メガネバカップル

折原さゆみ

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16私だけ……

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「ねえ、聞いてよ。みさと、今朝ねえ……」

 結局、高校には一人で行く羽目になった。私はお手洗いに用事はなかったし、駅で目黒君を待つ選択肢もあったが、トイレ待ちをしてまで一緒に登校したら、さすがに彼に迷惑が掛かると思ったからだ。

 仕方なく、一人寂しく駅から高校までの道のりを歩いて登校した。とはいえ、毎日一人で登校しているので、寂しいと思うのはおかしな話だ。しかし、目黒君と一緒に登校できると思っていたのに、急に一人で学校に行く羽目になったのだ。寂しくもなるものだ。

 いつもより時間がかかった気がする通学路を歩き終え、高校に到着する。ようやく教室にたどり着くと、教室に親友のみさとを見つけて、思わず駆け寄った。どうやら、早く登校し過ぎたようで、教室には部活の朝練をしているメンバーがそろっていた。

 みさとも朝練に向かうために教室から出ようとしていたらしいが、その前にどうしても今朝の出来事を話しておきたかった。

「はいはい。それは残念でしたね。それで、メガネはどうしたの?せっかく『メガネ女子』になる宣言したのに、もうあきらめたの?」

「そ、そんなわけないでしょ。た、たまたま今日は朝忙しくて、メガネをかけ忘れただけ……」

「そうですか、そうですか。それはそれは、良いご身分なことで。目がよい人はこれだから」

みさとは話を聞いてくれたのだが、どうにも私に対する態度がそっけない。朝練に行きたくて私の話を適当にはぐらかしているのだろうか。だとしたら、親友の恋愛相談を無下にすするとはいかがなものか。

「で、でも。目黒君もコンタクトを辞めて、今日は、め、メガネだっ」

「そこ、僕の席なんだけど。荷物を置いてもいいかな?」

「おはよう、目黒君。コンタクトはやめたの?」

「め、目黒君。ご、ごめんね」

 駅でお手洗いに行っていた目黒君が教室に到着した。まさか、今までの私の話を聞かれていただろうか。いや、それはないだろう。今さっき入ってきたのに、先ほどまでの会話が聞こえるはずがない。

「おはよう、羽田さん。まあね。コンタクトにしてみたけど、やっぱり僕には合わなかった。目の乾燥も疲れもひどいし、やっぱりメガネに戻すことにしたよ」

「ふうん。でもさ、そうなると、面倒くさい奴が引き続き面倒なことになると思うけど、それはいいの?」

「面倒な奴はもう、あきらめた。それに、『メガネ』が好きであって、それをかけている僕の事はそこまで好きじゃないみたいだし」

「そうかもしれないけど、そこで油断したらダメよ」

 なぜ、この二人はこんなにも普通の会話をしているのか。彼らは私が目黒君を好きなことを知っている。なぜ、当事者である目黒君も親友のみさとも、私の気持ちに寄り添うことをしてくれないのか。

「ど、どうして、そんなに……」

 私だって、普通に目黒君と会話がしたい。どうして、私が話しかけると彼は無視したり、ひどいことを言ったりするのか。他の人にはみさとを含めて普通なのに。

「あれ、でも、私だけが……」

「じゃあ、目黒君。あとはよろしく。でも、良かったじゃない?仁美がメガネを忘れて。だって、目黒君、実は仁美と同じでメガネふぇ」

「さっさと朝練に行ったらどう?」

「はいはい」

 何か、重大なことに気付きそうだった。しかし、その前にみさとが朝練に向かうために教室から出ていった。

「目黒、お前はコンタクトにするより、メガネの方がいいと思うぞ」

「私もそう思う。でも逆に日好さんはメガネがないほうがいいと思う。やっぱり、目がいい人にメガネはいらないね」

「普段の格好がやっぱり一番だよ。下手にコンタクトにしたり、伊達メガネをかけたりしない方が自然だ」

 みさとが教室を出ていったとたん、その場にいたクラスメイトが次々と私たちに話しかけてきた。

「余計なお世話だ」

「今日は、たまたま、メガネを忘れて来ただけ!明日からは忘れずメガネかけるから!」

 私たちの言葉に、クラスメイトはやれやれと首を傾げたり、あきれたような表情をしたりしていた。そして、かれらもまた、みさとに続いて教室から出ていった。

「わ、私もちょっと、お手洗いに行ってきます」

 教室には私と目黒君の二人きりになってしまった。今朝は二人きりでの登校を望んでいたが、いざ二人きりになると、急に恥ずかしくなる。私も朝練に出掛けたクラスメイトの後を追って、教室を出た。目黒君は何も言わず、ただ黙って私を見つめていた
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