうと、目黒君は真剣な表情で荒井先生を見つめていた。
「そうなのね。てっきり、今日は何か特別な日だったのではないかと思って……。いや、あなたたち二人にとっては、特別な日なのかもしれないわね」
しかし、そんな目黒君の様子に気付くことなく、荒井先生は私たちににっこりと微笑みながら、意味深なことを言い始める。二人にとって特別な日。それはとても甘美な響きだ。例え偶然、同じ電車に乗れたとしても、それを特別な日と認めれば運命だと思える。
「特別ではないですよ。荒井先生はいつごろからメガネをかけていらっしゃいますか?」
私が先生の言葉について考えていたら、それを否定する言葉が聞こえて我に返る。もちろん、否定したのは目黒君だ。
(否定しなくてもいいのに)
しかも、先生と世間話を始めてしまう。他人がメガネをかけ始めた時期など知る必要などない。とはいえ、私も彼女のメガネの話には興味がある。目黒君に関しては、自分と同じようにメガネをかけているから興味を持ったのだと思いたい。
「突然だねえ。そうだなあ、先生は小さいころから目が悪かったよ。小学4年生くらいからは既にメガネかな」
「そうですか……」
「そういえば、あなたたちの噂が広まっているけど、実際のところはどうなの?目黒君と日好さんって、本当にお互いのメガネの交換をしたの?」
『メガネの交換?』
そばで静かに二人の会話を聞いていたのに、先生の突然の『メガネの交換』発言に、思わず聞き返してしまった。しかし、聞き返したのは私だけではなく、隣にいた目黒君も初耳のようだ。
いったい、どんな噂が流れているのか。私たちが先生に視線を向けると、荒井先生は苦笑いで答えてくれる。
「日好さんが転校生の目黒君のことを『運命の相手』とか言ったのは有名になっているよ。そこから、運命の相手とメガネを交換し合って、仲睦まじい感じのメガネカップルが産まれたって話なんだけど」
「それはまた、ずいぶんと事実が捻じ曲げられていますね……」
目黒君がメガネの鼻を抑えてため息を吐く。確かに先生の話はまったくの嘘ではないが、真実でもない。私が目黒君のことを『運命の相手』と言ったのは本当だが、メガネの交換はしていない。『メガネ女子』宣言をしてメガネをかけ始めたのが交換だと思われたのだろうか。
「いや、そもそも私は視力がよいので、本来ならメガネの必要はないのですが」
「そうなのね。まあ、こうして二人で一緒の電車に乗っているところから見て、あなたたちの仲が良いのはわかるけど」
「本当ですか?」「違います」
まさか、先生にそんなことを言われるとは予想外の展開だ。てっきり、先生は私の恋敵になるかと思っていた。目黒君の先生を見つめる視線は、先生を見つめるとは言い難い何かしらの感情が乗っていた。しかし、そんな情熱的な視線を受けてなお、私と目黒君の仲を良いと言ってくれている。これはもう。
「先生は私たちの恋のキューピットですか?」
「日好さん、たまにおかしなことを言うわね」
「たまにじゃなくて、僕が見る限り、毎日おかしな発言ばかりしています」
思わず口から出た私の言葉に二人はあきれていた。しかも、目黒君に至ってはとても失礼な発言だ。毎日とはさすがに言い過ぎだ。
「目黒君のせいで、私はおかしくなってしまったんです。どう責任を取るつもりですか?」
とりあえず、おかしい発言をしてしまうのは彼のせいにしておく。
「責任って……」
「高校生に責任なんて重すぎ。日好さん、高校生の恋愛にそこまでムキにならない方が」
『まもなく、電車が停車します。降り口は右側です』
話しているうちに高校の最寄り駅に到着したようだ。話はそこまでとなってしまった。それにしても、「お互いのメガネの交換する」とはなんだかよい響きだ。仲の良さが出ていてこれぞ恋人という感じがする。
「じゃあ、私はお手洗い寄ってから行くね」
電車を降りて、私たちは荒井先生と別れることになった。二人きりの時間がまたやってきた。このまま一緒に登校出来たら。
「僕もお手洗いに寄るから、日好さんは先に高校に行っていていいよ」
まさかの目黒君の方から一緒の登校を拒否されてしまった。
女性に関しては、見た目が悪くなるという理由で、メガネをかけたがらない人が多いらしい。噂によると、就活時にはメガネをかけている人はコンタクトにしろと言われるようだ。私としては、メガネをかけることで、その人の魅力がアップすると思うのだが、世間はどうやら違うらしい。
荒井先生は、吊り上がり気味の瞳に似合う、丸みを帯びた薄ピンク色のフレームのオシャレなメガネをかけていた。吊り上がり気味の瞳は、きつい印象を与えがちだが、丸いフレームのおかげで緩和されている。色も銀や暗めの色ではないため、温かな印象を受ける。
