人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

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1日常

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 入学式は退屈だった。校長が話をして、新入生代表が挨拶する。その後、上級生による校歌斉唱があったが、中学の時とほとんど変わらない内容だった。ただし、一年生代表で挨拶を行った生徒は印象に残った。

 その生徒は隼瀬あきら(はやせあきら)と名前らしい。教室の廊下に貼られていたクラス表に名前が書かれていたのを思い出す。紫陽のクラスメイトが新入生代表の挨拶をしていた。

「この学校に入学できたことを誇りに思い、三年間しっかり勉学に取り組みます」

 彼女の声は体育館に響き渡った。決して大声を出しているわけでもないのに、その声は良く通る澄み切った声だった。長い黒髪を一つにまとめ、スカートの長さも他の生徒よりも長く、ひざ下くらいの長さであり、真面目そうな印象を受けた。壇上から降りるときに顔を一瞬見ることができたが、入学式というめでたい日というのに険しい顔をしていた。


 教室に戻ると、担任は生徒たち自己紹介をするよう指示した。

「自己紹介といっても、それだけだと何を話していいのかわからないと思うから、話す内容は僕が指示しようか。とりあえず、自分の名前はもちろんだけど、他に自分の住んでいる地域、趣味は最低限話すことにしよう。後は入りたい部活とか、高校で頑張りたいことも言ってくれるといいかな」

 担任は、生徒たちが自己紹介をしやすいように、話す内容を指示した。自己紹介は、名簿順で、男子から始まった。


「浅井浩紀(あさいこうき)です。○×市に住んでいます。野球が好きで、中学では野球部でした。高校でも野球部に入るつもりです」

 自己紹介する際には、席を立ち教室を見渡しながら話し、話し終えたら席に着く。最初の男子が自己紹介を終えると、次の男子が席を立って話し出す。終わったら席に着く。その繰り返しでどんどん自己紹介は進んでいく。

「高井孝弘(たかいたかひろ)です。趣味はゲームで、スマホゲームにはまっています。中学はこの近くの△×中学です。部活は特に決めていません。一年間よろしく」

 紫陽の前の席に座っている生徒が席に着く。いよいよ、自己紹介の番が回ってきた。今までの男子たちと同じように席を立ち、自己紹介を始める。

「鷹崎紫陽(たかさきしよう)です。住んでいる地域は隣の市の×□市です。趣味は……」

 一瞬、言葉に詰まってしまった。趣味は何を言えばいいだろうか。他の男子生徒の自己紹介を聞きながら、自分の趣味を考えていたが、周囲の反応がよさそうなものが思い浮かばず、自分の番がきてしまった。読書は好きだが、それではあまりにも普通すぎる。それにオタクだと思われかねない。

「趣味は、人間観察です。僕も部活は特に決めていません。よろしくお願いします」

 どこぞの誰か言いそうな、中二病丸出しの発言をしてしまった。あながち嘘でもない自分の発言に紫陽は苦笑してしまう。他人を観察するのは案外楽しくて、暇な時やぼうっとしているときはついつい他人を眺めてしまう。

 紫陽の発言に反応するものはいなかった。高校生にもなると、他人の自己紹介にいちいち一喜一憂することもないようだ。

 自己紹介が終わり、紫陽は席に着く。すぐに次の男子の自己紹介が始まった。席に着いてこっそり周囲を見渡すと、生徒たちは皆、顔を俯かせて机の下を見ている。その一人に注目すると、机に隠してスマホをいじっていた。



 もう一度、周囲をよく確認すると、クラスメイトの大半は下を向き、机の下でスマホを操作していた。隣の席の男子はSNSアプリ「コネクト」を開いて、誰かと連絡を取っていた。指が高速に動いて、メッセージが表示される。後ろをふり向くと、音声こそ聞こえないが、派手なアクションゲームをしている男子がいた。やっていることは一人一人違えど、スマホを操作していることに変わりはない。

 スマホを操作していない生徒が何をしているかといえば、机に伏して寝ていた。入学式当日から寝ていることに紫陽は驚いた。スマホをこっそりと机の下で操作する者、寝ている者がいることに、担任はどう思っているのだろうか、担任の様子をうかがうと、特に何とも思わないのか、そのまま自己紹介の様子を眺めているだけだった。

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