私の大事な妹は

折原さゆみ

文字の大きさ
18 / 32

18ミコとの思い出

しおりを挟む
「ねえ、お母さんたちはミコのことをどう思う?」

 夕食は、歩武と両親の三人でとることになった。最近はこの光景に慣れてしまったが、慣れてはいけないと歩武は思っている。自分の妹がいないのに、家族で楽しく夕食をとれるはずがない。まずは、両親がミコについてどう思っているのか尋ねることにした。歩武が尋ねない限り、両親は自分たちから彼女のことを口にすることはない。そのことに歩武はひっかかりを覚えていた。

「ミコ、ねえ。そんなの決まっているでしょう?あなたの大事な妹なんだから、大切に思っているわよ」

「そうだなあ。僕もそう思うよ。歩武の妹だからね」

 ミコのことを両親に質問すると、いつもそうだ。一瞬、驚いた表情を見せて、その後に同じようなことを話し出す。今回も同じで、ミコは歩武の妹という結論に至る。しかし、それが自分の娘に対する言葉でいいのだろうか。

「どうして、『私の妹』っていう表現を使うの?私とミコは、お母さんたちの娘なのに」

 おかしいではないか。


 最後まで口にすることができない。歩武はここでもミコに対する疑念があったのだと思い知らされる。自分の周りのいたるところに、ミコが人間ではない、歩武の本当の妹ではない、という証拠が転がっていた。これ以上、両親から何を聞きだしても無駄だと悟った歩武は早々に夕食を切り上げ、自分の部屋の戻ることにした。歩武が急に不機嫌になった理由がわからず、両親は首をかしげていた。



 自分の部屋に戻った歩武は、どっと疲れが身体に押し寄せてベッドに倒れこむ。

「やっぱり、ミコは私の本当の妹ではないんだ」

「いまさら、気付いたの?」

「だとしたら、これからどうする?あいつは今日も帰ってきていない。このまま妹のことを忘れてしまうのも、一つの手かもしれないぞ」

 歩武の部屋にはすでに先客がいた。自分の部屋で間違いないはずなのに、猫耳少年とうさ耳少年が我が物顔で床にクッションを引いてトランプに興じていた。歩武がドアを開けたときに、部屋の主が戻ってきたと気づいて顔を上げたが、またすぐにトランプに目を向けている。

「忘れるなんてできるわけない!帰って来ないのなら、姉として妹を迎えに行くまで!」

 歩武はミコを迎えに行くつもりだった。ミコは清春の兄に監禁されている可能性が高い。弟の清春が言うのだから、間違いはないだろう。その弟に協力を求めることができたのだから、勝算がないわけではない。

「だから、あなたたちも私と一緒に、ミコを家に連れ戻すのを手伝ってほしいの」

 仲間は多い方がいいと判断した歩武は、セサミとアルにも協力を呼び掛ける。ミコが人間ではないというのなら、人間以外の協力者も必要だ。


「えええ!あいつを助けに行くのかよ」

「僕は反対だけど……。でも、その表情だと、僕たちが協力しなくても、勝手に探しに行ってしまいそうだね」

「あいつが帰って来ないほどの事情があるとしたら、それはオレ達にとっても良いことはないな。やつがやられたら、次の標的が俺たちになるとも限らない」

 歩武の言葉にようやく興味を持ったのか、二人はトランプを床に放り投げ、歩武に向き直る。ミコを助けることに消極的かと思われたが、そうでもないようだ。


「ねえ、セサミとアルは、私の家に居候しているんだよね。だったら、家主の言うことは絶対ではないのかな。それに、ミコがいなかったら、私があなたたちに何をしでかすかわからないよ」

『それは困る』

 彼らに妹の救出を求めるために、家主という言葉を使ってみる。別にそんなことで権力を振りかざすつもりはないし、彼らに危害を加える予定はない。しかし、彼らは歩武の言葉を真に受けてしまった。二人は息の合った返事をしてから、慌てて歩武のご機嫌を取り始める。

「し、仕方ないな。オレも、あいつがいないと張り合いがないからな。て、手伝ってやってもいいぞ」

「ぼ、僕も、暇つぶしにつき合ってあげてもいい」


 歩武が何をしでかすというのだろうか。自分自身で彼らにできることを考える。彼らは霊と言いながらも、最近ではなぜか、実体を持ち始め、普通の人間と変わらない生活を送ることができるまでとなっていた。他の人間には視えないという彼らにいたずらしたところで、恥をかかせられないし、人間とは違うので怪我を負わせることができるかも怪しい。