「僕はたまたま早く起きることができたので、早い電車に乗れただけです」
先生の事を考えていたら、先に目黒君が口を開く。
「私も、たまたま、ですよ!」
慌てて私も目黒君の言葉に同意する。
クールビューティーという言葉が似合う年上のメガネ女性を前に、目黒君は冷静でいられるだろうか。クラスの男子の中にはひそかに荒井先生に好意を抱いている人もいるらしい。大人の魅力というやつだろう。ちらりと目黒君の様子をうかがうと、目黒君は真剣な表情で荒井先生を見つめていた。
「そうなのね。てっきり、今日は何か特別な日だったのではないかと思って……。いや、あなたたち二人にとっては、特別な日なのかもしれないわね」
しかし、そんな目黒君の様子に気付くことなく、荒井先生は私たちににっこりと微笑みながら、意味深なことを言い始める。二人にとって特別な日。それはとても甘美な響きだ。例え偶然、同じ電車に乗れたとしても、それを特別な日と認めれば運命だと思える。
「特別ではないですよ。荒井先生はいつごろからメガネをかけていらっしゃいますか?」
私が先生の言葉について考えていたら、それを否定する言葉が聞こえて我に返る。もちろん、否定したのは目黒君だ。
(否定しなくてもいいのに)
しかも、先生と世間話を始めてしまう。他人がメガネをかけ始めた時期など知る必要などない。とはいえ、私も彼女のメガネの話には興味がある。目黒君に関しては、自分と同じようにメガネをかけているから興味を持ったのだと思いたい。
「突然だねえ。そうだなあ、先生は小さいころから目が悪かったよ。小学4年生くらいからは既にメガネかな」
「そうですか……」
「そういえば、あなたたちの噂が広まっているけど、実際のところはどうなの?目黒君と日好さんって、本当にお互いのメガネの交換をしたの?」
『メガネの交換?』
そばで静かに二人の会話を聞いていたのに、先生の突然の『メガネの交換』発言に、思わず聞き返してしまった。しかし、聞き返したのは私だけではなく、隣にいた目黒君も初耳のようだ。
いったい、どんな噂が流れているのか。私たちが先生に視線を向けると、荒井先生は苦笑いで答えてくれる。
「日好さんが転校生の目黒君のことを『運命の相手』とか言ったのは有名になっているよ。そこから、運命の相手とメガネを交換し合って、仲睦まじい感じのメガネカップルが産まれたって話なんだけど」
「それはまた、ずいぶんと事実が捻じ曲げられていますね……」
目黒君がメガネの鼻を抑えてため息を吐く。確かに先生の話はまったくの嘘ではないが、真実でもない。私が目黒君のことを『運命の相手』と言ったのは本当だが、メガネの交換はしていない。『メガネ女子』宣言をしてメガネをかけ始めたのが交換だと思われたのだろうか。
「いや、そもそも私は視力がよいので、本来ならメガネの必要はないのですが」
「そうなのね。まあ、こうして二人で一緒の電車に乗っているところから見て、あなたたちの仲が良いのはわかるけど」
「本当ですか?」「違います」
まさか、先生にそんなことを言われるとは予想外の展開だ。てっきり、先生は私の恋敵になるかと思っていた。目黒君の先生を見つめる視線は、先生を見つめるとは言い難い何かしらの感情が乗っていた。しかし、そんな情熱的な視線を受けてなお、私と目黒君の仲を良いと言ってくれている。これはもう。
「先生は私たちの恋のキューピットですか?」
「日好さん、たまにおかしなことを言うわね」
「たまにじゃなくて、僕が見る限り、毎日おかしな発言ばかりしています」
思わず口から出た私の言葉に二人はあきれていた。しかも、目黒君に至ってはとても失礼な発言だ。毎日とはさすがに言い過ぎだ。
「目黒君のせいで、私はおかしくなってしまったんです。どう責任を取るつもりですか?」
とりあえず、おかしい発言をしてしまうのは彼のせいにしておく。
「責任って……」
「高校生に責任なんて重すぎ。日好さん、高校生の恋愛にそこまでムキにならない方が」
『まもなく、電車が停車します。降り口は右側です』
話しているうちに高校の最寄り駅に到着したようだ。話はそこまでとなってしまった。それにしても、「お互いのメガネの交換する」とはなんだかよい響きだ。仲の良さが出ていてこれぞ恋人という感じがする。
「じゃあ、私はお手洗い寄ってから行くね」
電車を降りて、私たちは荒井先生と別れることになった。二人きりの時間がまたやってきた。このまま一緒に登校出来たら。
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まさかの目黒君の方から一緒の登校を拒否されてしまった。
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