朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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17私に興味を持つ教授

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「久しぶりね。蒼紗」

「どうして、私のこと」

「だって、蒼紗は昔と変わらなすぎだもの。わかるに決まっているでしょ」

「でも、いくら何でも」

 目の前の人物が誰かすぐに理解した。彼女はやはり、私と違って順調に年を重ねていた。身体や顔は年相応のしわが増え、話し方も年齢を重ねたとわかる落ち着いた声と口調である。しかし、昔の面影を残す顔は忘れることができない。

私は向井さんの家にやってきていた。そして、それは彼女の住んでいる家である。向井さんに、ひいおばあさんと会ってほしいから家に来て欲しいと言われた。だから今、彼女とこうして面と向かって顔を合わせている。

「驚いた顔をしているけど、私は、あなたのその特異体質のことを昔から知っていたのよ」

「えっ!」

 向井さんのひいおばあさんである私の幼馴染、荒川結女(あらかわゆめ)の発言に困惑する。しかし、私の心情を理解していないかのように、彼女は驚きの言葉を連発する。

「だって、私は〇〇だもの」

 だから、一つ、蒼紗に忠告しておくわ。あなたが今、家に居候させている存在によって、あなたの周りにいる、大事な人間が傷つくことになる。そうならないために、彼らと……した方がいいわ」



「ジリジリジリ」

 目覚ましの音で目が覚める。今日も大学の授業があるので、眠いと言ってベッドから出ないわけにはいかない。身体を伸ばしてほぐしながらベッドから降りて、パジャマからスウェットに着替える。

 久々に夢を見た。おそらく、今回の夢は私の能力の一つである予知夢だろう。近いうちに向井さんの家に行く予定がある。その時にきっと、彼女と話すことになるだろう。





「おはようございます。今日の恰好はどういうテーマですか?」

「おはよう、蒼紗。何、そのみょうちくりんな格好は?」

 大学に着いて、更衣室で着替えて講義室に向かう途中で、綾崎さんとジャスミンに会った。自覚していたことだが、相手にもテーマがよくわからないらしい。

「なんとなく、今日は普通の恰好をしてみたくなりました」

『普通の恰好?』

 私の言葉に驚く二人だが、そこまで驚くことはないだろう。私の実年齢に合わせた服装をしてみただけである。自分が普通の人間のように順調に年を取った場合を想像しての恰好だ。髪だって、本来なら黒いはずがないので、白髪のウィッグをつけている。

「普通ですよ。下は花柄のモンペで上は生成りのシャツで、これに麦わら格子を被れば完璧だと思いませんか?」

「いやいや、よくわからないんだけど。今の蒼紗って、その辺にいる高齢者と同じ匂いがするんだけど」

「いえ、むしろ彼らの方がおしゃれですよ。今時、そんないかにもな恰好をしている人はいませんよ」

 わいわいと私の姿に文句を言う二人の姿を見ながら、自分の恰好を改めて確認する。

「まあ、この見た目でこの格好はさすがに無理があるというか、似合ってはいませんね」

 20代前半の若い見た目だから似合わないのかもしれない。とはいえ、確かに今時の高齢者がこんな格好をしているのを見たことがない。きっと、私の中の高齢者像が古いのだろう。


「思い出した!なんか見たことある格好だなと思っていたけど、その恰好って、一昔前の恰好でしょ」

「ああ、なるほど。佐藤さん、よく思いつきましたね。言われてみれば、教科書に蒼紗さんみたいな恰好をした人が載っていた気がします」

「一昔の前の恰好、ですか?それって、つまり私が……」

 二人の会話を名とはなしに聞いていたが、思わず会話に割り込んでしまう。

 彼女たちは、私のことを「この世にいるはずのない年齢の人間」と言いたいのだろうか。思い返せば、ジャスミンは私の正体を知っているのに、気味悪がらずに私に付きまとっている。綾崎さんには私の特異体質を話してはいないが、もしかしたらジャスミンがうっかり話している可能性もある。

「私がどうしたの?一昔前の恰好をたまたま蒼紗がしたかったんだったら、それはそれでいいんじゃないの」

「別に変な意味で言ったわけではないですよ。ただ。蒼紗さんの恰好が妙にリアルというか、その時代にいた人間を思わせるような雰囲気で驚いてしまいました」

「綾崎さん、それって要するに、蒼紗がババくさいということかしら?」

「い、いえ、決してそのようなことは……」

 どうやら、私の特異体質がばれたわけではなさそうだ。私は彼女たちの失礼な言葉を聞き流すことにした。


「これにて今日の授業を終了します」

 退屈な駒沢の授業が終わり、私たちは講義室から出ようとした。駒沢というのは、私の所属する『妖怪、怪異専門学科』の専門教授である。文字通り、妖怪や怪異について研究する学科であるが、彼は私に興味を持っていた。私の能力や特異体質に気付いて、執拗に声をかけてくるので、私は彼が苦手である。

「ああ、朔夜さん。ちょっと、この後、私の研究室に来ませんか。少しお話が」

「今日はこれからバイトがあるので無理です」

 たまにこうして授業後に声をかけてくることがある。予定があってもなくても、駒沢の私に向ける視線が嫌で、いつも適当に断ることにしている。駒沢は私が能力者で特異体質だと確信しているようだが、証拠を掴めていない。証拠を掴ませないように気をつけなくてはいけない。


「蒼紗に勝手に声をかけないでくれる?先生だからって、蒼紗に危害を加えたら容赦しないから」

「さ、佐藤さん、言葉に気を付けてください。駒沢先生、蒼紗さんはバイトですけど、私ならお時間がありますが」

 ジャスミンは駒沢が嫌いらしい。私も苦手であると同時に嫌いでもある。私と同じ能力者の彼女が私の味方をしてくれるようで心強い。反対に綾崎さんは一般人で能力者ではないため、駒沢の話が興味を惹かれるようで、憧れの先生として尊敬しているようだ。

 私が駒沢に話があると研究室に誘われるたびに、ジャスミンが駒沢に敵意むき出しの状態でかみつき、綾崎さんがそれをなだめて先生を尊敬のまなざしで見つめる、ここ最近のよくある光景である。

「いつもいつも、朔夜さんと佐藤さんは私に対して冷たいですねえ。綾崎さんみたいに私を慕ってくれてもいいのですよ。ああそうそう。綾崎さんの他にもう一人、私を慕ってくれる生徒がいましてね」


 向井姫奈(むかいひな)。

 ぼそりとつぶやかれた駒沢の言葉に無意識に身体がこわばってしまう。それに気づいたのか、駒沢が笑って話を続ける。

「彼女は熱心に私の話を聞いてくれましてね。授業外でもよく私に質問をしに来てくれるのですよ。話をする中で、時々、あなたの名前が出ていましてね。後輩に慕われていますね」

「は、はあ」

「それで、彼女から面白い話を聞いたんですよ。今日はそのことでお話があったのですが」

『お断りします!』

 それ以上、駒沢の話を聞いていられなかった。ガタンとイスから立ち上がるとそのまま荷物を持って講義室のドアへと向かう。突然の行動にジャスミンはすぐに対応して、私を追いかけてきた。綾崎さんは視線を駒沢と私たちに向けて、どうしようかと迷っているようだ。

 私とジャスミンはそのまま駒沢を振り返ることもせず、講義室を後にする。綾崎さんを部屋に残してきてしまったが、駒沢が一般人に手を出すとは思えないので、申し訳ないが戻らずそのまま大学を出ることにした。

 まさか、向井さんが駒沢にひいおばあさんと私のことを話しているとは思わなかった。駒沢に対して、さらに警戒を強める必要がある。今度向井さんに会ったら、駒沢の人物像についてしっかり話そうと心に決めた。

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