結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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4二次元と現実の区別をつけましょう~ばれてしまいました①~

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 東京の夢の国でのデートが終わり、世間はすでにクリスマスや年末の予定で盛り上がっていた。そう、ハロウィンが終われば、すぐにリア充の祭典である「クリスマス」が控えている。


「リア充は敵」という名言のもと、日々の生活を送っているのだが、口で言うほど、敵ではないと思い始めている今日この頃である。私の中ではすでに「リア充」は敵ではなくなりつつある。大鷹さんとの先日のデートではつい口にしてしまったが、あれはうっかりしていた。

 私はすでに現実を見ることができる大人になっていたのだ。



 簡単に言うと、自分は自分、よそはよそという線引きがしっかり確立されたというわけだ。だから、私がクリスマスを家族と寂しく過ごそうが、年末にどこにも出かけずに引きこもって寂しい年末をむかえ、初詣を友達と行くこともせず、寝正月するというのが私の現実でもまったく気にならない。

 だって、現実にいるとは言え、私とは相反する存在であるから、気にするだけ無駄である。リア充は私の中では二次元での出来事、窓枠の外の世界なのだ。


 とはいえ、今年のクリスマスは、今までの自分に自慢したくなるようなリア充な日になる予感がした。それもそのはず。だって、今年のクリスマスは大鷹さんと一緒にクリスマスを過ごすのだ。

 過去の自分よ、想像できただろうか。想像できなくても構わないが、将来を悲観しすぎなくてもいいとだけ、過去の自分にアドバイスしておこう。




 クリスマスといえば、プレゼントだが、はてさて何をあげたらいいのだろうか。つき合い始めたばかりだったならば、「私をあ、げ、る」とかなんとか言って、自分自身をあげるとかでもいいのだろうが、私には無理な話だ。そもそも、付き合い始めでも私には到底無理な代物だ。

 何をプレゼントしたら大鷹さんは喜ぶだろうか。普段はスーツ姿が多いので、スーツに合わせるネクタイ、普段使いできるハンカチや腕時計などにしようか。それとも、料理やケーキを一から作って食べてもらうのはどうか。思い出の品ということで、おそろいのアクセサリーはどうか。はたまた記念ということで写真立てはどうだろうか。

 いろいろ候補を挙げてはみるものの、どうも、どれもこれもしっくりくるものがない。どのプレゼントも批判のしようがいくらでもある。こういうひねくれた考え方が、コミュ障ボッチの原因の一つであると思うが、今更直す必要を無いと開き直ることにした。


 プレゼントを考える前提として、忘れてはいけないことがある。私は早いうちに大鷹さんと離婚をしなくてはならないのだ。大鷹さんはきっと自分の子供が欲しいだろうし、いつまでも、私みたいな女と居るのも申し訳がない。



 そこで、先ほど候補に挙げたクリスマスプレゼントを考え直してみると、あら不思議。どれもダメである。




 まず、ものをプレゼントするとなると、私と離婚した後にそれは残ってしまう。元カノや元カレのものを処分できなくて困っているという話も聞くことだし、ものをあげるのはこの場合、NGだろう。そうなると、料理がちょうどいいのだろうか。

 料理と一緒にお酒をプレゼントするというのはどうだろうか。しかし、私が基本的に酒を飲まないので、大鷹さんだけに飲ませるのも微妙な気がする。自分だけ飲むのを遠慮する大鷹さんの姿が目に浮かぶ。

 酒といえば、私は限界まで飲んだことがない。大学では一度も飲み会なるものに参加したことはないし、合コンなんてものも私には縁のないものだった。社会人になってからは、さすがに飲み会に参加することはある。しかし、女性に無理に酒を進めてくるセクハラ上司もいないので、限界がわからないのだ。両親を見ていると、そこまで酒に弱くはないと思うのだが、わざわざ飲むものではないと思っている。

 自分が酒に酔うとどうなるのかわからないが、別にわからなくても問題はないだろう。大鷹さんが私に酒を強要することはないし、離婚後も、酒に縁があるとも思えない。


 クリスマスプレゼントの件はお手上げだ。まあ、クリスマスまではあと一カ月くらいあるので、気長に考えることにしよう。








 ううん、と腕を伸ばしてストレッチをして、イスに座りなおす。私は現在、趣味の小説執筆に精を出している最中なのだ。執筆中につい、迫りくる現実についての考え事をしてしまった。


 何を書いているかというと、BL(ボーイズラブ)小説だ。自分が読み手で楽しんでいたのだが、それだけでは物足りないと思ったので、結婚を機に書き始めることにした。



 現在書いているのは、私と大鷹さんをモデルにしたものだ。もちろん、私がモデルの主人公は男である。

 私がモデルの主人公は、今年で30歳になる会社員。彼に結婚願望はなかった。しかし、30歳を目前にして、両親が「結婚しろ」という呪いの言葉を吐き始めた。それが嫌で、とりあえず地元のお見合いパーティに参加することに決めた主人公。そこで、自分と同じように結婚願望がないのに、お見合いパーティに参加している男性を見つけた。大鷹さんがモデルのイケメンである。

 二人はすぐに意気投合して親しくなる。一緒に何度かお見合いパーティに参加するが、やはりやる気がないのが伝わり、なかなか二人は結婚相手が見つからず、結婚に踏み切ることができないでいた。


 タイムリミットが迫っていた。30歳を過ぎ、31歳までに結婚を決めなかったら、両親は、自分たちが相手を見つけるという、強硬手段に出るというのだ。主人公は焦りだすが、焦れば焦るほど、相手が離れていく。大鷹さんモデルのイケメンは、両親に結婚を急かされることはなく、余裕がある様子だった。


 環境が違うとはいえ、二人には結婚願望がないという共通点があった。それが二人の距離は徐々に縮めていく。そして、主人公は結婚相手を決めなければならないタイムリミットの時が来る。それを見かねた大鷹さんモデルのイケメンが、一緒に逃げようかと駆け落ちを持ち掛ける。

 その時には、二人の間には友情よりも深い感情で結ばれていた。主人公はその言葉に勇気をもらい、主人公は両親の意見に背くことにする。

 そして、最終的に同棲をして、両親に自分たちが付き合っているということをカミングアウトするという話の流れにしようと考えている。



 ちなみに、主人公はノンケであり、同性愛者ではないが、大鷹さんモデルのイケメンは生粋のゲイ、同性愛者という設定だ。主人公は受けで、大鷹さんモデルのイケメンは攻めと決めている。

 我ながらいい話だと思っている。投稿を初めてまだ1か月くらいだが、少しずつ読者数が増えている。


 私が今執筆している場面は、ちょうど二人のクリスマスシーンだった。それで、つい自分のクリスマス事情を考えてしまった。


 とりあえず、この小説に出てくる二人のクリスマスについては甘々にしたいと思っている。想像するだけなら、いくらでも可能である。クリスマスプレゼントがものでも、主人公の初めてでも、小説の中なら全然大丈夫なので、私の萌えを詰め込もうと妄想中だ。


 クリスマスのシーンは悩む必要はない。問題は話のあらすじである。ある程度の流れは決めたのだが、本当にそれで執筆を進めていいのか迷っている。このまま二人が仲良くハッピーエンドでもいいのだが、それだと、私と大鷹さんが重なってしまい、微妙な心境なのだ。

 二人がラブラブで、深い愛情で結ばれているのは作者として、大変うれしいことだが、私は、大鷹さんと離婚する未来が待っている。私が望んでいることであるので、悲しみを感じたり、胸の奥が痛んだり、別れを惜しむ必要はない。


 現実と二次元を一緒にしてしまうのは危険なことは承知している。しかし、このまま終わってしまっては、どうも私の中ですっきりとしないのだ。どうにも、小説の中の自分がモデルの主人公と自分を比較してしまう。


 自分と重ね合わせてしまうという問題以外に、普通の話過ぎると思うのだ。もっと、二人には試練を与えたい。読者が驚くインパクトな事件はないかと考えている。


 とりあえず、クリスマスシーンを書き終えることにしよう。二人には何をしてもらおうか。サンタのコスプレ、ワインを飲んでからの酔っ払いの本音トーク、元カノからの電話、プレゼントは「ぼ、く」でもよい。どんどんアイデアが湧いてくる。


 何せ、「リア充が敵」ということで、リア充についての情報は収集済みである。「敵を倒すには敵を知れ」の精神のもと、現実や二次元ですでに勉強済みだ。敵といっても心の奥底では憧れているのだろう。そうでなければ、調べる必要もないのだから。


 もし、本当にリア充に興味がないというならば、リア充の生態系など調べたりせず、無視して気にしなければいいだけだ。無視できればそれはそれで幸せなのだが、そうもいかないのが、面倒くさい。







「クリスマスは何とかなりそうだ。その後の展開で何か、面白い出来事はないものだろうか。女か、仕事か、子供か、両親か……。」




 自分の部屋のパソコンの前でうんうんとああでもない、こうでもないと、声に出してアイデアを練っていたら、ドアをノックされた。家でノックをするのは一人しかいない。一緒に住んでいる大鷹さんのみ。




「どうぞ。」


 いつも律儀に、部屋に用があるときはノックをしてくれるので、私は助かっている。そうは言っても、そこまで気を遣う必要もないと思うのだが。どこまでも気の利く、私にはもったいない男である。
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