2 / 32
2捨て猫
しおりを挟む
「にゃー」
それを見つけたのは、5月の連休前のことだった。中学生になると部活動が始まるが、まだ体験入部の時期だったので、歩武はその日も部活を見学することなく、放課後はすぐに帰宅していた。どの部活に入るのかは決めていなかったが、ミコがおすすめする部活にでも入ろうかと楽観的に考えていた。きっと、妹も歩武と同じ部活に入りたがるだろうとも思っていた。
ミコと一緒に帰宅しようと隣の教室を覗く。今日は日直だったのか、真剣な顔で学級日誌を書いている妹の姿を見かけたため、歩武は一人で帰宅することにした。そこで猫が捨てられている現場を目撃するのだった。
「かわいそうだけど、うちでは飼えないしなあ。ごめんね。誰か、心優しい人が拾ってくれるのを待っていてね」
帰宅途中に不自然に置かれた段ボール箱を見つけた。川沿いを歩いていたら、歩道の真ん中にその箱は置かれていた。これでは歩く人、自転車で通る人の邪魔になるだろう。興味本位で箱の中を覗いたら、猫の鳴き声がして、中には小さな白い子猫が入っていた。全体が白い毛でおおわれていたが、耳の部分と尻尾の先端だけが黒かった。
いつから置かれているのか、子猫は衰弱していた。朝は見かけなかったが、目を閉じてかすかに鳴き声を上げるだけで、一晩もしたら死んでしまうだろうと予測できるほどに弱っていた。
とはいえ、歩武は子猫を家に連れて帰ることはしなかった。歩武の両親は猫が大嫌いだった。自分の家の庭で野良猫が我が物顔で歩き回り、糞尿をまき散らしていく姿を見ていたら、そう思うのも無理はない。
中学生の歩武はそこまで猫が嫌いなわけではなかったが、両親の気持ちを考え、なくなく子猫を家に持って帰るのを断念した。
○
「うわあ。こんな人目の付く場所に堂々と捨てる人がいまだにいるんだあ。とはいえ、うちには到底もって帰れないしねえ」
歩武が見つけた子猫を妹のミコも帰宅途中で目撃した。ミコも自分の両親が猫を嫌っていることを知っていたため、拾って持って帰ることはしなかった。しかし、それ以外にも猫を拾わない理由が彼女にはあった。
「ごめんねえ。私の家はもうすでに定員オーバーなんだよね。誰か、心優しい人が現れるのを待つか、もういっそ、現世はあきらめて来世に期待した方がいいかもね」
子猫の目線に合わせてしゃがみこんで話しかける姿は、人々の注目を浴びていた。しかし、誰も捨て猫と中学生の間に割って入る者はいない。
「じゃあね。運が良かったらまた会いましょう?」
ミコもまた、子猫を拾うことはせず、そのまま帰宅した。
○
「ねえねえ、ミコ。帰りに捨て猫が入った段ボール箱を見かけなかった?」
ミコが帰宅すると、姉の歩武が挨拶もなしに話しかけてきた。
「さあ?見かけなかったかな。もし見かけたとしても、拾って持って帰れるようなうちじゃないから、どうしようもないけどね」
「そ、そうだよね。でも、見かけなかったんだ。よかったあ。誰か、心優しい人が拾ってくれたのかも」
「そんなに猫が心配だったなら……」
「いなかったってことは拾われたってことだから、もう、その話は終わりにしよう。そうだ!ミコはどの部活に入るか決めた?私は特に興味がわいた部活がなくて、できればミコと同じ部活に入りたいんだけど」
歩武はミコが猫の入った段ボールを見かけなかったことに安堵していた。そのまま、話題を変える姉の様子にあきれたミコだが、表情に出さないように気をつけながら、何事もなかったかのように会話を続ける。
「まったく、お姉ちゃんは他人任せだねえ。私は……」
結局のところ、この姉妹は互いに依存しあって生きてきた。これからも、それが続くのだと二人は勝手に思っていた。
しかし、それはただのまやかしに過ぎないとわかる出来事がすぐそこまで迫っていた。
○
「なあ人間、お前はオレを見捨てたな。そのせいで、オレはこの世から去ることになった。お前がオレを拾ってくれさえすれば、オレは」
歩武の目の前には猫耳と尻尾を生やした美少年が不機嫌そうに立っていた。髪が黒と白の混ざった変わった色合いをした、瞳の色が金色の少年だが、どこかで見たことのある気がした。少年の言葉と照らし合わせ、歩武は自分の予想を口にする。
「もしかして、先週、私が見かけた段ボールに入れられていた捨て猫さん、ですか?」
「ふうん、少しは勘の働くやつだな。だが、そんなことはどうでもいい。オレはあの後……」
歩武の予想の見事に当たっていた。しかし、猫がケモミミ美少年になることは漫画やアニメの中でしかありえないと思っていた。とはいえ、夢なら何を言われても、何が起こっても不思議ではない。歩武は今起きている現象は夢だと考えることにした。
猫耳を生やした美少年は歩武が別のことを考えているとは知らず、自分に起きた出来事を話し始めた。まるで自分が悲劇のヒロインであるかのような悲壮感たっぷりの話し方だったが、聞き手は歩武一人で、彼の話を適当に聞いていた。
「……ということで、オレはそのまま誰の手にもわたることなく、保健所とかいう場所に連れていかれた。そして、安楽死という、人間からしたら苦しまなくても済む方法で殺された。だからこそ、オレは決意した!」
「夢を見るってことは、私はそんなにあの猫のことが気になっていたんだ。でも確か、ミコが帰る頃には、すでに捨て猫の入った段ボールはなかったって言っていたような」
「おい人間。オレの話を聞いているのか!」
「えっ?ああ、聞いてる、聞いてるよ。あなたが段ボールに捨てられていたネコさんで、何でか知らないけど、私の夢に出てきたってことだよね?だとしたら、私の取り憑くのが目的?でも、あなたを見捨てた人は私以外にもたくさんいたよね。どうして、私の夢に出てきたの?私は特に霊感が強い人ではないし、家系的に視える人はいなかったと思うけど」
「全然、オレの話を聞いていないなお前。別にお前じゃなくても、オレを見かけて無視した奴は大勢いた。だがな、どうやら最近の人間は、霊が視える奴がめっきり減ったらしい。だから、オレのことが視える奴もなかなか見つけることができなかった。だから」
「私はその珍しい人だったわけだ。でも、どうして?」
「それはきっと、お前の近くに……」
○
「ジリリリリリ!」
バチン、目覚ましの音で歩武は目が覚めた。辺りを見渡すとそこは見慣れた自分の部屋で、歩武はパジャマを着てベッドで寝ていた。いつも通りの光景でほっとしたが、ほっとするのはまだ早かった。寝起きで周りをよく確認できていなかった。
「あいつ、よくもオレの言葉の邪魔をしてくれたな」
「アレ?私はまだ夢を見ているのかな?目の前に猫耳美少年がいるんだけど」
パジャマからスウェットに着替えようとベッドから降りるときに、自分の部屋に他人がいることに気付いた。視界に猫耳が入った瞬間、夢の内容を思い出し、思わずつぶやいていた。
「残念ながら、夢じゃないんだな、これが。おい、お前は確かチュウガクセイとかいう奴だろう?さっさと起きないと遅刻するぞ!」
歩武は二度寝をしようと決めて布団をかぶって目をつぶろうとするが、夢だと思う元凶に邪魔されて失敗する。
「ほ、本当に夢じゃないとしたら、どうして私の目の前に猫耳生やした少年がいるの?幽霊なんて見えないし、霊感とかもない家系だって、夢でも言ったでしょう?」
「昔はそうだったかもしれないが、今はそうじゃないと思うぞ。何せ、お前の近くには飛んでもない奴がいるか、ら」
「おはよう!お姉ちゃん。そろそろ起きないと、朝ご飯食べる時間が無くなるよ!あれ?変な猫が一匹部屋に紛れ込んでいるようだけど、どうしてかなあ」
少年の意味深な言葉に首をかしげていると、歩武の部屋のドアがいきおいよく開き、そこから妹のミコが朝から元気な声で歩武に話しかける。
「あ、あれ、ミコにもこの少年が視えているの?もしかして、ミコも霊感があるの?」
「ま、まあ、そうかもね。とりあえず、こいつが邪魔だっていうのなら、追い払ってあげる。そもそも、私がお姉ちゃんの夢から追い出したはずだけど」
どうして、お姉ちゃんの部屋に来ちゃったのかなあ。
何やら、歩武にはわからない言葉をつぶやきながら、ミコが猫耳少年に近づいていく。それと同時に猫耳少年も一歩ずつ、ミコから距離を取ろうと、一歩ずつ後退していく。
「お、お前だってオレと変わらないだろう?今更、一匹くらい増えたくらいで、どうってことないはずだ」
「オレと変わらない?」
「ううん。捨て猫ちゃん。そろそろそのうるさい口を閉じてくれないと、お前のそのちっぽけな存在ごと消しちゃうけどいいのかなあ?せっかくこの世に残っているのにもったいないねえ、やりたいことがあるんでしょう?」
先ほどから、この二人は何を話しているのだろうか。歩武は二人の話についていけず、戸惑っていた。それでも、気になる言葉を問い返すも、二人は歩武の言葉を無視して、会話を続けていく。
「当たり前だ。オレは、人間への復讐を考えている。そのためには、誰か手ごろな人間の家で機会をうかがう必要がある」
「人間に復讐するのに、人間の家に居なくちゃいけないなんて、本末転倒ね。ここにいたら、人間が好きになっちゃって、復讐どころじゃなくなるかもしれないわよ」
「だとしても、こいつしかオレが死んだ近くで、取り憑けそうなやつが見つからなかった」
「まあ、それはそうね。これは私の影響だと思うけど」
「ねえ!」
歩武はこれ以上話を聞いていられないと、先ほどよりも声を大にして二人に話しかける。そして、今が朝の忙しい時間帯で、自分たちはこれから学校に行く必要があることを思い出す。
「ミコ、私を起こしに来てくれたんでしょう?学校に行く準備しなくちゃ。このよくわからない少年と話している時間はないは」
「確かに時間の無駄ね。でも安心して。時間については私が操作しているから、問題ないわ。そうそう、私たちは学校に行かなくちゃいけないことをすっかり忘れていた」
「お、オレはお前なんかこわくないからな。こいつが許可するまでここに居続けてやる」
じゃあ、こんな奴放っておいてさっさと行こう。
ミコが歩武の手を引き部屋を出ようと促すが、歩武はその手を振り払い、猫耳少年と対峙する。
「ねえ、あなたは本当に私が見かけた捨て猫さんなの?」
「そうだといってもお前は信じないだろう?」
「信じないとは言っていない。あなたのその髪の色合いとか金色の瞳に猫耳と尻尾からは想像はできないことはない。だから」
あなたがこの世に残り続ける理由を教えて。
なんとなく、ミコに聞かれないように少年の耳もとでこっそりとささやく。そして、慌ててミコのもとに戻り、部屋を出ていく。
ガチャリ。
ドアが閉まる音がやけに大きく部屋に響き渡る。
「あいつ、お人好しだな。まあ、だからこそあいつが」
猫耳少年も歩武の部屋を出る。そして、歩武たちに気付かれないように、こっそりと歩武たちの様子を観察することにした。
それを見つけたのは、5月の連休前のことだった。中学生になると部活動が始まるが、まだ体験入部の時期だったので、歩武はその日も部活を見学することなく、放課後はすぐに帰宅していた。どの部活に入るのかは決めていなかったが、ミコがおすすめする部活にでも入ろうかと楽観的に考えていた。きっと、妹も歩武と同じ部活に入りたがるだろうとも思っていた。
ミコと一緒に帰宅しようと隣の教室を覗く。今日は日直だったのか、真剣な顔で学級日誌を書いている妹の姿を見かけたため、歩武は一人で帰宅することにした。そこで猫が捨てられている現場を目撃するのだった。
「かわいそうだけど、うちでは飼えないしなあ。ごめんね。誰か、心優しい人が拾ってくれるのを待っていてね」
帰宅途中に不自然に置かれた段ボール箱を見つけた。川沿いを歩いていたら、歩道の真ん中にその箱は置かれていた。これでは歩く人、自転車で通る人の邪魔になるだろう。興味本位で箱の中を覗いたら、猫の鳴き声がして、中には小さな白い子猫が入っていた。全体が白い毛でおおわれていたが、耳の部分と尻尾の先端だけが黒かった。
いつから置かれているのか、子猫は衰弱していた。朝は見かけなかったが、目を閉じてかすかに鳴き声を上げるだけで、一晩もしたら死んでしまうだろうと予測できるほどに弱っていた。
とはいえ、歩武は子猫を家に連れて帰ることはしなかった。歩武の両親は猫が大嫌いだった。自分の家の庭で野良猫が我が物顔で歩き回り、糞尿をまき散らしていく姿を見ていたら、そう思うのも無理はない。
中学生の歩武はそこまで猫が嫌いなわけではなかったが、両親の気持ちを考え、なくなく子猫を家に持って帰るのを断念した。
○
「うわあ。こんな人目の付く場所に堂々と捨てる人がいまだにいるんだあ。とはいえ、うちには到底もって帰れないしねえ」
歩武が見つけた子猫を妹のミコも帰宅途中で目撃した。ミコも自分の両親が猫を嫌っていることを知っていたため、拾って持って帰ることはしなかった。しかし、それ以外にも猫を拾わない理由が彼女にはあった。
「ごめんねえ。私の家はもうすでに定員オーバーなんだよね。誰か、心優しい人が現れるのを待つか、もういっそ、現世はあきらめて来世に期待した方がいいかもね」
子猫の目線に合わせてしゃがみこんで話しかける姿は、人々の注目を浴びていた。しかし、誰も捨て猫と中学生の間に割って入る者はいない。
「じゃあね。運が良かったらまた会いましょう?」
ミコもまた、子猫を拾うことはせず、そのまま帰宅した。
○
「ねえねえ、ミコ。帰りに捨て猫が入った段ボール箱を見かけなかった?」
ミコが帰宅すると、姉の歩武が挨拶もなしに話しかけてきた。
「さあ?見かけなかったかな。もし見かけたとしても、拾って持って帰れるようなうちじゃないから、どうしようもないけどね」
「そ、そうだよね。でも、見かけなかったんだ。よかったあ。誰か、心優しい人が拾ってくれたのかも」
「そんなに猫が心配だったなら……」
「いなかったってことは拾われたってことだから、もう、その話は終わりにしよう。そうだ!ミコはどの部活に入るか決めた?私は特に興味がわいた部活がなくて、できればミコと同じ部活に入りたいんだけど」
歩武はミコが猫の入った段ボールを見かけなかったことに安堵していた。そのまま、話題を変える姉の様子にあきれたミコだが、表情に出さないように気をつけながら、何事もなかったかのように会話を続ける。
「まったく、お姉ちゃんは他人任せだねえ。私は……」
結局のところ、この姉妹は互いに依存しあって生きてきた。これからも、それが続くのだと二人は勝手に思っていた。
しかし、それはただのまやかしに過ぎないとわかる出来事がすぐそこまで迫っていた。
○
「なあ人間、お前はオレを見捨てたな。そのせいで、オレはこの世から去ることになった。お前がオレを拾ってくれさえすれば、オレは」
歩武の目の前には猫耳と尻尾を生やした美少年が不機嫌そうに立っていた。髪が黒と白の混ざった変わった色合いをした、瞳の色が金色の少年だが、どこかで見たことのある気がした。少年の言葉と照らし合わせ、歩武は自分の予想を口にする。
「もしかして、先週、私が見かけた段ボールに入れられていた捨て猫さん、ですか?」
「ふうん、少しは勘の働くやつだな。だが、そんなことはどうでもいい。オレはあの後……」
歩武の予想の見事に当たっていた。しかし、猫がケモミミ美少年になることは漫画やアニメの中でしかありえないと思っていた。とはいえ、夢なら何を言われても、何が起こっても不思議ではない。歩武は今起きている現象は夢だと考えることにした。
猫耳を生やした美少年は歩武が別のことを考えているとは知らず、自分に起きた出来事を話し始めた。まるで自分が悲劇のヒロインであるかのような悲壮感たっぷりの話し方だったが、聞き手は歩武一人で、彼の話を適当に聞いていた。
「……ということで、オレはそのまま誰の手にもわたることなく、保健所とかいう場所に連れていかれた。そして、安楽死という、人間からしたら苦しまなくても済む方法で殺された。だからこそ、オレは決意した!」
「夢を見るってことは、私はそんなにあの猫のことが気になっていたんだ。でも確か、ミコが帰る頃には、すでに捨て猫の入った段ボールはなかったって言っていたような」
「おい人間。オレの話を聞いているのか!」
「えっ?ああ、聞いてる、聞いてるよ。あなたが段ボールに捨てられていたネコさんで、何でか知らないけど、私の夢に出てきたってことだよね?だとしたら、私の取り憑くのが目的?でも、あなたを見捨てた人は私以外にもたくさんいたよね。どうして、私の夢に出てきたの?私は特に霊感が強い人ではないし、家系的に視える人はいなかったと思うけど」
「全然、オレの話を聞いていないなお前。別にお前じゃなくても、オレを見かけて無視した奴は大勢いた。だがな、どうやら最近の人間は、霊が視える奴がめっきり減ったらしい。だから、オレのことが視える奴もなかなか見つけることができなかった。だから」
「私はその珍しい人だったわけだ。でも、どうして?」
「それはきっと、お前の近くに……」
○
「ジリリリリリ!」
バチン、目覚ましの音で歩武は目が覚めた。辺りを見渡すとそこは見慣れた自分の部屋で、歩武はパジャマを着てベッドで寝ていた。いつも通りの光景でほっとしたが、ほっとするのはまだ早かった。寝起きで周りをよく確認できていなかった。
「あいつ、よくもオレの言葉の邪魔をしてくれたな」
「アレ?私はまだ夢を見ているのかな?目の前に猫耳美少年がいるんだけど」
パジャマからスウェットに着替えようとベッドから降りるときに、自分の部屋に他人がいることに気付いた。視界に猫耳が入った瞬間、夢の内容を思い出し、思わずつぶやいていた。
「残念ながら、夢じゃないんだな、これが。おい、お前は確かチュウガクセイとかいう奴だろう?さっさと起きないと遅刻するぞ!」
歩武は二度寝をしようと決めて布団をかぶって目をつぶろうとするが、夢だと思う元凶に邪魔されて失敗する。
「ほ、本当に夢じゃないとしたら、どうして私の目の前に猫耳生やした少年がいるの?幽霊なんて見えないし、霊感とかもない家系だって、夢でも言ったでしょう?」
「昔はそうだったかもしれないが、今はそうじゃないと思うぞ。何せ、お前の近くには飛んでもない奴がいるか、ら」
「おはよう!お姉ちゃん。そろそろ起きないと、朝ご飯食べる時間が無くなるよ!あれ?変な猫が一匹部屋に紛れ込んでいるようだけど、どうしてかなあ」
少年の意味深な言葉に首をかしげていると、歩武の部屋のドアがいきおいよく開き、そこから妹のミコが朝から元気な声で歩武に話しかける。
「あ、あれ、ミコにもこの少年が視えているの?もしかして、ミコも霊感があるの?」
「ま、まあ、そうかもね。とりあえず、こいつが邪魔だっていうのなら、追い払ってあげる。そもそも、私がお姉ちゃんの夢から追い出したはずだけど」
どうして、お姉ちゃんの部屋に来ちゃったのかなあ。
何やら、歩武にはわからない言葉をつぶやきながら、ミコが猫耳少年に近づいていく。それと同時に猫耳少年も一歩ずつ、ミコから距離を取ろうと、一歩ずつ後退していく。
「お、お前だってオレと変わらないだろう?今更、一匹くらい増えたくらいで、どうってことないはずだ」
「オレと変わらない?」
「ううん。捨て猫ちゃん。そろそろそのうるさい口を閉じてくれないと、お前のそのちっぽけな存在ごと消しちゃうけどいいのかなあ?せっかくこの世に残っているのにもったいないねえ、やりたいことがあるんでしょう?」
先ほどから、この二人は何を話しているのだろうか。歩武は二人の話についていけず、戸惑っていた。それでも、気になる言葉を問い返すも、二人は歩武の言葉を無視して、会話を続けていく。
「当たり前だ。オレは、人間への復讐を考えている。そのためには、誰か手ごろな人間の家で機会をうかがう必要がある」
「人間に復讐するのに、人間の家に居なくちゃいけないなんて、本末転倒ね。ここにいたら、人間が好きになっちゃって、復讐どころじゃなくなるかもしれないわよ」
「だとしても、こいつしかオレが死んだ近くで、取り憑けそうなやつが見つからなかった」
「まあ、それはそうね。これは私の影響だと思うけど」
「ねえ!」
歩武はこれ以上話を聞いていられないと、先ほどよりも声を大にして二人に話しかける。そして、今が朝の忙しい時間帯で、自分たちはこれから学校に行く必要があることを思い出す。
「ミコ、私を起こしに来てくれたんでしょう?学校に行く準備しなくちゃ。このよくわからない少年と話している時間はないは」
「確かに時間の無駄ね。でも安心して。時間については私が操作しているから、問題ないわ。そうそう、私たちは学校に行かなくちゃいけないことをすっかり忘れていた」
「お、オレはお前なんかこわくないからな。こいつが許可するまでここに居続けてやる」
じゃあ、こんな奴放っておいてさっさと行こう。
ミコが歩武の手を引き部屋を出ようと促すが、歩武はその手を振り払い、猫耳少年と対峙する。
「ねえ、あなたは本当に私が見かけた捨て猫さんなの?」
「そうだといってもお前は信じないだろう?」
「信じないとは言っていない。あなたのその髪の色合いとか金色の瞳に猫耳と尻尾からは想像はできないことはない。だから」
あなたがこの世に残り続ける理由を教えて。
なんとなく、ミコに聞かれないように少年の耳もとでこっそりとささやく。そして、慌ててミコのもとに戻り、部屋を出ていく。
ガチャリ。
ドアが閉まる音がやけに大きく部屋に響き渡る。
「あいつ、お人好しだな。まあ、だからこそあいつが」
猫耳少年も歩武の部屋を出る。そして、歩武たちに気付かれないように、こっそりと歩武たちの様子を観察することにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる