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30母親の従妹
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次の日、学校は昨日の事件もあり、急きょ休校となった。そのため、朝から暇を持て余していた愛理は、ベッドに寝転がっている白亜に、疑問に思っていることを質問していた。
「白亜はさ、百乃木さんや田辺先生と知り合いだったの?昨日の待ち合わせ場所のこととか、百乃木さんや田辺先生が白亜を見て驚かなかったのはなぜ?」
『その話はしたくない。あやつらが僕という存在を生み出したことは否定しないが、それだけだ。彼らのことは、生みの親としか思っていない』
愛理の質問に不機嫌そうに答える白亜。ベッドでゴロゴロしている白亜を観察する。白い髪に紅い瞳、愛理と同じくらいか少し上くらいの年の少年で、彼は人間ではない。しかし、どういった存在なのか、愛理にはまだわかっていない。人間ではない何かということしかわからなかった。
「じゃあ、それはそれでいいけど、どうして、あの日、私の前に現れて助けてくれたの?百乃木さんのところで生まれたのなら、そこにいたはずでしょう」
『それは、愛理に興味を持ったのと、お前の母親が』
「トントン」
白亜が何か重要なことを言おうとしていたところを、ドアのノックが邪魔をした。白亜はすぐに煙を上げて消えてしまった。
「愛理、入るわよ」
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、母親だった。今はまだ10時であり、昼時でもない。勉強しろとでも言いに来たのだろうか。
「ねえ愛理。愛理は誰と話していたの?」
「え」
「最近、誰かと話しているでしょう。誰かはわからないけど、それは人間ではないのよね。愛理の独り言が多いから気になってしまって。でも、独り言が多いという割に、特にそれ以外におかしな点はないから、心配になって」
白亜のことを気付かれたのだろうか。愛理はどう言い訳するか必死で考える。正直に話したところで、信じてもらえるかわからない。おかしいと言われてしまうだけかもしれない。母親にどうやって説明しようか考えていると、母親が突然話題を変えてきた。
「いつも持たせている塩のことだけど、お母さんが、どうして愛理たちに持たせているか知っているかしら?」
「それは私の話しと関係が」
「いいから、私の話を聞きなさい。私が塩をあなたたちに持たせる理由は……」
それから、母親が家族に清めの塩を持たせるに至った経緯を話し始めた。話は長くなりそうだったが、今日、学校は休校であり、時間はたっぷりある。愛理はおとなしく母親の話を聞くことにした。
愛理の母親である朱鷺計胡(ときけいこ)が、清めの塩を家族に持たせるようになったのは、愛理が小学校に入ったころだった。もともと風水にはまっていた計胡は、塩を持ち歩くのがいいことを本を読んで知り、実行しようと考えていた。
特に意味もなく、ただ家族が危険に合わないように、お守りの意味も込めて持たせようと思っていた。しかし、そんな軽い気持ちでは済まされないような、塩を持たさなければならないような事件が起こった。
彼女には、時間売買の会社に勤める従妹がいた。彼女は、自分の母親の妹の娘だった。彼女の従妹は、百乃木が勤めている「タイムイズマネー」で働いていた。彼女が突然、計胡に連絡をしてきたことが始まりだった。
「ねえ、計胡、私、今、会社からとんでもないものを盗んできちゃった」
彼女と計胡は年が近く、自分の母親と母親の妹の関係も良好だったため、自然と会う機会が多かった。趣味なども近かったため、大人になり結婚してからも、頻繁に連絡を取り合う仲だった。
彼女は結婚をしておらず、仕事一筋で頑張っているはずだった。それなのに、会社のものを盗んできてしまったという。いったいどういうことだろうか。嫌な予感がした計胡は、それでも理由を聞かずにはいられなかった。
「いったい何を盗んできたの?盗んできたって、それって犯罪ではないの?」
「反応が鈍いわねえ。私が勤めているのは、あの時間売買大手の「タイムイズマネー」よ。そこにあるものと言えば、一つに決まっているでしょう?」
盗んだというのに、犯罪意識は持っていない彼女に、計胡は戸惑いを覚えた。彼女は仕事熱心で、今まで真面目に仕事に取り組んできたという印象がある。会社のものを盗むなんてことをするなどしないと思っていた。彼女は妙に興奮していて、自分の功績を計胡に話したくてたまらないようだった。
「一つって、もしかして、でも、それって盗むことなんてできるの?」
時間売買の会社で彼女が盗んで得をするようなもの、それは時間、かもしれない。しかし、それを盗むなんてことは普通出来ないのではないだろうか。物として存在するものではないし、他人の時間を盗むことは、時間師などの力を持った人間にしかできないはずだ。彼女にそんな能力があったとは聞いたことがない。
「馬鹿ねえ。私がそんな力がないことは計胡も知っているでしょう。それより、もっとすごいものよ。これを持っていれば、私は永遠の時間を手に入れることができる」
それから、彼女の盗んだものの説明が始まった。それは、驚きの連続だった。一度で信じられるようなものではなかったが、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。計胡は、なんとコメントしたらいいかわからず、話が終わるまで、口をはさむことができなかった。
「うちの会社が時間売買をしていることは知っていると思うけど、ある日、いつもみたいに時間売買をしていた現場から会社に連絡が入ったの。私は会社で事務の仕事をしていて、時間売買が終わった連絡とか、予約とかそういうのを対応しているの。その連絡も、いつもの連絡かと思ったわ」
しかし、それはいつもの連絡とは明らかに違っていた。連絡してきたのは、時間師の男で、この会社に勤めて10年のベテランだった。彼からの連絡は、いつもは定時連絡のみの簡素なもので、感情の読めない平坦な声での連絡が、彼女は苦手だった。
「も、百乃木取締役は、いま、どこ、に」
「百乃木取締役は、現在、北海道に出張中です。佐藤さんも知っているはずですよね。朝の会議で聞いたと思いますが」
「時間売買が、し、失敗、した。急い、で、救援を、よこして、く」
「ツーツー」
そこまで言うと、電話が勝手に切れてしまった。電波の調子が悪い場所にでもいるのだろうか。彼女はその可能性を排除する。今日の彼の担当は、大手IT会社の社長のはずであり、彼の会社で時間売買を行う予定となっていた。失敗したという連絡があったのは、ちょうど時間売買終了予定時刻だった。時間売買を終えるタイミングでの電話。ということは、その会社か、会社近くから電話した可能性が高い。
「プルプルルルルルル」
また電話が鳴った。あたりを見渡すが、たまたま彼女の他に事務員の姿がなかった。仕方なく受話器を取って応対する。
「もしもし、タイムイズマネー、井村(いむら)です」
「天羅株式会社の高橋です。お宅の時間師が倒れている。そばには白い煙が充満して、ああ、黒い煙も出てきた。さっさと回収してくれ。おかげで俺たちの会社がやばいことになっている」
先ほど電話がかかってきた、男が担当していた会社からの電話だった。慌てて、すぐに担当を向かわせて対処させますと伝え、電話を切る。
それからのことはとても大変だった。百乃木取締役は、急きょ、会社に戻り、今回の事件現場に駆け付けた。彼女たち事務員も、事件の対応をすることになり、自分の仕事をやる暇なく、対応に追われることになった。
「白亜はさ、百乃木さんや田辺先生と知り合いだったの?昨日の待ち合わせ場所のこととか、百乃木さんや田辺先生が白亜を見て驚かなかったのはなぜ?」
『その話はしたくない。あやつらが僕という存在を生み出したことは否定しないが、それだけだ。彼らのことは、生みの親としか思っていない』
愛理の質問に不機嫌そうに答える白亜。ベッドでゴロゴロしている白亜を観察する。白い髪に紅い瞳、愛理と同じくらいか少し上くらいの年の少年で、彼は人間ではない。しかし、どういった存在なのか、愛理にはまだわかっていない。人間ではない何かということしかわからなかった。
「じゃあ、それはそれでいいけど、どうして、あの日、私の前に現れて助けてくれたの?百乃木さんのところで生まれたのなら、そこにいたはずでしょう」
『それは、愛理に興味を持ったのと、お前の母親が』
「トントン」
白亜が何か重要なことを言おうとしていたところを、ドアのノックが邪魔をした。白亜はすぐに煙を上げて消えてしまった。
「愛理、入るわよ」
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、母親だった。今はまだ10時であり、昼時でもない。勉強しろとでも言いに来たのだろうか。
「ねえ愛理。愛理は誰と話していたの?」
「え」
「最近、誰かと話しているでしょう。誰かはわからないけど、それは人間ではないのよね。愛理の独り言が多いから気になってしまって。でも、独り言が多いという割に、特にそれ以外におかしな点はないから、心配になって」
白亜のことを気付かれたのだろうか。愛理はどう言い訳するか必死で考える。正直に話したところで、信じてもらえるかわからない。おかしいと言われてしまうだけかもしれない。母親にどうやって説明しようか考えていると、母親が突然話題を変えてきた。
「いつも持たせている塩のことだけど、お母さんが、どうして愛理たちに持たせているか知っているかしら?」
「それは私の話しと関係が」
「いいから、私の話を聞きなさい。私が塩をあなたたちに持たせる理由は……」
それから、母親が家族に清めの塩を持たせるに至った経緯を話し始めた。話は長くなりそうだったが、今日、学校は休校であり、時間はたっぷりある。愛理はおとなしく母親の話を聞くことにした。
