31 / 32
31別れ
しおりを挟む
どうか、ミコを助けてください。
『これもなにかの縁だな。そこの捨て猫はずいぶんと君に懐いているようだ。このまま安らかに眠れるように別れの時間を与えよう。彼らも、自らの命を犠牲にしてまで彼女を助けたことを称して、最期の言葉を交わす時間を与えることにする』
歩武の祈りが神に通じたのか、彼女の耳に男性の低い声が頭に響き渡った。思わず辺りを見渡すが、声の主は見当たらない。清春の声にしては低すぎるし、女性の声でもなかった。声は歩武にしか聞こえていないのか、清春たちは全く動いていなかった。その場から微動だにしない様子に歩武は困惑する。まるで私たち以外の時が止まってしまったかのようだ。
『その考えは正しい。私は今、この世の時を止めている。この世で動けるのは君と、そこにいる彼女だけだ』
歩武の心を読んだかのように再度、頭の中に声が鳴り響く。
「あなたはもしかして……。神様、なの?」
『人間は私のことをそう呼ぶものもいる。好きに呼ぶがいい』
歩武は、今のこの状況と自分が先ほど誰に祈りをささげたのか思い出して、声の主を予想すると、どうやら正解だったようだ。
『さすがにあまり長い時間は止めていられないが、別れの挨拶くらいはできるだろう。彼らも呼んでやったから、最期の言葉を交わすといい』
声の主の言葉が終わると同時に、歩武のひざの上に何か乗ったような感覚がした。下を向いて確認すると、そこには一匹の猫とウサギが歩武を見つめていた。
「セサミと、アル、なの?」
『歩武、なの?』
猫とウサギは歩武と視線が合うと、歩武の脳内に直接話しかけてきた。どうやら、最期の別れは動物の姿でしてくれと言うことらしい。ケモミミ少年の姿ではないことを少し残念に思いながらも、唐突な別れをしないで済んだことを神様に感謝する。
「そうだよ。私の祈りが通じて、セサミとアルとお別れの時間をもらうことができたの。ミコもなんだか弱っていて、それで」
彼女ともお別れをしなくてはならない。
口にすると、かなりの衝撃を受けそうなので、途中で言葉を止める。しかし、歩武の顔からすべてを察したらしい猫とウサギは、まるで歩武を慰めるかのように、彼女のお腹に頭をこすりつける。
『僕たちだけじゃなくて、あいつも一緒にお別れか』
『歩武はそれで平気なの?』
行動とは裏腹に、二匹は心配そうに歩武の脳内に語り掛ける。
「平気、ではないかな。でもね、私の周りには、私のために働いてくれる人たちがいるってことがわかったの。だからもう、ミコと二人の世界で生きるのはやめた。セサミたちがせっかくミコを助けるために動いてくれんだから、私は」
『私はまだ死んでいない』
二匹と一人の別れの時間に割って入ってきたのは、歩武の妹の声だった。しかし、彼女の声もまた、脳内に直接響いてきた。隣にいたはずの妹を確認するために視線を向けると、そこにいたのは一匹の猫だった。そういえば、清春の兄はミコのことを化け猫と言っていた。これがミコの本来の姿なのだろうか。
「あれ、この猫、どこかで見たことがあるような」
全身が真っ黒で、闇に溶けてしまいそうなほどの黒い毛に金色に瞳。すがるような目で歩武を見つめる瞳は覚えがあった。
『お前があの時、拾った猫を覚えているかい?昔、夏祭りの時に拾った弱った捨て猫のこと』
頭の中に男の声が響き渡る。いつ、歩武は猫を拾ったのだろうか。夏祭りと捨て猫、その言葉がキーワードになり、歩武はようやくすべてを思い出す。すべてはあの夏祭りの日から始まっていたのだ。
「あの時に拾った猫は、ミコだったんだね」
『そうだよ。私はあの時、お姉ちゃんに拾われて命を救われた。救われたけど、それはつかの間の命だった。だから、私は神様に祈ったの。お姉ちゃんを守れるような人間になりたい。一緒に居られるようになりたいって』
猫の姿をしていても、ミコはミコだった。頭にミコの声が聞こえてくる。ミコを拾った時のことは思い出したが、それ以外のことはまだ、曖昧にしか思い出せない。
『健気なその姿に心を打たれた私は、彼女の願いをかなえてやることにした。だが、その願いはもう、君には不要のようだ』
『そうですね。お姉ちゃんは私がいなくても、しっかりと周りの人間と生きていける。私がいなくてもきっと』
大丈夫。
いよいよ、別れの時が来てしまった。ミコの言葉から歩武は覚悟を決めた。人生、別れはつきものだ。同級生の高木だって、最愛のペットとの別れを終えて、新しい人生を歩み始めたのだ。
泣きそうになるのをぐっとこらえ、歩武はミコやセサミ、アルを自分の胸に抱きこんで、ぎゅっと腕の中に閉じ込める。突然の行動に三匹は、最初は驚いて暴れていたが、すぐにおとなしくなる。頭を歩武の胸に押し付けて、まるで歩武の心臓の鼓動を聞いているかのようだ。
『ミコ、あなたのことは忘れないよ。セサミも、アルも。だから、今度会うときは、私と一緒に居られる存在がいいね』
またいつかどこかで。
『さよなら』とは口にできなかった。口にしたら、抱きしめた彼らを手放せなくなりそうだ。
『歩武らしいね。そうだね、またいつかどこかで会えたらいいね』
『またね、今は別れだけど。悲しいのは今だけだよ』
『じゃあね。私もお姉ちゃんにまた会える日を信じているよ』
またいつかどこかで。
歩武たちは笑いながら、最期の別れの挨拶を終えた。
