結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
129 / 234

番外編【友達】3○○デビュー(私ではない)

しおりを挟む
「すいません。名義変更をしたいんですけど」

 昨日、中学生のころを思い出していたら、物語のような奇跡的展開が訪れた。次の日、いつも通りに銀行で窓口業務をしていたら、昼頃に一人の女性がやってきた。

 私は人の顔と名前を覚えるのが得意だ。それは、私なりの処世術だったことは既に知っていると思う。まさか、それがこんなところで役に立つとは。

 たまたま、受付は私以外の窓口が埋まっていたため、女性は私の窓口に向かってきた。近くで見れば見るほど、女性に中学校の頃の面影が重なる。明るい茶髪を緩く一つにくくり、メイクはばっちりの姿。中学のころというよりは、成人式の日の姿に近かった。前髪を隠していた中学のころは確か一重の糸目だったが、今はぱっちり二重になっていた。

 中学校の頃の彼女は黒髪を背中まで伸ばして、さらには前髪も目元を隠すほどで全体的にもっさりした雰囲気の生徒だった。中学三年のころに同じクラスだったが、私と同じで友達がいないのか、休み時間はいつも一人で黙って読書をしていた。そして、放課後はさっさと教室を出てしまったので、きっとすぐに帰宅していたのだろう。

 高校からは別になってしまったが、成人式で彼女と再会した。彼女は五年でかなり雰囲気が変わっていた。黒髪は金髪になり、メイクもばっちりで中学の同級生にかなり驚かれていた。私もその中の一人だ。当時はこれが○〇デビューか、と感心した記憶がある。

 驚きは外見の変化ばかりではない。なんと、彼女はすでに結婚していたというではないか。中学校では友達すらいなさそうで同士だと勝手に思っていたのに、これには裏切られた気分になった。


「ご本人様を確認できるものと、お名前が変わったことがわかるもの、お届け印、新たに使用するお届け印、通帳と、キャッシュカードをお預かりします」

「はい」

 女性は私の言ったものをカバンから取り出して机に置いていく。本人確認書類として提出された運転免許証を見て驚く。女性の現在の名前は成人式の時に聞いていた苗字でも、中学のころの苗字とも違っていた。

 名義変更前の彼女の苗字は成人式当時のものだった。結婚して苗字を変えていたが、それを違う苗字に変更するのだろう。そこから導き出されることは。

 再婚。

「お預かりいたします。では、こちらの書類にご記入をお願いします」

 書類を渡して、窓口から離れた机で必要事項の記入を始めた女性を目で追いながら考える。まさか、離婚して再婚しているとは思わなかった。中学生のころの彼女の行動とは思えない。いや、それは私の偏見かもしれない。もしかしたら、中学のころから実は放課後はぶいぶい言わせていて、学校内ではおとなしくしていただけかもしれない。


「お願いします」

 考え事をしていたら、女性が再び私の窓口にやってきた。記入を終えた書類を確認して名義変更の処理を行っていく。その間、女性は私の顔をじいと見つめてくる。

「新しい通帳がこちらになります。キャッシュカードは後日、書留にて郵送いたします」

「わかりました」

 もしかしたら、私が中学の同級生だと気付かれたかもしれない。

 黒髪から染めたとわかる程度の茶髪に染め、メガネからコンタクトにしたこと以外、中学のころと劇的に変化したところはない。髪型もショートのままで化粧も最小限に留めている。これはまあ、面倒くさいのとセンスがないというだけの話だが。メガネを外したら別人、ということもなかったので、わかる人にはわかるだろう。

 それに、今の私は銀行の窓口業務をしているため、名前がばれてしまっている。制服の右胸辺りに小さなネームプレートを付けている。苗字のみだが、私の苗字は「倉敷」で珍しい苗字なのでばれるのも時間の問題ではないか。

 ちなみに結婚はしているが、仕事場では旧姓の「倉敷」を使っている。

「もしかして、あなたは」

 名義変更された通帳を手渡すと、制服のネームプレートに書かれた苗字と私の顔を交互に見て、女性は口を開く。

「どなたかと人違いなされているのではないですか」

「ええと」

「ほかにご用件はありますか?」

 基本的に私は人見知りのコミュ障である。よくそんな人間が接客業をやっているなと思うのだが、仕事なら仕方ない。だからと言って、今までの性格が矯正されるわけではない。昔の知り合いに合って、気軽に久しぶりと声をかける陽キャな私は存在しない。スーパーなどで知り合いを見つけたときは、相手が去るのを物陰にひそめて会わないようにするタイプだ。

 私の名前が出る前に強引に口を挟むと、女性はあきらめたのか、そのまま窓口から離れていく。私だという確信が持てなかったのか、それとも私の見知らぬ人オーラに気圧されたのか。どちらにせよ、感動の再会という場面にはならなかった。



「今日の昼頃に来ていたお客さん、先輩の知り合いですか?」

 昼休憩に休憩室でお弁当を食べていたら、河合さんにこっそりと話しかけられた。今日は河合さん以外に二歳年上の平野さんが一緒になった。

「どうしてわかったの?」

 私も平野さんに聞かれないようにこっそりと河合さんに返事する。基本的に私は自分のことをあまり他人に話さない。わざわざ自分の個人情報を他人に漏らしたくはないからだ。それに私の場合、話と言ったら、大鷹さんとの話題がメインになるのでなおさら、職場の人間に話したくはない。

「なんとなく、先輩が戸惑っていた気がしたので。面倒くさい案件でもなさそうだったので、知り合いかなって思ったんですけど」

「どうして、知り合いにあったことくらいのことを小声で話す必要があるの?」

 小声で話していたとはいえ、休憩室は広くない。使用しているテーブルの大きさもそこまで大きくないので一緒にお昼を食べていたら聞こえてしまったのだろう。

「知り合いっていうか、中学の同級生に会いました……」

「それは気をつけたほうがいいかもしれないわ」

 聞かれてしまった手前、隠すのも変な気がしたので正直に今日の午前中のことを平野さんにも伝える。すると、意外な言葉が返ってきた。

「気をつけるって、先輩の交友関係ご存じでしょう?何に気をつけるっていうんですか?」

 河合さんが私の代わりになぜか返答する。私も同感だ。相手が私に気づいた可能性は微妙だが、現状はただの銀行員とお客という関係でしかない。

「それは……。実は私ね」

 平野さんが話した内容に私と河合さんは顔を見合わせた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...