愛理の母親である朱鷺計胡(ときけいこ)が、清めの塩を家族に持たせるようになったのは、愛理が小学校に入ったころだった。もともと風水にはまっていた計胡は、塩を持ち歩くのがいいことを本を読んで知り、実行しようと考えていた。
特に意味もなく、ただ家族が危険に合わないように、お守りの意味も込めて持たせようと思っていた。しかし、そんな軽い気持ちでは済まされないような、塩を持たさなければならないような事件が起こった。
彼女には、時間売買の会社に勤める従妹がいた。彼女は、自分の母親の妹の娘だった。彼女の従妹は、百乃木が勤めている「タイムイズマネー」で働いていた。彼女が突然、計胡に連絡をしてきたことが始まりだった。
「ねえ、計胡、私、今、会社からとんでもないものを盗んできちゃった」
彼女と計胡は年が近く、自分の母親と母親の妹の関係も良好だったため、自然と会う機会が多かった。趣味なども近かったため、大人になり結婚してからも、頻繁に連絡を取り合う仲だった。
彼女は結婚をしておらず、仕事一筋で頑張っているはずだった。それなのに、会社のものを盗んできてしまったという。いったいどういうことだろうか。嫌な予感がした計胡は、それでも理由を聞かずにはいられなかった。
「いったい何を盗んできたの?盗んできたって、それって犯罪ではないの?」
「反応が鈍いわねえ。私が勤めているのは、あの時間売買大手の「タイムイズマネー」よ。そこにあるものと言えば、一つに決まっているでしょう?」
盗んだというのに、犯罪意識は持っていない彼女に、計胡は戸惑いを覚えた。彼女は仕事熱心で、今まで真面目に仕事に取り組んできたという印象がある。会社のものを盗むなんてことをするなどしないと思っていた。彼女は妙に興奮していて、自分の功績を計胡に話したくてたまらないようだった。
「一つって、もしかして、でも、それって盗むことなんてできるの?」
時間売買の会社で彼女が盗んで得をするようなもの、それは時間、かもしれない。しかし、それを盗むなんてことは普通出来ないのではないだろうか。物として存在するものではないし、他人の時間を盗むことは、時間師などの力を持った人間にしかできないはずだ。彼女にそんな能力があったとは聞いたことがない。
「馬鹿ねえ。私がそんな力がないことは計胡も知っているでしょう。それより、もっとすごいものよ。これを持っていれば、私は永遠の時間を手に入れることができる」
それから、彼女の盗んだものの説明が始まった。それは、驚きの連続だった。一度で信じられるようなものではなかったが、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。計胡は、なんとコメントしたらいいかわからず、話が終わるまで、口をはさむことができなかった。
「うちの会社が時間売買をしていることは知っていると思うけど、ある日、いつもみたいに時間売買をしていた現場から会社に連絡が入ったの。私は会社で事務の仕事をしていて、時間売買が終わった連絡とか、予約とかそういうのを対応しているの。その連絡も、いつもの連絡かと思ったわ」
しかし、それはいつもの連絡とは明らかに違っていた。連絡してきたのは、時間師の男で、この会社に勤めて10年のベテランだった。彼からの連絡は、いつもは定時連絡のみの簡素なもので、感情の読めない平坦な声での連絡が、彼女は苦手だった。
「も、百乃木取締役は、いま、どこ、に」
「百乃木取締役は、現在、北海道に出張中です。佐藤さんも知っているはずですよね。朝の会議で聞いたと思いますが」
「時間売買が、し、失敗、した。急い、で、救援を、よこして、く」
「ツーツー」
そこまで言うと、電話が勝手に切れてしまった。電波の調子が悪い場所にでもいるのだろうか。彼女はその可能性を排除する。今日の彼の担当は、大手IT会社の社長のはずであり、彼の会社で時間売買を行う予定となっていた。失敗したという連絡があったのは、ちょうど時間売買終了予定時刻だった。時間売買を終えるタイミングでの電話。ということは、その会社か、会社近くから電話した可能性が高い。
「プルプルルルルルル」
また電話が鳴った。あたりを見渡すが、たまたま彼女の他に事務員の姿がなかった。仕方なく受話器を取って応対する。
「もしもし、タイムイズマネー、井村(いむら)です」
「天羅株式会社の高橋です。お宅の時間師が倒れている。そばには白い煙が充満して、ああ、黒い煙も出てきた。さっさと回収してくれ。おかげで俺たちの会社がやばいことになっている」
先ほど電話がかかってきた、男が担当していた会社からの電話だった。慌てて、すぐに担当を向かわせて対処させますと伝え、電話を切る。
それからのことはとても大変だった。百乃木取締役は、急きょ、会社に戻り、今回の事件現場に駆け付けた。彼女たち事務員も、事件の対応をすることになり、自分の仕事をやる暇なく、対応に追われることになった。
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