結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
233 / 253

番外編【この暑さには勝てません】3お触り禁止宣言③

しおりを挟む
「エエト、その、この前の、オレに触るの禁止、っていう件だけど」

 先に話し始めたのは恋人だった。やはり、話題は僕と恋人の仲がぎこちなくなった原因になったあの発言だ。僕は黙って恋人の話に耳を傾ける。

「実は……」

 恋人は申し訳なさそうに、例の発言について言い訳を述べていく。その内容は、計らずとも先輩が話していた通りのものだった。

「蕁麻疹が出たから、僕と触れ合うのを遠慮していた、と」

 蓋を開けて見れば、あのお触り禁止発言の理由は浮気でも僕が嫌いになったわけでもなかった。しかし、理由がわかったところで解せない部分がある。

「蕁麻疹って、移るものなんですか?」

 僕のイメージでは他人に移るものではなかった気がする。不満げに質問した僕に恋人は苦笑する。

「移るものではないけど、接触は控えたほうが良いかなと思って。それと、汗とか激しい運動で出ることもあるから。ベッドの件もね、その、君が隣で寝ているかと思うと……」

 どうしてもシタくなるからね。

 恋人は話し終えると、顔を両手で隠してしまった。よく見ると、耳元がうっすらと赤い。どうやら自分の言葉に恥ずかしがっているようだ。年上なのに可愛いと思ってしまう。

「それって、僕の事が嫌いになったり、別の誰かを好きになったりして別れる、とかではないということ、ですよね?」

「当たり前でしょう!ああ、それで、なんだか最近、不機嫌だったのか。ふふふ」

 恋人は僕の勘違いが面白かったのか、顔を隠していた両手を口に持っていく。そしてその手で口を押さえて笑いだした。恥ずかしがったり笑ったり表情がコロコロ変わる恋人だ。

それにしても、僕は今回の恋人の発言でかなり悩んでいたというのにのんきなものだ。とはいえ、これにて一件落着、という訳にはいかない。

 僕だって大人の男だ。好きな人が近くにいたら、触れたくなる。一つに繋がりたい。その問題が解決していない。その、蕁麻疹とやらはそこまで汗や激しい運動がダメなのか。

「なんだか納得していない顔だね。ううん、あんまり見せたくはないけど、実際に見せたほうが早いかも」

 恋人は僕の不満顔に気付いて今度は困った顔をして、突然、来ていたシャツを脱ぎ始めた。


「ちょ、いきなり脱ぎ始めてどういうつもりですか!」

別にお触り禁止を破るつもりはなかった。恋人を困らせたかった訳でもない。彼の突然の行動に思わず手が出てしまった。恋人の腕を強くつかんで何とか服を脱ぐのを阻止した。

「ほら、さすがにこんな僕には触りたくないだろう?」

「だからって、ああ、もう、わかりましたから。いったん、手を止めてください!」

 せっかく阻止したのに、その腕を掴まれてしまう。そして、あろうことか、そのままの状態で再度、服を脱ごうと試みる恋人。そのままだと腕がねじれてしまうので、仕方なく腕を離す。あっという間に恋人は服を脱いで下着のタンクトップ姿になる。

「これ見てよ。かゆくなってきたから、出たかなあと思っていたけど、やっぱり出てた」

 タンクトップをめくり上げて、僕に背中を向ける恋人。

「これ、いったい、何ですか……」

「蕁麻疹、でしょうね。やっぱり、やばいよね」

そこにあったのは、いつもの見慣れた染み一つないきれいな背中ではなかった。彼の背中には赤い引っかき傷のような蕁麻疹が首の下あたりから肩甲骨辺りにまで広がっていた。確か、先日も同じような湿疹を見たが、その時よりも蕁麻疹の範囲が大きくなっていた。


「あの、これって、本当に数時間で治りますか?なんだか、すごいかゆそうですけど」

「人間の身体って不思議だよね。これがねえ、この前もそうだったけど、朝にはすっかり治るんだよ。でもさ、そんな突然、蕁麻疹が出るような身体を抱くのは怖くない?オレなら、いくら好きな相手でも、遠慮したいかな」

 恋人は自嘲気味に笑った。ここで、そんなことはない。というのは簡単だろう。しかし、きっとそういう言葉を彼は望んでいるわけではないだろう。さて、なんと言葉を掛けたらよいものか。

「り、理由がわかれば、が、我慢もできる、と思い、ます。その蕁麻疹が完全に出なくなるのは、いつになるんですか?」

「さあ?」

 好きな相手に触れられないのは死活問題だが、期限がわかればそれまでの辛抱だ。一か月とかなら、ギリ、おそらく、たぶん我慢できるはず。それ以上となったら、その時はその時考えよう。そう思っての決死の言葉だったのに、帰ってきたのはなんとも軽い返答だった。

「わからない、んですか」

「そもそも、この蕁麻疹ってのが厄介な代物らしくてさ。原因がわからないことが多いんだ。ストレスとか、疲れとかが関係していることもあるようだし。なるべく早く良くなるように祈ってはいるけど。ああ、祈るだけじゃなくて、ちゃんと皮膚科で飲み薬をもらったから、毎日飲むよ」

 なんという恐ろしい病気だろう。しかし、ここで我慢できないと言ったら、恋人を悲しませてしまうだけだ。

「ええと、そこまで激しくしない……。いやいや、ヤッパリダメ。しばらく、僕に触るのは禁止。でも、そうなると、君が誰かに取られちゃうかな。それは嫌だ」

 僕はずいぶんと物欲しそうな眼をしていたらしい。恋人は慌てて何か代案がないか考え始めた。他人に取られる心配をするなど、僕は恋人にずいぶんと舐められている。僕が何年、恋人一筋だというのか。これからもずっと、未来永劫、恋人が好きな気持ちは変わらない。

 ちゅっ。

 年上の癖に可愛らしく僕の事であたふたとする姿につい、身体が無意識に動いていた。恋人の唇にキスをしていた。突然の僕の行動に恋人は目を白黒させて驚いている。

「僕はよい子なので、あなたの蕁麻疹が治まるまで我慢しますよ。ああでも」

 もしも襲ってしまったらごめんなさい。

「うううう」

「ああでも、一緒に寝ないとかは無しにしましょう。いつまでもリビングのソファで寝るのは身体に悪いです」

 一緒に寝るくらいなら、問題ないだろう。僕の理性が持たないかもしれないが、何とか頑張ることにしよう。

 こうして、僕たちの間にあったわだかまりは解消した。恋人のお触り禁止宣言の件は、僕が我慢することで決着となった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一
恋愛
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。 織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。 彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。 ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。 学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。 これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。 カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...