結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【友達】1心の余裕

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 お盆休みも仕事をして終わり、8月はあっという間に終わってしまった。今年の夏は例年以上の暑さであったが、9月以降も高温傾向が続くらしい。

「血液検査の結果は陰性でした」

 お盆前に出た蕁麻疹の原因を調べるために、お盆明けにアレルギーの血液検査を行った。結果は陰性で、アレルギー反応を示す値はなかった。つまり、私は食物アレルギーではないということだ。とりあえず、何を食べても大丈夫、のはずだ。

「それは良かったです」

 9月に入っても暑いが、家の中はエアコンを効かせて快適な温度を保っている。帰宅後、私はさっそく大鷹さんに血液検査の結果を報告した。大鷹さんは安心したような表情をして私に微笑みかける。いつも見ているとはいえ、やはり私の夫はイケメンだ。不意にほほ笑みかけられると、胸がドキドキしてしまう。


「次はどうしようかなあ」

 夕食後、自室に戻った私はパソコンの前でスマホをいじっていた。自分の想像力には限界があり、小説のネタが見つからない時は、漫画アプリで無料漫画を読んだり、自分以外の小説投稿サイトに投稿された小説を読んだりしている。

 それにしても、毎日膨大な量の作品が世の中に放たれている。その中で私の作品を見つけて読者になってくれるのは、本当にありがたいことだ。

 私の作品は世間の流行りのジャンルというわけではない。ただ、自分が書きたいときに書きたいように書く、というスタイルを貫いている。だからこそ、世間受けはよくないと自負している。

「異世界転生とか、異世界恋愛ものが書けたらなあ」

 小説投稿サイト内で行われるコンテストでも、異世界系が幅を利かせている。ジャンル不問と言っても、最終的に受賞に至るのは異世界系のジャンルだったりすることは良くあることだ。私だって創作者の端くれ。自分の作品が商業化されて、作家デビューしたいなと考えたことがある。たまに自分の作品に合うコンテストがあるが応募しているが、いまだに受賞歴はない。世知辛い世の中である。

「まあ、設定とか考えるのはだるいし、異世界系は別に私が書かなくても面白い作品は山ほどあるしなあ」

 面白い作品がすでにあるのに、新たに自ら同じジャンルで創作する必要はない。

 私はそう思いながら、日々、創作活動に励んでいる。自分が読みたい作品がないのなら、自分で作ってやろう。それが創作意欲につながっている。

 このまま考えていても、らちが明かない。ぐだぐだ悩んでいる暇があったら手を動かせ。行動に移せ。

「まずは大鷹さんに相談してみよう」

 それがいい。大鷹さんはたまに私には思いつかないようなことを発言して、とても役に立つ情報を私に与えてくれる。


 さっそく、小説のネタを提供してもらうために大鷹さんの部屋に突撃する。思えば、大鷹さんの方から私の部屋に来ることはあっても、私から大鷹さんの部屋に入ったことは少ない。いつもと違うことをすると、なんだかドキドキしてくる。夫婦なのだから、相手の部屋に入るのにドキドキするなんておかしな話だ。とはいえ、私は恋愛初心者も初心者。相手は玄人並みの経験者、だと思っている。

 私が扉をノックすると、すぐに入って大丈夫だと許可をもらったので、遠慮しながらドアを開ける。

 部屋に入ったら、大鷹さんはパソコンで何やら動画を見ていた。何を見ているのだろうと画面をのぞき込むと、ゲーム実況の動画を見ていた。

「どうしたんですか?紗々さんが僕の部屋に来るなんて珍しい」

 大鷹さんがパソコンの画面を閉じて私に向きなおり、首をかしげる。大鷹さんは椅子に座っているため、私が大鷹さんを見下ろす形になる。普段は背の高い大鷹さんを見上げることが多いのでなんだか新鮮だ。見下ろしても大鷹さんはイケメンだ。

「紗々さん?」

 私が無言で大鷹さんを見つめていることを不審に思ったのか、再度声をかけてくる。危うく、用件を忘れるところだった。

「ああ、すいません。イケメンの顔を眺めていると、時間を忘れてしまうみたいで」

「はあ」

「用件ですよね?エエト、何か、面白そうなネタはありますか?」

「唐突ですね。小説のネタ、ということですか?最近、よくネタに困っていますね」

「まあ、そうかもしれません」

 大鷹さんは私の直球の質問にも嫌な顔をせずに答えてくれる。言われてみれば、ネタに困っていることが多い気がしないでもない。

「心に余裕がないから、かもしれないです」

 原因を考えていたら、不意に頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出してみる。すると、驚くほどしっくり来た。そうだ、私に今足りないのは心の余裕だ。

「ありがとうございます!さすが、大鷹さんに聞けば、何でも解決しますね!」

「いえ、僕は何もしていませんけど」

 そうと分かれば、さっそく原因究明していかなくてはならない。私は大鷹さんの部屋を出て自分の部屋に向かった。呆然とした大鷹さんは、私に手を伸ばしかけたが、その手が私に触れることはなかった。



 次の日、他人の意見も大事だと思った私は、後輩に意見を聞くことにした。

 意見を聞くならやはり、昼休憩が一番だ。朝や帰りは忙しいし、仕事中は仕事に集中したい。今日もまた、都合が良いことに昼休憩が後輩とかぶり、さらには二人きりの状況だった。

「『心の余裕』ですか?先輩はいつも、何かしらに悩んで余裕がなさそうですね?神経質なタイプ、な感じがします」

 せっかく聞いた私の質問になぜ、私を分析するような言葉が出てくるのか。私は河合さん自身の心の余裕について聞いているのに。聞いた相手を間違えたかもしれない。しかし、何せ交友関係が少ないので、手軽に意見を聞ける相手がいないのだ。とはいえ、貴重な意見はありがたく拝聴する。

「私はいつでも、心に余裕がありますよ。先輩とおおたかっちのことに関しては特に。だって、二人を見ていると面白いし、冷静になれるし……」

 私の心の内を読んだかのように、今度は彼女自身のことを話し始めたが、どうにも腑に落ちない。結局、質問の回答に私たちが絡んでいる。先輩をからかって楽しむのは悪趣味だ。

 河合さんは私の顔を見ながら、優雅に自分の弁当に入っていた卵焼きを口にする。ピンクブームはいまだに健在で、卵焼きの中身もハムのようなものが入ってピンク色をしていた。他の弁当の中身もご飯の上にはフレーク、たらこスパゲティと、相変わらずピンクの内容物が多い。

 私の今日の弁当にピンク色は無い。昨日の夕食の残りのほうれん草のクリームパスタを口に入れる。色の偏りは思ったより目に毒だ。私のお弁当の方がおいしそうに見える。

「それはそうと、最近、人手不足で仕事量が増えているじゃないですか?残業もあるしで、どうにかして欲しいですよね」

「週休3日制がさっさと実現してくれればいいのに、とは思います」

「ああ、休みが増えれば、先輩の言う『心の余裕』が生まれやすそうですね」

 話題を変えた河合さんだが、彼女からはこれ以上、心の余裕について聞けそうにない。

 しかし、「休み」か。
 
 そういえば、まだ私の学生時代の苦い思い出を小説に利用していなかった。今回は「休み」をネタにしてみようか。それと関連して「友」もキーワードに設定してみよう。

「紗々さん?」

「ありがとうございます。河合さんのおかげで今回も頑張れそうです」

 頭にはてなマークを浮かべている河合さんを横目に見つつ、私は卵だけの甘めの卵焼きを口にした。

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