人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

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4寄生される人、されない人

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 結局、紫陽にはあやのの手を傷つけずにスマホを引き離す手段を見つけることができなかった。やはり、彼女の母親たちのように、病院で強制的にスマホと手を切断するしかないのだろうか。

 家に戻った紫陽は、自分の部屋に戻り、これからの世界のことに思いをはせる。たまたま自分はスマホを持っていないし、スマホ依存症というわけではない。そのため、今のところ、紫陽がスマホに寄生されるという心配はない。

「スマホだけで済むのなら、いいんだが。このままだとわからないよな」

 幼馴染の手から離れないスマホ、スマホの振動に連動して震えだした彼女の身体。さらには、スマホの充電が少なくなると、突然眠りだしてしまうという奇妙な行動。どれを思い出しても、この目で見るまでは信じられなかった。


「トントン」

「すみれか。入ってもいいぞ」

 紫陽は、ドアをノックした相手がすみれだと確信していた。両親が部屋を訪れることはあまりない。現在のこの状況で、紫陽に用事があるのは妹だけだろう。紫陽の両親は、自分たちの子供がスマホに寄生されていないことに安堵していた。ドアをノックしてまで話したいことはないはずだ。

ドアの向こう側に声をかけるが返事がない。不審に思っていると、不意にドアが開き、予想外の人物が紫陽の前に現れた。

「妹さんじゃなくて、悪いわね」

 部屋に入ってきたのは、紫陽のクラスメイトだった。彼女の姿をこの目で確認してようやく、彼女が家に来ていたことを知る。

「どうして、お前がうちの家に居る?ていうか、オレの家の住所をどうやって知った?」

「そんなの、担任に聞くなり、クラスメイト、そうねえ。自己紹介で幼馴染と話していた彼女に聞くなり、方法はいくらでもあるわ」

 紫陽の部屋に入ってきたのは、同じクラスの隼瀬あきらだった。彼女とは高校で初めて出会ったはずであり、ただスマホを持っていないという同士で、少し話をした程度である。家まで来られるほど親しい間柄ではないはずだ。

「オレの家を知る方法はたくさんあることはわかった。それで、前触れもなく、オレの家にやってきた理由はなんだ?」

「そんなに警戒しないでも、私はあなたのことを恋愛対象として見ることはないから安心して。あやのさんと三角関係にならないことは保証する。そこは心配しなくても大丈夫。今日は、世間から少し外れている鷹崎君に、今現在、全世界で起きていることを説明しに来たの」


 意味深に、自分がわざわざ情報を届けにやってきたという彼女は、どこか余裕ぶっていて、それが紫陽の勘に触った。思わずカッとなり、衝動的に発言する。

「それはどうも。あんたみたいな優等生に情報を提供されるほど、オレは落ちぶれていない。今の世の中、学校の勉強だけがすべてだと思うなよ」

「ふふふ。私もそれは同感。なんなら、情報はすべて、これが教えてくれるものね」

 何がおかしいのか、隼瀬あきらは笑い出す。そして、ポケットからあるものを取り出し、紫陽の目の前に突き出した。

「おまえ、それは……」

 彼女が手にしていたのは、幼馴染の手から離れず苦しませていたもの、現在、世間をにぎわせている代物だった。彼女は入学式初日に、持っていないと話していたはずだ。どうして持っているのだろうか。

「世間で話題になっているから、中古で購入したの。今なら、格安で買えるからね。とはいっても、さすがに手に寄生されるのは怖いから、電源も入れていないし、SIMも入れていないから、ただの黒い物体」

「話というのは、やっぱり、それ、関連のことか」

「ご名答。察しが良くて助かるわ。そこに座っていいかしら。立って話したいというのなら、私は別に構わないけど」

 スマホを片手に立っていた隼瀬の発言に、部屋に入れてからずっと立ち話をしていたことに気付く。紫陽は慌てて、勉強机からイスを引き出し、隼瀬に勧めると、自分はベッドに腰かける。

「ありがとう」

 彼女はあっさりとイスに座ると、今、世界で起こっている、紫陽たちの身の回りで起きていることの説明を始めた。
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