人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

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1日常

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「くだらないな。そんな用事なら電話を切ってもいいか。あやのは俺の保護者気取りか、恋人気取りなのかもしれないけどさ。オレはお前のことをただの近所の同い年、つまり幼馴染としか思っていないことを忘れるなよ。正直、今の電話も迷惑極まりない」

 高校に入学してから見てきた光景が目に浮かぶ。誰もかれもがスマホにかじりつくように見入っている。通学中も、授業中も、休み時間も、お昼も放課後家に帰ってからも。そんな奴らと一緒になれと、あやのは言うのだろうか。

 あやのも、その有象無象の一人であるので、自分たちの世界に引き寄せたいのだろう。だからこその発言かもしれない。しかし、そんな理由でスマホを押し付けられるのは気分が悪い。せっかく家でくつろいでいたのに、気分は最悪だ。つい、言葉が悪くなってしまう。

「オレって何よ。いつもは僕とか言ってかわいいくせに。ふん、あんたがその気なら私にも考えがあるから。とりあえず、クラス会は、GW明けの土曜日に決まっているから、参加にしておくわ。せいぜい、持たない苦しみを味わうことね!」

「うぜえ」

「なっ!紫陽!」

 紫陽は電話を強制的に切った。携帯電話をベッドに投げ捨て、自分もベッドに横たわる。少しくつろいだら宿題をやろうと思っていたが、予定変更だ。あやののせいで、一気にやる気が起きなくなった。こうなったらふて寝である。

 一人称がオレになってかわいくなくなったと言っていたが、紫陽は一人称を「オレ」と言っている。僕といっているのは、そっちの方が気分的に真面目に見えるかなと思っているだけで、外向けの一人称だ。



「おにいちゃん、なんか機嫌悪い?」

「機嫌悪いように見える?今日、イライラすることがあったんだ。そのせいだと思うけど、明日にはよくなると思うよ。すみれは、家でスマホをいじらないんだね」

「ああ、スマホね。面倒になったから、自分の部屋に置いてあるよ。通知もすごいから、通知音は切っちゃった。買ってもらったけど、スマホって面倒なだけだったかも」

「よしよし。すみれはそのまま、オレのかわいい妹でいてくれよ」

「お兄ちゃん、キモい!」

 その日の夜は、あやのの言葉が頭に残り気分が悪かった。妹にも心配されてしまったが、紫陽は笑ってごまかした。すみれがスマホに依存していないことを知り、紫陽の気分は少し良くなった。




 次の日、紫陽は学校で隼瀬さんが本当にスマホを持っていないか、本人に直接確認してみることにした。

「ねえ、隼瀬さんって、本当にスマホを持っていないの?」

「鷹崎君から話しかけてくれるなんて、うれしいな。それは、昨日いったと思うけど?」

「昨日……」

「もう、昨日のこと、忘れっちゃたの?言ったでしょ。私たちは同志だって」

 そんなことを昨日の昼休みに言われた気がする。

「そうだったね。今、思い出した」

「まったく……。それで、鷹崎君はGW明けのクラス会に参加するの?」

 ついでとばかりに隼瀬は、あやのが言っていたクラス会の出欠について質問してくる。あやのは、勝手に紫陽を参加させると言っていたが、彼自身に参加する気はない。

「参加しないよ」

「私も。そんなの、面倒くさいし」

『ふふふふ』

 近くに自分の仲間がいて良かった。自分以外にもスマホを持たず、クラス会に参加しないというクラスメイトがいた。隼瀬と目が合うと、自然と口元が緩んでいく。その表情につられて、彼女も笑い出す。仲睦まじい二人の様子を、あやのはじっと見つめていた。

 二人が欠席を決めたクラス会は、行われることはなかった。GW明けに起きた事件により、それどころではなくなった。

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