恋にもがく中学生

折原さゆみ

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1加藤紗那(かとうさな)①

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 私には幼馴染がいる。保育園のころからずっと一緒で、もう、自分にはいなくてはならない大事な存在だ。家が近所で、年も同い年だったため、一緒に遊ぶ機会が多かった。家族がらみでの付き合いも多かった。とにかく、彼との付き合いは長かった。

 彼のどこがいいのかと言われれば、答えることにためらいはない。彼のいいところはたくさんある。とはいえ、彼のことが異性としてタイプかというと、必ずしもそうではない。

 一緒に過ごす時間が長かった。いつも一緒に居るだけだった。隣に常に彼がいるといっていいほどの関係だ。そんなことで、タイプではないなと思っていたが、それでも、今では「好き」という感情が彼に芽生えつつある。



「おはようございます」

 私はいつも、彼と一緒に学校に通うために、少し早めに家を出る。彼は朝に弱いらしく、私が彼の家に到着しても、まだ寝ていることが多いのだ。だからこそ、私が起こしてあげて、世話をするのが日課になっている。今日もいつものように彼の家に迎えにいった。

「おはよう。今日もありがとうね。さなちゃんが毎朝迎えに来てくれるから、直人がしっかりと学校に通えているわ。本当にありがとう」

 幼馴染のなお君のお母さんは、いつも私に感謝してくれる。私はただ、なお君と一緒に学校に通いたいだけなので、そこまで感謝される筋合いはない。それでも、感謝されるのは素直に嬉しい。

「直人はまだ寝ていると思うから、起こしてきてくれるかしら」

「わかりました」

 勝手知ったる顔で、私は二階にあるなお君の部屋まで上がっていく。

「トントン」

 親しき中にも礼儀あり。さすがにノックなしで部屋に入るのは失礼だと思って、毎回律儀にドアをノックする。ノックしても、すぐに部屋に入ってしまってはノックの意味がない。毎回一分ほど心の中で数えている。

「五十七、五十八、五十九、六十。よし、一分たった」

 今日も、しっかりと一分を数えたところで、部屋に入ろうとした。


「起きてるから、入ってくんな!」

 なお君の部屋に入ろうと、ドアノブをつかんだ瞬間、寝ぼけた声が部屋の中から聞こえてきた。珍しいこともあるものだ。いつもなら、私が部屋に入ったことに気付かず、布団を頭からかぶって、ぐっすりと寝ているのに。

入ってくるなと言われてしまったので、仕方なく、部屋の外で待つこと数分。

「ガチャ」

「おはよう。なお君」

「はよ」

 なお君が部屋から出てきた。私の挨拶にボソッと返事を返す。今日もかっこいい。中学校に入ってから、なお君は急に身長が伸び始めて、かっこよくなってしまった。タイプではないと思っていたのが嘘のようだ。部活で鍛えた身体にさらっとした黒髪に切れ長の瞳。寝癖がついて、ぴょこんとはねているが、それでもカッコよさが損なわれることはない。

「何見てんだよ」

「別に」

 不機嫌そうに一階に降りていくなお君に続いて、私も一階に降りていく。



『行ってきます』

 私はすでに朝ご飯を済ませているので、なお君だけ食べて、学校に行く支度をする。男子なので、支度にそこまで時間はかからない。朝ご飯を食べ、歯を磨いて、髪を整えて、制服に着替えるのを待ち、一緒になお君の家を出る。

これがいつもの私たちの朝の光景だ。

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