「そうだな。もし、協力を拒むというのなら、私を家まで送ってくれた先輩にでも相談して、君たちを祓ってもらおうかな」

 ふと、先輩の仕事が頭をよぎり、歩武は無意識に思いついたことを口にしていた。それが決定打になったようだ。セサミとアルはミコを助けるための頼もしい協力者となった。




『ねえ、お願いだから私を拾って』

 歩武は浴衣を着て、家族と一緒に神社主催の夏祭りを楽しんでいた。神社に向かうまでの道の両側にたくさんの屋台が並び、祭りを楽しむ人でにぎわっていた。

「ねえ、変な声が聞こえない?」


 りんご飴を買ってもらい、神社の境内に設置されたベンチに腰掛けて、両親と休憩していると、どこからか声が聞こえてくる。耳を澄ませていないと聞き取れないほどの小さな声だったが、なぜか歩武の耳には、はっきりと届いていた。声の主を探るために辺りを見渡すが、周囲には屋台で買ったものを食べる人や、祭りの話で盛り上がっている人達がいるだけで、歩武に助けを求めるものの姿は見当たらない。

「急にどうしたの?何が聞こえたのか教えてくれる?お母さんたちには聞こえなかったんだけど」

「ええと、アレだ!あそこから声が聞こえるよ!」

 歩武はもう一度耳を澄ませて、音の出どころを探すために目を閉じる。すると、か細い、助けを求める声は境内の隅から聞こえてくることがわかった。両親を引き連れて、声がした方向に足を進める。

「あら、こんなところに汚い段ボールがあるわね」

「これはまた、ひどい状態だね。もしかして、この中に」


「ここから聞こえるよ!開けてみるね」

 両親の戸惑った声を無視して、歩武は境内の隅に置かれた水にぬれて汚れて湿気っている段ボール箱を開けてみる

「みゃー」

 そこには衰弱して、今にも死んでしまいそうな黒猫の姿があった。




「ジリジリジリ」

 ここで歩武は目が覚めた。目覚ましを止めて辺りを見渡すと、歩武の隣で動物の姿に戻って寝ていたセサミとアルが目に入る。深呼吸して歩武は彼らを起こさないようにベッドから降りて今の自分の状況を確認する。部屋の中に置かれた姿見で自分の姿を映す。鏡の中には、中学生の自分がパジャマ姿で自分を見つめていた。


「おはよう。起きてすぐに自分の姿なんか確認してるけど、変な夢でも見たの?」

「ナルシストなところは、あいつに似ているな。あいつもよく自分の姿を確認していると言っていたな」

 歩武がベッドから離れたことを察したのか、セサミとアルも目覚めたようだ。ふわりとあくびをしながら、歩武の足下にすり寄っていく。そんな可愛らしい様子の二匹をかがんで抱き寄せて頭を撫でてみる。しかし、いつもなら癒されるところだが、今日はそんな気分になれなかった。いつの間にか、彼らに実体があることに慣れてしまっていた。


「小学生一年か、幼稚園か、いつの頃かわからない夢を見たの。神社でセサミみたいな捨て猫を拾ったの」

 このタイミングで、初めて捨て猫を拾った時の夢を見るものだろうか。歩武はしばらく自分が見た夢について考えていた。

「あゆむー。さっさと朝食を食べにきなさい!今日も学校があるでしょう!」

突然、母親の階下からの大声が歩武の部屋に響いた。慌てて目覚ましで時刻を確認すると、すでにいつも起きる時間よりも遅い。急いで支度しないと学校に遅刻してしまう。

「今から行く!」

 歩武は部屋を出て、一階で朝食を準備している母のもとに向かうため、階段を駆け下りていく。どたどたと、うるさい足音が歩武の部屋まで響いていた。



「捨て猫、ねえ。やっぱりあいつはオレと同じだったのか」

「とはいえ、捨てられた場所が場所だから、あんなに力があるのかもねえ」

 部屋に取り残された二匹は顔を見合わせて、はあとため息をつく。ボンと白い煙が上がり、二匹の動物は姿を変える。煙が晴れると、そこには猫耳少年とうさ耳少年が姿を現した。

「さて、協力するなら、まずは情報収集しないとな」

「気を付けてやらなくちゃいけないよ。相手はきっと、僕たちにとっての天敵だろうから」

 二人は歩武の部屋の窓から外に飛び出した。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...