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番外編【この暑さには勝てません】3お触り禁止宣言③
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「エエト、その、この前の、オレに触るの禁止、っていう件だけど」
先に話し始めたのは恋人だった。やはり、話題は僕と恋人の仲がぎこちなくなった原因になったあの発言だ。僕は黙って恋人の話に耳を傾ける。
「実は……」
恋人は申し訳なさそうに、例の発言について言い訳を述べていく。その内容は、計らずとも先輩が話していた通りのものだった。
「蕁麻疹が出たから、僕と触れ合うのを遠慮していた、と」
蓋を開けて見れば、あのお触り禁止発言の理由は浮気でも僕が嫌いになったわけでもなかった。しかし、理由がわかったところで解せない部分がある。
「蕁麻疹って、移るものなんですか?」
僕のイメージでは他人に移るものではなかった気がする。不満げに質問した僕に恋人は苦笑する。
「移るものではないけど、接触は控えたほうが良いかなと思って。それと、汗とか激しい運動で出ることもあるから。ベッドの件もね、その、君が隣で寝ているかと思うと……」
どうしてもシタくなるからね。
恋人は話し終えると、顔を両手で隠してしまった。よく見ると、耳元がうっすらと赤い。どうやら自分の言葉に恥ずかしがっているようだ。年上なのに可愛いと思ってしまう。
「それって、僕の事が嫌いになったり、別の誰かを好きになったりして別れる、とかではないということ、ですよね?」
「当たり前でしょう!ああ、それで、なんだか最近、不機嫌だったのか。ふふふ」
恋人は僕の勘違いが面白かったのか、顔を隠していた両手を口に持っていく。そしてその手で口を押さえて笑いだした。恥ずかしがったり笑ったり表情がコロコロ変わる恋人だ。
それにしても、僕は今回の恋人の発言でかなり悩んでいたというのにのんきなものだ。とはいえ、これにて一件落着、という訳にはいかない。
僕だって大人の男だ。好きな人が近くにいたら、触れたくなる。一つに繋がりたい。その問題が解決していない。その、蕁麻疹とやらはそこまで汗や激しい運動がダメなのか。
「なんだか納得していない顔だね。ううん、あんまり見せたくはないけど、実際に見せたほうが早いかも」
恋人は僕の不満顔に気付いて今度は困った顔をして、突然、来ていたシャツを脱ぎ始めた。
「ちょ、いきなり脱ぎ始めてどういうつもりですか!」
別にお触り禁止を破るつもりはなかった。恋人を困らせたかった訳でもない。彼の突然の行動に思わず手が出てしまった。恋人の腕を強くつかんで何とか服を脱ぐのを阻止した。
「ほら、さすがにこんな僕には触りたくないだろう?」
「だからって、ああ、もう、わかりましたから。いったん、手を止めてください!」
せっかく阻止したのに、その腕を掴まれてしまう。そして、あろうことか、そのままの状態で再度、服を脱ごうと試みる恋人。そのままだと腕がねじれてしまうので、仕方なく腕を離す。あっという間に恋人は服を脱いで下着のタンクトップ姿になる。
「これ見てよ。かゆくなってきたから、出たかなあと思っていたけど、やっぱり出てた」
タンクトップをめくり上げて、僕に背中を向ける恋人。
「これ、いったい、何ですか……」
「蕁麻疹、でしょうね。やっぱり、やばいよね」
そこにあったのは、いつもの見慣れた染み一つないきれいな背中ではなかった。彼の背中には赤い引っかき傷のような蕁麻疹が首の下あたりから肩甲骨辺りにまで広がっていた。確か、先日も同じような湿疹を見たが、その時よりも蕁麻疹の範囲が大きくなっていた。
「あの、これって、本当に数時間で治りますか?なんだか、すごいかゆそうですけど」
「人間の身体って不思議だよね。これがねえ、この前もそうだったけど、朝にはすっかり治るんだよ。でもさ、そんな突然、蕁麻疹が出るような身体を抱くのは怖くない?オレなら、いくら好きな相手でも、遠慮したいかな」
恋人は自嘲気味に笑った。ここで、そんなことはない。というのは簡単だろう。しかし、きっとそういう言葉を彼は望んでいるわけではないだろう。さて、なんと言葉を掛けたらよいものか。
「り、理由がわかれば、が、我慢もできる、と思い、ます。その蕁麻疹が完全に出なくなるのは、いつになるんですか?」
「さあ?」
好きな相手に触れられないのは死活問題だが、期限がわかればそれまでの辛抱だ。一か月とかなら、ギリ、おそらく、たぶん我慢できるはず。それ以上となったら、その時はその時考えよう。そう思っての決死の言葉だったのに、帰ってきたのはなんとも軽い返答だった。
「わからない、んですか」
「そもそも、この蕁麻疹ってのが厄介な代物らしくてさ。原因がわからないことが多いんだ。ストレスとか、疲れとかが関係していることもあるようだし。なるべく早く良くなるように祈ってはいるけど。ああ、祈るだけじゃなくて、ちゃんと皮膚科で飲み薬をもらったから、毎日飲むよ」
なんという恐ろしい病気だろう。しかし、ここで我慢できないと言ったら、恋人を悲しませてしまうだけだ。
「ええと、そこまで激しくしない……。いやいや、ヤッパリダメ。しばらく、僕に触るのは禁止。でも、そうなると、君が誰かに取られちゃうかな。それは嫌だ」
僕はずいぶんと物欲しそうな眼をしていたらしい。恋人は慌てて何か代案がないか考え始めた。他人に取られる心配をするなど、僕は恋人にずいぶんと舐められている。僕が何年、恋人一筋だというのか。これからもずっと、未来永劫、恋人が好きな気持ちは変わらない。
ちゅっ。
年上の癖に可愛らしく僕の事であたふたとする姿につい、身体が無意識に動いていた。恋人の唇にキスをしていた。突然の僕の行動に恋人は目を白黒させて驚いている。
「僕はよい子なので、あなたの蕁麻疹が治まるまで我慢しますよ。ああでも」
もしも襲ってしまったらごめんなさい。
「うううう」
「ああでも、一緒に寝ないとかは無しにしましょう。いつまでもリビングのソファで寝るのは身体に悪いです」
一緒に寝るくらいなら、問題ないだろう。僕の理性が持たないかもしれないが、何とか頑張ることにしよう。
こうして、僕たちの間にあったわだかまりは解消した。恋人のお触り禁止宣言の件は、僕が我慢することで決着となった。
先に話し始めたのは恋人だった。やはり、話題は僕と恋人の仲がぎこちなくなった原因になったあの発言だ。僕は黙って恋人の話に耳を傾ける。
「実は……」
恋人は申し訳なさそうに、例の発言について言い訳を述べていく。その内容は、計らずとも先輩が話していた通りのものだった。
「蕁麻疹が出たから、僕と触れ合うのを遠慮していた、と」
蓋を開けて見れば、あのお触り禁止発言の理由は浮気でも僕が嫌いになったわけでもなかった。しかし、理由がわかったところで解せない部分がある。
「蕁麻疹って、移るものなんですか?」
僕のイメージでは他人に移るものではなかった気がする。不満げに質問した僕に恋人は苦笑する。
「移るものではないけど、接触は控えたほうが良いかなと思って。それと、汗とか激しい運動で出ることもあるから。ベッドの件もね、その、君が隣で寝ているかと思うと……」
どうしてもシタくなるからね。
恋人は話し終えると、顔を両手で隠してしまった。よく見ると、耳元がうっすらと赤い。どうやら自分の言葉に恥ずかしがっているようだ。年上なのに可愛いと思ってしまう。
「それって、僕の事が嫌いになったり、別の誰かを好きになったりして別れる、とかではないということ、ですよね?」
「当たり前でしょう!ああ、それで、なんだか最近、不機嫌だったのか。ふふふ」
恋人は僕の勘違いが面白かったのか、顔を隠していた両手を口に持っていく。そしてその手で口を押さえて笑いだした。恥ずかしがったり笑ったり表情がコロコロ変わる恋人だ。
それにしても、僕は今回の恋人の発言でかなり悩んでいたというのにのんきなものだ。とはいえ、これにて一件落着、という訳にはいかない。
僕だって大人の男だ。好きな人が近くにいたら、触れたくなる。一つに繋がりたい。その問題が解決していない。その、蕁麻疹とやらはそこまで汗や激しい運動がダメなのか。
「なんだか納得していない顔だね。ううん、あんまり見せたくはないけど、実際に見せたほうが早いかも」
恋人は僕の不満顔に気付いて今度は困った顔をして、突然、来ていたシャツを脱ぎ始めた。
「ちょ、いきなり脱ぎ始めてどういうつもりですか!」
別にお触り禁止を破るつもりはなかった。恋人を困らせたかった訳でもない。彼の突然の行動に思わず手が出てしまった。恋人の腕を強くつかんで何とか服を脱ぐのを阻止した。
「ほら、さすがにこんな僕には触りたくないだろう?」
「だからって、ああ、もう、わかりましたから。いったん、手を止めてください!」
せっかく阻止したのに、その腕を掴まれてしまう。そして、あろうことか、そのままの状態で再度、服を脱ごうと試みる恋人。そのままだと腕がねじれてしまうので、仕方なく腕を離す。あっという間に恋人は服を脱いで下着のタンクトップ姿になる。
「これ見てよ。かゆくなってきたから、出たかなあと思っていたけど、やっぱり出てた」
タンクトップをめくり上げて、僕に背中を向ける恋人。
「これ、いったい、何ですか……」
「蕁麻疹、でしょうね。やっぱり、やばいよね」
そこにあったのは、いつもの見慣れた染み一つないきれいな背中ではなかった。彼の背中には赤い引っかき傷のような蕁麻疹が首の下あたりから肩甲骨辺りにまで広がっていた。確か、先日も同じような湿疹を見たが、その時よりも蕁麻疹の範囲が大きくなっていた。
「あの、これって、本当に数時間で治りますか?なんだか、すごいかゆそうですけど」
「人間の身体って不思議だよね。これがねえ、この前もそうだったけど、朝にはすっかり治るんだよ。でもさ、そんな突然、蕁麻疹が出るような身体を抱くのは怖くない?オレなら、いくら好きな相手でも、遠慮したいかな」
恋人は自嘲気味に笑った。ここで、そんなことはない。というのは簡単だろう。しかし、きっとそういう言葉を彼は望んでいるわけではないだろう。さて、なんと言葉を掛けたらよいものか。
「り、理由がわかれば、が、我慢もできる、と思い、ます。その蕁麻疹が完全に出なくなるのは、いつになるんですか?」
「さあ?」
好きな相手に触れられないのは死活問題だが、期限がわかればそれまでの辛抱だ。一か月とかなら、ギリ、おそらく、たぶん我慢できるはず。それ以上となったら、その時はその時考えよう。そう思っての決死の言葉だったのに、帰ってきたのはなんとも軽い返答だった。
「わからない、んですか」
「そもそも、この蕁麻疹ってのが厄介な代物らしくてさ。原因がわからないことが多いんだ。ストレスとか、疲れとかが関係していることもあるようだし。なるべく早く良くなるように祈ってはいるけど。ああ、祈るだけじゃなくて、ちゃんと皮膚科で飲み薬をもらったから、毎日飲むよ」
なんという恐ろしい病気だろう。しかし、ここで我慢できないと言ったら、恋人を悲しませてしまうだけだ。
「ええと、そこまで激しくしない……。いやいや、ヤッパリダメ。しばらく、僕に触るのは禁止。でも、そうなると、君が誰かに取られちゃうかな。それは嫌だ」
僕はずいぶんと物欲しそうな眼をしていたらしい。恋人は慌てて何か代案がないか考え始めた。他人に取られる心配をするなど、僕は恋人にずいぶんと舐められている。僕が何年、恋人一筋だというのか。これからもずっと、未来永劫、恋人が好きな気持ちは変わらない。
ちゅっ。
年上の癖に可愛らしく僕の事であたふたとする姿につい、身体が無意識に動いていた。恋人の唇にキスをしていた。突然の僕の行動に恋人は目を白黒させて驚いている。
「僕はよい子なので、あなたの蕁麻疹が治まるまで我慢しますよ。ああでも」
もしも襲ってしまったらごめんなさい。
「うううう」
「ああでも、一緒に寝ないとかは無しにしましょう。いつまでもリビングのソファで寝るのは身体に悪いです」
一緒に寝るくらいなら、問題ないだろう。僕の理性が持たないかもしれないが、何とか頑張ることにしよう。
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