『これもなにかの縁だな。そこの捨て猫はずいぶんと君に懐いているようだ。このまま安らかに眠れるように別れの時間を与えよう。彼らも、自らの命を犠牲にしてまで彼女を助けたことを称して、最期の言葉を交わす時間を与えることにする』
歩武の祈りが神に通じたのか、彼女の耳に男性の低い声が頭に響き渡った。思わず辺りを見渡すが、声の主は見当たらない。清春の声にしては低すぎるし、女性の声でもなかった。声は歩武にしか聞こえていないのか、清春たちは全く動いていなかった。その場から微動だにしない様子に歩武は困惑する。まるで私たち以外の時が止まってしまったかのようだ。
『その考えは正しい。私は今、この世の時を止めている。この世で動けるのは君と、そこにいる彼女だけだ』
歩武の心を読んだかのように再度、頭の中に声が鳴り響く。
「あなたはもしかして……。神様、なの?」
『人間は私のことをそう呼ぶものもいる。好きに呼ぶがいい』
歩武は、今のこの状況と自分が先ほど誰に祈りをささげたのか思い出して、声の主を予想すると、どうやら正解だったようだ。
『さすがにあまり長い時間は止めていられないが、別れの挨拶くらいはできるだろう。彼らも呼んでやったから、最期の言葉を交わすといい』
声の主の言葉が終わると同時に、歩武のひざの上に何か乗ったような感覚がした。下を向いて確認すると、そこには一匹の猫とウサギが歩武を見つめていた。
「セサミと、アル、なの?」
『歩武、なの?』
猫とウサギは歩武と視線が合うと、歩武の脳内に直接話しかけてきた。どうやら、最期の別れは動物の姿でしてくれと言うことらしい。ケモミミ少年の姿ではないことを少し残念に思いながらも、唐突な別れをしないで済んだことを神様に感謝する。
「そうだよ。私の祈りが通じて、セサミとアルとお別れの時間をもらうことができたの。ミコもなんだか弱っていて、それで」
彼女ともお別れをしなくてはならない。
口にすると、かなりの衝撃を受けそうなので、途中で言葉を止める。しかし、歩武の顔からすべてを察したらしい猫とウサギは、まるで歩武を慰めるかのように、彼女のお腹に頭をこすりつける。
『僕たちだけじゃなくて、あいつも一緒にお別れか』
『歩武はそれで平気なの?』
行動とは裏腹に、二匹は心配そうに歩武の脳内に語り掛ける。
「平気、ではないかな。でもね、私の周りには、私のために働いてくれる人たちがいるってことがわかったの。だからもう、ミコと二人の世界で生きるのはやめた。セサミたちがせっかくミコを助けるために動いてくれんだから、私は」
『私はまだ死んでいない』
二匹と一人の別れの時間に割って入ってきたのは、歩武の妹の声だった。しかし、彼女の声もまた、脳内に直接響いてきた。隣にいたはずの妹を確認するために視線を向けると、そこにいたのは一匹の猫だった。そういえば、清春の兄はミコのことを化け猫と言っていた。これがミコの本来の姿なのだろうか。
「あれ、この猫、どこかで見たことがあるような」
全身が真っ黒で、闇に溶けてしまいそうなほどの黒い毛に金色に瞳。すがるような目で歩武を見つめる瞳は覚えがあった。
『お前があの時、拾った猫を覚えているかい?昔、夏祭りの時に拾った弱った捨て猫のこと』
頭の中に男の声が響き渡る。いつ、歩武は猫を拾ったのだろうか。夏祭りと捨て猫、その言葉がキーワードになり、歩武はようやくすべてを思い出す。すべてはあの夏祭りの日から始まっていたのだ。
「あの時に拾った猫は、ミコだったんだね」
『そうだよ。私はあの時、お姉ちゃんに拾われて命を救われた。救われたけど、それはつかの間の命だった。だから、私は神様に祈ったの。お姉ちゃんを守れるような人間になりたい。一緒に居られるようになりたいって』
猫の姿をしていても、ミコはミコだった。頭にミコの声が聞こえてくる。ミコを拾った時のことは思い出したが、それ以外のことはまだ、曖昧にしか思い出せない。
『健気なその姿に心を打たれた私は、彼女の願いをかなえてやることにした。だが、その願いはもう、君には不要のようだ』
『そうですね。お姉ちゃんは私がいなくても、しっかりと周りの人間と生きていける。私がいなくてもきっと』
大丈夫。
いよいよ、別れの時が来てしまった。ミコの言葉から歩武は覚悟を決めた。人生、別れはつきものだ。同級生の高木だって、最愛のペットとの別れを終えて、新しい人生を歩み始めたのだ。
泣きそうになるのをぐっとこらえ、歩武はミコやセサミ、アルを自分の胸に抱きこんで、ぎゅっと腕の中に閉じ込める。突然の行動に三匹は、最初は驚いて暴れていたが、すぐにおとなしくなる。頭を歩武の胸に押し付けて、まるで歩武の心臓の鼓動を聞いているかのようだ。
『ミコ、あなたのことは忘れないよ。セサミも、アルも。だから、今度会うときは、私と一緒に居られる存在がいいね』
またいつかどこかで。
『さよなら』とは口にできなかった。口にしたら、抱きしめた彼らを手放せなくなりそうだ。
『歩武らしいね。そうだね、またいつかどこかで会えたらいいね』
『またね、今は別れだけど。悲しいのは今だけだよ』
『じゃあね。私もお姉ちゃんにまた会える日を信じているよ』
またいつかどこかで。
歩武たちは笑いながら、最期の別れの挨拶を終えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる